日本の空港。現在空港のロビーはざわめき立っていた。
そのざわめきの発生源は1つ。SP風の出で立ちをしたウマ娘達、使用人の格好をした人達がいる場所。彼らの中心にいる──3人のウマ娘。
1人は日本でも有名なウマ娘。凱旋門賞を二連覇し、KGVI&QESを3勝したウマ娘エネイブル。だが彼女の側にいる2人のウマ娘には見覚えがなかった。
1人は鹿毛の髪をショートのウルフカットにしたウマ娘。見た感じ、生意気そうな印象を抱く。不敵な顔つきだった。
もう1人は黒鹿毛の髪をストレートロングにしたウマ娘。こちらは大人しそうな印象を抱かせる。
エネイブルは2人のウマ娘に注意するように語りかけていた。
「『良いですか?バティ、ベル。私は私用で付いて行くことができません』」
「「『はい』」」
「『トレセン学園のファン大感謝祭に行くのは構いません。で・す・が!くれぐれも!問題を起こさないようにお願いします!特にバティ、あなたですよ?』」
エネイブルはバティと呼ばれたウマ娘に対して厳重に注意していた。
それを受けてバティ──バティスタは笑顔で答える。
「『ふっふ~ん!大丈夫ですよエネイブルさん!わたしちゃんを誰だと思っているんですか?』」
「……『あなただからこそ心配しているのですが。バティのお目付け、頼みましたよ?ベル』」
チラリとベルと呼ばれたウマ娘に視線を向けるエネイブル。
ベル──ベルフラムは気だるげに答えた。
「『ベルは不幸。こんなバカ姉のせいでトラブルが確定している』」
「『バカ?違うな、わたしちゃんは天才だ!』」
「……『爺や、しっかりと2人を見張っておくように』」
「『かしこまりました、エネイブルお嬢様』」
恭しくお辞儀をする爺やと呼ばれた初老の男性。エネイブルは頭を痛そうに抱えていた。
(あぁ……あなた様にお会いしたいです、ヴァーディ様)
今後の気苦労を考えながら、この日本にいるヴァーディクトデイに思いを馳せるエネイブル。さっさと私用を終わらせて自分もトレセン学園の感謝祭に行こう。そう考えるエネイブルだった。
宿泊先のホテルでエネイブルと別れた後、バティスタは悪そうな笑みを浮かべていた。
「『ふっふっふ……感謝祭にはエネイブルさんはいない!つまり、好き放題できる!誰が大人しくするもんですか!』」
やはりというべきか、エネイブルの不安は的中する形となる。バティスタは良からぬことを考えていた。
そんなバティスタを妹であるベルフラムは諫める。
「『別にいないわけじゃない。エネイブルさんも途中で合流する。何かやらかしたらベルにも飛び火するから止めて』」
そう注意するがバティスタは聞く耳もたず。
「『安心してベル!わたしちゃんはさらにお祭りを盛り上げるだけだもんね!』」
「……『ベルは不幸。アホ姉のせいでベルまで怒られることが確定した』」
ベルフラムは感謝祭がろくでもないことになるだろうな、と考えながら眠りについた。
◇
そしてやってきた感謝祭の日。バティスタとベルフラムはトレセン学園に来ていた。無論、お目付け役の使用人+SP達と一緒に。
「『ふ~ん、中々じゃない。日本もやるようね』」
「『何を比べているのか分からないけど、色々やってるみたい。ヴァーディお姉さまはどこにいるのかな?』」
ワクワクした表情でヴァーディクトデイの所在を考えるベルフラム。
だが、ヴァーディクトデイという名前に反応してバティスタは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
「『は~!?わたしちゃんは反対なんですけど!アイツと会ったら何されるか分かんないし!』」
ヴァーディクトデイに対して碌な思い出がないのだろう。会うことに反対していた。
