「ふっふ~ん。どうやら、先にG1を勝ったのはアタシみたいだな?」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
すげぇニヤついた表情で俺を見下すラーシー。そんなラーシーはというと。
「NHKマイルカップ、勝ってきたぜ」
「おめでとさんラーシー。レースは見てたぜ」
配信の映像だけど。
NHKマイルカップ。前世は出走していたが今世は疲労が抜けきれなかったために出走できず。一体どうなるんだろう?とちょっと思っていたがラーシーが勝った。逃げるレシステンシアを捕らえての勝ちである。
「ありがとよ。オメーも早いとこレースに出られると良いな」
「本当にな。このままだと日本ダービーすら危ういぜ俺はよ~」
「オメーが疲労抜けにくいのは知ってたけど、結構深刻なんだな。ま、そんだけあの皐月賞が凄かったって話だが」
皐月賞のダメージは徐々に抜けているとはいえ、海藤さん的にはまだOKを出せない段階。トレーニングは再開しているものの、ほとんどが調整だ。朝の自主トレもジェネ先輩の監視付きでやっているし。
「あ~あ、俺も早くレースに出れねぇかな~?」
「怪我するよかよっぽどマシだ。大人しく調整でもしてろ」
「わーってるよ。そういやお前はダービーでんの?」
「んー……多分出ねーな。次は秋になるっつってたし」
「ほーん、俺と一緒かねぇ」
「オメーはまだ可能性あるだろ。宝塚記念とか出れんじゃねーの?」
宝塚記念、宝塚記念か。実際のとこすげぇ怪しいんだよなぁ。
「疲労明けのレースでG1ってのも厳しいのに、それが宝塚記念ともなるとバディもしり込みしちゃってな。宝塚記念すら危ういぞ俺は」
「あー、確かにシニアとの混合戦だもんな。大分きちーな」
勝てる勝てないかで言われたら勝つ自信は多少あるが……相手があのジェネ先輩だからな。後ラッキーライラック先輩もいるし。
「俺もこのままだと秋一直線だよ、トホホ……」
「ま、焦らずゆっくりといけってな」
ぶっちゃけそれじゃ困るわけだが……それしかないわけで。どうしようもならんのよな。
ラーシーとこんな会話をしてさらに月日は流れてダービーに出走するかどうかの最終判断の日がやってきたわけだが。
「う~ん……」
「どうよバディ!これなら日本ダービーもいけると「ダメだね。出走は問題ないだろうけど調整の時間がないもの」ガーン!?」
「そんな落ち込んだ表情されても、出さないものは出さないよ。日本ダービーは見送り、宝塚記念もちょっと怪しいかな?今の段階であまり無茶はさせられないからね」
「うそ~ん……」
「ただ、疲労も抜けてきてるし徐々にトレーニングの量を増やそうか。夏は合宿もあるし、秋に向けて弾みをつけていこう!ヴァーディの本番は秋を迎えてから!ってことで」
「はいはい。んで、朝の自主トレはもう解禁?」
「そうだね。クロノの報告でもあまり無茶はしてないようだし、もう監視はつけなくても「はい、はーい!今後も継続して監視を続けていきます!」……なんで?クロノ」
「だってアイさんがいる……じゃなくて!わたしもレース頑張らないとだからね!ヴァーディの自主トレに参加するよ!」
「うん、間違いなく邪な思いがあるだろうけどやる気があるのは良いことだね。だからといって監視する必要はないだろうからヴァーディも気にしないでね」
「あぁ、分かったよバディ」
「分からないでよヴァーディ!」
俺のダービー出走はなし。宝塚記念も多分なしだろうなコレ。大事にいきたいという気持ちは分かるがレースに出走してぇんだよなぁ。でも、最終的な判断はトレーナーにあるからなんとも。
と、思っていたのだが。
「う~ん、ヴァーディ。ちょっといいかな?」
「どうしたよ?バディ」
とある日のトレーニング中、海藤さんに呼び止められた。海藤さんは俺のトレーニングを眺めながら何やらうんうん唸っていたが、それが関係しているのだろうか?
「想定していたよりも調子良さそうだし、宝塚記念に出走登録しておこうか」
「マジで!?」
こくんと頷く海藤さん。マジか~、宝塚記念なら問題なく出走できそうか!よっしゃあ!
「やったやったやったぜ!」
「これからは調整を目的に頑張っていこうか。ウチからもクロノが出るけど、ヴァーディだって劣ってない。だからしっかりと頑張っていこう!」
「おう!サンキューなバディ!善は急げだ、気合入れていくぜー!」
怪我しないようにねー、という海藤さんの声を聞きながら一層気合を入れてトレーニングに励む!宝塚記念が楽しみだぜ!
