飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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ウマ娘編での秋の天皇賞でござい。


秋の盾 VS最強女王

 

 

天皇賞・秋

 

 

枠順番号ウマ娘名人気

1
1ブラストワンピース8

2
2カデナ12

3
3ダイワキャグニー11

4
4ウインブライト13

4
5ヴァーディクトデイ6

5
6ダノンキングリー
3

5
7フィエールマン5

6
8クロノジェネシス
2

6
9キセキ4

7
10アーモンドアイ
1

7
11スカーレットカラー9

8
12ダノンプレミアム7

8
13ジナンボー10

 

 

 

 

 

 

 東京レース場。抽選に選ばれたファンが見守る中ウマ娘達がターフへと姿を現している。

 

《東京レース場芝2000m、曇り空ではありますがバ場の状態は良バ場と発表されています!天皇賞の盾の栄誉を勝ち取るのはどのウマ娘か!》

《やはり最注目はG1・8勝目、皇帝ルドルフ越えに王手をかけているアーモンドアイでしょう。このレース文句なしの一番人気です》

《しかしアーモンドアイだけではありません!宝塚記念を圧勝した新・グランプリ女王クロノジェネシス、春の天皇賞を二連覇したステイヤーフィエールマン!菊花賞ウマ娘キセキにクイーンエリザベスⅡ世カップと香港カップを勝っているウインブライトもおります!そして朝日杯以来の復権なるか?ダノンプレミアム!》

《例年に負けず劣らず。素晴らしいメンバーが集まっていますね》

《そんな中異色を放つのはやはりこのウマ娘!本レース唯一のクラシック級からの参戦、4枠5番のヴァーディクトデイでしょう!何やらアーモンドアイとスカーレットカラーに絡まれていますが……》

《菊花賞ではなくこちらに照準を合わせてきた、ということでしょう。長距離は向いていないと判断したのかもしれませんね。おっと、クロノジェネシスが仲裁に入ったようです》

 

 ターフではアーモンドアイとスカーレットカラーに絡まれて困ったような表情をしていたヴァーディクトデイのもとに、クロノジェネシスが仲裁に入っている光景が見られる。

 その様子を観客達は微笑ましい目で見ている。観客の中にはディープボンドの姿もあった。

 そんな中、スピカのトレーナーである沖野はヴァーディクトデイをジッと見る。

 

「さて、奴さんはどういう脚を見せてくるのやら」

 

 沖野が注目しているのはヴァーディクトデイの末脚だ。それは他の陣営もそうだろう。それだけ彼女の末脚は警戒しなければならない武器だ。

 

「ねーねー、みんなは誰が勝つと思う?」

「やっぱりアーモンドアイじゃないかしら?」

「ま~順当にいけばそうだよな。スカーレットの言う通り」

「でも、クロノジェネシスさんにフィエールマンさんも「ヴァーディ君が勝ちます」うん、コントレイルはそういうと思ったわ」

 

 サイレンススズカの言葉を遮るように、食い気味にコントレイルが反応する。いつも通りの反応過ぎてスピカのメンバーはまたか、といった表情でコントレイルを見ていた。

 

「お、落ち着きなよコンちゃん。圧が凄いよ」

「相変わらずコントレイルはヴァーディが絡むと変になるというか」

「でもヴァーディちゃんが強いのは事実ですから!頑張れ~!ヴァーディちゃ~ん!」

 

 キタサンブラックの声援に反応して、ターフにいるヴァーディクトデイは笑顔で手を振る。その姿にコントレイルはさらに笑みを深めていたがスピカのメンバーは全員気にしないことにした。

 

「見て!ヴァーディ君がボクに手を振っているよ!」

「いや、今の間違いなくキタサンだろ」

 

 グランアレグリアの言葉にゴールドシップが冷静に返す。

 そんな中、各ウマ娘がゲートへと入っていく。発走の時を迎えようとしていた。

 

《各ウマ娘順調にゲートへと入っていきます。皇帝越えを成し遂げ、G1・8勝目を手にすることができるか?トゥインクル・シリーズ現役最強女王アーモンドアイ!圧倒的強さを誇っています!それに待ったをかけるか?グランプリ女王クロノジェネシス!はたまた、それ以外のウマ娘が待ったをかけるのか!今最後のウマ娘がゲートに収まって》

 

 沈黙する東京レース場。無言の空間を切り裂いて──ゲートが開く音が響き渡った。それと同時に、ウマ娘達が一斉に駆け出す。

 

