飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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皐月賞が終わった後。ヴァーディの次走は?


皐月賞後・次走について

 皐月賞後、1人の騎手はレース映像を見返しながら感嘆の息を漏らす。

 

 

「は~、凄いなぁこの子」

 

 

 視線の先にあるのは皐月賞優勝馬コントレイル、ではなく。2着だった馬、ヴァーディクトデイだった。最後の直線の映像を何度も見ては、興奮気味に凄いという言葉を漏らす。

 

 

「いや、本当にこの子のポテンシャルは凄いな。乗ってみたいけど……滝村君が主戦らしいからなぁ」

 

 

 自分に騎乗依頼が来ることはないだろう。そう思い落胆する。乗ってみたいが、主戦となる騎手がいるのはもう仕方がないことだ。

 だが、口では残念がりつつもどこかへ電話をかけようとしている。

 

 

「まぁ、一応。一応ね?滝村君はクロノジェネシスの主戦騎手でもあるし、ローテでぶつかるかもしれないからね?連絡だけでも入れてみよう。いつでもいけますよって。後、顔見せておけばワンチャンあるかもしれないし」

 

 

 誰に言い訳をしているのか。そう言いながら騎手は皐月賞の映像を止める。海藤厩舎に足を運ぼう──そう思いながら騎手は立ち上がった。

 彼の名前は金添。かつてオルフェーヴルに乗り、史上最年少で3冠を達成したジョッキーである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どういうことですか!?」

 

 

 今、目の前で吐かれた言葉が信じられなかった。俺の目の前にいるのはヴァーディの馬主にあたる方。ヴァーディは一口馬主だからクラブの代表にあたる方だ。

 驚いた声を出す俺を尻目に、代表は淡々とした口調だ。冷静そのものである。

 

 

「もう一度言おう。次のNHKマイルの結果次第では──()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()

 

 

 どうして?何故?そんな言葉が頭を支配する。だけど、ここで引き下がるわけにはいかない!

 

 

「どうしてですか!ヴァーディは、ヴァーディクトデイはまだ1度負けただけです!それだけでクラシック戦線から離脱というのはっ!」

 

 

「コントレイル」

 

 

「ッ!」

 

 

「あの馬に、勝てる自信はあるかね?」

 

 

「ありますっ!」

 

 

 確かにコントレイルは凄い馬だ。あの皐月賞でそれは分かっている。だけど、ヴァーディだって負けてない!ヴァーディの素質は、コントレイルにも負けていない!だから、このまま負けっぱなしではいられない!

 だが、代表はそう思っていないようだ。溜息を吐いている。

 

 

「ヴァーディクトデイの素質は、私も認めるところだ。瞬発力・持続力・パワー。どれをとっても一級品になる逸材、世界でも戦えるかもしれない。そう思っている。だが、ハッキリ言って──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「くっ……!」

 

 

「だが、何も勝つことは諦めていない。あくまでクラシック戦線から離脱するだけだ。その期間は、ヴァーディクトデイの成長期間に充てる」

 

 

「ヴァーディクトデイの、成長?」

 

 

 代表は頷く。そして、一枚の紙を取り出した。

 

 

「ヴァーディクトデイの次走はNHKマイル、これは確定だ。ここでの結果と後の体調次第で次のレースを決定するが……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「た、宝塚記念に?」

 

 

「そうだ。早めに古馬との経験を積ませておくことで、ヴァーディクトデイの成長を促す。それに、ヴァーディクトデイなら古馬と走っても勝つだけの力はある。私はそう考えている。後は、ヴァーディクトデイには切っても切り離せないものがあるだろう?」

 

 

 思い当たる節がある。それは、ヴァーディが年上の牝馬に追いかけられているということ。

 

 

「古馬の牝馬と戦わせて、ヴァーディクトデイの弱点を少しでも克服しておこう……ということですか?」

 

 

「その通りだ。もっとも、ヴァーディクトデイが本当に牝馬を苦手としているかは分からないが、ね。不確定要素は早めに潰しておくに限る」

 

 

 だけど、そうなると別の問題が浮上してくる。それは、宝塚記念には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。クロノジェネシスとヴァーディの主戦騎手は同じ滝村さん。つまりは。

 

 

「それに、私は滝村騎手から早めに屋根を変えた方が良いんじゃないか?と考えている」

 

 

「ど、どうしてですか?」

 

 

「彼の腕を信頼してないわけじゃない。だが、ヴァーディクトデイの力を引き出せていないように感じるのでね。彼とヴァーディクトデイは、相性が悪いんじゃないか?それが私の判断だ」

 

 

 そんなことは、そう言いたいけれど。

 

 

(否定し切れる材料が、ない)

 

 

 なにより、滝村さん自身がヴァーディの力を引き出せていないといっているのだ。だから、俺が何を言ったところで無駄な足掻き。

 考えて、考えて。言葉を必死に絞り出す。俺が出した結論は。

 

 

「NHKマイル……勝てば、良いんですよね?」

 

 

「勝ったうえで、ヴァーディクトデイ自身に何の問題もなければ、だ。勝ったとしても怪我に繋がるようなものがあれば、日本ダービーには出走させない。それは宝塚記念も然りだ」

 

 

「分かっています。だから、絶対にNHKマイルは勝たせてみせますっ!勿論、怪我もさせません!」

 

 

「あぁ、期待しているよ」

 

 

 代表の部屋から出ていく。

 

 

(勝つんだ、ヴァーディをダービーに出走させるためにっ!)

