飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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あの馬とご対面。


皐月賞と運命の出会い

 

 

皐月賞

 

 

枠順番号馬名牡/牝人気

1
1コントレイル
1

1
2レクセランス10

2
3コルテジア14

2
4ヴァーディクトデイ
3

3
5サトノフラッグ
2

3
6ディープボンド18

4
7サリオス4

4
8ウインカーネリアン17

5
9ブラックホール13

5
10アメリカンシード16

6
11クリスタルブラック6

6
12マイラプソディ8

7
13ダーリントンホール7

7
14キメラヴェリテ11

7
15ラインベック15

8
16ガロアクリーク9

8
17ヴェルトライゼンテ5

8
18ビターエンダー12

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、やってきたわけだが皐月賞。なんというか、これまでの馬場と比べてちょっと違った感じがする。天気は晴れてるのにな。でもこっちの方が走りやすさを感じる。

 

 

「ヴァーディ、今日の馬場はいつもと比べて少し重い。お前は重馬場を苦にしないだろうけど、それでもいつもより慎重に行くぞ」

 

 

 あ、いつもより慎重にね。了解了解。にしても、知っているヤツもいれば知らないヤツもいる。にしても、どれがコントレイルってヤツなんだ?見たことないから知らんのよね。

 

 

「おっと、どうしたヴァーディ?辺りを見渡して。何かあったのか?」

 

 

 滝村さんの心配するような声が聞こえたのと同時、コントレイルらしき馬を見つけた。らしき、なのはあくまで俺がコントレイルの姿を見たことがないから確証がないため。でも、本能で分かる──俺の視線の先にいる馬、電話の受話器のような白い部分がある。馬体は俺とそこまで変わらない。けれど、身体の大きさ以上に感じるこう、強いっていうオーラ。それがあった。

 

 

(あれがコントレイルか。うん、確かに強そうだ)

 

 

 でも俺だって負けてない……と思う。

 

 

「どうした?何かをジッと見てるけど、って。コントレイルか。確かこの皐月賞の最有力候補だな。だけど、お前も負けてないよヴァーディ」

 

 

「ヒヒン(当り前よ)」

 

 

 そうしているうちに枠入りが始まった。俺は偶数番だから結構後の方。とにもかくにも、頑張りますかね!

 

 

 

 

《各馬ゲートインが完了しました。第80回皐月賞、まもなくスタートとなります。皐月賞の1番人気はコントレイル!ディープインパクト産駒、現在無敗の3連勝!無敗で皐月賞を制し、偉大な父と同じ蹄跡を刻むことができるか?2番人気はサトノフラッグ!弥生賞ディープインパクト記念の勝ち馬。中山2000mの実績が評価された形。3番人気はヴァーディクトデイ!父はディープインパクトの全兄として知られるブラックタイド。現在無傷の4連勝!その勢いのまま皐月賞を制することができるか?》

 

 

 

 

 

 俺もゲートに入って開く時を待つ。この時間は神経を研ぎ澄ます──。ゲートが開くその瞬間を、絶対に見逃さないように。

 風の音が聞こえる。人がいないのも原因だろうが、誰も彼もがゲートが開くその瞬間を見逃さないようにしているのが分かる。そして、静寂を切り裂くように──ゲートが開く音が鳴った。

 

 

(ッ今だな!)

 

 

 音が聞こえたのと同時、俺は走り出す。絶好のスタートを切ることができたっ、けど!

 

 

(?前に誰もいねぇな?野路菊以来か?)

 

 

 とりあえず、滝村さんの指示を待とう。このまま突っ走るか、それとも控えるか。滝村さんの指示は、っと。どうやら控える判断をするらしい。手綱を引いている。なら、少し抑え気味に走るか。

 

 

 

 

《さぁスタートしました!皐月賞がいよいよ始まりました!無人の中山を18頭が一斉に駆け出します!各馬綺麗なスタート、絶好のスタートを切ったのは4番のヴァーディクトデイ。横一線並びましたがヴァーディクトデイがわずかに抜け出しています、ここから先行争いはどうなるか?ホームストレッチを18頭が駆け抜けます。ヴァーディクトデイは逃げない、そのまま少し抑え気味に走って好位置をキープしようとしている。ハナを切るのは8番のウインカーネリアン、逃げ宣言をしていたキメラヴェリテも逃げるか?7番のサリオスも先行集団につけようとしている。朝日杯を制したサリオスも先行の位置》

 

 

