ヴァーディ「フフフ……!ついに全盛期の力を取り戻したぞ。覚悟しろ……!」
クロノ「まずいよボンドちゃん!」
プボ「く……っ!」
セントマークスバシリカ「大変だな日本のウマ娘は」
ヴァーディ「覚悟しろよ……アイリッシュチャンピオンステークス!」
セントマークスバシリカ「はっ?」←当時の勝ちウマ娘
なんか色々とあったファン感謝祭が終わってしばらく。トレーニングを再開することになった。
トレーニングを再開してからしばらく経った今日。
「ッふ!」
大阪杯で俺のリミッターは全部外れた。これで俺は全盛期の力を取り戻せる……はずだった。
タイム走をする俺。海藤さんが立っている地点まで走りタイムを計る。
「……バディ、タイムは?」
「う~ん……」
タイムを聞くと、芳しくない反応をする海藤さん。そうか、
タイムを見せてもらう。タイムは──大して変わっていない。思わず肩を落とす。
「やっぱり、か。トレーニング再開してからのタイム、横並びだもんなぁ」
どういうわけか、タイムは大して変わっていない。リミッターが外れたにもかかわらず、だ。
ただ、前よりは全然疲れていない。なのでキャパが増えたというのは間違いないのだが……タイムは変わらず。
本当になんでだ?少なくとも全盛期の力は戻った、と考えてもおかしくないのだが。
海藤さんも心配している表情。気持ちは分かる。
「疲れはどうだい?ヴァーディ」
「疲れに関しちゃ問題ない。前よりも全然動ける」
「そっか。ということは、間違いなくキャパは増えてるってことだけど……タイムは変わらない、か」
どうしてだろう?という海藤さんの声。俺も聞きたい。
キャパは間違いなく増えた。だがタイムにはそれが表れない。どういうこっちゃ?
(こうなるとジャパンカップも心配になってくるな……)
コントレイルに勝てるかどうか怪しくなってくる。重バ場だった大阪杯でそこまで着差は広がらなかった……あれは前世よりも仕掛ける位置を遅らせたせいだわ。ま、まぁ重バ場苦手なコントレイルが3着に入ってるから多少は克服しているんだろう。前世は大差つけてたし。
とにもかくにも、全盛期の力は取り戻したんだ。だとすれば、後はなにが足りねぇ?タイムを縮めるためには……俺になにが足りない?
「……無難に身体を鍛えるしかねぇのか?」
考えたところで、結局は身体を鍛えることに行きつく。そうすればいずれは……っていずれじゃダメだろ。ジャパンカップまでにどうにかしねぇと。それに凱旋門賞も勝てるかどうか怪しいぞ。
そうして考えていると、海藤さんから疑問を投げられる。
「ヴァーディはさ、大阪杯の直線はなにを考えてたの?」
それは大阪杯のことだった。
……何を考えて走っていた?
「今更どうしたよ?そんなこと聞いて」
答える前に聞き返す。
「いや、そこにヒントがあるかもしれないと思ったからさ。それに皐月賞の時もそうだね。1つ目のリミッターが外れたのが皐月賞だったから。その時ヴァーディは、どんなことを考えて走ってたの?」
「あぁ~……そういうこと」
何を考えていたか、か。可能な限り細部まで思い出してみる。
「大阪杯は……確か何も考えずに走ろうってなった、気がする」
「気がする、っていうのは?」
言っててあれだが、海藤さんの疑問はもっともだ。とは言っても、本当に気がするとしか言えない。
「いや、さ。あんまり考えてなかったんだよその時。ただ前に追いつけるように走ればいいって考えてたからさ」
「それは皐月賞の時も?」
「おう。あの時も、とにかく前を走るコントレイルに追いつかねぇとって、がむしゃらに走ってた」
考え込む海藤さん。少し黙った後、口を開いた。
「……となると、レース形式になるとタイムは伸びるかもしれないね」
「タイム走だと実感しにくい、ってことか?」
頷く海藤さん。となると、レース形式でやった方が「だってヴァーディは考えすぎるから間違いなくタイム気にしているだろうし」オイコラァ!そういうことかよ!?
「どういう意味だよ!?」
「どうもなにも……そのままの意味だよ。ヴァーディがここ最近のタイム走で考えていること、当ててあげようか?」
「やってみろよ!分かるもんならな!」
ふん!流石に分かるわけが「2つ目のリミッターが外れたことだし、これでさらに強くなったはずだ!だからきっとタイムも伸びているはず!」え、あのちょっと「あれ……?伸びてないな。おかしい、こんなはずじゃ」いや、ちょっと待ってくだ「どうすればタイム伸びるんだ?う~ん……とにかく走れば結果はついてくる!強くはなっているんだ、だからタイムも伸びるはずだ!」おーけいおーけい、どうやら俺の負けみたいだな。
「俺の気持ちが分かるだなんて……さすがは俺のバディだぜ」
「いや、君が特別分かりやすいだけだと思うけど……」
あーあー知りませーん聞こえませーん。
にしても、レース形式ならタイムが伸びるかもしれないか。
「じゃあ早速!」
「と、行きたいところなんだけどね。もうトレーニング終わりの時間だ」
あ、マジだ。時計を確認するともうトレーニング終わりの時間じゃん。
「じゃあみんな~!今日はもう上がるよ~!」
「「「は~い!」」」
チームリーダーであるジェネ先輩の声に反応してみんなが帰ってきた。次の機会に持ち越し、ってわけね。
(残念だが仕方ねぇか)
それに明日にやってみれば分かる話だ。今はクールダウンをしよう。
トレーニングとミーティングも終わって。いざ帰ろうって時に海藤さんに呼び止められた。どうも俺にだけ用事があるらしい。
「じゃあ先に帰ってるね~ヴァーディ」
「はい、ジェネ先輩。また寮で」
みんなが帰って静かになった部室。俺と海藤さんだけが残っている。
「それじゃ、手短に済ませようか」
「おう……で?何の用なんだ?」
用件がさっぱり分からない。海藤さんの言葉を待っていると……とても興味の惹かれる言葉を告げられる。
「君の全力を引き出せる方法が、さらに上に行く方法が分かったよ」
「はっ?」
え?いや、ちょ……マジかよ!?
