飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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出走経験のないレース。果たして結果はいかに。


冬のグランプリ

 

 

有マ記念

 

 

枠順番号ウマ娘名人気

1
1バビット10

2
2クレッシェンドラヴ16

3
3ラヴズオンリーユー7

3
4ヴァーディクトデイ
3

4
5ワールドプレミア6

4
6キセキ9

5
7ラッキーライラック5

5
8ペルシアンナイト12

6
9クロノジェネシス
1

6
10カレンブーケドール4

7
11モズベッロ14

7
12オーソリティ8

7
13フィエールマン
2

8
14サラキア11

8
15オセアグレイト15

8
16ユーキャンスマイル13

 

 

《暮れの中山、年末のグランプリレース有マ記念。今年もこの季節がやってきました。ファン投票によって選ばれたウマ娘達が中山2500mを駆け抜けます!天候は晴れ、バ場の状態は良馬場と発表されています。本レースで注目されているのはグランプリ女王クロノジェネシスでしょう!》

《宝塚記念を快勝したクロノジェネシス。この冬のグランプリでは果たしてどのようなレースを見せてくれるのか?非常に楽しみですね》

 

 ターフにいるクロノジェネシスがスタンド席に向かって手を振っている。

 会場規制により少ないものの、観客は声援を飛ばす。クロノジェネシスを始めとしたウマ娘達は笑顔で応えていた。

 

《もう1人注目のウマ娘と言えば、やはりヴァーディクトデイでしょう!クロノジェネシスとは尊敬する先輩と後輩、しかし譲るわけにはいかないと!先輩を越えていくつもりで行くと!有マ記念前のインタビューでは答えていました!》

《秋の天皇賞で女王アーモンドアイを捲った漆黒の撃墜王。果たしてグランプリ女王も撃ち落とすことができるのか?こちらも期待が持てるところです。それにフィエールマンも好走を期待したいですね》

 

 各自がウォーミングアップを済ませる中、ヴァーディクトデイに近づく影がある。

 クロノジェネシスとティアラを分け合った仲であるラヴズオンリーユーだ。ヴァーディクトデイは僅かばかりに警戒している。

 

「お初にお目にかかります、ヴァーディクトデイさん。あなたのことは、クロノから良く聞き及んでおりますよ?」

「ジェネ先輩から?」

 

 尊敬する先輩の知り合い。それを聞いてヴァーディクトデイは警戒を緩める。

 ラヴズオンリーユーは終始ニコニコとした表情でヴァーディクトデイを見ていた。

 

「本日はよろしくお願いします、ヴァーディクトデイさん。あなたの愛……見させてもらいますね」

「あ、愛?」

 

 戸惑うヴァーディだが、ラヴズはそのままウォーミングアップへと戻っていった。訳が分からないヴァーディだけが取り残される。

 

「……俺もウォーミングアップしとこ」

 

 結局理解することを放棄したヴァーディクトデイはそのまま準備運動をすることにした。

 その後ヴァーディクトデイがラッキーライラックとカレンブーケドールといった面々に絡まれていたこと以外は何もなく。ゲート入りの時が来た。

 

《各ウマ娘、順調にゲートへと入っていきます。1番人気クロノジェネシス、その人気に応えて春秋グランプリ制覇なるか?しかしそれに待ったをかけるのがフィエールマン、ヴァーディクトデイを筆頭としたウマ娘達!選ばれた16人のウマ娘達が続々とゲートに入っていきます!》

 

 最後のウマ娘がゲートに収まる。

 ゲートの中で、クロノジェネシスは己のやることを再確認していた。

 

(今日は早めに仕掛ける。最後の瞬発力勝負になったら間違いなく負ける……だから、ヴァーディとの差を広げておく!)

