ジャパンカップが終わって数日。今日も今日とて自主トレに勤しむ俺である。
「それじゃあ始めましょうか、ヴァーディ」
「自主トレは欠かさないんですね、アイ先輩」
俺の言葉に当然、とばかりに返すアイ先輩。こういうストイックなところが強さの秘訣なんだろうな。
「そういえばヴァーディ、あなた次走は有マ記念のようね」
「あ~そうですね。次は有マです」
前世も含めて2500mは初挑戦。しかも中山は最後の直線が短いことで有名だ。
何より懸念していることは、正常な判断が下せるかということだな。
(たかが100m、されど100m。仕掛ける場所や展開も改めて考えなくちゃいけねぇ)
実際2400初挑戦だった前世のフォワ賞ではプボちゃんにまんまと逃げ切り勝ちを許した。あれは金添さんとの呼吸が合ってなかったのも原因だろうけど。
「そうだアイ先輩。確かアイ先輩も有マに……すいません、なんでもないです」
「なにか言いたいことでもあるのかしら?ヴァーディ」
めっちゃ顔近づけて圧かけてくるじゃん……!しかもめっちゃ顔怖いし。俺のせいだけどさぁ!
その後アイ先輩のご機嫌取りに終始しながら、有マについて聞いてみる。渋い表情されるけど、経験者の言葉というのは大事だ。
「ヴァーディはこれまで2000mまでしか走ったことがない。2500mは確かに未知の領域ね」
「は、はい。そうですね。なので走ったことがあるアイ先輩に聞いてみようかと」
そうね、と呟いて考えているアイ先輩。
「ペース配分やスタミナに関しては、まぁいいわ。あなたはその辺上手いもの」
「ありがとうございます!」
やっべ、まさか褒められるとは思わなかったのですげぇ嬉しい!
ちょっと浮かれている俺に釘を刺すようにアイ先輩はジト目で見てくる。はい、すいません。
「……でも、初めて挑戦する距離というのは戸惑うものよ。仕掛ける場所だって変わってくるもの」
「それは、そうですね」
「それに、有マ記念が開催される場所は中山レース場。あなたにとって不利なのは間違いないわね」
確かにそれはある。
中山の直線は短い。ここで捲りを決めるのは結構難しい。
俺自体中山はそこまで苦手じゃないんだけど、あまりにも差をつけられていたらさすがに追いつけん。
「なんにせよ、私はあまり参考になるようなことは言えないわ……9着だもの」
「本当に悪かったですって……」
アイ先輩が記録した最低着順。それが有マ記念だ。掲示板逃したのはこの1回のみだからマジで凄いんだけど。
朝の自主トレはそんな感じでアイ先輩と話しながら進んでいった。
ジェネ先輩?今日は寝坊したのか自主トレ終わりに現れたよ。
「ぐぬぬ……ッ!」
「あら、随分お寝坊さんなのね?お陰様でヴァーディとゆっっっくりと、自主トレできたわ」
あまり時間は変わらんでしょ、なんて野暮なツッコミはしない。白い目で見られるから。俺、学んだ。
悔しそうに地団駄を踏むジェネ先輩にちょっと申し訳なさを感じつつも寮へと戻る。ご飯を食べて登校だ。
授業も特に何事もなく終わ……れれば良かったなぁ。
「え~……ヴァーディクトデイさん。1つよろしいでしょうか?」
「……なんでしょうか?」
頭を痛そうに抱えながら俺を見る先生。その視線に申し訳なさを感じる俺。
笑いをこらえるクラスの連中。腹抱えて笑ってるラーシー。アイツ後でぶっ飛ばしてやろうか?