「どどどど、どういうことだ!?説明しろ、今すぐ説明してくれ!」
海藤さんの服を掴んでがくがく揺らす。早く教えてくれ!それさえ教えてくれれば俺は……全盛期の力を取り戻せる!
「お、落ち着いてヴァーディ!そんながくがく揺らさないでくれ!」
「はっ!?」
き、気づいたら海藤さんがグロッキーなことに!?気がはやりすぎてやっちまった!と、とりあえず手を放そう。
肩で息をしている海藤さん。うん、本当にゴメン。
海藤さんが落ち着いたタイミングを見計らって、平静を保ちながら声をかける。
「そ、それで……俺の全力の出し方が分かったってどういうことだよ?」
「う、うん。そのことなんだけど……」
海藤さんの説明が始まる。
「君は普段から考えすぎる性格だ。それが災いしてか、力の何割かを無意識にセーブしているんだと思う」
「……ほう?」
「皐月賞で劇的に進化を遂げたのは意識が1つに向いていたから。コントレイルの幻影に勝つこと……それだけに集中していたから効果が劇的だったんだ。だけど、
今は違う?どういうことだ?
「君は今、疑問に感じているはずだ。このままでいいのだろうか?……ってね」
「……まぁ、そうだな」
確かにあの幻影に追いつくことは大事だ。それは変わらないし、この先もきっと変わらないんだろう。
けど、その先はどうすればいいんだろうか?幻影に追いついたとして、コントレイルに勝ったとしてその先は?そんなことを考えるようになった。
コントレイルと全力でぶつかるために頑張ってきた。疑問は感じていない。だけどコントレイルと決着を付けたその先は……どうすればいいんだろう?
そもそも、俺が本当に願っていたことは何だろうか?あの幻影に追いつきたい理由……違う、こんなにもコントレイルに執着している理由が。俺には思い出せなかった。
悩んでいる俺に、海藤さんが肩にそっと手を置いた。
「ヴァーディ、君が全力を出す方法は至って簡単だ。というよりは、レースになればすぐにでも発揮できるだろう」
「……」
「だけどそれは──
海藤さんは淡々と、事実を突きつけてくる。そんなことは、分かっていた。
だけど、傷口に塩を塗り付けるだけではない。柔らかい口調で、俺に道を示してくれる。
「だから見つけるんだ。自分が走る理由を。君自身がこの先もずっと走りたいって思える理由を……自分の手で見つけ出すんだ」
「俺が……走りたいって思える理由……」
こくりと、海藤さんが頷く。
「勿論、誰に聞いたって良い。色んな子から話を聞いてみるのも大切だ。だけど……最後にはヴァーディが自分で見つけなきゃいけないことだ」
「分か、ってる」
「君が上に行くために、この先も走り続けるために……頑張って見つけてね」
話は終わりだよ、と言われて。海藤さんは立ち上がる。俺も、自分の荷物を取って寮へと戻る。
「俺が走りたい、新しい理由か……」
まだ、分からない。だけど、この先のためにも必要なこと。
「……とりあえず、色んな人から話聞くか」
そうすることにした。空は──星空が広がっている。
◇
寮に戻ってきてジェネ先輩達とお風呂に来たのだが。
「じーっ……」
見られてる。ジェネ先輩にめっちゃ胸見られている。
その視線に耐えきれず、尋ねることにした。
「あの、ジェネ先輩。俺の胸がどうかしましたか?」
ジト目のまま、ジェネ先輩が口を開く。
「ヴァーディさ、またおっぱいおっきくなった?」
胸が大きくなった?自分の胸に視線を移して……。
「そうですかね?」
「絶対そうだよ!」
浴場から立ち上がるジェネ先輩。
「アレグリアが毎日羨ましそうにしてるもん!ヴァーディのおっぱいって大きいよねって!」
「普段何話してるんですかジェネ先輩達は」
それにしても胸か……苦い思い出がよみがえるな。
そりゃあね?前世はオス、前々世は男だった身としては。やはり胸は良いもんだと思っていたわけだ。なんなら今でもそう思っているよ。
特に、胸が成長してからはかなりテンションが上がっていた。
「お、おぉ……!」
鏡を見て、自分の胸を揉んでいたわけだ。初めての感触にすげー!やわらけー!とか引くぐらいテンション上がっていたのを鮮明に思い出せる。
だけど……気づいたんだよね俺。自分の胸を揉みながら。
「……自分で自分の胸を揉んでも虚しいだけだな」
特に感慨があるわけじゃなく、ただただ虚しさを感じただけだった。最初こそテンション上がってたけど、これが自分の胸だと気づいたらなんで舞い上がってたんだ?と我に返る。
幸い誰にも見られなかったが、そそくさと退散。その後自分の胸に関して何か思うことは無くなった。
そんな思い出がよみがえってきた。
(あの頃は俺も若かった……)
思い出していると、目の前のジェネ先輩が怒った様子で俺を問い詰めている。考え事に夢中で気づかなかった。
「ちょっと聞いてるの!?ヴァーディ!」
「あー聞いてます聞いてます」
ジェネ先輩の言葉を躱しながらお風呂の時間が過ぎていった。
その先に行くために自分探しへ。