こちらをジッと見ているコントレイル。俺とコントレイルの視線が合った。
こちらへと近づいてくる。懐疑的な目、疑問を抱いているかのような視線を感じた。俺の目の前で立ち止まる。
無言。お互いに何も言わない時間が続く。静かな空間を破ったのは、コントレイルだった。
「教えて、ヴァーディ君……今日のレース、君は
「……」
やっぱ分かるもんなのかね。不調ってのは。
黙っているわけにはいかないだろう。コントレイルの質問に答えないと。
「
嘘は言わない、というか嘘を言ったところで看破される。
コントレイルの懐疑的な目は戻らない。どうやら、まだ疑問に思っていることがあるらしい。
「……なんで、出走しようって思ったの?調整不足なら、レースに出ないって選択肢もあったんじゃないかな?」
僅かにだが、怒りを感じるな。そりゃ俺と対戦できる!って喜んでたと思ったら肝心の俺が調子を落としているわけだ。当然怒るし、俺にも
言葉で飾らない。ありのままの事実を告げる。どうして出走を決めたのか、その理由を。
「お前がいるからだよ、コントレイル」
「ッ!」
「お前がこの宝塚記念に出走する……だからこそ俺は出走を決めた」
俺が走る理由、それを探すために。
どうして理想の幻影がコントレイルの形を取っているのか?俺がコントレイルを意識する理由は何なのか?それを知るために俺は宝塚記念に出走した。一緒に走れば何か得られると、そう思ったから。
結果的に、
《今写真判定の結果が出ました!2着はクロノジェネシス、2着はクロノジェネシスです!3着ヴァーディクトデイで確定しました!》
おっと、俺は3着か……マジで思うんだが、前世も合わせて俺はこの手のレースにとことん縁がないな……。宝塚と有マ一回も勝ったことないんだけど。
って、そんなことはどうでもいい。なんか身体を震わせているコントレイルをジッと見つめて、告げる。というかなんで身体震えてんだ?風邪か?
「ジャパンカップだ、コントレイル」
「ふぇあっ!?」
「なんだその声……ジャパンカップ、そこでリベンジしてやる。この借りは、絶対に返してやる……利子付きでな」
指を突きつけて、宣戦布告。……なんかコントレイルの顔赤いし、本当に風邪疑惑出てきたな。あったかくして寝て欲しいもんだ。
コントレイルはというと、頭をぶんぶん振って何かを振り払う仕草を見せる。俺を見る頃には、顔の赤みは無くなっていた。
「……ヴァーディ君、僕は今回の勝ちを勝利だとは思わない。だってそうでしょ?君は本調子じゃなかったんだから」
「……」
あの時の俺と同じこと言ってら。なんかおかしいな。
「次こそは本気の勝負だ。お互いの全力をぶつけ合う、最高の勝負……そんな勝負を、ジャパンカップでしよう」
……当然だ。もうこんな不甲斐ない真似はしねぇ。もう二度と、同じ過ちは繰り返さねぇ。
「あぁ……待っていろコントレイル。お前と並び立つのに相応しい自分になって、俺はジャパンカップに出走する──凱旋門賞を制してな」
そう答えて、俺はターフを後にした。
控室。ライブの準備をしながらバディとの話し合いだ。
「お疲れ様ヴァーディ。疲労は?」
「問題ねぇさ。ライブも参加できる」
にしても……
海藤さんは俺をジッと見た後、フッと笑った。
「嘘は言ってないみたいだね。それに……何か見つけたみたいだ」
あ、やっぱり分かっちゃう?なら早いとこ言っておくか。
「あぁ──思い出せたよ。どうしてコントレイルを意識しているかの理由がな」
「そ、それは本当かい!?」
飛び上がらん勢いで驚く海藤さんである。こっちもちょっとびっくりしたぞ。
「ま、まぁな。ただ、ライブがあるからな。詳しい話はまた後日だ」
「あ、そうだね。じゃあヴァーディ、頑張っておいで。俺はクロノのとこにも顔を出してくるよ」
「おう、ジェネ先輩にもよろしく言っておいてくれ」
海藤さんとも別れ、ライブへと向かう。ライブも特に問題なく終わった……なんか時々コントレイルがこっちをチラチラと見ていた気がするが気のせいだと思うことにした。
◇
宝塚記念が終わって翌日の部室。早速海藤さんに話すことに。
「……ってな感じだ。俺がコントレイルを意識する理由はな」
「成程ね……ウマソウルに刻まれた記憶、なんだろうね」
「大体そんな感じ」
まぁそこに俺の前世の記憶も絡んでくるわけだが。これは言わなくてもいいだろう。痛い子扱いされるだろうし。
アイツを意識し始めたのは最初に会った皐月賞。そこで俺は見せつけられたわけだ……初めて感じた、コイツには勝てねぇって感情を。これに関しちゃ後で払拭したけど。
そして俺は、その後も一度だけ戦う機会があった。それが大阪杯。前世では8バ身差で勝ったヤツ。今世では着差ほぼないけど。
ただ大阪杯の時のアイツは不調だった。こっちはそうでもなかったみたいだけど、それはそれで皐月賞の負け分を取り返しただけ。今度は宝塚記念の借りを返さなければならない……アイツにも、これで勝ったとは思わないって言われたしな。前世の俺と同じこと言っててちょっと微笑ましく思った。
アイツとのレースは後悔しかなかった。だからこそ、今度こそ後悔をしないようにと。そう思っていた。前世ではそれが叶わなかったが。
だからこそ、今度こそ同じ轍は踏まない。神様と会った時からそう決めていたけど、改めてそう決意した。
「……それで?ヴァーディが走る新しい理由は見つかりそうかい?」
うぐっ!?い、痛いとこを突いてくるな!
