飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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秋天後の色々なこと。


秋天後・次走

 秋の天皇賞が終わり。新聞やネットの記事によって今回の結果が出回っていた。

 

【最強女王敗れる!大偉業を阻んだのは漆黒の撃墜王!】

【今年のクラシック級はまさに桁違い!ヴァーディクトデイ驚異の末脚!】

【三強に突入か!?ヴァーディクトデイが秋天制覇!】

【圧倒的スピード!世代交代を告げる衝撃の末脚!】

 

 G1・8勝に王手をかけていた女王・アーモンドアイ。秋天連覇、8勝目を阻んだウマ娘ヴァーディクトデイ。どこもかしこもそのような記事で溢れていた。

 呟きアプリのトレンドでは関連ワードが上位を独占し、世間でも興奮冷めやらぬ様子だった。

 これまで大外から捲って上がることを得意としていたヴァーディクトデイ。

 だが秋天で彼女が見せたのはバ群の真ん中を突き抜けての中央突破だ。

 

「さすがに大外一辺倒とは思っていなかったでしょう。しかし実際に真ん中に来られると戸惑うものですよ」

「その戸惑いが0.1秒でもあればよかったんでしょうね、ヴァーディクトデイとしては。その0.1秒が隙になったわけですから」

「いやぁ、惚れ惚れするような末脚ですよね!ちょっとの判断の遅れを見逃さない!」

 

 レース評論家もそうコメントを残していた。

 ヴァーディクトデイの末脚を誰もが評価する。そんな彼女が秋の天皇賞で記録した上がり3ハロンのタイムは──31.7秒である。

 エイシンフラッシュが日本ダービーで記録した32.7秒の末脚。勝ってはいないものの、ゴールデンナンバーが記録した32秒の時計。

 ヴァーディクトデイはそれすらも上回った末脚を叩き出した。

 レース場や展開によって左右されやすい上がり3ハロンのタイム。だが上がり2位のフィエールマンが32.7秒なことからこれがいかに凄まじい記録かが分かる。実に1秒もの差をつけていた。

 そんな末脚を見せたヴァーディクトデイの次走は──

 

【ヴァーディクトデイジャパンカップは見送り!疲れは軽微なものの】

【ヴァーディクトデイの次走は有マ記念!グランプリ女王との対決へ!】

【ヴァーディクトデイの次走は冬のグランプリ!】

 

 有マ記念である。

 

 

 

 

 

 

 さ~て、海藤さんとの次走相談な訳だが。

 

「で、どうよジャパンカップ」

「許すと思ってる?」

 

 その咎めるような目つきを止めろ!ジトーっとした目で見るんじゃねぇ!

 しゃーねぇ。ここは大丈夫ですよアピールするしかないな!

 

「大丈夫だバディ!俺、元気!超元気!めっちゃ元気!いや~、これならジャパンカップもレコード勝ちしちゃうかもな~!」

「ダメ。疲労がちょっとあるんだからジャパンカップは見送り」

「そんなご無体な!?」

 

 いいじゃんいいじゃんちょっとぐらいさ~!

 その後も海藤さんと押し問答。

ジャパンカップに出させて!

ダメ!

それでも出させろ!

無理!

……とお互いに譲らない話し合いになったが。

 ま、ぶっちゃけこのジャパンカップに出走できないのは分かってたことだ。この辺で引き下がるとするか。

 

「……ま、わーったよ。()()()諦める」

 

 唐突に引き下がったから海藤さんに訝しんでいるな。当然か。

 

「どうせどんなに粘ったところでジャパンカップは出させてくれないだろ?」

「……そんな不貞腐れないでよヴァーディ」

「ソンナコトナイヨー」

 

 ぶっちゃけ、ここのジャパンカップは出走できなくても構わん。

 理由として、俺がまだ全盛期には届いていないということ。そんな状態で勝てるわけがない。

 もう一つ、俺自身感じているからだ。秋天の疲労がちょっと残っているということを。

 ぶっちゃけ出走できないことはない。そんぐらいの疲労だ。ジャパンカップへの回復を考えれば、無理くり出走することはできるだろう。

 だがそんな状態で勝てるか?と言われたら無理って答える。アイ先輩は秋天の敗北で前回以上に仕上げてくる、コントレイルに加えてトリプルティアラを取ったタクトちゃんも出走してくる。さらにマークもこれまで以上にキツいものになってくるだろう。