こうしている間にも時は流れて日本ダービー。コントレイルとサリオス、プボちゃんが出走しているのだが。
《コントレイルが真ん中よりから伸びてきます!サリオスこれは厳しいか!?サリオスも追走!しかし5番のコントレイル!コントレイルが中団から突き抜ける!残り200mを切って先頭はコントレイルに変わりました!12番のサリオスも追走いっぱい!今度は届くか、が!しかし!無情にも差は開く!無情にもサリオスとコントレイルとの差が開いていく!サリオスにこの距離は厳しかったか!?突き抜けるコントレイルその差を5バ身!6バ身と開いていく!》
映像では、コントレイルが追走するサリオスを突き放していた。無情にも2番手のサリオスと先頭のコントレイルとの差は開いていく。
《このダービーは!コントレイルのためにありました!コントレイルが突き抜けた!オークスに続いて無敗の二冠ウマ娘が誕生!オークスで無敗の二冠ティアラを勝ち取ったデアリングタクトに続いて!コントレイルが無敗でクラシック二冠を制しました!着差は7バ身!そして舞台は秋の京都へと引き継がれていきます!果たして無敗の三冠を達成することができるかコントレイル!おっと、これはコントレイルが……無人のスタンド席に向かってお辞儀をしています!ファンへの感謝を伝えるように、コントレイルがお辞儀をしています!》
結果、コントレイルは無敗で二冠達成。次の菊花賞に向けて頑張っていくことになるだろう。
(俺も頑張らねぇと……!)
テレビを消してトレーニングへ。そして疲労が抜けてからの俺の調子だが──すこぶる好調だった。
「凄いね……今まで以上の時計を連発している。あの皐月賞で一皮むけたな、ヴァーディ」
「バディ!もう一本頼む!」
「あぁ!ラスト一本、気合入れていこうか!」
「おう!」
タイムは今まで以上の時計を連発。リミッターが1つ外れた俺の走りはさらに研ぎ澄まされたものに。だが──まだ足りない。
(もっと、もっとだ……!もっと強く!)
今のままじゃ全然だめだ。全盛期には近づいたがまだ及ばない。だからこそ、なんとしても2つ目のリミッターを外さなければならない。そうすればきっと……。
(宝塚記念……メンバーはかなり良かったはずだ。そこで走ればきっと!)
2つ目のリミッターを外せるかもしれない。そう思っていた。
「え~、ただの捻挫ですね。ですが宝塚記念への出走は止めた方がいいでしょう」
「……あい」
悲報、宝塚記念が迫っている今日、トレーニング中にちょっと足が痛むな?と思ったら捻挫していたことが判明。
「あ~……ヴァーディ?分かってると思うけど」
「さすがにこの状態で出してくれ!なんて言うほどバカじゃねぇよ……」
「さ、さすがにそれは分かってるから大丈夫。ただ、安静にしててね?今後に響くとまずいから」
「……助かる」
俺の宝塚記念出走は取りやめになりましたとさ。こんな状態で出走するわけにもいかないし、無理して悪化したらそれこそ最悪だ。でもな~出たかったな~!仕方ねぇけどさ!
(しっかし、注意してトレーニングしていたはずだ。細心の注意を払っていたはずだし、特に問題はなかったはずだ。なのになんで?)
もしかして……バタフライエフェクトとかそういうの?俺の覚醒が早まったからとか?……なんにしても分からんな。
「なんにしても分からんな……」
「そうだね……今はゆっくりと休んで治すことに専念しよう」
「分かってるさバディ。でもな~、出たかったな~!」
「残念だけど諦めるしかないよ。それにほら、夏合宿には影響がないわけだしさ。マイナスばかりじゃなくてプラスのことも考えよう」
……まぁ確かにそうだな。あんまりマイナスに考えてると良くないことが起きるっていうし、次のことを考えてプラス思考で行きますか。
「でも気が収まらん……久しぶりに雨の中散歩でもするか」
「ヴァーディ好きだよね雨の中散歩するの……風邪引かないようにね?」
「その辺はしっかりするから大丈夫。小さい時からちゃんとケアしてるからな!」
「小さい時からしてるんだね……」
そりゃあな。俺雨好きだし。雨の中の散歩サイコー!
NHKマイルにも出れないし、宝塚記念にも出れないとはな……トホホ。その後はしっかりと休んで快復した。
そして宝塚記念はというと。
《さぁ先頭はクロノジェネシス!最後の直線を向いて先頭はクロノジェネシスだ!クロノジェネシスが2番手キセキを突き放す!これは圧巻の走り他を寄せつけません!サートゥルナーリアは伸びないか!?皐月賞ウマ娘サートゥルナーリアは伸びないか!これはクロノジェネシスだ!クロノジェネシスが今ゴールイン!6バ身差をつけての快勝です!》
ジェネ先輩が無事に勝利を収めた。後日祝福の言葉を贈りに行くとすげぇ嬉しそうにしてたのが印象的だったな。
そしてさらに時間が経って……ついにやってきた。
「「「海だー!」」」
「今日からチームの夏合宿!この夏で、みんなレベルアップしよう!」
「「「はーい!」」」
夏合宿の日が!
宝塚記念も出走取りやめに。ただ、出走してこなかったレースにも出走する可能性が?