飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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おのれ仕事め(トラブルで終わるの遅かった)。


宝塚記念 不調

 あれから色んな人に聞いて回った。走る理由は何かと、どうして走るのかを。怪訝な表情をされたが、俺自身に必要なことだからと聞いて回った。

 十人十色の答え。様々な回答があった。聞いたうえで、俺自身が走る理由は──()()()()()()()()()()

 

(だからこそ、この宝塚記念な訳だが……)

 

 レース前の控室。自分の体調を確かめる。控室には海藤さんもいた。

 海藤さんは俺に尋ねる。その表情は、心配するような表情。

 

「ヴァーディ、体調は大丈夫かい?」

 

 体調、か。

 

「……ぶっちゃけ、あまり良いとは言えねぇな。疲労は大して残ってねぇ、走る分には問題ねぇ。だが……完調とは言えない状態だ」

 

 俺の体調はあまり良いとは言えない。大きく崩れているとか、疲労がまだ残っていて走るのに支障をきたすとかそういうわけではない。ただ10割の全力ではなく、7割から8割……下手すりゃ6割前後までしか出せない。そんな感じの体調だ。全力を出せるような状態ではない感じ。

 海藤さんもそれは察しているのだろう。この宝塚記念に出走するのも最後まで悩んでいたし。だけど、俺がお願いして出走が叶った。走る分には問題ねぇわけだからな。

 俺がこの宝塚記念に出走したい理由。それは──コントレイルが出走するからだ

 

「ヴァーディ。色々と、聞いて回ってたみたいだね」

「なんだ、把握済みかよバディ。ま、大体の人から怪訝な顔されたけどな」

 

 海藤さんが言いたいのは俺が走る理由を聞いて回っていたことだろう。その通りだったのか、海藤さんは苦笑いを浮かべている。

 けど、表情が引き締まった。真面目な表情で、真っ直ぐと俺を見据える。

 

「それで……このレースで見つかりそうかい?」

「……」

 

 無言。このレースで、俺が走る理由が思い出せるかどうか……か。

 

()()()()()。だが、きっかけは掴んでみせる……絶対にな」

 

 目をつぶって逡巡する海藤さん。

 正直、悪いとは思っている。無理言って出走してんのに肝心の俺の目的が果たせるかどうかは分からねぇって言ってるんだから。出走だって取り止めになってもおかしくねぇ。

 だけど、海藤さんは最終的に出走を許してくれた。きっと、俺がきっかけを掴んでくれると思っているから。だから宝塚記念への出走を許してくれた。

 掴んでみせる……俺が走る理由、俺がコントレイルを意識する理由の原点を。絶対に思い出してみせる。

 ……時間か。

 

「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。悪いなバディ、ジェネ先輩だっているのによ」

「気にしないでくれ。後でクロノのご機嫌取りをするさ」

「そうかい……()()()()()()()、バディ」

「あぁ──見つけておいで」

 

 控室を後にする。宝塚記念の舞台へと、歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

宝塚記念

 

 

枠順番号ウマ娘名人気

1
1ユニコーンライオン9

2
2レイパパレ5

2
3コントレイル
3

3
4メロディーレーン12

3
5ワイプティアーズ15

4
6アドマイヤアルバ14

4
7シロニィ13

5
8クロノジェネシス
1

5
9カデナ10

6
10ヴァーディクトデイ
2

6
11アリストテレス6

7
12カレンブーケドール4

7
13モズベッロ8

8
14ミスマンマミーア11

8
15キセキ7

 

 

 阪神レース場。晴れ空の下、ウマ娘達がウォーミングアップを済ませている。

 

《夏のグランプリレース宝塚記念。ウォーミングアップは順調な様子。グランプリ三連覇がかかっているクロノジェネシスも気合十分といった感じでしょう!クロノジェネシスは堂々の1番人気!無敗の三冠ウマ娘、その意地を見せることができるか?3番人気はコントレイル!》

《前走の大阪杯では道悪が影響してか3着入線。頑張って欲しいですね》

《そして2番人気はヴァーディクトデイ!前走の大阪杯では凄まじい末脚を見せてくれました!この宝塚記念でもその末脚は炸裂するのか!?》

《彼女の末脚はまさに衝撃ですからね。期待が持てますよ!》

 

