その日はスピカでミーティングだった。僕1人ではなく、みんなでのミーティング……というよりは、話し合い?多分そっちの方が近い気がする。
「……それじゃ!デアリングタクトは金鯱賞、グランアレグリアとコントレイルは大阪杯に向けて調整だ!」
「「「はいっ!」」」
タクトちゃんが年明け初戦に選んだのは金鯱賞。ジャパンカップの疲れも結構取れてきたから頑張って欲しい。
僕とアレグリアさんは大阪杯……僕はともかく、なんでアレグリアさんもなんだろう?
「なぁトレーナーよ、ちょっといいか?」
「おう、どうした?ゴールドシップ」
どうやら同じ疑問を抱いていたらしい。ゴルシさんがトレーナーさんに疑問を投げた。
「コントレイルが大阪杯に向かうのは分かる。すげー良く分かる。だけどよ……なんでアレグリアも大阪杯に向かうの?」
うん、この場にいる全員が頷いている。そりゃアレグリアさん距離が合わないからってオークスも秋華賞も出走しなかったし、当然の疑問だよね。
気まずそうに頬を掻くトレーナーさんとは対称的に、アレグリアさんは不敵に笑っている。なんで笑ってるんだろう……?
「フッフッフ……ボク、気づいちゃったんだよね」
「何をですか?アレグリア氏」
全員が気になるであろうアレグリアさんの言葉。ちょっと期待しつつ待っていると、アレグリアさんは得意げに語り始めた。
「1800mはマイルでしょ?」
「まぁ……中距離に近いマイルですね」
「大阪杯は2000mでしょ?」
「そうですね。中距離ですね」
「でも、誤差は200mしかない!つまりっ!」
ドドン!という効果音がつきそうなぐらい大袈裟に手を広げて、アレグリアさんは満面の笑顔で言い放った。
「大阪杯は実質マイル戦!つまりボクの得意距離!」
「「「……」」」
「……察してやれ、お前ら」
満面の笑顔のアレグリアさん。それとは正反対の冷え切った空気。頭を痛そうに抱えているトレーナーさん。うん、控えめに言って酷い。
まさか本気で言ってるってわけはないだろうけど……大丈夫なんだろうか?
「大丈夫ですの?アレグリアさん」
「真実を教えてあげた方が……」
「あんなキラッキラの目をしたアレグリアに言えるの?スぺちゃん」
「少なくとも僕には無理ですな。親友、教えてあげなよ」
「さすがのゴルシちゃんもこれには参るぜ。マイルだけに「フンっ!」げふぅ!?ま、マックちゃん肘鉄は無しだろ……」
「嘘でしょ……」
スピカのみなさんもアレグリアさんの心配をしている。タクトちゃんも苦笑い気味だ。
そんな雰囲気を少し察したのだろう。アレグリアさんは慌て始める。
「さ、さすがに冗談だよ!」
あ、なんだ。やっぱり冗談「でも200mの延長ぐらいならいける!……気がする!」う、う~ん……どうなんだろう?そこはさすがに分からないけど。
でも、どうしてこんなに大阪杯にこだわるんだろう?ちょっと考えてみて、1つの可能性に思い当たった。
(そういえばアレグリアさんって……)
中距離を制したら三階級制覇じゃないだろうか?
スプリンターズステークスを勝って、マイルチャンピオンシップも勝った。ここで大阪杯も勝てば、短距離・マイル・中距離の3つの区分を制したことになる。
もしかして、アレグリアさんはその偉業に挑戦しようと?
(だとしても、負けられない)
たとえ偉業がかかっていても勝負は勝負。大阪杯は僕が勝たせて「そういえばアレグリアちゃんはどうして大阪杯に?今まで中距離は出なかったのに」あ、キタさんがアレグリアさんに質問してる。
キタさんの質問にアレグリアさんは得意げな笑顔。よくぞ聞いてくれました!って顔してる。そんなに嬉しいことがあるのだろうか。そうなるとちょっと気になってくるよね。アレグリアさんが急に中距離に出走したいって言った理由。
ちょっとドキドキしながら言葉を待つ。嬉しそうな声色で、アレグリアさんは教えてくれた。
「なんとね!次の大阪杯は……
その言葉が聞こえた瞬間、僕の心が歓喜で満たされた。
嘘?本当にヴァーディ君が出走するの?大阪杯に?僕が出走するレースに……ヴァーディ君が出走するの?