しかしベルは聞く耳もたず。
「『それはアホ姉がお姉さまを怒らせるからでしょ。ちゃんとしていれば、お姉さまは怒らないもの』」
「『そんなことない!アイツわたしちゃんにだけ風当たり強いし!ひーきだひーきだ!』」
ぎゃいぎゃい騒ぐ2人。
ファン感謝祭と言えど、2人は凄く目立つ。SP達が厳重に警戒しているし、なにより彼女達が話しているのは
「誰かな?あの子達。知り合い?」
「う~ん……さすがに分かんない。外国の子だよね?」
「そりゃそうでしょ。それにあれだけのSPがいるってことは……要人なのかな?」
ひそひそと話す学園のウマ娘達。
そんなウマ娘に反応して、バティスタがベルフラムとの会話を止めて歩み寄る。歩み寄られたウマ娘達は困惑していた。
「え、え~っと……何かご用でしょうかぁ?」
周りのSP達の圧も相まって怯える学園のウマ娘。
そんなウマ娘に対してバティスタはビシィ!と指を突きつけながら笑顔で言い放つ。
「『やいお前!わたしちゃんの案内をさせてやる!』」
「え、え~っと……なんて言ってるんだろう?」
英語で喋ってくるので分からない。しかしバティスタはそんなウマ娘のことなどお構いなしのようだ。顔をしかめる。
「『聞こえなかったか?わたしちゃんの案内をさせてやるって言ったんだ!』」
怒り、というよりは疑問を感じている表情。そんなことなど知らないウマ娘達は困惑するだけだ。
溜息を吐いて、ベルフラムがバティスタの下へと歩み寄る。
「『ベルは不幸。やっぱりバカ姉のせいで面倒なことになった』」
「『面倒とはなんだ!わたしちゃんは地図を見るなどめんどっちいことはしない!こうした方が手っ取り早いからだ!』」
悪びれもなくそう答えるバティスタに、再度深い溜息を吐くベルフラム。困惑しているウマ娘達の方へと向き直って、ウマホを操作しながら語りかけた。
「『ウチのバカ姉がすいません。もしよろしければ案内をお願いしてもよろしいでしょうか?』」
ベルフラムの言葉が終わるとともに、ウマホから機械的な音声が流れる。
《私の姉がすいません。もしよろしければ案内を頼んでも良いでしょうか?》
「え、えぇっと……構いませんけど」
「SPの人達は良いんですか?」
ベルフラム達の後ろ、SP達を指差して答える。ベルフラムはそちらに視線を向けた後、再度ウマホを操作した。
《あちらのSPは大丈夫です。なにもしてきませんので。なにより学園の方々の方が把握していると思ったのでお声掛けしました。迷惑でしたでしょうか?》
それを聞いて、戸惑いつつもウマ娘達は了承した。
「まぁ、あたしらでよければ」
こうして案内役を確保したバティスタとベルフラム。2人は案内役である学園のウマ娘の案内のもと、春のファン大感謝祭を見て回った。
なお、この後バティスタがSP達を撒いてひと騒動が起こることになる。
◇
さ~て、春のファン大感謝祭が始まりましたよっと。
とは言っても、チームの出し物は特にないし俺はぶらぶらと歩くだけなんだが。同じく暇だったラーシーと一緒に2人旅だ。
……まぁ、心配事がないわけじゃないんだよなぁ。
(エネさんがバティとベルが来るって言ってたけど……マジで不安しかねぇ)
つい先日のこと。この春のファン大感謝祭にバティスタとベルフラムが来るとエネさんから連絡があった。2人を見かけたらよろしく頼むとも。
ベルフラムはまだいいだろう。大人しい子だし、率先して問題を起こすようなタイプでもない。
だが……もう一人は違う。
「どーしたよ?んな神妙な顔つきしてよ」
隣にいるラーシーがそう聞いてくる。俺の様子が変だと思ったのだろう。別に隠すようなことでもないので教える。
