飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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夏合宿のスタートですよ。


夏合宿の始まり

 

 

「そんな、ヴァーディ!その格好はなに!?」

 

 

 目の前には驚愕しているチームの先輩方。俺の格好に驚いているのだが……。

 

 

「いや──学園指定の水着ですけど

 

 

「「「なんでぇぇぇぇぇ!?」」」

 

 

 なんでも何も合宿なんだから当然だとしか言えないんだが?ほら見ろよ、海藤さんだって俺が正しいとばかりに見ているぞ。つーかエフもそうだし。

 

 

「ヴァーディの水着が見れると思ったのに!」

 

 

「ある意味水着じゃないですかこれ」

 

 

「ウチらは!ヴァーディのビキニが見たかったの!」

 

 

「パレオをつけても良いし、とにかくヴァーディのビキニが見たかった!」

 

 

「いや、ここはあえてのワンピースも良いんじゃない!?」

 

 

「黒のビキニも良いし派手派手な赤色の水着も良き!私達はそれが見たかった!」

 

 

「いや、合宿に来てるのにビキニを持ってくる必要あります?百歩譲ってビキニがありだとしても、運動するなら学園指定の水着一択でしょ」

 

 

「正論パンチ止めてよね。わたし達が不利になるのなんて目に見えてるんだから」

 

 

 じゃあそんな残念そうにしないでくれますかね?俺が悪いみたいじゃないですか。

 

 

「ま、まぁ?今日はトレーニングだからだし?もしかしたら休みの日にはヴァーディのビキニ姿が拝めるかも「生憎と姉さんはビキニなんて持ってませんよ。水着はいつも学校指定のものでしたし」ちょっとは希望を抱かせてよエフちゃん!」

 

 

 相変わらず淡々と事実だけを告げるエフである。そのせいでジェネ先輩達がこの世の終わりみたいなポーズ取って落胆してるけど。

 そんな中海藤さんが手を叩く。

 

 

「はいはい、それじゃあ夏合宿のトレーニングを始めるよ!時間は一分一秒も無駄にできないからね、まずは軽くウォーミングアップから!ハイスタート!」

 

 

「「「は~い……」」」

 

 

 俺がビキニ着てこなかったぐらいでえらい落胆してんなおい!海藤さんも苦笑いしてんじゃねぇか!まぁ落胆しているとはいえしっかりと準備運動はやってたのだが……そんなに見たいものか?

 夏合宿ということでトレーニング内容も一新!俺がやっているのは。

 

 

「それじゃあヴァーディ。向こうの小島まで遠泳ね」

 

 

「……結構離れてねぇかあれ?」

 

 

「大丈夫だよ。それに、スタミナをつけるにはもってこいだ。早く行っておいで」

 

 

「それもそうか。うしっ!やってやらぁ!」

 

 

 早速海に入って向こうの小島まで泳いでいってやらぁ!……と意気込んだはいいが。

 

 

(クッソ!波もあるから思ったよりも進まねぇ!)

 

 

 体力のことを考えたら平泳ぎの方がいいんだが、それにしても思ったように進まん!そして無駄に力むと、体力を余計に消耗する。

 

 

(こりゃペース配分を考えて進まねぇとダメだな!当たり前だけど!)

 

 

 最適なペース配分を見つけ出さなきゃだめだなこりゃ!流石に一日で見つかるわけねぇけど!

 小一時間かけてなんとか小島に到達。そこからさらに小一時間かけて砂浜に帰ってきた。

 

 

「初めてにしては良いタイムだね。ヴァーディはとにかくスタミナを底上げしようか」

 

 

「ハァ、ハァ、な、なんで?」

 

 

「今後長距離を走らないとも限らないから。ならスタミナはつけておいた方がいい。菊花賞や、春天もあるわけだからね」

 

 

 菊花賞に春天か。どっちも出走したことねぇんだよな。俺が走ったのは全部中距離だったし。

 

 

「ま、ヴァーディの適性は中距離だから菊花賞よりも秋天に向けて調整を進めていくつもりだけど」

 

 

「あれ?そうなのか?」

 

 

「うん。だから秋天に確実に出走するためにも、秋の初戦の毎日王冠。ここを絶対に取ろう」

 

 

 毎日王冠か。こっちは前世でも走ったな。確かサリオスもいたはずだ。

 

 

「じゃあスタミナトレーニングの意味は?」

 

 

「え?だってヴァーディは海外で走る予定もあるんだろう?海外留学をするぐらいだし」

 

 

「まぁそうだが……それがなにか?」

 

 