《コントレイルは少し行き脚がついていませんね。アクシデントはなさそうですが》

 

 

《そうですね。1番のコントレイルは中団馬群の後ろの位置、12番手辺りにつけています。開幕のスタートに少し失敗したか?2番人気サトノフラッグはコントレイルの前につけている。まもなく第1コーナーに入ります。先頭はここでハナを奪った14番キメラヴェリテ。3馬身4馬身と差をつけようとしている。2番手はウインカーネリアン、3番手は内にディープボンドその外にヴァーディクトデイ、大外には18番のビターエンダーがつけています》

 

 

 

 

 よしよし、中々良い位置につけてるんじゃないか?視界も開けているし、ベストポジションな気がする。

 

 

(このまま、いつも通りに走りますか!)

 

 

 いつものペースをキープして走ろうとするが、そうすると他の馬よりも前に出てしまう。となると、抑えた方が良いのだろう。この位置をキープするために尽力するか。

 第2コーナーを抜けてバックストレッチと呼ばれる場所。俺の位置は特に変わらない。

 

 

 

 

《馬群は縦に長くなりました。各馬バックストレッチに入ります。7番手の位置にサリオス。7番サリオスはこの位置だ。先頭までは10馬身は離れているでしょうか?外に15番ラインベック、ヴェルトライゼンテ、サトノフラッグと続きます》

 

 

《サトノフラッグから先頭との差は13か14馬身程ですね》

 

 

《まもなく先頭は最初の1000mを通過します。1000mの通過タイムは59秒8。59秒8で1000mを通過しました14番キメラヴェリテ!さぁサトノフラッグの後ろは3番コルテジア。16番ガロアクリーク、マイラプソディと続きます。1番のコントレイルはマイラプソディの後ろ。先頭は第3コーナーのカーブに入ろうとしています》

 

 

 

 

 そろそろ第3コーナーのカーブだ。さすがにまだ仕掛けないだろうがっ?あれ、手綱が緩んだ?ということは、ここらで進出を開始しろ、ということだろうか?

 

 

(ま、そういうことなら──行きますかね!)

 

 

 俺はスピードを上げる。すると、滝村さんの手綱が緩んだタイミングで他の馬もスピードを上げ始めていた。先頭を走る馬との差を徐々に詰めていく。3コーナーと4コーナーの中間に入るともう差は無くなってきて馬群が纏まってきた。

 このまま先頭を奪って逃げ切る。そう思っていた矢先の出来事。

 

 

(ッ!?な、なんだ!?外から、強烈な気配がっ!)

 

 

 良く分からない。その気配の正体が何かは分かるはずもない。だけど、俺にはなんとなく誰の気配かが分かっていた。

 

 

(多分だけど、コントレイルのヤツだ!間違いねぇっ!)

 

 

 アイツ、前の方にいなかったけど後ろの方にいたのか!とにもかくにも、早めにハナを奪って逃げるか!そう思っても。

 

 

(クッソ!前が邪魔だ!)

 

 

 先頭を走っていた馬が、よりにもよって俺の取りたい進路に落ちてきやがった!外に避けようにも他の馬がいるし、下手すりゃ反則取られるかもしれねぇ!内を無理矢理こじ開けるか?でも、前が内にヨレてきたらそれこそ地獄だぞ!?

 

 

 

 

《3コーナーと4コーナーの中ほど、残り600を通過しました。逃げるキメラヴェリテ差は無くなってきた!2番手ウインカーネリアン、ビターエンダーは外2、3番手!4番手は横一線で最内にヴァーディクトデイ!その外ディープボンド、マイラプソディ、サトノフラッグがつけているが外から1番のコントレイル!外から1番のコントレイルが上がってきた!》

 

 

《馬群の外から上がってきましたね!ヴァーディクトデイは逆に馬群に飲まれそうになっている。これはちょっと厳しいか?》

 

 

《外からコントレイル上がってきた!最後の直線に入ります!コントレイルがサトノフラッグとともに上がってきている!内から7番のサリオスも上がってきている!内から2頭目サリオス!ウインカーネリアンも頑張っている!4番ヴァーディクトデイは抜け出すのに手間取っている!これは厳しいかヴァーディクトデイ!》

 

 

 

 

 やっべぇ!?どうする?どうするよ滝村さん!?

 

 

「──ッ!外が開いた!今だ!」

 

 

 ん?あ、本当だ!外が開いてる!よし、これなら……いけるっ!

