飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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毎日王冠が終わって秋天をどうするか?みたいな。


次走に向けて・秋天

 毎日王冠も終わった次の日。海藤さんとのミーティングなのだが。

 

「で、実際どうするんだ?俺の次走は」

 

 いや、分かっていることだけど一応確認の意味を込めて聞いてみる。

 海藤さんは淡々と。

 

「秋の天皇賞。皐月賞みたいな極度の疲労も見られないし、これぐらいなら天皇賞までには回復するだろうからね。ヴァーディの次走は秋の天皇賞だ」

 

 ッし!まずは無事に出走することができたな!これで海藤さんが大事を取って秋の天皇賞を休養、なんて事態もあったしな。皐月賞のことがあるから余計に。

 

「現状、ヴァーディのプランとして考えているのは秋の天皇賞。ここの状態次第で年内のプランを決めるよ」

「無事そうなら?」

「秋シニア三冠のローテに向かう」

 

 秋シニア三冠か。確か、秋の天皇賞とジャパンカップ、そして有マ記念だったか?

 ジャパンカップと言えば、コントレイルが出走していたレースのはずだ。そこでアイ先輩と戦ったはず。それに俺が出走できる可能性が出てきた、っつーわけか。

 ただ、今までのことを考えれば大分難しいことだな。秋天に出走するのはジェネ先輩もだし、なによりアイ先輩もいる。この2人だけじゃなくてフィエールマンさんも。

 確か滅茶苦茶強いメンバーが集まってるんだったよな。そんな状況で疲労を残さないで走り切れるかと言われたらかなり怪しい。

 海藤さんもそれが分かってるからかかなり険しい表情だ。

 

「ただ、ジャパンカップは出走できないものとして考えていてくれ」

 

 うん、理屈では分かってるけど思わずジトーっとした目で海藤さんを見てしまう。海藤さんは気まずそうに顔を逸らしたが、すぐに視線を戻してきた。

 

「分かってる、分かってるけどあまり無茶はできないからね。ヴァーディの体質を考えたら、ジャパンカップは出走しない方がいい」

「わーってる。まぁ分かってるけどさ」

 

 やっぱ納得はできねー!仕方ねぇけど、仕方ねぇけどさ!

 まぁいい。急いては事を仕損じるの精神で行こう。焦りすぎて一生走れなくなる、なんて可能性もあるからな。

 

「まずは予定通り秋の天皇賞だ。ここの結果と状態で次走は決める」

「あいあーい」

 

 ミーティングはこれだけ。レース明けということでトレーニングもお休み。寮に帰って宿題でも「ヴァーディ!ついにだね!」ジェネ先輩が部室に帰ってきたな。

 一瞬何のことかと思ったがそうか。俺とジェネ先輩が初めて一緒のレースで走るのか。

 前世は宝塚記念で一緒に出たけど今回は出ていない。この秋天がジェネ先輩との初レースになるというわけか。

 

「負けないからねヴァーディ!絶対に!」

 

 おぉ、闘志を漲らせているジェネ先輩!こっちも負けてられないな!

 

「俺だって負けませんよ!相手が尊敬しているジェネ先輩でも、俺は勝ってみせます!」

「そ、尊敬ッ!」

 

 なんだ?ジェネ先輩がふらふらし始めたけど……あ、耐えた。

 

「ふ、ふふん!盤外戦術を仕掛けるなんて、やるねヴァーディ!」

 

 いや、そんなつもり微塵もなかったんですけど。尊敬しているのは事実だし。今も昔も一番尊敬しているのはジェネ先輩だし。

 

「秋の天皇賞、お互いに頑張りましょうね!ジェネ先輩!」

 

 そう告げて、俺は部室を去る。さて、と。

 

「とりあえず、休みが明けたらやることやるか」

 

 秋の天皇賞で2つ目のリミッターが外れるかは分からん。だが、相手はあのアイ先輩だ。

 それに1つ目のリミッターが外れ、俺のレース知識は前世のまま。なら、問題なく()()ができる。

 