「あっちの芝はパワーを使うし、それに凱旋門賞とかキングジョージみたいなレースはスタミナも求められる。だったら、たとえ中距離であってもスタミナはつけておいて損はないよ」

 

 

 あ~確かにそうかもしれん……が、ぶっちゃけ前世はそこまで苦にした覚えがない。凱旋門賞もキングジョージも普通に走ってた記憶がある。

 

 

「それにヴァーディは最後方でレースを展開するだろう?最後方でレースを展開するってことは、どうしても外に振らされることが多い」

 

 

「ま~そりゃそうだな」

 

 

「だから、距離のロスが激しいんだ。長く距離を走ることになるから、スタミナはつけておくに越したことはない」

 

 

 海藤さんの言うように、スタミナをつけておいて損はないというのは事実。ハイペースに巻き込まれても脚を残せるってのは良いことだ。それに俺は大外ぶん回しての追い上げが得意だし勝ちパターンも基本的にこれだ。大外を回るということは、それだけ距離のロスがあるわけだしな。

 

 

「それじゃあみんな!ご飯の時間にしようか!」

 

 

「「「はーい!」」」

 

 

 飯は宿泊先の旅館で取って少しの休息を取った後またトレーニング。

 

 

「山道を駆け抜けて、無駄のない力の使い方を身に着けるんだ!」

 

 

「それにしたって凄いな。ほぼ獣道じゃん」

 

 

「わたしと一緒にトレーニングだねヴァーディ!負けないよ!」

 

 

 午後からはジェネ先輩とトレーニング。山道を駆け抜けたり。

 

 

「え~っと、トレーナーさん?この崖を登るの?」

 

 

「そうだよ」

 

 

「だ、断崖絶壁じゃないですか!?ここ登る意味ありますか!?」

 

 

「判断力のトレーニングだよクロノ。一瞬の判断の遅れが致命的なミスに繋がる可能性がある。だからこそ、常に最適な判断を下せるようにロッククライミングだ」

 

 

 言いながら海藤さんは命綱を用意している。そりゃ落ちたら大惨事だし当たり前か。

 

 

「それじゃ、命綱をつけてゆっくり下に降りていって」

 

 

「あいあーい」

 

 

「……はーい」

 

 

 ジェネ先輩はすげぇ嫌そうにしてる。そんな嫌そうにせんでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヴァーディは、皐月賞で一皮むけた)

 

 

 今クラシック戦線を一番賑わせているのは間違いなくスピカのコントレイルだ。無敗のクラシック二冠、しかもスピカには無敗のダブルティアラウマ娘デアリングタクトもいる。今年はスピカの年!なんて言われてる。そんな中、コントレイルのライバル候補として挙がっているのが──サリオスとウチのヴァーディだ。

 サリオスは皐月賞3着、ダービー2着の実績。ヴァーディは皐月賞で見せたあの異次元の末脚から凄まじいファン人気を誇っている。

 

 

「しかも走行フォームからディープインパクトのようだ、なんて言われてるしね」

 

 

 ヴァーディがトレーニングで記録した資料を眺める。いつ見ても……異常な数字だ

 

 

(ウチのチームでクロノに次いで2番目に高い。しかも、まだまだ成長は止まっていない)

 

 

 皐月賞前は伸びなかった値が、皐月賞後はグングン伸びてきている。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。クラシック前半時点でこれなのだから恐ろしい。この夏合宿でどこまで伸びるのやら。

 しかも、判断力のトレーニングとしてやっている断崖絶壁のロッククライミング。さっきまで山道を駆け抜けていたし、朝からトレーニング漬けだから疲労で判断力だって鈍っている。

 

 

「え、えぇっとぉ。こ、こっちかな?……わきゃあ!?」

 

 

 その証拠に、クロノは判断力が鈍っている。普段の彼女ならちゃんとしたルート取りができているだろうに、踏み外して落ちていた。疲労で判断力が落ちてきている証拠だ。

 ──だが、ヴァーディは。

 

 

「フッ、フッ、フッ!」

 

 

 ()()()()()()()()登ってきている。最適解が分かっているかのように、機械のように正確に登っている。同じくらい、下手したらそれ以上に疲れているだろうに、ヴァーディは少しの狂いもなく登っている。

 

 

(追い込みという脚質の性質上、少しでも判断を誤ったら終わりだ。だからこそ、判断力は大事なんだけど……)

 

 

 ヴァーディは少しも迷わない。こんな極限下であっても、状況判断力が優れている証拠だろう。だからこそ、不思議でならない

 

 

(何故ヴァーディは大外一辺倒なのか。皐月賞も、間の進路を走ればあるいはという場面があったのに)

 

 