 

 覚悟を決めた表情でクロノジェネシスはゲートが開く時を待っていた。

 静寂の中山レース場。静かな空気を破るように、ゲートが開く音が響いた。

 それと同時にウマ娘達が一斉に駆け出す。

 

冬のグランプリレース──有マ記念が幕を開けた

 

 

 出遅れたのはモズベッロとヴァーディクトデイ。それ以外は綺麗なスタートを切る。最内枠のバビットがハナを取ろうと飛び出してきた。

 

《始まりました有マ記念!さぁ冬のグランプリを制するのはどのウマ娘か?モズベッロとヴァーディクトデイが出遅れました、しかしヴァーディクトデイは予定調和でしょうそのまま最後方に控える形を取ります。最内枠を活かしてバビットが内からグングン上がってくる!やはりこの有マでも逃げを選択しました1番のバビット!》

《ラジオNIKKEI賞とセントライト記念も逃げ切り勝ちを収めました。ペースメーカーは彼女になるでしょう》

《どうやらキセキも後ろからスタートするようです!先頭バビット、それを追いかける15人のウマ娘達!しかしつられて前に行こうというウマ娘はいません、バビットの単独逃げの形。激しい先行争い、各ウマ娘達は自分のベストポジションにつきたいところです!》

 

 スタートから繰り広げられる先行争い。それを窺う後方待機のウマ娘達。それぞれが自らのベストポジションを探す。レースに勝つための絶好の位置取りを探していた。

 最初のコーナーを抜けて最初のスタンド前をウマ娘達が走る。中山レース場に拍手が沸き起こった。

 ハナを取って走るのはバビット。バビットから1バ身離れてオーソリティ、フィエールマンと続く。1番人気のクロノジェネシスは中団9番手に控えていた。

 ヴァーディクトデイは後方に固まっている3人のウマ娘のさらに1バ身後ろに控えて第1コーナーを回っていく。

 

《ポジション争いも落ち着きました。第1コーナーを越えて第2コーナーへと向かいます各ウマ娘。最初の1000mのタイムは、62秒2、62秒2というタイムで駆け抜けます。先頭バビットの単独逃げ。バビットから遅れること1バ身から2バ身、2番手につけているのは12番のオーソリティと13番フィエールマン。内にワールドプレミア、真ん中クレッシェンドラヴ、外カレンブーケドールが上がっていく!ラッキーライラックはクロノジェネシスの前を進む。クロノジェネシスは中団につけています》

《ヴァーディクトデイは変わらず最後方。相変らず機械のように動じません》

《第2コーナーを抜けて向こう正面。ワールドプレミアの後ろにペルシアンナイトにオセアグレイト。ラッキーライラックこの位置、クロノジェネシスはその後ろ!オークスウマ娘ラヴズオンリーユーもここにおります!》

 

 向こう正面に入るレース。クロノジェネシスは前の有力なウマ娘達を見ながら冷静にレースを展開していた。

 

(外の警戒があまりない。外から追い上げていく!)

 

 向こう正面半分を過ぎた頃。クロノジェネシスは少しずつ順位を押し上げ始める。周りのウマ娘は──つられなかった。

 徐々に順位を上げていくクロノジェネシス。外から進出を開始した。

 第3コーナーの手前。最後方のヴァーディクトデイは……()()()()()()。後方集団の一番後ろ、モズベッロから離れること2バ身の位置につけていた。

 

「……ッ」

 

 後方に控えていたウマ娘達は気が気でない。最後方に控えている、2馬身の差はあるはずなのに。ヴァーディクトデイが()()()()()()()()()()圧を感じ続けていた。

 その圧から逃げる為かそれともクロノジェネシスが押し上げていることに気づいたか。後方集団も前との差を詰めにかかった。

 後方集団が中団のウマ娘達に接近する。ヴァーディクトデイは……まだ動かない。

 残り600を切る。第4コーナーの手前。

 

「さて──行くか

 

 そんな呟きとともに、ヴァーディクトデイは進出を開始した。

 この時点で先頭との差は15バ身はあろうかというところ。第4コーナーに入ったタイミングでヴァーディクトデイはペースを上げ始めた。

 

 

 最後方からヴァーディクトデイが進出したタイミング。

 

(ッ!仕掛けるなら、今ッ!)