「いやな、この感謝祭でエネさんから連絡があったんだよ」
「エネさん……ってーと、エネイブルさんか。それがどうかしたのか?」
「そのエネさんから、とある2人のお守を頼まれていてな」
お守、というよりは目をかけといてくれ的な意味合いの方が強そうだが。
「はーん……で、その2人はどこよ?」
「知らね。見かけたらでいいだからあんまり探してない」
「そーかい……でも心配事はそれじゃねーんだろ?」
ズバリその通りです。思わず溜息もついちまう。
「1人はまぁ、問題ないんだ。大人しくて問題を起こすような子じゃないから。ただもう一人がな……」
「そんなやべーのか?オメーとエネイブルさんが警戒するぐらい?」
「一言で表すならクソガキだ。しかも悪戯好きの」
大体察したのだろう。ラーシーもそりゃ心配になるわな、って顔してる。
「じゃー不味いんじゃねーの?そういうヤツって誰かに言われたところで大人しくはしねーだろ」
「だから心配なんだよ。なにも起こさなきゃいいんだけど」
「無理だろ」
俺もそう思ってるけどちょっとぐらい希望に浸らしてくれラーシー。
そんな中歩いていると?なんか向こうでざわついてんな。
「なんかあったのかね?」
「とりあえず行ってみるか」
ラーシーと一緒に現場へと近づくが「『キャハハ!たーのしー!』」……もう察したわ。
「な、なんか凄くご満悦そうな子がいる」
「外国のウマ娘さんだよね?でも1人で来たのかな?それとも迷子?」
「ど、どうしよう……英語分かんない」
周りのウマ娘達は困惑。ラーシーは……ちょっとは分かるのか何かを察したような表情をしていた。
「……なぁヴァーディ。オメーがいってたウマ娘ってのは」
「ズバリアイツだよ」
てかアイツ、ベルはどうした?SPさん達もいねぇし。
俺達には気づいていないようで、バティはキョロキョロと辺りを見渡して……1人のウマ娘に指を突きつける。
「『おいお前!このわたしちゃんを案内させてやる!』」
「え?わ、私!?私に何か用かな?」
英語が分からないウマ娘は勿論困惑。だがバティはお構いなしだ。
「『聞こえてないのか?わたしちゃんを案内させてやるって言ったんだ!』」
「え、えぇっと……」
「『ダメか?勿論タダでとは言わない、このりんご飴をやろう!』」
りんご飴を差し出すバティスタ。ド阿呆、まず言葉が通じてねぇんだよ。そこを考えろよ。そんなことしても余計困惑するだけだよ。
「どーすんだよ、ヴァーディ」
俺の様子を窺うラーシー。つってもなぁ……。
(行くしかねぇだろ)
さっきからずっと困惑してるし。へそを曲げるってことはないだろうが……この辺で介入してやるか。
「『おい、バティ。まず英語が通じてねぇって可能性を考えろ阿呆』」
「『ハァッ!?誰が阿呆だ!わたしちゃんは天……さい……』」
向こうを向いていたから俺が誰だか分らなかったのだろう。阿呆と呼ばれて振り返ったバティスタは、俺の顔を見るとみるみるうちに顔を青ざめさせた。
「『随分愉快そうなことやってんな?バティ。ベル達はどうした?』」
「あ……あ、あ……」
自分の置かれている状況を理解してか、バティはがくがくと震えている。
深い深い溜息を吐いて、バティを捕獲した。
ニッコリと、それはもう素敵な笑顔を作って、バティに語りかける。
「『俺が案内してやるよ。嬉しいだろ?』」
バティは身体を震わせて、頷いた。
「『う……嬉しいです……』」
よしよし、これで捕獲だな。つーかやっぱりトラブル起こしそうだったじゃねぇかコイツ。
なお、後ろからラーシーが困惑した表情で俺を見ていた。
「オメーコイツになにやったんだよ?」
「さぁな」
ノーコメントで。
バティスタ捕獲。