さて、海藤さんに色々とぶちまけたわけですが。うん、案の定怒ってたよ。
ヤバかったね。思わずブルっちまったよ。ま、まぁ!結局は許してもらえたけどな!……あんま調子乗ってるとまた痛い目見るから止めとこ。
そして今から二者面談な訳だが。俺の今後についてだ。
「ヴァーディが話したことを踏まえて今後どうするかなんだけど……ひとまずは日経新春杯だね。ここはもう確定かな?」
「あ、走れるんだな俺」
そりゃあね。と答える海藤さん。PCを操作しながら現状を教えてくれる。自分の体調のことは分かってはいるけど。
「有マを走り終わった後だけど疲労は溜まってない。正確には少し溜まってはいるけど、レースまでには回復する程度だ。回避するほどでもない」
「そうだな。それは自分でも分かってる」
「だからひとまず日経新春杯。今年の始動戦はこれで決まりだね」
日経新春杯か。……どうしても2回目のアレがチラつくな。
確か欧州遠征を控えてた時だ。パドックで無事に帰ってこーい!だの今からでも遅くなーい!だの色々と言われていた。めっちゃ心配する声がたくさんだったな。今にして思うとなんでなんだろうな?あれ。
話がちょっとそれてしまったが、俺の始動戦は日経新春杯。これは確定らしい。
てことは、次にどのレースを走るか、だな。
「本来だったら次走は宝塚記念に向かう予定だったんだ」
「え!?なんで!?他は?大阪杯は!?」
「そりゃあ……コントレイルが出走するから」
いや、だったら尚更出走させてくれよ!?……って、思ったけど。
今までの行いを省みたらそりゃ避けようとするよね、はい。
「大阪杯はコントレイルが出走予定だ。ヴァーディはコントレイルを強く意識しているしなんなら今でもそうだけど、コントレイルを意識するあまり無茶をしがちだろう?だからあまりぶつけたくなかったんだ」
「で、ですよね~……」
顕著なのはやっぱり皐月賞だろう。皐月賞はライブができないぐらいに疲労が出てきた。そりゃ海藤さんも同じようなことにならないためにも出走を回避させようとするわな。
てことは、大阪杯は出走できないってことに「だけど」おん?
「そうだね……出走しようか。大阪杯」
……マジで!?
「な、なんで急に!」
「理由は大きく2つある」
指で2を作っている海藤さん。2つの理由?
「1つは、皐月賞後のヴァーディ。確かに疲労は凄かったけど、皐月賞後のヴァーディの実力は見違えるほどだった。今までの時計を上回るタイムを連発したし、目に見えて強くなってることが分かったからね」
「ほうほう」
「それに、ヴァーディがこうして自分のことを話してくれたんだ。その信頼に応えないとだからね」
「バ、バディ……!」
あんた良いトレーナーだよ!
「2つ目。リミッターの存在だね。正直、なにがトリガーになっているのか分からないけれど……コントレイルがカギになってるんじゃないか?って俺は睨んでる」
「……やっぱ皐月賞のことがあるからか?」
頷く海藤さん。確かにそうだよな。
「アーモンドアイとの勝負でも、クロノとの勝負でも2つ目のリミッターは外れなかった。なら、コントレイルならどうだろうか?俺はそんな風に思っている」
「現状一番あり得る手ではあるよな……けど、良いのか?」
「なにがだい?」
いや、だってよ。
リミッターが外れるってことは、皐月賞の時のようなことが起きるんだ。海藤さんとしてもそれは嫌じゃないだろうか?
「いや、皐月賞の時のようなことが起きるかもしれないから、コントレイルとの対決を回避させようとしたんだろう?じゃあ大阪杯も回避した方がいいんじゃねぇかなって思って」
「まぁ確かにね」
海藤さんはでも、と前置きして。
「それはヴァーディがコントレイル相手に張り切りすぎる原因が分からなかったからさ。無茶しすぎて大事になるかもしれない、そう考えたらあまりぶつけたくはないよ」
「それは今でも変わらんが」
「だけど、今は少しとはいえ原因が分かった。それにさっきも言ったけど、ヴァーディが俺を信頼して話してくれたんだ。なら、俺もヴァーディのことを信頼する。だから大阪杯に出走させる」
勿論体調と相談しながらだけどね、と念押しするように告げる海藤さん。
だけど……ぶっちゃけすげぇ嬉しい!
「よっしよっし!これでコントレイルと二度目の対戦か!燃えてきたぜぇぇぇぇ!」
「張り切りすぎて怪我しないようにね?元も子もないから」
「わ、分かってるよ!」
そうしないように細心の注意を払うよ!
「レース後の疲労に関しても、疲れが溜まらない子なんていないからね。それにヴァーディは疲労回復のために何時も頑張ってるし、効果も着実に出てきてる。これも理由になるのかな?」
「毎日頑張ってるからな!疲労回復に良い食事をしたり欠かさずストレッチをしたり!」
「願わくば大阪杯でリミッターが外れることを祈って……良いものなのかな?ま、まぁ成長するし良いことか」
何とも言えない表情の海藤さん。気持ちはすげぇ良く分かる。
そして俺の顔をジッと見る海藤さん。俺の顔になんかついてる?
