新橋はつい先日、ヴァーディクトデイに騎乗していたジョッキー3人に取材をした。だが、ここで新橋にある考えが浮かぶ。
「ヴァーディクトデイに騎乗したジョッキー達だけじゃなく、携わっていた人達や、特に印象に残っているジョッキー達にも聞いてみたい」
そこからの行動は早かった。新橋は早速アポを取り、取材の予約を取りつけた。その結果集まったのが。
「今日はヨロシクダネ」
現在世界最強と名高いイクイノックスに主戦騎手として騎乗しており、ヴァーディクトデイには苦い思い出があるだろうロメール。
「今日は、よろしくお願いします」
ヴァーディクトデイが特に意識していた相手、コントレイルの主戦騎手でありすでに騎手を引退している増永。そして。
「まさかお呼ばれするなんてね。個人的な評価を下させてもらうよ」
かつてシンボリルドルフに騎乗していた元騎手、谷部。この3人に話を聞いてみることにした。
「谷部さんの意見もちょっと聞いてみたかったもので。ヴァーディクトデイに対する評価なんかをお教えしてもらえたら、って思います」
「そう言うことなら、遠慮なく言うよ。僕が感じたことをそのままにね」
ニヒルに笑う谷部。その様子にこの場にいる全員が苦笑いを浮かべた。新橋の取材が始まる。
Qみなさんが思うヴァーディクトデイという馬は?
ロメール「アーモンドアイのG1・8勝目を阻んだ相手、という冗談はさておいて良い馬だよね。良くディープインパクトと比較されるけど、長く持続する脚が使えるディープインパクトに対してヴァーディクトデイは爆発力が凄いって感じ。多分、よーいドンの速さ比べになったら誰にも負けないんじゃないかな?瞬発力に関してはディープインパクトよりも上だと思う」
増永「怖い馬、ですね。どれだけ差をつけていても追いついてくる、ってずっと思ってましたから。クラシック時点ではそこまで警戒してなかったんですよ。こう、凄くお利口な競馬をしてましたから。それが覚醒したらあぁまで変わるだなんて思いもしなかった。大阪杯なんて、圧倒的な力を見せつけられたレースですからね。本当に凄い馬」
谷部「スピードの絶対値が高い馬。速さ比べなら追いつける馬はそうはいないだろうね。気性面に関しても凄くお利口、って感じがした。生意気さを見せないし、荒いわけでもない。ただ、レースの全てを知っているわけじゃなかったのかな?ただお利口なだけ、って感じの馬。あくまで3歳時点での話だけど。ただ4歳時と5歳時のパフォーマンスは圧巻だね」
Qヴァーディクトデイの強さは?
ロメール「なんといってもスピード。さっきも言ったけど、よーいドンになったらほぼ負けないって言うのは恐ろしいことこの上ない。しかも身体のバネが凄いからどこからでも飛んでくるのがね。1ハロンあたりのタイムを比較したら、ヴァーディクトデイだけ他馬よりも1秒早いことなんてざらにあった。後は騎手の言うことを素直に聞く点。これはちょっと弱い点にもつながるけど、5歳時はその隙も無くなってたからなぁ。とにかくスピードだね」
増永「スピード。絶対値が高いタイプだと思ってる。2022年のダートを沸かせたフライトラインと比較しても遜色ないと思う。気性の悪さを見せることはないし、それで崩れるってことがないから相手する側からしたら凄く厄介な相手。しかも芝の状態に左右されませんからね。日本の良馬場でも問題なく走れるし、重馬場になったらさらに厄介。他が脚を取られる中で彼だけ問題なく上がってくるわけですから。どうやって崩すか?ってずっと考えてた。間違いなく、歴代でも最強クラスって言われてもおかしくない馬」
谷部「お2人が言うようになんといってもスピード。あれだけの速さを持つ競走馬ってのもそうはいない。速さで負けるってことはまずないだろうね。身体のバネもそうだし、全身のバネを余すことなく使って走っている。気性面の良さや賢さもある。ただ、ルドルフのようにレースを支配して勝つというよりは圧倒的な強さでねじ伏せるって感じの競馬。後は底が知れないんだよね彼。そこも恐ろしいところかな?」
Q歳上の牝馬にやたら絡まれることについては?
