飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

11 / 170
スプリングステークス後の調教。


皐月賞に向けて

 スプリングステークスも終わって見事に皐月賞の優先出走権を勝ち取った俺。にしても、4戦4勝か。

 

 

『俺って強いのでは?』

 

 

『何言ってんだテメー』

 

 

 今日の調教相手はラウダシオンだ。俺と同期だし、重賞出走経験組として俺とラウダシオンは良く調教で一緒になる。クロノジェネシス先輩?先輩は先輩で別の調整相手がいる。それに向こうは1歳上だし。ただ、俺と走ることで先輩の調子が目に見えて上がるらしいからたまに一緒に調教するけど。

 

 

『にしてもオメー、この前レースを勝ったらしいな。おめでとさん』

 

 

『ありがとよ。このまま、皐月賞っていうどでかいレースを勝ってやるぜ!』

 

 

『あーはいはい。頑張れ頑張れ』

 

 

 ラウダシオンの奴は素っ気ない。もっと関心を持ってくれてもいいのでは?まぁこれが普通かもしれんけど。

 

 

「それじゃあ、ラウダシオンとヴァーディクトデイの併走を始めましょうか」

 

 

「そうですね。それじゃあ、ラウダシオンが内、ヴァーディクトデイが外で」

 

 

「はい、お願いします」

 

 

 スタート位置について、気合を入れる。

 

 

(4月に入って、皐月賞ももうすぐだからな。世界一の競走馬になるためにも、頑張らねぇと!)

 

 

 合図の下、俺とラウダシオンは走り出す。内を走るラウダシオンが前に出て、俺がそれを追う形になる。

 

 

(にしても、追う側ってのは新鮮だな。基本的に俺、追われる側だし)

 

 

 主に年上牝馬に。……思い出したら悲しくなってきたな。止めだ止め。思い出したところでなんの得にもならん。

 併走が始まって、俺はひたすらに集中力を高めていた。前を走るラウダシオンを捉えるために。勿論ラウダシオンも俺に追い抜かれまいと速度を上げる。アイツが速度を上げれば、俺もそれに倣うように速度を上げる。

 

 

(ラウダシオンと俺の実力は同じくらいだ)

 

 

 少なくとも俺はそう思っている。向こうはまだ重賞を勝ってないけど、いずれは取れるだろうってスタッフさん達も言ってた。にしても、最初は手綱を結構しっかり抑えられていたので走るのに苦労した。今は最後が近いからか緩められているけど。でもフラストレーション溜まるんだよな。現に今も、結構ストレスが溜まっている。

 俺は追う。ただひたすらにラウダシオンを外から追う。

 

 

『て、メェッ!』

 

 

 ただひたすらにラウダシオンを追う。()()()()()()()()()()()()()()()。前を走るのが気に入らない。

 

 

『ま、待てって!いくらなんでも気合入れすぎだろ!?』

 

 

 ラウダシオンが何か言っているが関係ない。俺は追い立てる。俺の前を走る馬が気に入らねぇ。なんでだ?レースの時もこんなに思ったことはねぇのに。

 

 

「──ップ!──プだってば!落ち──!」

 

 

 騎手がなんか言ってるけど関係ない。前を走るラウダシオンを「ストップだヴァーディ!」うおっ!?急に耳元で騎手さんの声が!?耳元で大声出さんでくれ!

 

 

(あれっ?)

 

 

 気づいたらラウダシオンがめっちゃ疲れていて、元々のゴールから結構離れた距離に俺達はいた。ど、どうなってんだ?