言わんとしたいことは分かる。現に俺は顔を真っ赤にしていることだろう……俺が赤面していることは
「何故ゲーミング色に発光しているのでしょうか?」
「……不幸な事故です」
なんせ今の俺はゲーミング色に発光しているからな……隣のプボちゃんがめっちゃ眩しそうにしてる。本当にスマン。
朝登校した時、誰かに追いかけられているアグネスタキオン先輩がこちらに向かって走ってきたのが事の発端。
「危ないっ!」
「へ?うわぁっ!?」
避けることができなかった俺はタキオン先輩と衝突。先輩が持っていたであろう液体をモロに被った。
その結果──
「なんか俺の身体がゲーミング色に光ってるぅぅぅ!?」
「おや、これはすまないねぇ」
「ちょっとは、悪びれて、ください」
タキオン先輩を追いかけていた主、マンハッタンカフェ先輩から心配する言葉を貰ったものの俺のこの状況はどうしようもなく。
「……すぐに、解毒剤を作らせますので。ほら、タキオンさん。行きますよ」
「え~?私は忙し「やらないと、ジェンティルドンナさんに、資料燃やされますよ?」さ~て!キリキリ作ろうじゃあないか!」
現在タキオン先輩の解毒剤待ちな状況である。
こんな状況でも授業はある。だから授業に出てきたんだけど……。
「周りが集中できないので、その状況がどうにかなるまで保健室にいてください」
「あいっす……」
先生から授業出禁を食らうという人生初の出来事が起こったとさ。
昼休み。ゲーミング色に発光していた身体はなんとかなったところでみんなと飯である。
「朝から酷い目に遭った……」
「朝のオメーは傑作だったぜ!教室着いたら虹色に光っているヤツがいたんだからよ!あ~今思い出しても腹がいてぇ……っ!」
ラーシーは大笑いである。実際俺も同じ状況になったら笑うだろうから何も言えねぇ……!
そんな中でもパンちゃんは変わらずだ。
「ピカピカ光ってて綺麗だったぞヴァーディ!パンも、パンもピカピカ光りたい!」
「うん、パンちゃん。絶対にタキオン先輩のところに行くんじゃないぞ?」
俺のピカピカは物理的な光だ。比喩表現でキラキラ光るならともかく、物理的に光るのは止めた方がいいと思うぞ。
「朝から災難だったねヴァーディ君。ご飯食べて、嫌なことは忘れちゃお~」
「プボちゃんの優しさが身に染みるぅ。後眩しくしてマジでゴメン」
「別にヴァーディ君が光りたくて光ってたわけじゃないからいいよ」
ツッコむべきではないと分かっているんだが、光りたくて光る状況とは何だろうか?……停電?
食事の話題は各々のレースやトレーニング事情だ。
「ところでよヴァーディ。オメー最近疲労の方はどうなんだ?」
ラーシーからそんな質問が飛んできた。
疲労か。ぶっちゃけて言うと、前世に比べて
「毎日欠かさずマッサージや疲労回復の食事をしているおかげか結構調子はいいぜ。それでも疲労の回復はまだまだ遅い気がするけど」
「そうかい。ま、成果は順調に出ているみてーだな」
実際ラーシーの言う通り、結果は出始めてはいる。これも日々の努力のたまものだ。
でも、前世の終盤も疲労はあまり感じなかったんだよな。特にキングジョージなんてみんながヤバいヤバいって言って慌ててたのにちょっとしか疲労が溜まってなくて驚いてたし。
う~ん、もしかしてリミッターが外れることで疲労のキャパが増えたとかそんな感じなのか?もしくはリミッターが外れたことで能力値がえらい上昇したとか。
疲労を100として、俺が全力を出すと疲労が50溜まる。レースで疲労も重なるから極度の疲労となって現れる。
だけどこの疲労を乗り越えたら俺のパラメーターは急上昇。今まで50だった俺の全力が20で出せるようになる。そうなりゃ今まで以上に力を発揮できるってとこか?
(てか、その線が一番高そうだな。ここにきて新事実が発覚か)
実際のところは分からんが、リミッターが外れたことで限界を超え、キャパが増えた線が濃厚だな。後考えられる線としては、凱旋門賞までの俺はまだまだ未完成で、凱旋門賞が終わった後ようやく完成されたとか。そんな感じか?こっちの可能性もあるな。
「どうかしたの?ヴァーディ君」
「ん~……ちょっと考え事。てか俺ノートどうしよう……」
いや、俺の限界値のことについて考えてたけどノートもヤバい!俺の午前授業は全休みたいなもんだぞ!?
そんな中ラーシーからの助け舟が!