ロメール「なんでだろうね、全然分からないや(笑)。アーモンドアイも彼にはすぐに近寄っていったし、宝塚記念でクロノジェネシスに騎乗した時もクロノジェネシスがすぐさま仲裁に入ってたし。本当に不思議でならないね。その件といえばグランアレグリアなんだけど、大阪杯以降キョロキョロしてる時あったでしょ?あれ多分ヴァーディクトデイを探してたんじゃないかな?(笑)そのぐらいグイグイいってた」
増永「あ~、はい。ちょっと分からないですね(苦笑)レース前はいつも絡まれてましたし、レース後も絡まれてるし。本当にどういうことなのか分からないんですよね。いっつも不思議に思ってた」
谷部「なんでだろうね?いや、本当に不思議でならない。あれもうフェロモン出してるとかそう言うレベルじゃない。呪いとかそういうレベルでしょ」
増永「呪いて(笑)」
谷部「実際そうでしょ。古馬とのレースが解放されたらまず歳上牝馬に絡まれるのが様式美だもの彼。レース前に絡まれてるの見てあ、今日も元気に絡まれてるな~なんて思うぐらいだし。ヴァーディクトデイは今海外で種牡馬やってるけど現地の牧場のスタッフさんからも不思議がられてたね」
ロメール「特にあのエネイブルが凄いとか。2頭の子とか乗ってみたさあるけどね」
Qコントレイルとヴァーディクトデイの関係性について
ロメール「お互いがお互いを意識している特別なライバル、だろうね。ジャパンカップの出走を断念した話は僕も聞いたよ。本当に悔しかったんだろうし、それだけに残念でならない。馬の気持ち、関係者達の気持ちを考えたらね。仕方のないことだけど」
増永「間違いなく特別なライバル。ヴァーディクトデイがコントレイルを特別に意識している、って話はよくあがりますけど、それはコントレイルも同じです。コントレイルもヴァーディクトデイの話を聞くと少し嬉しそうにしているところがありましたから。それに、一時期ヴァーディクトデイがジャパンカップに出走するなら回避する、って話も上がってたんですよ。その時コントレイルが酷く暴れたんです。自分も出走させろ、ヴァーディクトデイと走らせろ。俺はそう言っているようにも思えました」
谷部「オグリキャップにおけるタマモクロス、トウショウボーイにおけるテンポイント、ダイワスカーレットにおけるウオッカ。そんな特別なライバルなんでしょう。2頭とも、お互いを特別意識しているという話はよく耳にしますから。それだけに、ジャパンカップは本当に無念だったんだなと」
Qもしヴァーディクトデイを負かすとしたら?
ロメール「大前提として、速いペースを作らせない。速いペースになったら後方有利だし、末脚勝負になったらまず勝てないだろうから。だからできる限りスローのペースを作って前目の位置につける。幸いにもヴァーディクトデイは最後方だし、差があればあるだけ有利に働くだろうから。5歳時の強さを考えると、クロノジェネシスに騎乗した時のような戦法は使えないだろうしね」
増永「ロメールさんに同意です。ハイペースになったらまず勝てない。しかもヴァーディクトデイは自分でペースを調整できますからね。だから自分達もできる限り脚を溜めて、勝負所で仕掛ける、って戦法ぐらいしか取れないのが本音。それに差をつけてきても間違いなく追いついてくる、って恐ろしさがヴァーディクトデイにはある。本当に凄い馬だよ、彼は」
谷部「ヴァーディクトデイにとって有利な状況を作らせないというのが大前提。気性的に追い込みを好んでいるだろうからそこを突く。後は外から追い上げさせないように気を配るとか。対策自体は色々と取れると思う。それでヴァーディクトデイを完全に封じ込めるか、と言われたらまた別の問題だけど」
Qヴァーディクトデイの性格について個人的な印象
ロメール「お利口さんの良い馬だよねっていうのが印象。ただ、優等生みたいなタイプじゃないんだ。気づけば輪の中心にいてみんなを先導するような、そんなタイプの性格。後絶対にサディストだね。彼、スタートも上手いし前での競馬もできるのに後方の追い込みをずっと取ってたもの。ゴードンリチャーズステークスは逃げてたけどあれは出走数が少ないからだろうし」
増永「優等生、というよりはガキ大将が近いのかな?委員長タイプというよりは率先してみんなを遊びに誘うようなそんなタイプ。後この馬が嫌い!とかそういうのもなさそう。歳上の牝馬にあれだけ追いかけられても自分から近づいていくときもあったみたいだし。サディストに関しては、うん、まぁ、ちょっと否定できないかな(笑)」
谷部「少なくとも頭が良いとか知り尽くしているとかそういったタイプの賢い馬ではない。こっちの言葉を理解しているような、そんなタイプの賢さ。ディープインパクトに近いのかな?5歳時以外はレースを楽しんで走っているところがあった。後は2人に同意だけど間違いなくドSだね。あれだけスタートが上手ければ逃げもできるだろうにずっと追い込みだったから。間違いなくドS」
ロメール「だよね(笑)」
増永「否定できないなぁ」
Qヴァーディクトデイのベストレースは?