 

 

『お、オメー、いくらなんでも、気合入れすぎだろっ。ゴールしても、俺を、追いかけやがって』

 

 

『す、すまんラウダシオン!マジで気づかなかったっ!』

 

 

『だ、だろうな。俺を必死こいて追いかけやがって。なんだ?いつもオメーが牝馬に追いかけられている姿を見て笑ってる俺を自分と同じ目にあわせようってか?』

 

 

『そんなことは、って。お前そんなこと考えてたのかよ!?』

 

 

『冗談だよ。にしても、珍しいじゃねぇか。人乗せてる時のオメーがそこまで闘争心剥き出しにするなんてよ』

 

 

 え?そうなのか?あんまり自分じゃ分かんねぇけど。

 

 

『ま、これっきりにしてくれよ?ゴールしても追いかけられるなんて冗談じゃねぇからな』

 

 

『わ、悪かった。反省するよ』

 

 

『そうしてくれ。あー疲れた』

 

 

 俺も今になって疲労がドッと来た。このまま休んで『見て!黒鹿毛君よ!』ゲッ!?年上のお姉さんっ!?

 

 

「おい何やってんだ!近づけるなっていってただろ!?」

 

 

「す、すいません!でも練習場所が近かったからっ!」

 

 

「とにかく手綱をしっかり握……うわっ!あ、暴れるな!暴れるなって!」

 

 

『黒鹿毛くぅぅぅぅぅぅん!遊びましょー!』

 

 

「ヒヒーン!?(助けてー!?)」

 

 

 畜生!ただでさえ疲れてるのに更に追いかけられるのかよ!?勘弁してくれぇぇぇぇぇぇ!

 

 

『いつもご愁傷様だな。プププ』

 

 

 笑ってんじゃねぇかラウダシオン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ヴァーディが?」

 

 

「はい。ラウダシオンとの併走で、ゴールしてもラウダシオンの奴を追いかけてまして。珍しいこともあったもんです」

 

 

 今日の併走でヴァーディの鞍上を務めていた人から信じられない話を聞いた。なんでも、ラウダシオンとの併走でヴァーディが暴走したというのだ。利口で、騎手の指示に素直に従うあのヴァーディが?にわかには信じがたい話だ。

 

 

「確かに珍しいですね。ヴァーディは騎手の言うことを素直に聞く馬ですし。それが騎手の指示に逆らってまでラウダシオンを追いかけていた、と」

 

 

「私も、ゴールした後ヴァーディを必死に抑えてたんですよ。けどアイツは、こっちが抑えてもお構いなしに速度を上げまして。何度も大声を出して、ようやく止まったぐらいです」

 

 

 不思議なこともあったもんですねぇ、と呟く厩務員の言葉を耳にして、ヴァーディの気性のことが頭に浮かぶ。

 

 

(新馬の頃は気性の荒さが出てこなかった。もしかして、今になって気性の悪さが出てきたのか?う~ん、だけどなぁ)

 

 

「普段のヴァーディの様子は?」

 

 

「それは変わりないですよ。飼い葉の食いも悪くないですし、他の馬とも仲良くしています。後は、俺達の顔をしょっちゅう舐めてきますし。可愛い奴です」

 

 

 つまり普段と変わりないということ。ということは、ヴァーディにとって我慢できない何かがあった?

 

 

(もしそれが分かれば、ヴァーディはッ!)

 

 

「なぁ、その時の状況を詳しく教えてくれないか?」

 

 

「?はい。良いですけど」

 

 

 ヴァーディに乗った騎手がその時の状況を詳しく説明してくれた。

 

 

(ラウダシオンが内、ヴァーディが外。そして今回はヴァーディが追いかける側だった。最初は普通だったけど、後半になるにつれてヴァーディの制御が難しくなっていった……まぁこんなところか)

 

 

「あ、後併走が終わった後に偶然通りかかった牝馬に追いかけられてましたよ」

 

 

「うん、牝馬に追いかけられるのはいつものことだね。それよりも、できる限り近づけないように注意してくれって言ってただろう?」

 

 

「す、すいません!ただ、今回は調教場所が近かったもので……」

 

 

 委縮しているスタッフの気分を和らげるように、一度手を叩いて仕切り直しの合図をする。

 

 

「ま、その反省は後にしようか。それじゃあ、ヴァーディの午後の調教は軽めに済ませよう。今月はいよいよ皐月賞だし、調教で怪我でもしたら洒落にならないからね」

 