 

 クロノジェネシスも、ほぼ同じようなタイミングでスパートをかけた。

 第4コーナーの中間。まだ先頭を走るバビット。そのすぐ後ろにいるフィエールマン。クロノジェネシスは、すでにその位置まで順位を押し上げていた。

 早仕掛け。クロノジェネシスはこの後ヴァーディクトデイからの逃げ切りを図るために早めに仕掛けた。

 幸いにもクロノジェネシスは外につけている。多少外に膨らんだものの、進路妨害を取られるようなことはなかった。

 

《第4コーナーを回るウマ娘達!ここでクロノジェネシスが仕掛けたぁ!クロノジェネシスがスパートをかけた!先頭バビットに襲い掛かるグランプリ女王!グランプリ女王の足音が聞こえるぞバビット!》

《ここで春天連覇のフィエールマンも上がってきましたね!フィエールマンとクロノジェネシスが先頭に立とうとしています!》

《第4コーナーを抜ける!残り400を切ってここで先頭が変わった変わった!先頭クロノジェネシスクロノジェネシス!グランプリ女王が先頭に変わった!しかしすぐ横にはフィエールマンフィエールマン!春天連覇のフィエールマンがクロノジェネシスに並んでいる!ヴァーディクトデイはまだ後方!ヴァーディクトデイはまだ後方だ!先頭との差は10バ身はあるでしょうか?しかしその差を詰めに来ているヴァーディクトデイ!》

 

 最後の直線でクロノジェネシスとフィエールマンが並ぶ。後ろに控えていたウマ娘達も一斉にスパートをかけた。

 バ群が固まる。最後方に控えていたヴァーディクトデイは──大外をぶん回して駆け上がってきていた。

 

「ッヒ!?」

「き、来た……っ!」

「……成程。あれがクロノの言っていた」

 

 ヴァーディクトデイは他のウマ娘には目もくれない。()()()()()()()()()()()

 ただ一点だけを見据えるヴァーディクトデイ。そして彼女から発せられる圧に、他のウマ娘達は心臓を鷲掴みにされているような感覚に陥る。

 クロノジェネシスとて例外ではない。

 

「ッ!この圧……ッ!ヴァーディが上がってきてるッ!」

 

 クロノジェネシスは己の末脚を少しでも長く持続させる。

 早仕掛けが響いてかいつもより余裕がない。だけど、ある種確信めいたものがクロノジェネシスにはある。

 

(おそらくだけど、ヴァーディとの差は最後の直線に入った段階で10バ身はあった!それなら、逃げ切れるッ!)

 

 中山の急坂を上り、ゴールを目指す。

 

《先頭クロノジェネシス!クロノジェネシス先頭だ!フィエールマンも粘る粘る!春天二連覇のフィエールマンも粘る!外からサラキアも突っ込んでっ!?き、きたぁぁぁ!大外をぶん回してヴァーディクトデイが飛んできたぁぁぁ!速い速い!ただ1人だけ次元が違う末脚!ヴァーディクトデイがグランプリ女王に襲い掛かる!その差を5バ身!4バ身と徐々に縮まる!》

 

 そしてクロノジェネシスは、自らの考えが甘かったことを思い知らされる。

 

(想定以上に、速いっ!?)

 

 舐めたつもりはない、徹底的に調べ上げたはずだ。

 だが、ヴァーディクトデイのこのペースは、クロノジェネシスが想定していたものよりも速かった。そのことが焦りを生む。

 負けられない、負けるわけにはいかない。

 

(グランプリ女王として!ヴァーディの先輩として!わたしは……!)

「負け、ないんだからぁぁぁ!」

 

 叫び、気合を入れる。他のウマ娘達も自らを鼓舞するように叫んでいた──ヴァーディクトデイを除いては

 

「……」

 

 彼女からは感情というものが感じられない。まるで機械のような冷たさ。

 ただ冷酷に、無慈悲に。ウマ娘達を撃ち落とす。

 クロノジェネシスは直感していた。このままではまずいと。

 

(追い、つかれる……ッ!ヴァーディに、負けちゃうっ!)

 

 それはダメだ。ここで負けたら、ダメだ。そう思いつつも必死に脚を動かす。

 だが差は詰まっていく。坂を越えて、10バ身はあった差がすでに1バ身差まで迫っていた。

 終わった、残り100mで躱される。そう、思っていたが。

 

(っあれ?ここから、上がってこない?)