「しょ、正直……まだ見つかってねぇ。コントレイルを意識する理由は思い出せたけど、俺が走る理由の方は……まだ見つかってない」
「そっか……じゃあ、
これから?どういうこった?
海藤さんは微笑んでいた。
「世界のウマ娘と戦って、ヴァーディが走る理由を見つけよう。幸いにも疲労もそこまで溜まってない、8月には向こうに着くように手配するよ」
「俺が走る理由を……世界のウマ娘と戦って……」
「そう。大丈夫だよヴァーディ、君ならきっと見つけられる。君が、心の底から走りたいって思える理由を」
心の底から走りたいって思える理由、か。本当に見つかるのか?……なんて考えはしねぇ。
(絶対に見つけてやる!そして、ジャパンカップでコントレイルと戦うんだ!お互いに、万全の状態で!)
改めて決意表明だ!コントレイルを意識する理由を思い出せたんだ、きっと走る理由だってすぐに見つけられる……はず!うん!見つけられる!多分、きっと、おそらく、メイビー。
ついでに宝塚記念の反省会も。
「今回に関しては不調ということを加味しても、仕掛けるのが遅かったね。もうちょっと早ければあるいは、だった」
「そうだなぁ……ちょっと様子見に徹し過ぎたってのはあるかもしれん」
大阪杯の時みたいにはならないか。結構差があったし。ただなんというか……。
「思った以上の力は引き出せたんだ。不調だったけど」
「それは興味深いね……具体的には?」
「6割が関の山だったのに8割出せたぐらいには」
この差は結構デカいと思う。
「う~ん、やっぱりコントレイルがいるからかな?そう考えると大分意識しているんだね、コントレイルのこと」
「当然だ。ウマソウル単位で刻まれている相手だぞ?」
それもそうだね、と受け流す海藤さんである。
それからは宝塚記念の反省会も程々に、海外遠征の日取りを決めたりしていた。
「……じゃあ8月の初めには向こうに発とうか。クロノも一緒に」
「おう。後はプボちゃんも一緒に行く予定だ」
「カノープスのディープボンドも凱旋門賞に出走予定だったね。向こうはフォワ賞を前哨戦にするらしいけど」
「ジェネ先輩もそうでしたっけ?」
頷く海藤さん。調子が整えば、ジェネ先輩もフォワ賞に出走するらしい。愛チャンに出走するのは俺だけみたいだ。いや、当たり前なんだけど。
話もまとまり、今後の日程も決まった。後は……時を待つだけだ。
「チームのみんなで応援に行く予定だ。頑張ろう、ヴァーディ!」
「おう!任せとけバディ!アンタを……日本初の凱旋門賞を制したウマ娘のトレーナーにしてやるよ!」
「ハハ、大きく出たね。楽しみにしているよ!」
正直、前世のように上手くいかないことはこれまでのことが証明している。だけど、勝ってみせるさ!コントレイルと並び立つために、そして──俺自身の証明のためにっ?
(……あっ)
なんというか、腑に落ちたような感覚に陥る。納得できるような、そんな感じの。何となくだけど、見えてきたような……そんな感覚。
ただ、まだ分からない。ひとまずは海外遠征で、これを試してみよう。そう考えた打ち合わせだった。
ガチャ更新が楽しみ侍。最近ミラ子の育成にハマってます。