飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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今期は本当に見るアニメが多い。


大阪杯後の陣営

 大阪杯が終わって数日。スピカの部室はなんとも言えない空気に包まれていた。その理由は、大阪杯で目の当たりにしたヴァーディクトデイの末脚。

 改めてデータを参照しながら、スピカのトレーナーは溜息を吐く。

 

「とんでもねぇ末脚だ。上がり3ハロンのタイムは出走ウマ娘中最速の34秒7……上がり2位のモズベッロに2秒近い差をつけてやがる」

「阪神の、あのバ場でこの末脚。とんでもないですわね」

「それだけじゃありませんよマックイーン氏。こちら、タイムの推移です」

 

 ジャスタウェイが一枚の紙を見せる。スピカのメンバーはその紙に目を通し、ジャスタウェイは驚きを隠さずに言う。

 

「ヴァーディ氏のラスト3ハロンは、()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。特にラスト1ハロンのタイムは──11秒台。雨の阪神でこのタイムは驚異的という他ないでしょう」

「じゅ、11秒台!?」

「別に他が遅いわけじゃないのに、最後の1ハロンでそんだけ伸びるのかよ!?」

 

 驚きを隠せないスピカのメンバー。それは沖野も同じ気持ちだった。

 今回の大阪杯は、雨の阪神ということを考えれば早めのペースで進んでいた。いくら最後方に控えていたとはいえ、この伸びを披露できるとは驚く他ない。

 全員がヴァーディクトデイの末脚を凄い凄いといっている中、コントレイルはというと──浮かない表情をしていた。

 

「あれ?コンちゃんどうしたの?」

 

 それを心配したデアリングタクトがコントレイルに駆け寄るが、当のコントレイルは反応なし。上の空である。

 ヴァーディクトデイが話題に上がっているものだからまたテンション上がってるんだろうなぁと思っていたデアリングタクトだが、これには驚きを隠せない。

 そしてコントレイルはというと……大阪杯のことを思い出していた。

 

(ヴァーディ君の末脚……凄かった。重バ場でも問題なく飛んでいて、本当に凄い走りだった)

 

 そう感じていたコントレイル。もっとも、彼女にとって重要な点は他にあった。

 コントレイルが気になっていたのは──ヴァーディクトデイの視線の先である

 

(僕なんて、見てもいなかった)

 

 ヴァーディクトデイはただひたすらに前だけを見ていた。コントレイル達のことなど眼中になく、ただその先だけを見ていた……そんな風にコントレイルは感じたのである。

 

(別にそれが嫌な訳じゃない。むしろ闘志むき出しの表情とセットで見ていたいし高画質版が欲しいし欲を言うなら正面からのアングルが欲しいけどそれでもやっぱり……嫌だなぁ)

「……なんか表情に欲が出てきたねコンちゃん」

 

 デアリングタクトがそうツッコむが、コントレイルは聞こえていないのか考え込む。それはヴァーディクトデイのことである。

 

(ヴァーディ君には僕を見ていて欲しい、僕だけを見て欲しい。あの真っ直ぐな視線と闘志むき出しの表情を僕に向けて欲しい)

 

 大分欲望が駄々洩れなコントレイルである。それを察してか、デアリングタクトは微妙な表情を浮かべていた。

 

「……多分ヴァーディのこと考えてるんだろうけど、そろそろ戻ってきてねコンちゃん」

 

 コントレイルの身体を揺さぶる。それでようやくコントレイルは我に返った。

 

「あれ?タクトちゃん。どうかしたの?」

 

 キョトンとした表情をするコントレイル。いつもの彼女だ。

 深い、深い溜息を吐いてデアリングタクトはコントレイルの肩に手を置く。

 

「……別になんでもないよ」

「?」

 

 曖昧な表情で濁すデアリングタクト。コントレイルは不思議な表情を浮かべるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 大阪杯が終わって数日。さすがにまだまだ疲労は取れない。

 1つ伸びでもするか。

 

「にしても……ついに外れたか。2つ目のリミッター」

 

 大阪杯と言えばそう、俺の2つ目のリミッターが外れたのである。つまるところ、これで前世の力はほぼ出せるってことになる……はずだ。

 いかんせん、このリミッター自身俺やナサニエルさんが定義したもの。これが外れたところで本当に全盛期の力を出せるかどうかはまだ未知の領域だな。トレーニングできんし。この辺はトレーニングを再開してからのお楽しみってやつだな。

 

 

 そして今現在はというと。海藤さんとの作戦会議である。

 

「身体の疲労はどうだい?ヴァーディ」

「ん~……皐月賞よりは若干マシ、な気がする」

 

 これは今までのトレーニングの成果が出ているのかもしれない。皐月賞の時よりは幾分かマシに感じる……多分。

 

「ひとまず疲労回復のトレーニングや食事メニューに気を配ろう。今のヴァーディがやるべきことは、一刻も早く疲労を取り除くこと。そのために最善を尽くそう!」

「おうよバディ。ちなみに……俺の次走って決まってたりするのか?」

「早速レースの話かい?」

 

 呆れたような海藤さんの視線……い、良いだろ別に!気になるんだからさ!

 苦笑いを浮かべる海藤さん。ファイルから紙を取り出して俺に渡してきた。あ、考えてあったのか。

 紙に目を通すと、今後のプランが事細かに書いてあった。

 

「まず優先は疲労の回復に努めること。で、前回の皐月賞は大体2ヶ月から3ヶ月くらいだったから……宝塚が結構ギリギリな線だね」

「宝塚だと、ジェネ先輩との対戦か」

 

 後はレイパパレとか。ただ海藤さんはあまりお勧めはしたくなさそうだ。どうしてだろ?