 

 今までだったらもう一段階加速していたであろう瞬間になっても、ヴァーディクトデイは加速しなかった。

 

《坂を越えて先頭はクロノジェネシス!フィエールマンもその首元まで迫っている!外からはサラキアとヴァーディクトデイ!しかしヴァーディクトデイがわずかに有利か!?ヴァーディクトデイが差を詰めて、詰めて……つ、詰まらない詰まらない!?ヴァーディクトデイ差を詰められない!ヴァーディクトデイこれ以上は加速しない!これは届かないヴァーディクトデイ!》

 

 戸惑うクロノジェネシスだが、これは勝負。そのまま先頭を維持し続け、ヴァーディクトデイとフィエールマン、そしてサラキアの猛追を躱してゴール板を駆け抜けた。

 

《クロノジェネシス!クロノジェネシスだ!有マ記念を制したのはクロノジェネシス!グランプリ女王が、この有マの舞台を制した!これで春秋グランプリ制覇だクロノジェネシス!これがグランプリ女王の貫録だ!2着はヴァーディクトデイ!3着はフィエールマン共にクビ差!漆黒の撃墜王は、グランプリ女王を撃ち落とせなかったぁぁぁ!》

 

 有マ記念を制したのは、クロノジェネシスだった。

 

 

 息を整えながらヴァーディクトデイを見るクロノジェネシス。

 

「ハァ……ハァ……ッ」

 

 あそこからもう一段階加速するはずだ。だけどそうはならなかった。

 ヴァーディクトデイが小さく呟いている。その呟きはクロノジェネシスにも聞こえた。

 

「……仕掛けが早かったか。仕掛けどころを、誤った」

 

 どうやらヴァーディは早めに仕掛けてしまったらしい。それゆえに最後の末脚が残らなかった、ということだろうか?

 真相は分からない。だが、ヴァーディクトデイにとっては初めての2500m。仕掛けどころを間違えた、という線が有力だろう。クロノジェネシスはそう結論づけた。

 クロノジェネシスはヴァーディクトデイに近寄る。

 

「……わたしの、勝ちだね。ヴァーディ」

 

 ヴァーディクトデイは──悔しそうな表情を隠さずに。でもクロノジェネシスを祝福するように。拍手をした。

 

「おめでとうございます、ジェネ先輩。ジェネ先輩は、やっぱ強いっすね。さすがは俺が一番尊敬している先輩です」

 

 その言葉に胸が高鳴るクロノジェネシスだが、本題は別にある。

 気を緩めずに、クロノジェネシスはヴァーディクトデイを見つめる。

 

「ヴァーディ、約束……覚えてるよね?」

 

 その言葉にヴァーディクトデイはまたも感情が抜け落ちた表情になるが。

 

「……勿論、覚えてますよ。大丈夫です、約束は守りますので」

 

 すぐに取り繕って、去っていった。

 ヴァーディクトデイの後姿を見つめるクロノジェネシス。そんなクロノジェネシスに、ラヴズオンリーユーが話しかける。

 

「クロノ。よろしいでしょうか?」

「ラヴズ」

 

 神妙な顔つきのラヴズオンリーユー。クロノジェネシスも気を引き締める。

 ラヴズオンリーユーはクロノジェネシスに対して──警告する。

 

「お気を付けくださいクロノ。おそらく、あなたが思っている以上に……()()()()()()()()()()()()()()

「あの方って……ヴァーディのこと?」

 

 頷くラヴズオンリーユー。

 どういうことだ?クロノジェネシスは首を傾げるが、それを無視してラヴズオンリーユーはクロノジェネシスに警告した。

 

「あの方は──愛に囚われている

「え?」

「詳しい話は、また後日に。ヴァーディクトデイさんとの話し合いが済んだ後にでも……わたくしも、知りたくなってきたので」

 

 踵を返すラヴズオンリーユー。

 クロノジェネシスは少しの不安を覚えるが、今は考えないようにした。

 これでヴァーディのことについて知ることができる。そう思いながら、クロノジェネシスはウィナーズサークルへと向かった。




やっぱりグランプリ適性ないのかもしれねぇ……。
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