《ッ、スタートしました!秋の天皇賞が始まりました!5番ヴァーディクトデイが出遅れました、それ以外は綺麗なスタートを切ります!一番人気アーモンドアイは五分のスタート。ここから好位置につけたいところです》

 

 スタートはヴァーディクトデイが出遅れ、それ以外は綺麗なスタートを切った。

 まずは最初のコーナーめがけて駆け出す。激しい先行争いが繰り広げられる中抜け出すのは。

 

《積極策に出ます、3番のダイワキャグニー!ダイワキャグニーがいこうとしますが、ここは大外ダノンプレミアム!12番のダノンプレミアムが外から内へと上がっていきます!》

《外枠の逃げは不利ですが構わず行きました。これがどう響くか?》

《最初のコーナーを先頭で回ったのはダノンプレミアム!2番手は東京巧者ダイワキャグニー!3番手にキセキがいます。キセキは無理には逃げない様子。その後ろ4番手の好位置にアーモンドアイ!最強女王はここにおります!アーモンドアイは4番手の好位置!》

 

 ダノンプレミアムが先頭に立ちレースを引っ張る。2バ身のリードを取って2番手にダイワキャグニー。1バ身後ろに3番手のキセキ。そしてキセキから10番手のフィエールマンまでが固まっている。フィエールマンから2バ身程離れた位置にカデナとスカーレットカラーが控える。

 そのカデナとスカーレットカラーのさらに1バ身後ろの位置。最後方はヴァーディクトデイという隊列。

 ヴァーディクトデイはただジッと前を見据えている。

 最初の1000mを通過。通過タイムは──60秒5。残り半分だ。

 

 

 

 

 

 

 目の前にはアイツがいる。こいつが見えるようになったのはあの時、日経新春杯の時。

 思い上がっていた。凱旋門賞を制した俺は、世界一になったんだと。ずっと思い上がっていた。

 だがそれは間違いだ。俺はアイツに勝っていない。コントレイルに勝っていないんだ。

 アイツに勝たなきゃ世界一なんて名乗れない。アイツに勝つことでしか、俺は自分が世界一だと認められない。

 前世ではそれが叶わなかった。アイツはもう引退したから。だから俺の心は燻り続けていた。

 どれだけ走っても満たされない。どんなに走っても心は乾いていくばかり。飢え続ける魂に俺は……諦めていた。

 

(第3コーナー、ケヤキを回ったか)

 

 ここで進出を開始する。最後の直線で、全員を捲って勝つために。

 こっちに転生してから走っても変わらない。俺の前にはアイツがいて。アイツは俺に現実を突きつけてきて。

 

お前は世界一なんかじゃない

アイツに勝たなきゃ世界一なんて名乗れない

勝て。あの幻影を叩き潰せ

お前が世界一だと証明するために

自分こそが世界一だと証明するために

お前にはその義務がある

約束があるだろう?

みんなとの約束

勝たなきゃいけない

そうしなきゃ誰も報われない

 

 脳内に響く声。俺の声で再生され続ける、苛立たしいこの声。

 第4コーナーを越えて最後の直線に向こうとしている。さて、ここで2つ目の加速だ。

 隊列は外に膨らんでいる。大方、大外から俺が上がってくるのを警戒しているのだろう。

 だが内への意識も逸らさない。俺がどちらに来てもいいように対策しようとしているのだろう。

 

(──()()()()()()

 

 警戒されている?知ったこっちゃない。全員ぶち抜いて、あの幻影すら追い抜いて……勝利を掴むのは俺だ。

 余計な思考は必要ない。無駄を省いて、勝利に必要なプロセスを導き出す。そして俺の目に映る──道筋。

 1回目の凱旋門賞からずっと見えた光の道筋。これを辿れば大体のレースは勝ってきた。皐月賞は敗北したが、代わりにリミッターが外れた。

 今ならば分かる。この道こそが……俺がリミッターを外すカギに繋がっているのだと。この道をたどれば俺は、さらに上へといくことができるのだと。

 

(……潰すッ!)