真偽のほどは分からない。本当に、ヴァーディ君が出走するかなんて未確定なのに……僕の心は。
(来てくれたんだねぇ……ヴァーディくぅん♥)
喜びで満たされる。皐月賞以来となる対決に、僕の心は否応なしに踊る。
周りのみんなは懐疑的。そりゃ出走はまだ分からないし、ヴァーディ君はこの前日経新春杯が終わったばかり。出走してくるかどうかなんて分からない。
だけどアレグリアさんは自信ありげ。余程信用できるソースがあるんだと思う。
「いや……どこソースよ?アレグリア」
「そうですよ。ヴァーディ氏はこの前日経新春杯を終えたばかり、次走はまだ出ていないはずです。なのにどうして大阪杯に出走してくると分かるのですか?」
ゴルシさんとジャスタさんが代表して質問する。さて、アレグリアさんはどこから情報を仕入れたんだろう?
アレグリアさんは変わらず。自信ありげな態度で答えた。
「
情報源はヴァーディ君と同じチームのクロノさんらしい。まぁ、大体想像はついていたけど。
だけど、これで一気に信憑性が増した。
クロノさんはヴァーディと同じチーム、どのレースに出走するかは本人から教えてもらえるだろう。……あんまり気分は良くならないけど、あの2人は仲が良いし。
「クロノは嘘を吐かないし、この情報は間違いない!それに……ほら!もう情報が出回ってる!」
ウマホを操作してネット記事を見せてくるアレグリアさん。そこには──【ヴァーディクトデイの次走は大阪杯!】との見出しで、ヴァーディ君が大阪杯に出走する記事が書かれていた。
……フフ、フフフ!本当だ、本当だ本当だ本当だ!
(大阪杯に、ヴァーディ君が来る……!)
楽しみだ、楽しみだなぁ!ヴァーディ君はあの頃よりもずっとずっと強くなってる。そんなのは、アイさんを破った秋天を見れば一目瞭然だ。
「大阪杯にヴァーディクトデイか……こりゃ、厄介な相手が来たな」
「そうだね。ヴァーディの末脚は、ハッキリ言って歴代最速といっても過言じゃないからね」
テイオーさんの言葉に頷きながら、トレーナーさんはノートPCを立ち上げる。流した映像は、ヴァーディ君の秋天だ。
「ラスト3ハロンは加速し続けている。そしてラスト1ハロン、200mのタイムは──驚異の10秒フラットだ」
「600が11.4……400が10.3、200で10秒フラットの合計31秒7。とんでもないですわね」
「その内10秒台切りそうですね」
「ヴァーディちゃん凄いです!」
そう、そうだよキタさん。ヴァーディ君は凄いんだ。
「ヴァーディクトデイ最大の武器はこの末脚だ。最終直線で10バ身差つけられなかったらほぼ詰みと思え」
「これでいて、レースセンスも抜群なのでしょう?とんでもないですわね……」
「内、外、空いている方から関係なくぶっ飛んでくる。マークしていても振り切られる。こりゃ凄いね」
しかもヴァーディ君はメンタル面も凄い。併せても動じないし、慌てるということもない。まさに全てが揃っているようなウマ娘だ。
だからこそ、僕はそんなヴァーディ君を!
「フフ、フフフ……!待っててね、ヴァーディくぅん……!」
「ヴァーディィィィ!キミに会うために大阪杯に行くよー!頑張るからね~!ボクの勇姿を焼きつけてね~!」
「いや、ヴァーディさんも出走するんじゃ……」
「諦めなさいスぺちゃん。もう言葉が届いてないわ」
あぁ、楽しみだなぁ!皐月賞は不完全燃焼だったから、大阪杯は楽しみだなぁ!ヴァーディ君をぐちゃぐちゃにできるかなぁ!?
「アハハハ!待っててねヴァーディ君。最高に、熱い勝負にしようね……♥」
「よ~し、ヴァーディをメロメロにしてみせる!頑張るぞ、ボク!おー!」
アレグリアさんと一緒に、気合を入れる。
「この2人を相手どらなきゃいけないなんてヴァーディが気の毒でならないぜ」
「親友、それ強さ的な意味じゃないよね?絶対強さ的な意味じゃないよね?」
「何故こうまで重い感情をぶつけられているのでしょうか?ヴァーディクトデイさんは」
「さ、さぁ……?コンちゃんヴァーディが絡まなければ普通なんですけど……」
「ヴァーディちゃん、大丈夫かな?」
「信じるしかないよキタちゃん。というか、味方よりも敵を応援したくなるってなんなんだろうね?」
「あ、アハハ……」
楽しみだなぁ、大阪杯。
う~ん青春ですね()。