「今回の休みに関してはオメーが悪いわけじゃねー。アタシのノート見せてやるよ」
「ら、ラーシー……!」
やっぱお前は救世主だよ!頼りになるぜ!
「パンにも見せて!」
「ぼ、ぼくも……。ちょっと今回の授業ノート取るの忘れちゃって~」
「オメーらは授業出てただろうが」
でもなんだかんだ見せるのがラーシーである。
ご飯も食べ終わってみんなで駄弁っていると。ジェネ先輩が駆け足でこちらに寄ってきた。
「見つけたよヴァーディ!今ちょっといいかな?」
「ジェネ先輩?どうかしたんですか?」
ジェネ先輩は自信満々、といった様子だが。何かあったのだろうか?
とりあえず用件を待っていると、ジェネ先輩は俺に指を突きつけてきた。
「ヴァーディ!次の有マ記念、わたしが勝ったらヴァーディのことについて教えて!」
そんな宣言である。
……俺のことについて教えて欲しい?
「今更何をです?何か気になることでもありますか?」
「そりゃ沢山……うおっほん!とにかく!今度の有マでわたしが勝ったらヴァーディのことについて教えて欲しいの!」
そんなお願いをするジェネ先輩だが……今さら何を教えて欲しいんだろうか?しかも、わざわざ有マ勝利を条件に。
「勿論!ヴァーディにもメリットはあるよ!もしヴァーディが勝ったら、ヴァーディのお願いなんでも聞いてあげちゃう!」
「はぁ」
ぶっちゃけそんな必死になってまで教えて欲しいことが何かは分からんが……断る理由もないし良いか。
「まぁいいですよ。断る理由もないですし」
「ほ、本当!?」
めっちゃ詰め寄ってきますね。
興奮気味のジェネ先輩を軽く諫める。
「なにを聞きたいのかは分からないですけど、構いませんよ。普通に言われたら教えますけどね」
そんな俺の言葉にジェネ先輩は冷静になったのか離れた。
冷静になってくれて嬉しい限り「……それがヴァーディにとって教えたくないことでも?」……あぁ、そういうこと。
急激に冷え込む俺の感情。つまるところ、ジェネ先輩は踏み込んできた、ってわけだ。
「ヴァーディ君……」
「あれ?どうしたんだヴァーディ?」
「……」
しっかりと、俺から視線をそらさないジェネ先輩。俺も、ジェネ先輩から視線をそらさない。
何秒かの睨み合い。俺は──息を吐く。
「良いですよ。ただし、聞く時はジェネ先輩1人です」
「ッ!今の言葉……忘れないでね、ヴァーディ」
「忘れませんよ。それに、ここにいるみんなが証人ですから」
約束を破ることはしないが、それでもここに3人も証人がいる。3人の方へ視線を送ると、全員頷いた。
「……じゃあ約束。わたしが有マでヴァーディに勝ったら、ヴァーディについて教えて」
「俺がジェネ先輩に勝ったら、ジェネ先輩にお願いを聞いてもらう。これで良いですよね?」
「うん、いいよ」
これで成立、っと。
「それじゃあヴァーディ……本気で来てね?」
「勿論ですよ。憧れの先輩だとしても、俺は超えていく気概で行きます」
そこにいたのはいつものジェネ先輩ではなく。宝塚記念を制した新・グランプリ女王──クロノジェネシスとしての威厳。
ジェネ先輩は踵を返して去っていく。俺はその背中を見つめていた。
「お~……クロノ先輩ビリビリしてたな!」
「まーな。そんだけ、気合入ってるってことだろ」
心配そうに俺を見ているプボちゃんの視線を感じる。
……さて、相手はあのジェネ先輩。
「勝つ。誰が相手であっても、それは変わらねぇ」
「……こっちも気合十分、ってことかい」
当たり前だラーシー。思えば、ジェネ先輩にはグランプリレースで一度も勝てたことがねぇからな。
ジェネ先輩と約束をした有マ記念。俺は調整を続けた。万全の態勢で臨めるように。
そんな約束をして大丈夫か?な有マ記念。後セントマークスバシリカの語感が良すぎる。