「どうしたんだよ?バディ。そんなにじっと見つめて」
「いや……2つ目のリミッターが外れたら、ヴァーディはどんな感じになるんだろうなって思って」
「別に見た目が変わるとかそんなのはないからな?」
つーか1つ目のリミッターが外れた皐月賞でもなんも変わってねぇだろ。
ただ、どうもそういうわけじゃなさそうだ。
「いや……今以上に強くなるヴァーディがちょっと想像できなくてね。今でもかなりの強さだし」
「そうか?あんま実感湧かねぇけど」
なまじ全盛期を知っているからな。どうにも理想が高すぎて現実が追いつかん。
なお海藤さんは呆れ顔。なんでや!
「あのアーモンドアイを東京レース場過去最速の上がりで撃破。初挑戦の2500m、しかもこれまでの最長が2000mだったのにクロノの2着。これだけでも凄いと思うけど?」
あ、そうじゃん。そう考えるととんでもねぇことやってるわ俺。
「ちなみにヴァーディの理想はどれくらいなの?そのリミッターが外れたと仮定して」
リミッターが外れたとして……そうだなぁ。
「キングジョージをレースレコード+18バ身差で勝つぐらい?」
「盛り過ぎでしょ」
嘘だと思うだろ?本当のことなんだぜ、これ。達成したの前世だからなんの参考にもならないけど。こっちではどうなるか分からんし。
2つ目のリミッターが外れたらどうなる?という予想は一旦置いておこう。こっちでどうなるのかは未知数だからな。
「ま、それは良いにしてもだ。俺は君を全面的にバックアップするよ。トレーナーとしてね」
「本当に助かる。ありがとうバディ」
感謝しかない。結構、というかかなり自分勝手に振舞っていた気がするのにこうしてサポートしてくれるんだから。
そして当面の目標だ。
「今のヴァーディだけど……皐月賞前と同じで、頭打ちになっているね。これ以上の成長はあまり見込めない、って感じかな?」
「つまりは、これ以上強くなるにはリミッターを外すのが急務、ってことか……」
「そうなるね」
しっかし、頭打ちになったってことは身体は出来上がっているとは思うんだがなぁ。有マの時から割と頭打ちだったし、そこで覚醒できなかったのは本当に分からん。
「まずはリミッターを外すこと。もしリミッターが外れたなら、しばらくはレースをお休み。トレーニングは最低限に済ませる……やれることはこのぐらいかな?」
「だな。どこでリミッターが外れるか分からん以上、そうするしかねぇな」
早めに覚醒してくれると助かるんだが。ジャパンカップに間に合うように。
「そういえばさ、ヴァーディがジャパンカップに固執するのも同じ理由なのかい?」
唐突な海藤さんからの質問。あ~、確かにそうだったな。俺ジャパンカップ出走に執着してるわ……理由が理由だけにな。
これは明かせん。なんせ前世絡みだし。ただ合ってはいる。
「そんなとこだ」
「ふ~ん……ということは、なんとしてもジャパンカップには間に合わせたいね」
「……無理とは言わねぇんだな?」
当然、というような態度の海藤さん。何か珍しいな。
「リギルのディープインパクトがやれたんだ。だったらできない道理はないよ」
「……前は難色示してたのに?」
「それは誰のせいかな?」
「「……アッハッハ!」」
どちらが先ということもなく笑い合う。うん、なんかいいな!こういうの。
ということでまとめである。俺の今後のレースについて。
「始動戦は日経新春杯。その次に大阪杯だね。ここから先は状態を見てになるけど……秋の大目標に凱旋門賞からのジャパンカップローテ。これで行こう!」
「おう!目標達成のために、頑張ろうぜバディ!」
「勿論!全力で君をサポートするよ!」
あ、勿論他の子もね。とチーフトレーナーらしい一言。お互いに、ニッと笑う。
目標は決まった、そしたらトレーニング行こうとしたところを海藤さんに引き留められた。
「どうしたんだよ?まだ何かあるのか?」
「いや、ちょっと……ね」
何か言いたげな海藤さん。本当にどうしたんだ?思わず懐疑的な視線を向けてしまう。
しばらく待っていると、ようやく口を開いた。
「ヴァーディ。
「……は?」
俺が走る理由だと?……良く分からん。
俺が分からないって表情してたのを感じたんだろう。海藤さんが補足するように続ける。
「ウマ娘のみんなはさ、なにか目標があって走っていると思うんだ。強くなりたい、一番になりたい、ただ走るのが楽しい、周りに褒められたい……いろんな理由があると思う」
それは悪くないことだ、と言う海藤さん。そして。
「ヴァーディ。君は……
「そ、れ……は……」
分からない。考えたこともない。
あの幻影に追いつくことばかりで、その後のことなんて考えたこともない。というか、一生追いつけないだろうし、どうすればいいんだろう?
分からない。分からない。どうしたらいいのか……分からない。
困惑している俺をよそに、海藤さんは微笑みを浮かべて。
「
「……あ」
「いつかきっと──君が走る理由が見つかればいいね」
そう告げる海藤さんに。俺は──こくりと、頷いた。
あ、ローソンコラボのドゥラメンテアクスタは確保しました。