 マークされようがぶち抜けるし勝つ自信はあるが、それでも今後のことを考えたら無理をしないという選択肢を優先すべきだ。

 

「わーってるよ。ここはまだ無茶すべきじゃねぇ。まだクラシック級、これから走ることも考えたら走らねぇ方がいいってのは分かってるさ」

「じゃあ、なんでそんなに食い下がってたのさ」

「そりゃ出走したかったからさ。今回はアイ先輩にーコントレイルにー、タクトちゃんも出走するんだろ?絶対すげぇレースになるじゃん!」

 

 三冠を取ったウマ娘が3人も集った世紀の対決!現時点でも三つ巴決戦なんて言われてるぐらいだしな!

 が、お手上げだ。

 

「このまま回復しても疲労がちょい残りの状態だからな。秋天は頑張ったが、ジャパンカップを万全の状態で臨めるかと言われたらびみょいし今回は大人しく諦めるさ」

「分かってくれたようで嬉しいよ」

 

 海藤さんはホッとしてんな。

 ま、重要なのはここからだ。

 

「でも来年!来年は絶対に出走させてくれよ!」

 

 ホッとした表情から一転、また訝し気な表情を浮かべる海藤さん。でも今回はそこまで重要に考えてなさそうだな。

 俺の様子を窺う海藤さん。さて、どう転ぶか?

 

「そんなに出走したいの?ジャパンカップ。今年じゃなくて来年でもいいだなんて」

 

 当然だろ。むしろ来年の方が大事なんだよ。俺にとってはな。

 

「当然だろ!秋シニア三冠の1つのレースに出走したいってのは不思議じゃねぇだろ?G1に出るのだって上澄みなんだからさ」

「まぁそうだけど……ヴァーディの実績考えたらもっと他の大レースに出走したいんじゃないかなって思ったからさ」

「いや、まぁ他にも出走したいレースはたくさんあるけどさ」

 

 主に凱旋門賞とか。正確にいえば凱旋門賞からのジャパンカップルートとか。

 つい最近知ったことだがディープ会長がこのローテを通ったのだとか。そしてジャパンカップを勝ったらしい。本当にすげぇなあの人。そりゃ前々世でも名前を聞くぐらい有名なはずだよ。

 

「俺さ、凱旋門賞からのジャパンカップローテをしたいんだよ!」

「あ~……ディープインパクトのローテ?」

「そうそう!」

 

 このローテはできないことはない。だが、前世の俺は体調面から出走が叶わなかった。

 別に確約してくれなくてもいい。重要なのは……。

 

「頼むよ~!凱旋門賞を取ってさ!んでんで、世界の大レースを制してジャパンカップに出走して!その舞台でも勝ちたいんだよ!」

「……本心から言ってる?それ」

「本心だよ失礼な!?」

 

 俺が、このローテに拘っているという意思を見せることだ。

 おそらくだが疲労は残るだろう。これは現実的な見立てだ。

 凱旋門賞を勝つのは並大抵のことじゃない。どうしても疲労ってのは残る。それがジャパンカップまでに回復するかと言われたらちょい怪しいところ。

 できる限り疲労が残らないように努力は重ねている。それがリミッターをできる限り早い段階で外すこと。……まぁ、秋天ではリミッター外れなかったんだけど。

 海藤さんの反応はっと。……微妙だな。大言壮語だし当たり前か。

 

「凱旋門賞を勝つって言うけど、並大抵のことじゃない。ディープインパクトだって、オルフェーヴルだって届かなかった。日本の数々の名ウマ娘達が届かなかった舞台だ」

「分かってるさ、それぐらい」

「なら、軽々しく凱旋門賞を取るなんて言わない方が良いよ。あまり良く思わない人だっているから」

 

