始まった宝塚記念。ハナを奪ったのは最内のユニコーンライオン。その後ろに控えたレイパパレ。3番手にクロノジェネシスとコントレイル、上位人気の2人が好位置につけている。
ヴァーディクトデイは出遅れからの最後方スタート。しかし、ヴァーディクトデイは後方脚質なのでファンは何の心配もしていないが。
隊列はやや縦長。後方はばらけている。
《各ウマ娘第1コーナーを抜けて第2コーナーへと向かいます!先頭は依然としてユニコーンライオン、それに1バ身程遅れてレイパパレが続きます。レイパパレの後ろ3番手の位置にキセキ、キセキは今日はこの位置だ!そして4番手の位置ここにクロノジェネシスとコントレイルがいます!グランプリ女王と三冠ウマ娘が並んでいるこの位置、コントレイルはクロノジェネシスをマークするようだ!》
《クロノジェネシスの強さは折り紙付き。またコントレイルも絶好調でその強さは語るまでもありません。クロノジェネシスからしたら嫌な展開かもしれませんね》
《コントレイルの徹底マーク、クロノジェネシスも少し嫌っているか?クロノジェネシスの内にはワイプティアーズがいます。コントレイルの後ろにはカレンブーケドール、その内にシロニイと続く。シロニイの外にアリストテレスが続いて、まもなく第2コーナーを抜けて向こう正面へと向かいます!最後方ヴァーディクトデイは隊列の後方カデナのさらに後ろ!カデナから3バ身離れた位置につけています!》
《ここからでも先頭に届くのが彼女の末脚です。やはりスピードが飛び抜けていますね》
コントレイルはクロノジェネシスを徹底マークしている。そのマークのしつこさにクロノジェネシスは内心舌打ちをする。
(コンちゃんのマークがキツい……!さっきからじわりじわりと削られているし、良い位置につけない!)
精神的に揺さぶられ続け、好位置につかせないようにしているコントレイル。
それはコントレイルだけではない。1番人気のクロノジェネシスは無論他のウマ娘からもマークされている。この宝塚記念において一番の脅威とされているからこそのマークだ。
そんな状況に──クロノジェネシスは笑う。
(でも、この逆境を乗り越えてこその強さってやつだよね!だったらっ)
「負けられないでしょ!」
改めて気合を入れ直すクロノジェネシスだった。
向こう正面に入った段階で、コントレイルは思い出す。自らのトレーナーに言われたことを。
(このレースで一番注意すべきなのはクロノさん……グランプリにおける強さは圧倒的。だからこうして、マークしているわけだけど)
ヴァーディ君とは真逆だ、と感じるコントレイル。あっちはグランプリに対する適性が皆無に等しいと誰もが口を揃えて言っていたから。その光景を思い出して噴き出しそうになるコントレイル。すぐにレースに集中する。
コントレイルは実際に相対してみて実感している。クロノジェネシスは
(トゥインクル・シリーズ現役のウマ娘の中では間違いなくトップ層というか、トップに君臨しているって言われてもおかしくない。間違いなく、2500mの距離までなら現在最強と言ってもいい)
だけど、と己を奮い立たせるコントレイル。その目には、強い意志がこもっていた。
(なら、その座を奪い取ってやる!クロノさんに勝って、僕が最強の座を奪い取る!)
トレーニングは積んできた、体調だって万全。相手はグランプリを制してきた女王、だからこそ……燃える!