 

 脚にありったけの力をぶち込む。そして俺は光の道筋を辿っていく。

 いつの日からか、ドス黒く染まっていた光の道筋を

 

 

 

 

 

 

 勝負は第4コーナーを回って最後の直線に持ち越される。先頭で入ってきたのはダノンプレミアムだ。

 

《第4コーナーを回って最後の直線へと入ります!さぁこの走りを瞳に焼きつけてください!まず先頭に立っているのはダノンプレミアム!ダノンプレミアムが依然として逃げています!キセキ2番手!3番手ダイワキャグニー!》

《アーモンドアイはっ、ここで来ましたかアーモンドアイ!》

《アーモンドアイがここで進出を開始する!ここでじわじわと順位を押し上げるアーモンドアイ!坂に入ります!東京レース場の坂を上るウマ娘達!ここでっ!?》

 

 アーモンドアイが早めに仕掛ける。順位を押し上げて坂を上り始める。

 

「お、アイちゃんが仕掛けたね」

「いけ!アーモンドアイ!」

「これはもらったね!」

 

 アーモンドアイはまだ余裕を見せている。常にどっしりと構え、レースを掌握していたアーモンドアイは余力たっぷりだった。

 その様子にチーム・リギルのメンバーは勝利を確信する。アーモンドアイの勝ちパターンに入ったのだと、そう確信した。

 ──だが。

 

「っ?ッ!?おい、あれって!?」

「え?……ハァ!?」

 

 ファンは気づく。いつの間にか最後方にいたはずのウマ娘の姿が消えていると。

 走っているウマ娘達は聞いた。

 

「な、なに!?今、なにか割れるような音が……ッ!?」

 

 空気が破裂するような音。無論、本当にその音が鳴ったわけではないだろうが……確かに聞こえた。

 それと同時に、ウマ娘達は気づく。観客達も気づいた。

 ()()()()()を切り裂くように上がってくる、1人のウマ娘に。

 

《ば、バ群の中央を切り裂いてヴァーディクトデイが上がってきたぁぁぁ!?なんという速さ!なんという末脚!ここで仕掛けたヴァーディクトデイ!600mのスパートをかけるヴァーディクトデイ!大外ではなく選択したのはバ群のど真ん中!突き抜けるヴァーディクトデイ!先頭ダノンプレミアムは坂を越えてさすがにキツくなったか?落ちてきている!アーモンドアイもトップギアに入る!アーモンドアイ残り200m!逃げ切ることができるか!?》

《さ、坂をものともせずに上がっていきます!恐ろしい末脚!?》

《バ群の中央ヴァーディクトデイ!バ群を切り裂いて!クラシック級、漆黒の撃墜王が最強女王に襲い掛かる!これはすさまじい末脚!グングン差を詰めていく!外からはフィエールマンとクロノジェネシス!グランプリ女王と天皇賞連覇のフィエールマンが外から上がってくる!だが真ん中ヴァーディクトデイはそれ以上の速さ!ヴァーディクトデイの速さは次元が違う!》

 

 他のウマ娘もスパートをかける。

 

「は、はやっ」

「きえっ!?」

 

 だが、一度飛んだヴァーディクトデイを捉えることはできない。他のウマ娘達は瞬く間に躱されていく。

 大地が轟く。ヴァーディクトデイの末脚がアーモンドアイに襲い掛かる。観客の目には、ヴァーディクトデイが()()()()()()()()()()()

 早めに仕掛けてリードを取り、最後に逃げ切ることを選択したアーモンドアイ。

 彼女は今、恐怖にも似た感情を抱いていた。

 

(速い……!この余力を最後まで残していたとはね!)

 

 だが逃げ切れる。アーモンドアイはそんな希望を抱いて──容易く砕かれることになる。

 残り200m。ヴァーディクトデイは()()()()()()()()()()

 

「……は?」

「おい、冗談だろ!?」

「あ、あそこからさらに速くなんの!?」

「……教えておいてなんですが、本当に恐ろしい末脚ですわね」

 

 残り200を切ってヴァーディクトデイはアーモンドアイを射程に捉える。加速し続けてアーモンドアイとの差を詰めてきた。

 リードがグングン縮まっていく。そして残り100mを切ったところで。ついに追いつかれた。

 

(う、そ……っ?)