 上位人気の3人。グランプリ三連覇を目指すクロノジェネシス、数々のレースで衝撃の末脚を残し続けてきたヴァーディクトデイ、無敗の三冠ウマ娘として対峙するコントレイル。大方の予想ではこの3人の誰かが勝つと思われている。

 ヴァーディクトデイは準備を済ませている。傍目からは問題がないように見えた。

 

「……っ」

 

 ただ1人、黙々とウォーミングアップをしているヴァーディクトデイ。その目には、決意がこもっていた。

 

 

 宝塚記念の3番人気、コントレイルの状態はかなり良さそうだった。もっとも、当のコントレイルはヴァーディクトデイにしか視線を向けていないが。

 

(ウフフ……3度目、3度目の勝負だねヴァーディくぅん。油断はしないよ?君はとっても強いからね)

 

 コントレイルの脳裏に浮かぶのはヴァーディクトデイの末脚。このレースにおいて一番警戒しているのはヴァーディクトデイの末脚だった。彼女へと視線を向ける。警戒しているぞという意味を込めて。

 

(それにしても……勝負服のヴァーディ君はやっぱりカッコいいなぁ♥)

 

 ……ちょっと邪な感情が混じっているが。順調にウォーミングアップを済ませていた。

 しかし、穴が空くほどにヴァーディクトデイを見ていたコントレイルは気づく。

 

(?なんだろう……ヴァーディ君、本調子じゃない?)

 

 ヴァーディクトデイの調子が良くないんじゃないか?ということに。

 

(本調子じゃないのに出走してきた?どうしてだろう……本調子じゃなくても勝てると思ってるから?いや、ヴァーディ君の性格的にそれはない。だとしたら……どうして?)

 

 疑問を抱かずにはいられないコントレイル。しかし、そろそろゲートインの時間が迫ってきているということで思考の外に追いやった。

 

《ヴァーディクトデイに熱視線を送るコントレイル。やはり意識しているライバルだからでしょう、じっと見つめています》

《4番のメロディーレーンや12番のカレンブーケドールがヴァーディクトデイに絡んでいますが……あ、クロノジェネシスが仲裁に入りましたね。これもまたいつもの光景でしょう》

《さて、いつもの一幕がありましたがゲートインの時間が来ました。各ウマ娘が続々とゲートに収まっていきます。グランプリ三連覇の偉業か?無敗の三冠ウマ娘がその意地を見せるのか?もしくはすべてを置き去りにする衝撃の末脚がこの阪神レース場でも炸裂するのか?芝2200m、良バ場の発表。宝塚記念のゲートインは順調に進んでおります》

 

 最後のウマ娘がゲートに入る。静かになる阪神レース場の空気を切り裂いて──ゲートの開く音が響いた。それと同時に、ウマ娘達が一斉に駆け出す。

 出遅れは10番のヴァーディクトデイと13番のモズベッロ。この2人が出遅れた。だが、ヴァーディクトデイはもとより後方脚質。出遅れも想定内といったところだろう。

 

《さぁ宝塚記念スタートしました!あなたの夢が走っています阪神レース場!10番のヴァーディクトデイと13番のモズベッロがちょっと反応遅れた、出遅れました。しかしヴァーディクトデイはこれは予想通り。後方に控えるための策でしょう。大外枠キセキは外に立ちいった。しかし持ち直しますキセキ。拍手が沸き起こります宝塚記念、クロノジェネシスは好スタート!》

《先頭は……1番のユニコーンライオンと2番のレイパパレがいきましたね。これは大方の予想通りでしょうか?》

《ペースメーカーの奪い合い、これはどちらがハナを取るかっと、これはユニコーンライオンがいきました!ハナを奪ってペースメーカーとなるのはユニコーンライオン!レイパパレはちょっと控えます!3番手はクロノジェネシスそしてその外にコントレイルもつけています!三冠ウマ娘コントレイルはこの位置だ!グランプリ女王と同じ位置につけている!そしてこの位置にキセキ!キセキだ!大外からキセキが先行集団につけています!》

《今回は正攻法で行くと言っていましたからね。この前目の位置でレースを展開するつもりでしょう》

《そしてヴァーディクトデイは変わらずの最後方、最後方であります!》

 

 始まる宝塚記念。レースは第1コーナーのカーブを曲がっていった。




不調気味ヴァーディ。果たしてどうなる宝塚記念。
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