気合とともにクロノジェネシスへのマークを続けるコントレイル。水面下の攻防が続いていた。
《1000mの通過タイムは1分丁度!1分丁度で通過しました最初の1000m!展開としてはやや遅めの宝塚記念、ユニコーンライオンが引っ張る展開!中団アリストテレスの後ろにモズベッロ、モズベッロは後方でレースをしています。その後ろにメロディーレーンが走っています。メロディーレーンの外にアドマイヤアルバ、ミスマンマミーア、カデナと続きます!そしてそのカデナの後ろさらに開いた5バ身の位置にヴァーディクトデイ!果たしてこの位置で大丈夫なのか?まだ前半だから控えているヴァーディクトデイ一番後ろの位置!》
《まだ様子見の段階でしょうね。抜け出す機会を窺っています》
《先行集団ではクロノジェネシスとコントレイル上位人気2人の争いが続いています!隊列を引っ張るユニコーンライオン、その後ろに続くレイパパレ!わずかに囲まれているか?クロノジェネシス!内にワイプティアーズ、外にキセキ!囲まれている形になっているクロノジェネシスとコントレイルだ!第3コーナーへと向かうウマ娘達、ここからどう動くか?》
声援が飛ぶ阪神レース場。コントレイルは進路を探していた。
(囲まれている……って割には甘いね。これは結果的にそうなっただけか)
コントレイルとクロノジェネシスの現在位置は前にレイパパレ、内にワイプティアーズ、外にキセキが走っており囲まれるような形になっていた。少しばかり抜け出すのに手間取りそうな位置である。
コントレイルとクロノジェネシスは囲まれている。だが……有利なのは
(キセキさんは行きたがっているし、外の方が早く開く。内のワイプさんはまだ動く気配がない……となると)
クロノジェネシスの外につけている自分の方が先に抜け出せる。コントレイルはそう分析した。
ただ、コントレイルにとって1つ気掛かりなことがあった。それがヴァーディクトデイの存在である。
(ヴァーディ君がどこから仕掛けてくるかが全くの未知数……第4コーナーから仕掛けてくる可能性もあるし、最後の直線だけで仕掛けてくる可能性だってある)
ヴァーディクトデイの末脚は今走っているすべてのウマ娘にとっての脅威。どこから仕掛け、どこから飛んでくるのか分からないあの末脚は恐怖でしかないだろう。
(仕掛けるタイミングは第4コーナーの終わり際。早めに抜け出して、差を広げる……そして、ヴァーディ君とクロノさんに勝つ!)
そう決心するコントレイルだった。
◇
走る分には問題ねぇ……とは言ったものの。かなり不味い状況というのは間違いない。
(進路がほとんどねぇ……いつも見えてるあの道筋が、見えやしねぇ)
それはつまり……勝つためのルートがほぼ封じられているということ。前世の経験則から来ているであろう光の道筋は……もうあてにならないってことか。
現状を把握。今は第3コーナーを越えて第4コーナーへと入っていった。俺の位置は依然として最後方。ここからのロングスパートはかなり厳しい。外も警戒されてりゃ内から上がっていくだけのスペースもない。マジのどん詰まりだ。普通に考えりゃ諦めたくなるレベルの。
追い込みは少しでも判断をミスったら負けだ。位置取りだってミスれない、今回は展開もややスローペースだから前につけるウマ娘も余力を残している。俺の圧倒的不利は変わらない。
……けど、それでも。
(
その時に思い出した、とある日の記憶。
前世の記憶。クラシック級の前半。俺にとって黒歴史認定したい、あの日の記憶を。
皐月賞の記憶。皐月賞で、アイツから言われた言葉。その言葉を受けて、ジェネ先輩との一度目の宝塚記念後になにを思ったのか?つか、本当に。
(学習しねぇな俺は……昔っから何も変わっちゃいねぇ)
同じこと繰り返して、本当に何やってんだか。我が事ながら呆れ果てるわ本当に。
(けど……そうだったな)
おぼろげながら、じゃねぇな。全部思い出したわ。コントレイルをどうして意識しているのか、どうしてアイツに拘るのか。
けど、今は
「全力で駆け抜ける……!」
確かに今の俺は10割出せるかは分からねぇ状況だ……だけどなぁ!もう本気で走らねぇってのはやめたはずだろうが!だから、今出せる全力でぶっ飛ばしてやる!このレースを、勝ってやる!
◇
第4コーナーを越えて最後の直線。
《第4コーナーでコントレイルが仕掛けた!コントレイルが外から上がっていく!コントレイルが外から上がる!クロノジェネシスは少し反応が遅れたか!?いや、まだ動かないと判断したクロノジェネシス!クロノジェネシスはまだ動かない!第4コーナーを越えて最後の直線、先頭で入ったのはユニコーンライオン!続いてレイパパレも上がっていく!しかし外からコントレイルが急襲!コントレイルとレイパパレが並びます!カレンブーケドールも上がってくる!キセキはどうだ!?キセキは伸びないか!?》
第4コーナーで仕掛けたコントレイル。固まったバ群からいち早く抜け出し、外からレイパパレ達を急襲する。
(余力は十分。後はクロノさんと……ヴァーディ君だ!)