 

 

(負けるかぁぁぁぁ!)

 

 

 200の棒が見えて、前との差を詰める!瞬発力には自信があるけどっ。どういうわけか、思うように加速が得られない。って、よく考えたらここ!

 

 

(坂じゃねぇか!?くっそ、でも……負けたくねぇ!世界一の競走馬になるって目標立てたのに、ここで負けてられるかよ!)

 

 

 なんとしてでも加速してやる!

 

 

「ッ!?ヴァーディ!?」

 

 

 滝村さん、このまま突っ走るぞ!

 

 

 

 

《残り200を切りました!最後の坂に入ります!1番のコントレイルと7番のサリオスが上がってきている!この2頭の一騎打ちか!?いや、違う!4番のヴァーディクトデイだ!4番のヴァーディクトデイがようやく上がってきた!4番のヴァーディクトデイが坂で加速をつける!坂をものともしないヴァーディクトデイ!コントレイルとサリオス、そしてヴァーディクトデイ3頭がもつれ込む!》

 

 

 

 

 俺なりに精一杯頑張る。ラウダシオンから聞いてたサリオスってヤツと、コントレイルの姿を捉えている。ただどういうわけか、サリオスに追いつくヴィジョンは見えても……コントレイルに勝つヴィジョンが見えなかった。

 

 

(この位置じゃ、追いつけねぇ……っ!)

 

 

 それでもと。必死に走って──なんとか前を走る2頭に追いつく。だが、そこが俺の限界だった。サリオスには並んだが、コントレイルには……届かなかった。

 

 

 

 

《3頭がもつれ込む!しかしコントレイル!コントレイルが突き抜けた!コントレイルがサリオスとヴァーディクトデイよりも半馬身前に出た!コントレイルがゴォォォォォォォォルイン!皐月賞を制したのはコントレイルだ!前年のサートゥルナーリアに続いて無敗での皐月賞制覇!そして、親子2代で無敗の皐月賞制覇を成し遂げましたコントレイル!2着と3着は接戦!わずかにヴァーディクトデイ有利か!?》

 

 

 

 

 ゴールしてから、察した。

 

 

(あ~……負け、たか)

 

 

『クソッ!クソッ!負けたっ!俺が、俺が一番速いはずなのにッ!』

 

 

 栗毛の馬、サリオスのそんな声を聞きながら。俺は能天気にもそんなことを思っていた。

 どういうわけか俺はあまり悔しさを感じていない。心がズキズキしているけど、まぁ、受け入れてるんじゃないか?ってぐらい。

 

 

(でも、この気持ちはなんだ?すっげぇ気持ちわりぃ)

 

 

 何かに対する申し訳なさ。罪悪感の気持ちがヤバい。本当は、受け入れられていないんじゃないか?そういう風に思えてきた。だけど、その正体は判明しなかった。

 そんな中今日のレースを勝ったコントレイルが、何故か俺の前に来た。

 

 

『なんだ?負けた俺でも笑いに来たか?』

 

 

『そういうわけじゃないよ』

 

 

 コントレイルは、ただ不思議そうにしていた。

 

 

『君は、負けてもあまり悔しそうじゃないね。なんで?』

 

 

『あ~……分かんね。割り切ってるから?』

 

 

『ふ~ん。変な子だね』

 

 

 喧嘩でも売りに来たのかコイツは?

 

 

『僕が負かしてきた相手はみんな悔しがってた。君が負かしてきた相手もそうだと思う。それこそ、()()()()()()()()()()

 

 

『何が言いたい?』

 

 

『ん~、だから不思議に思ってるんだ。君は、そんな子達とは違うみたいだから。なんていうんだろう、一生懸命さが足りない?』

 

 

 やっぱり喧嘩売りに来ただろコイツ。

 

 

《──結果が出ました!2着入線はヴァーディクトデイ!3着入線はサリオスです!無敗で皐月賞を制したコントレイル、日本ダービーに向けて期待が高まります!》

 

 

 コントレイルは立ち去っていく。その姿を、俺は呆然と見ていることしかできなかった。

 

 

「……行こうか、ヴァーディ」

 

 

 滝村さんは負けたからか意気消沈している。慰めてやりたいけど、俺の心に残るのはコントレイルの言葉。

 

 

『一生懸命さが足りない?』

 

 

 その言葉とアイツの走りが、俺の脳からいつまでも離れなかった。




主な敗因 抜け出すのに手間取った。後は賢すぎるが故の弱点。
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