「勝つ。それだけだ」

 

 秋天に向けてプランを考えながら、寮へと帰っていく。

 

 

 

 

 

 

 ……ヴァーディは帰ったみたい。

 部室にはトレーナーさんとわたし。お互いに向かい合って、次のレースの相談が始まる。

 

「トレーナーさん。わたしの次のレース」

 

 トレーナーさんの険しい表情。なにを考えているのか、何となく分かる。きっとヴァーディのことだ。

 

「あぁ、クロノも秋天だ。ヴァーディとの初対決……ヴァーディだけじゃない。春天連覇のフィエールマン、菊花賞ウマ娘のキセキ、何より現役最強女王のアーモンドアイ。かなりのメンバーが揃っている」

 

 今回の秋天は凄く強いメンバーが集まっている。アレグリアは距離からして出ないし、ラヴズもエリ女に出走するから出ないって言ってた。

 それでも相手はトリプルティアラウマ娘にしてG1を7勝のアーモンドアイさんを筆頭に豪華なメンバーが揃ってる。

 わたしも宝塚記念を制してグランプリ女王なんて呼ばれてるけど、油断はできない。

 ……でも、懸念していることはまだある。それは、ヴァーディのこと。

 ヴァーディクトデイ。可愛い後輩で、運命的な何かを感じる子。リーダー特権を行使して彼女の世話役になって、接する機会も自然と多かった。

 だからこそ分かるんだ。レース中のあの子は、()()()()()()って。

 

(ヴァーディ。どうしてそんなに辛そうに走るの?)

 

 辛そう、苦しそう、痛そう。トレーナーさんはヴァーディの走りを痛ましいって言ってたけど、本当にその通りだと思う。

 このことはアイさんやアレグリアにも相談したことがある。いつもはライバルだけど、少しでも知恵を借りたかったから。

 2人の答えは、ほとんど一緒。

 

「まぁ……確かに楽しそうには走らないわねヴァーディは。ただレースだし当然じゃないかしら?例外もあるけど」

「う~ん、確かにジェネの言う通り楽しそうではないよね。でも勝ち負けが絡んでるわけだし当然じゃない?」

 

 ヴァーディは楽しそうに走らない。確かに勝ち負けが絡むから当然ではあるんだけど、それでもヴァーディのそれは異質だ。

 

「でも……ヴァーディの走りって、なんだか痛ましくて」

 

 自分を追い詰めているような、自分を責めているような。そんな気がするから。

 

「気持ちは分からないでもないわ」

「え?そうなの?」

 

 なんか話についていけなさそうなアレグリアは放っておいて、アイさんには心当たりがあるようだ。

 

「あの子の走りは、確かに異質。自分を追い詰め、こうあろうとしている」

 

 ただ、アイさんも詳しいことは分からないみたいで溜息を吐いた。

 

「結局のところ分からないわ。あの子、こういうとこだけガードは固いんだもの」

「それは……」

 

 確かにそうだ。

 ヴァーディは基本的にガードが緩い。だけどヴァーディは、自分の本心を決して話さない。嘘はつけないし嘘を吐いても凄く分かりやすいからすぐに看破できる。

 でもヴァーディは誰かに本心を話すことはない。同室のボンドちゃんにも話したことはないらしい。ボンドちゃん本人が辛そうに語ってくれた。

 

「嘘だって言っても、ヴァーディはすぐに誤魔化すよね~。絶対に喋りたくない!って感じがする」

「そうね。自分の本心のことになると必ず誤魔化す。喋れない何かでもあるのかしら?」

 

 正直、ヴァーディの本心を暴こうとしてるって観点から見たら褒められた行為じゃないって分かってる。

 それでも、分かりたい。ヴァーディがどうしてあんなに辛そうに走るのか?どうしてそんなに頑張るのか?そして……ヴァーディはなにを追いかけているのか?

 

「……ロノ?クロノ?おーい?」

「あえ?」

 

 き、気づいたら凄く考え込んじゃってた!?トレーナーさんが不思議そうにわたしを見てる!?