ロメール「ダントツでKGVI&QES。一頭だけパフォーマンスが桁違いだったからね。あれだけのパフォーマンスができる馬ってのはそうはいないよ。思い出的な意味なら2021年の宝塚記念かな。あの時は本当に驚いたよ」
増永「間違いなくKGVI&QES。あれは別次元のレースだった。思い出的な意味なら大阪杯。あの時の彼の走りは、今も焼き付いているよ」
谷部「満場一致だけどKGVI&QES。あれだけのパフォーマンスができる馬はそうはいない。彼の強さを不動のものにしたレースだね。思い出なら1回目の凱旋門賞。思わず映像の前で叫んじゃったよ」
Qジャパンカップ回避の話というのは?
増永「あくまで回避するかもしれない、ってだけの話ですよ。本気かどうかは分からないですけど、もしジャパンカップにヴァーディクトデイが出走してくるならコントレイルは秋の天皇賞で引退させようって意見もあったんです」
ロメール「増永はどうしたの?」
増永「そりゃ勿論反対ですよ!だってヴァーディクトデイには負けたままなんですよ?だけどコントレイルはヴァーディクトデイに劣らない強さがあった、それを証明するためにも俺は猛反対しました。最終的な結果は、アレでしたけど」
谷部「本当に残念でならないな、あれは」
Qヴァーディクトデイの産駒は?
ロメール「機会があればぜひ乗ってみたいね!海外でのレースが主になるだろうけど、日本でも彼の産駒が走る機会はあるだろうし。その時はぜひ騎乗したいよ!」
増永「ウチの厩舎で面倒を見てみたいという思いはありますね。彼の産駒がどこまで走れるかっていうのは凄く興味がありますから」
谷部「ヴァーディクトデイのスピードが産駒に遺伝したら凄いことになりそうだな、というのが1つ。後は馬場も欧州の方が合っているんじゃないかな?とも思う。ヴァーディクトデイ自身が重い馬場が得意だから、日本の芝に合うかどうかは少し心配だね」
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「……はい、ありがとうございます」
新橋は3人に取材のお礼をする。3人もお辞儀をして対応した。
「それにしても、やっぱりヴァーディクトデイとコントレイルは特別なライバル、って感じだったんですね。私もそう思っていましたけど」
「はい。コントレイルとしても、なんとしてでも戦いたかったんだなって。引退式の時のコントレイル、凄く悲しそうだった気がしましたから」
「どうにもならないことっていうのはある。だが……それでも思ってしまうよな」
谷部は増永に同情するように語り出す。
「ルドルフも海外遠征ができていたら、どれだけ強さを発揮してくれたんだろうと……!」
「あ~……そうですね」
曖昧な言葉で濁す新橋。他の2人も苦笑いをしていた。
そんな中、新橋は思う。
(やはり、ヴァーディクトデイとコントレイルは特別なライバルだったんだな。みんなが口を揃えている)
ヴァーディクトデイとコントレイルの関係について。全員が口を揃えて特別なライバル関係だったと証言している。
そして、ふと思い出したかのようにロメールが口を開く。
「そうそう!ヴァーディクトデイといえば最近面白い話を聞いたヨ!」
「どんな話ですか?ちょっとお聞かせ願えたら」
「あ、俺も興味ある」
「僕もあるな。どんな話なんだ?」
ロメールは嬉々として口を開いた。
「なんでも、アーモンドアイやクロノジェネシスの馬房にはヴァーディクトデイの人形が飾られてるみたいだヨ!置いておくと彼女達の気分が落ち着くんだっテ!グランアレグリアやジェンティルドンナの馬房にも置かれてるんだったかナ?ただ、ジェンティルドンナの方はたまにボロボロになるらしいけド」
「……引退してなおここまでの爪痕を残すのか、あの馬は」
「あ、アハハ……」
「あ、それだったら俺も似たような話が」
手を上げる増永。似たような話というだけでなんのことか分かるが、一応新橋達は聞いてみることにした。
「……それは?」
「コントレイルの馬房にもヴァーディクトデイの人形が置かれてるみたいなんですよ。なんでも、馬房だとほぼジ~っと見てるんだとか」
「「「……」」」
「え、え?な、なんでそんな反応を?」
信じられないものを見る目で増永を見る3人。それも当然だろう。
「ヴァーディクトデイはついに牡馬すら狂わせたのか?」
「ヤバいネ、色々と」
「これ公表しても大丈夫な奴なのかな?」
「なんで!?というか絶対コントレイルだけですよ!断言できます!」
「それはそれでヤバいだろ」
「ウン。ヤバさが増したネ」
「あれぇ!?」
ヴァーディクトデイについての話がされる中、新橋は心の中で思う。
(コントレイルだけ、って記事には書いておくか)
そう書くことにした。
秋天のイクイノックス最後の直線に入った段階であ、これ勝つなと思いましたけどレコード勝ちは聞いてない。おめでとうイクイノックス!今年の秋天すげぇレースでした!