 レースにたらればは厳禁だが、無理に大外を回ろうとした結果接触にもつながった。これだけの判断力があるならもっと良いルート選択も取れたように思えるけど……謎だ。

 

 

「お~い、バディ?登り切ったけどまた登ってくればいい?」

 

 

「うん?……え、もう登り終わったの?」

 

 

「おう。というわけでまた登ってくればいい?」

 

 

「……いや、ここで休憩しておいて。クロノが登り終わったら、宿泊先の旅館に帰ろう」

 

 

「りょうかーい」

 

 

 ヴァーディは疲れたー、と息を吐いて座り込んでいた。……目のやり場に困るから服をパタパタしてあおぐのは止めて欲しい。

 

 

(なんかこう、ところどころの所作が男の子っぽいんだよねヴァーディ。勘弁してほしい)

 

 

 俺は特に何も思わないからいいにしても、それで他のチームメンバーが大変なことになるから。現に今日の朝も海集合にしたらヴァーディがビキニじゃないのに阿鼻叫喚してたぐらいだし。というか夏合宿なんだから持ってくる方がおかしいと思うんだけど。

 ……待てよ?

 

 

「お~い、クロノー」

 

 

「な、なんですか~?トレーナーさ~ん。ち、ちょっとキツ……」

 

 

「頑張って上に登ることができたら、今ならヴァーディが体操服でパタパタしている姿が拝め「うおおおぉぉぉぉ!」その調子だよクロノー!」

 

 

「え?俺なんかダシに使われてる?」

 

 

 クロノは先程とはえらい違いで崖を登ってきた。うん、調子を上げるのには良い方法かな?いや、ヴァーディのことを考えたらよくないから止めておこう。

 

 

「ハァ、ハァ!ヴ、ヴァーディのあられもない姿は!?」

 

 

「あられもない姿はないけど向こうで体操服パタパタしている姿は拝めるよ」

 

 

「お疲れ様でーす、ジェネ先輩」

 

 

 凄い、猛スピードでヴァーディのところに向かった。本当にヴァーディのこと好きだなクロノ。

 

 

「それじゃ、2人のトレーニングはこれで終わり。お疲れ様」

 

 

「お疲れ様でした~」

 

 

「お、お疲れ様でした~」

 

 

 その後は旅館に戻って晩御飯。みんなすごい勢いで食べていた。

 

 

「うぅ……しょ、食事が喉を通らない……」

 

 

「しっかり食っとけよエフ。明日に響くぞ」

 

 

「う、うん。分かったよ姉さん」

 

 

「わ、私も疲れた~……あ、お姉ちゃん唐揚げちょうだい!」

 

 

「ほらよ、ペリもしっかり食って明日に備えろ」

 

 

「はーい!」

 

 

 ヴァーディ達姉妹のやり取りをちょっと微笑ましく思いつつ、旅館の温泉に入って明日のトレーニングを考える……ついでに。

 

 

「さて、皐月賞の映像を改めて見よう」

 

 

 皐月賞の映像を見直す。ヴァーディのデータと照らし合わせながら。

 

 

「……接触の減速から上がり最速の33秒6。凄まじい瞬発力だな」

 

 

 末脚もさることながら、前に食らいつこうという気概が凄い。闘争心の高さ、これがヴァーディの強さを担っているのだろう。

 だけど……その闘争心を向ける相手は。

 

 

「一体誰なんだ?君が見ている相手は」

 

 

 ただひたすらに前を見据えているヴァーディ。痛ましく、不気味にも感じるその姿。

 

 

「……もしかして、コントレイルか?」

 

 

 1着だしあり得なくもない話だと思うけど。それに、ヴァーディとコントレイルは……うん、止めておこう。色々あったとは聞いている。

 

 

「とにかくこの皐月賞でヴァーディはさらに上のステージに行った。まだまだ底が知れないな、彼女は」

 

 

 PCをシャットダウンして明日に備えるために寝る。明日も朝早くからトレーニングだ。




サリオス

身長;171cm

体重:増加(レースまでには絞るから!)

B/W/H:90/64/89

一言メモ
金色の栗毛の髪をベリーショートにしたウマ娘。大仰な言い方を好むウマ娘。太りやすいのかレース前は必死に絞っている姿が良く散見される。
ヴァーディクトデイとは良きライバルと思っている。

ラウダシオン

身長;167cm

体重:それなり

B/W/H:82/57/83

一言メモ
茶色の鹿毛の髪をポニーテールにしたウマ娘。常識人よりな性格。現実的な物事の見方をしている。また、歌を好んでおり時折口ずさんでいる姿が目撃されている。
ヴァーディクトデイとは悪友的な関係。
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