最後の直線で順位を押し上げるコントレイル。早くも先頭のユニコーンライオンに並び立とうとしていた。
しかしここで立ちはだかるのが──クロノジェネシスである。
「ちょっと……甘いんじゃないかな?コントレイル!」
クロノジェネシスも空いたバ群の隙間から上がってきた。先頭に立っているユニコーンライオンとコントレイル、レイパパレに並び立とうとしている。
(やっぱりやってきた!だけど……末脚なら僕だって負けない!)
全力で脚を回すコントレイル。ユニコーンライオンとレイパパレをすぐに躱し、独走態勢に入った。
そんな彼女達を襲う、外から感じた強大な気配。この気配に、全員覚えがあった。
(ッ!やっぱり、来るよね君はッ!)
ヴァーディクトデイが来たのだと。
《さぁコントレイルが先頭に立った!追うクロノジェネシスとユニコーンライオンそしてレイパパレ!そして……!き、来ました!最後方からヴァーディクトデイ!ヴァーディクトデイが大外から駆け上がる!ヴァーディクトデイが大外からぶっ飛んでくる!》
《いつ見てもほれぼれするような末脚!
《やはり飛んできたヴァーディクトデイ!10バ身以上開いているこの差は果たしてセーフティリードかどうか!?コントレイル粘れるか!クロノジェネシス追いすがるか!そしてヴァーディクトデイは追いつけるのか!?他のウマ娘も負けていられません!ユニコーンライオンとレイパパレも粘っている!キセキとカレンブーケドールも来ているぞ!残り200m!先頭はコントレイルだ!》
先頭を奪い取ったコントレイル。ユニコーンライオンとの差をつけていくが……クロノジェネシスが差を詰めてきた。
コントレイルとクロノジェネシスの一騎打ちの形になる。2人が抜け出した宝塚記念、他のウマ娘も追走するがこの2人とはじわじわと差をつけられていく。200を過ぎてからはこの2人の対決になっていた。
「負けられない!特に、あなたにだけは!」
「それはこっちも同じだよコントレイル!わたしだって負けないんだから!」
お互い、裂帛の気合いとともに競り合う。この2人で決着する──そう思っていた。
《コントレイルとクロノジェネシス!無敗の三冠ウマ娘とグランプリ女王の一騎打ちだ!そして──外からヴァーディクトデイ!ヴァーディクトデイが恐ろしい末脚で上がって来たぁ!これが衝撃の末脚ヴァーディクトデイ!まさに翼が生えているかのような速さ!その表情からは
《いや、しかし……これはちょっと追いつけるかどうか!怪しいところですよ!》
《残り100を切った!コントレイル粘る!クロノジェネシス追いすがる!クロノジェネシスがコントレイルに並んだ!ヴァーディクトデイが飛んでくる!ヴァーディクトデイが飛んできたが……》
大外から上がってくるヴァーディクトデイ。見る見るうちにコントレイル達との差を詰める。
追い詰めて、追い詰めて……ようやく並ぼうかという時。それがヴァーディクトデイの限界だった。
《コントレイルがねじ伏せたぁぁぁぁぁ!!グランプリ女王と漆黒の撃墜王を下して!無敗の三冠ウマ娘が空に軌跡を描いたぁぁぁぁ!阪神の空に衝撃の軌跡を描いたコントレイル!大阪杯でのリベンジを果たしました!2着は写真判定!2着は写真判定となります!クロノジェネシスとヴァーディクトデイは写真判定だ!》
宝塚記念を制したコントレイル。その姿を見ながら、ヴァーディクトデイは思う。
(……まさか、
こちらをジッと見ているコントレイルを見据えながら、そう考えていた。
明日お仕事休みだからヒシミラクルの育成でもしてみるか。