 

「宝塚記念からフォワ賞、凱旋門賞のローテも考えたんだけど……」

「なんか別のローテでも思いついたのか?」

 

 頷く海藤さん。どうやら別のローテを考えついたらしい。

 どんなローテか?期待しながら待っていると……ちょっと予想していなかったローテを言われた。

 

アイリッシュチャンピオンステークスからの凱旋門賞ローテ……ヴァーディは中距離路線だし、強敵が集う愛チャンの方が経験になるかなと思って」

「レース場に慣れるって意味ではフォワ賞じゃねぇか?なんで愛チャン?」

 

 少なくとも前世でも走ったことのないレース。それによく日本のウマ娘達が使うフォワ賞からの凱旋門賞ローテからは外れた内容。なんでこのローテを?

 

「ヴァーディは阪神の重バ場であの勝ちっぷりを見せた。末脚もほとんど衰えていない。なら、きっとフランスのロンシャンでも問題なく発揮できると思ったんだ」

「でも向こうの重バ場やっばいぜ?日本のウマ娘がほとんど沈んでいくようなとこだし」

「天気に関してはもう未来予知でも出来なきゃどうしようもないからね。ただ俺としては、レース場に慣れるよりも強敵との経験を糧にしてほしいと思って」

 

 後はまぁ、と照れくさそうに頬を掻く海藤さん。どしたよ?

 

「見てみたいんだ。ヴァーディの末脚は世界の強敵相手でも通用するってとこを」

「……ほ~ん?」

 

 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

 

「しょ、正直俺の願望もちょっと入ってるけど……どっちにする?ヴァーディ」

 

 話題を逸らすように声を上げる海藤さん。それにしても2つのローテか。

 ……考える余地はあまりなかったな。

 

「決めたよバディ。俺は──愛チャンからの凱旋門賞を目指す。バディの担当ウマ娘が世界に通用するってとこを……見せてやるよ」

 

 ニヒルに笑って海藤さんに宣言する俺。

 フォワ賞からの凱旋門賞ローテもまぁ悪くない。だけど俺としては、未知の領域に挑戦してみたくなった。前世でも出走したことのないレース、果たしてどうなるのか……それが気になった。

 海藤さんはというと心なしか嬉しそうな表情。

 

「そっか!じゃあそれで行こうか。ただこのまま愛チャンに直行ローテで行くかどうかは……状態を見てだね」

「んだな。疲労回復を頑張らねば」

 

 これで俺の方針は決まった。アイリッシュチャンピオンステークスからの凱旋門賞のローテで行く。前世とは違った道だった。

 

 

 方針も決まったところで、海藤さんは改めて聞いてきた。

 

「ところでさ、ヴァーディの言うリミッターは全部外れたわけだけど……やっぱり目的は「コントレイルに決まってんだろ」や、やっぱりそうだよね」

 

 当たり前だろうが。

 

「そもそもリミッターを外したいっていうのも、全力を取り戻してコントレイルと戦いたいって目的があるからな。今までは優先順位の問題でリミッターを外すことを優先していたが……こっからはコントレイルが優先だ」

「そこまで意識するなんてすごいね」

 

 まぁな。褒められているかは分からんが。

 

「それじゃ、宝塚にもなんとか出走できるように頑張ろうか。コントレイルも出走予定らしいし」

「そうなのか?」

 

 確か前世ではいなかったはずだ。理由は確か……脚の状態が良くなかったからとか。

 海藤さんはネットのニュース記事を見ながら教えてくれる。というか、俺も見たことがあるヤツだ。

 

「今のところは出走濃厚だね。彼女が出走するとなると、ヴァーディも気合が入るだろう?」

「当然だろ」

「……ま、そういうわけだから。ひとまずは宝塚目指して頑張ろうか」

「ただ、無理はしないこと……だろ?バディがダメだと判断したら遠慮なくダメだといってくれ」

 

 勿論、と答える海藤さん。よしよし、意思確認大事。

 

 

 その後は何事もなく終了。寮に戻って寛ぐ……が。

 

「あれ?エネさんからLANEが来てる」

 

 ウマホを確認するとエネさんからLANEが来ていた。え~っと、内容は……は?

 

【今度日本のトレセン学園で春のファン大感謝祭があるみたいですね】

 

 というメッセ。それはまだいい。問題は次のメッセだ。

 

【実はバティが興味を持ちまして。なので今度のファン大感謝祭にバティとベルと一緒にお邪魔する予定です】

 

 ……マジ?エネさんはまぁいいとして、バティとベルがくんの?ガチで言ってる?

 

「……不安しかねぇ」

 

 ベルはまだいい。基本的に大人しいから問題を起こそうとはしないはずだ。問題は、もう1人の方である。

 バティはま~ワガママだ。尚且つ高慢。それでいて実力もちゃんとあるんだから質が悪い。さすがに相手を貶めるような発言はしないとはいえ、あのワガママ姫が来るとなると……なんか起きそうな気配がプンプンするんだが。興味を持っているというのが尚更怖い。

 今から不安になる。だが、こないでくれとは勿論言えなくて。

 

「来るのを楽しみにしてますね、と」

 

 無難な返事をするしかなかった。さ~て、春のファン大感謝祭どうなるかな~。




春のファン大感謝祭に悪童のアイツが参戦。
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