 と、とりあえず取り繕わないと!え~と、え~っと!

 

「す、すいませんトレーナーさん!ちょっと考え事をしてて!」

 

 トレーナーさんの訝し気な表情。た、多分なにを考えてたのかバレてるんだろうなぁ。

 

「ヴァーディのことでしょ?クロノが考えてたのって」

 

 やっぱりバレてる!うぅ、少し恥ずかしい……!顔が熱い!

 で、でも!真面目に考えてただけだから!恥ずかしくはないから!うん!

 

「クロノが懸念していることも分かるよ。レース中のヴァーディのことでしょ?」

「ッ!は、はい!そうです!」

 

 トレーナーさんは椅子に体重を預けている。何か考え事をしているみたい。

 

「……ヴァーディは、クロノにも教えていないんだね」

「っ、はい。ヴァーディは誰にも教えてないみたいです。アイさんもアレグリアも、ジェンティルドンナ副会長も教えてもらってないみたいです」

 

 ジェンティルドンナ副会長はうなされているヴァーディを見たらしい。いや、最初聞いた時は羨ましすぎてイラっとしたけどどうもそういう状況じゃなくて。

 寝ていたヴァーディはうなされていたらしい。その時たまたま部屋にいたオルフェーヴル副会長もビックリして、2人でどんな夢を見てたのかを聞いたみたいなんだけど。

 

「ヴァーディから感じたのは明確な拒絶の意思……教える気はないとばかりに、誤魔化されたみたいです」

「そっか……本当に、あの子はなにを抱えているんだろうか?」

 

 ……分からない。誰にも教えてないから分からない。

 信頼されてない、ってことはないと思う。わたし達だけならまだ分かるけど、家族であるエフちゃんやペリちゃんが聞いてもはぐらかされたって言ってたから。

 ヴァーディがみんなを拒絶している、なんて線もない。頼りにされることはあるし、むしろヴァーディ側から積極的に関わろうとするし。

 でも、これだけは別。レース中に豹変する理由、ヴァーディが追いかけているナニカ。これだけはヴァーディの中で明確な線引きがあるのか、誰であっても教えない。

 

(それを秋天で知ることができたら)

 

 ヴァーディと一緒に走ることで、何か見えてくるものがあるかもしれない。今回の秋天の目的はそれも一つある。

 冷酷無慈悲なレースマシン、大外一気の漆黒の撃墜王。世代の代表格は無敗のクラシック三冠に王手をかけているコントレイルちゃんと無敗のトリプルティアラを手にしようとしているタクトちゃん。この2人が代表格だ。

 ただヴァーディも同じくらい評価が高い。G1を取れる器、そんな評価をされている。

 そもそも秋天のメンバー的に楽な戦いじゃない。だけど。

 

「それでも勝ちます、トレーナーさん。わたしは秋天を勝ってみせます」

 

 勝ちたいっていう思いは変わらない。わたしはウマ娘だから。

 

「……そうだね、クロノ。ひとまずトレーニングに戻ろう。相手はあのアーモンドアイだ、クロノもアーモンドアイに負けてないとはいえ一分一秒たりとも無駄にはできないよ」

「はいっ!すぐにトレーニングに戻ります!」

 

 満足げな表情のトレーナーさんを確認して部屋を退出。すぐにでもトレーニングに戻る。

 

(ヴァーディ……いつかきっと、ヴァーディが話してくれる日は来るのかな?)

 

 そんな日が来るのかは分からない。今まで聞きに行っても何度も誤魔化された。

 きっと何回だってはぐらかされる。でも引き下がるわけにはいかない。

 だって、ヴァーディのことをもっと知りたいから。ヴァーディが抱えているものを、わたしが負担できたらって思うから。

 

(わたしは諦めないよヴァーディ!いつかきっと、話してもらうんだからね!)

 

 そんな決意と秋天を勝つという思いを胸に。わたしはトレーニングを頑張る。




ヴァーディは秋天に向けて調整。ジャパンカップは厳しそう?
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