 海藤さんの言うことはもっともだ。いくらアイ先輩に勝ったとはいえ、まだまだ俺はクラシック級のひよっこだからな。

 だが言うだけタダではある。夢を見るのは自由だ。

 

「軽々しく言ったつもりはねぇ!俺は凱旋門賞を取る!日本の悲願を、俺が叶えてみせる!」

 

 強い意志を持って海藤さんの目を見る。お互いに視線を外さない。

 先に折れたのは……海藤さんだった。

 

「どうやら、本気のようだね」

「あったりまえよ!」

 

 海藤さんは笑みを浮かべて頷く。

 

「なら、俺も最大限バックアップするよ。ヴァーディが凱旋門賞にかける思いが本物なのは、海外留学をしたことから分かってるしね」

「……え?じゃあなんで凱旋門賞を舐めるなよみたいな雰囲気出してたの?」

「覚悟の確認だよ。ヴァーディが凱旋門賞にどれだけの思いを抱いているのか、のね」

 

 ほ~ん、なるへそ。

 言いながら海藤さんは紙を取り出してきて……なんの紙だ?コレ。

 書いてあった文字を確認していくと、俺の今後のレースプランについて書かれていた。

 

「今後のヴァーディのレースについて話していこうか。まずジャパンカップの出走は無理。これは決定事項だ」

「……あ~い」

 

 明らかにテンション下がった俺を見て海藤さんは苦笑い。分かっているとはいえ、やっぱ出たいって気持ちはあるからな。

 あんま落ち込んでもいられねぇな。次だ次。え~っと、俺の次走は……お?

 

「ヴァーディの次走は有マ記念。ヴァーディなら問題なく出走できると思う」

「ふ~ん、有マか」

「……反応薄いね」

 

 いや、あんま実感湧かねぇもんだなって。

 にしても有マか。前世では出走したことないな。大体疲労が抜けなくてジャパンカップと一緒に出走しなかったレースってイメージしかない。

 

「そして年明けのプラン。これももう考えてあるんだ」

「ほほう」

 

 年明けのレースローテは……まぁ想像通りだな。

 日経新春杯を始動戦にして大阪杯。そして宝塚記念からの凱旋門賞。凱旋門賞前にレースを一叩き、って感じか。

 

「成程な。このローテで向かうって感じか」

「ヴァーディの体調と相談しながらになるけどね。中距離戦に集中するローテで行くよ」

 

 有マは経験を積むといった意味合いだろうか?まぁいい。

 さて、話を逸らされないようにしっかりと釘を刺しておこう。

 

「ところでバディ?俺の、来年のジャパンカップ出走についてまだ答えを貰ってないんだが?」

 

 笑顔で、それはもう素敵な笑顔で!俺は圧をかける。

 海藤さんは気まずそうに顔を逸らしてる。だが知らん。これは重要なことだ。

 

「……誤魔化せなかったか」

「当然だ。そ・れ・で?バディはどうしてくれるんだ~?ん~?」

 

 海藤さんに近づきながら問い詰める。手でガードしようとしているが無駄だぞ。答えを出すまで離れるつもりはない。

 俺が退くことがないと分かってか、海藤さんはやけくそ気味だな。

 

「分かった分かった!その時の状態次第になるけど、今回みたいに疲労が軽微なら出走させるから!」

「本当か!?いや~、ありがとよバディ!」

 

 即座に離れる。よしよし、これで()()()()()()

 

「全く……そんなに出走したいなんて」

「わりぃわりぃ。ま、そんだけかける思いが強いってことさ」

 

 ずっと、な。

 その後は軽い打ち合わせ。有マに向けてのことだったり今後のことだったり。

 

「それじゃ、今日はこの辺で。寮に戻ってしっかりと身体を休めておいてね、ヴァーディ」

「おう!疲労が回復し切るようにちゃんと休むぜ!」

 

 部室を出て、ガッツポーズ。

 これで約束した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

(海藤さんにはもう一つ、お願いがある。それも合わせれば、俺のジャパンカップ出走は確実なものになる)

 

 これで布石は完了。後は……2つ目のリミッターを外すことだ。




ヴァーディの次走は有マ記念でござい。前世では出走したことないレースです。
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