 

「は、はい!」

 

 

 去っていくスタッフの姿を見つめながら、先程の話を整理する。

 

 

(この話をまずは滝村さんにも伝えよう。ヴァーディの闘争心は高い方なんじゃないか?って話はスプリングステークス後の滝村さんからも聞いている。でも、その闘争心を発揮する条件が分からないな。前を走る馬を追いかけるんだったら、ヴァーディの位置ならいつも同じような状況だとは思うけど)

 

 

 これは一体どういうことなのだろうか?前を走る馬がトリガーになっているのは間違いなさそうだけど、それならレース中に発揮してもおかしくはないはずだし。

 

 

(やっぱり抑えつけているのかな?自分の気持ちを無理に抑えつけて、騎手に反発しないようにしている?)

 

 

 そうなると、利口過ぎるという意味が分かる。自分の気持ちを押し殺してまで走っていることになるのだから。

 

 

「我慢させないことを覚えさせた方が良いのかな?でも、どうやって?それに、今回は我慢をしなかったわけだし……う~ん、分からん」

 

 

 ひとまず、ヴァーディが強くなる手がかりが見つかっただけでも儲けものだ。心なしか軽い足取りで次の仕事に向かう。

 後日、滝村さんにこのことを話した。

 

 

「──ということなんですけど、心当たりは?」

 

 

 滝村さんは難しい表情で考え込んでいる。やっぱり、スプリングステークスのことが頭によぎっているのだろう。

 

 

「ただ前を走る馬を追いかけるだけだったら、今までだって同じ状況になっていますから同じことになってもおかしくないはずです。だとしたら、別の何かがあると考えるのが自然かな、と」

 

 

「別のなにか、か。う~ん……」

 

 

 結局考えは纏まらず。その日は解散となる。皐月賞は着々と近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ~、今日の調教も疲れた。でも頑張った後の飼い葉がうめぇのなんの。もう馬生に順応してきている自分が怖いな。今更だけど。

 

 

『そういや、ラウダシオンが強いって思った奴はいんの?』

 

 

『なんだ突然。いないこともない』

 

 

『へ~。どんな奴?』

 

 

『栗毛の馬。サリオスって名前だったか?』

 

 

 サリオスねぇ。

 

 

『朝日杯っつーデカいレースを勝ったヤツだ。ありゃ早かったな。ま、次走った時は俺が勝つけど』

 

 

『ふ~ん。そいつは皐月賞に出走すると思うか?』

 

 

『まぁ出てくるんじゃねーの?強いわけだし』

 

 

 ふむふむ。なら要注意しておこう。後はスタッフさん達が言ってた、俺達の代の代表になった馬。確か、コントレイル?だったか。そんな名前の奴。

 

 

(なんでも俺が知っている数少ない馬であるディープインパクトの産駒らしいからな)

 

 

 当時はうろ覚えだったけど、何度も聞いているうちに名前を覚えた。なんでももの凄い馬だとか。競馬をよく知らなかった俺でも名前を聞いたことがあるぐらいだしそりゃそうだろうけど。

 そのコントレイルって奴は皐月賞に絶対に出走するだろうって話だ。ということは、俺のライバルとなる馬になる。

 

 

(おっしゃ、頑張りますかね!)

 

 

 強くなってる実感は湧いてきてるし、もしかしたらいけるんじゃないか?って期待もしている。夢見勝ちかもしれないけど、今のところ無傷の4連勝なんだから少しくらい調子乗っても罰は当たらないだろ。

 

 

『ふ~、今日もいっぱい頑張ったな~、ッ!あ、ヴァーディ君!もうすぐ大きいレースだよね?頑張ってね!わたし応援してる!』

 

 

『ありがとうございます、クロノジェネシス先輩!俺、頑張ります!』

 

 

 丁度帰ってきたクロノジェネシス先輩からも応援の言葉をもらう。皐月賞、頑張るか!




4連勝だし調子乗るのも多少はね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。