 

 アーモンドアイは驚愕する。ヴァーディクトデイはアーモンドアイを瞬く間に躱して置き去りにした。

 

《アーモンドアイ逃げる逃げる!必死に粘るアーモンドアイ!最強女王の首元に漆黒の撃墜王がその凶刃を突きつける!すでに200を切って100mに差し掛かる!クロノジェネシスとフィエールマンも外から上がってくる!しかしこの2人は届くか届かないか!?残り100を切ってッ!ついにヴァーディクトデイがアーモンドアイを躱したぁぁぁぁ!そしてっ、並ばない並ばない!?ヴァーディクトデイがアーモンドアイを置き去りにする!》

 

 レース場からは悲鳴が上がる。アーモンドアイが追い抜かれた瞬間、東京レース場では悲鳴が上がっていた。

 アーモンドアイを置き去りにしたヴァーディクトデイの勢いは衰えることなく。そのままゴールへと突っ込んでいった。

 

《ヴァーディクトデイ先頭!ヴァーディクトデイ先頭!アーモンドアイ敗れる!府中中距離で負けなしの女王が敗れる!皇帝越えはならず!秋の天皇賞を制したのはヴァーディクトデイだぁぁぁぁぁ!最強女王を打倒し!クラシック級のヴァーディクトデイが最強女王を撃ち落としたぁぁぁぁ!これが漆黒の撃墜王!冷酷無慈悲なレースマシーン!新しい時代の産声は!走破タイム1:57:3とともに訪れたぁぁぁ!》

《な、なんという世代でしょう……!震えが止まりせんね!》

《秋華賞で無敗のトリプルティアラを成し遂げたデアリングタクト!菊花賞で無敗のクラシック三冠を成し遂げたコントレイル!そして!シンボリクリスエス以来となるクラシック級での天皇賞制覇を成し遂げたヴァーディクトデイ!最強女王の偉業は!漆黒の撃墜王に阻まれる!2着アーモンドアイは1と半バ身差で敗れた!3着フィエールマンはアーモンドアイに半バ身差!》

 

 静寂に包まれる東京レース場。それも当然かもしれない。

 皇帝越えに王手をかけていたアーモンドアイの大偉業。終始冷静にレースを運び、盤石の態勢で迎えた最後の直線。

 勝ったと思っていた。これで芝のG1・8勝ウマ娘が誕生すると思っていた……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 非難の声は飛ばない。理由は、ヴァーディクトデイの勝ち方があまりにも凄かったからかもしれない。

 荒く呼吸をするアーモンドアイはレースを振り返る。

 

(……舐めてかかったつもりはない。万全の態勢で、万全の対策で!勝負に臨んだはずだった)

 

 だが、ヴァーディクトデイはその上をいった。アーモンドアイと東条ハナが立てた作戦の、その上を軽々と飛び越えたのだ。

 

(恐ろしい子……ッ!)

 

 アーモンドアイは視線の先にヴァーディクトデイを捉える。ヴァーディクトデイと視線が交錯する。

 瞬間、全身の怪我総毛立つような感覚を覚えた。

 ヴァーディクトデイが何かを喋ったわけではない。ただ、彼女の視線が語り掛けているような気がしたのだ。

 その時アーモンドアイは、ヴァーディクトデイの意気込みを思い出す。

 

最後の直線の速さ比べなら誰にも負けない

 

 彼女の目は、そう語っているようだった。

 ヴァーディクトデイは冷たい目をしている。だがそれも一瞬のこと。

 彼女はすぐ笑顔に戻って、観客席に向かって一礼をした。

 

「「「う、ウオオオォォォ!!」」」

 

 それと同時に沸き起こる歓声。どうやらあまりの勝ち方に言葉を失っていたらしい。

 その歓声に満足したのかヴァーディクトデイは笑顔で手を振っていた。

 

「ふふ、ふふふ……!やっぱり凄いねっ、ヴァーディくぅん。カッコいい、凄くカッコいいよぉ!」

「おい、コン坊を誰か見とけ。やらかさないように」

「さすがにやらかさないですわよ……やらかさないですわよね?」

「あ、あはは……」

 

 なんか暴走しかけている三冠ウマ娘がいたが割愛。

 そんなヴァーディクトデイを厳しい目で見ているのが2人。

 

「……会長」

「そうだねぇドンナ。ヴァーディには何が見えているのやら」

 

 ディープインパクトとジェンティルドンナの2人。

 そして、ヴァーディクトデイの姿を悲しそうに見つめる2人のウマ娘。

 

「ヴァーディ君……」

「ヴァーディ……あなたは、どうして?」

 

 観客席のディープボンドと、同じターフに立っているクロノジェネシスだ。彼女達は笑顔で手を振っているヴァーディクトデイを悲し気に見つめる。

 ヴァーディクトデイは誰にも聞こえないような声で呟く。

 

……あぁ、また勝てなかった。

 

 表情を崩さずにそう呟いて。ヴァーディクトデイはウィナーズサークルへと向かっていった。




前世よりも勝ち時計が早くなっとる。(1:57:6)
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