 

 

 ダービーは特別なレースだ。歴史もあるし、一生に一度しか出走ができない。そんなレースに出走させたいという思いはある。そのためにも、NHKマイルを勝たせないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、ですか。NHKマイルの結果次第ではダービーではなく宝塚記念に」

 

 

 俺は早速このことを滝村さんに話した。ヴァーディの屋根を降ろされるかもしれない、ということは伏せて。

 

 

「はい。なのでNHKマイルは絶対に勝ちましょう!滝村さん、お願いしますね!」

 

 

 だが、滝村さんは浮かない表情だ。一体、どうしたというのだろうか?

 

 

「滝村さん?大丈夫ですか?」

 

 

 無言。滝村さんは返事をしない。

 

 

「滝村さんッ!」

 

 

「っあ、あぁ。すいません海藤さん。ちょっと、考え事を」

 

 

 滝村さんはようやく反応した。だけど、しどろもどろだ。なにか、後ろめたいことでもあるような……。

 

 

「海藤さん、宝塚記念にヴァーディが出走した場合──クロノジェネシスとぶつかることになりますよね?」

 

 

「ま、まぁ宝塚記念に出走することになればそうなります。けどっ!」

 

 

「そうなった場合、俺はクロノジェネシスを選びます」

 

 

 そうならないように頑張りましょう!そう言おうとした矢先、滝村さんは強い意志の籠った目でそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海藤さんから告げられたヴァーディの馬主からの言葉。それは、宝塚記念に出走予定だというもの。

 あくまでNHKマイルの結果次第、ではある。だが、皐月賞での騎乗から……俺は漠然と思っていた。

 

 

(俺は、俺じゃあ、ヴァーディクトデイの実力を引き出せないんじゃないか?)

 

 

 あの皐月賞だって、俺がもっと早く抜け出す判断をしていれば勝てるレースだった。内ではなく外に持ち出せば、勝てるレースだった。坂でのあの加速を考える限り、そうとしか思えなかった。勝負の流れを読み切れなかった、俺のせいだ。

 ヴァーディは利口だ。利口だからこそ、誰とでも合わせられる。極論、俺じゃなくてもいい。あの皐月賞での敗戦で、その思いはさらに強くなった。

 

 

(本当は、ヴァーディの屋根は誰にも譲りたくないっ!だけど、宝塚記念でクロノジェネシスとどちらを取るかと言われたら)

 

 

 俺はクロノジェネシスを選ぶ。簡単だ。クロノジェネシスの方が勝つ確率が高いから。

 3歳で宝塚記念に出走した馬はそれなりにいる。だが、二冠馬ネオユニヴァースや女帝ウオッカですら宝塚記念を制することはできなかった。それだけ厳しい勝負になる。

 

 

(……だけど、まだ宝塚記念に出走することが決まったわけじゃない。NHKマイルを勝てば)

 

 

 俺は、ヴァーディクトデイの騎手でいられる。NHKマイルで実力を示すことができれば、俺はヴァーディに乗り続けることができる。ヴァーディの実力なら、日本ダービーでコントレイルやサリオス相手でも良い勝負ができる。そう思っているから。

 俺の目の前で呆然としている海藤さんがいる。俺は、自分の意志を真っ直ぐに伝えた。

 

 

「だけど、NHKマイルは絶対に取ります。ヴァーディの騎手であり続けるために」

 

 

 その言葉に、海藤さんも安心したような笑みを浮かべていた。

 

 

「そ、そうですかっ。それじゃあ!NHKマイル制覇に向けて頑張っていきましょう!あ、でもラウダシオンの調教も同時に進めなきゃ。ヴァーディだけじゃないからな、出るのは」

 

 

 ヴァーディの実力なら、NHKマイルを制覇することはできるだろう。勝つことができなかったら、それは。

 

 

(俺の、騎乗が悪かったってことだ)

 

 

 そんなことはない。それを証明するためにも、NHKマイルを勝つ。そう心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんか俺とお前次のレース一緒らしいぞ』

 

 

『フーン。ついにオメーと対決する日が来たってわけ』

 

 

『ま、そういうこっちゃな』

 

 

 どうやら俺の次走はNHKマイルカップ。これもまた皐月賞と同じく3歳馬しか参戦できないレースらしい。そのレースに俺とラウダシオンは出走予定だ。

 だが、俺には不安要素がある。それは、皐月賞でコントレイルに言われたこと。

 

 

『一生懸命さが足りない?』

 

 

 その言葉が、俺の頭に残り続けていた。

 

 

(一生懸命さが足りないって、どういうことだよ。俺だって、頑張って走っているはずなんだが)

 

 

 考えて考えて。結論は出ない。

 

 

『おーい?どしたー?なんかあったかー?』

 

 

 ラウダシオンの俺を呼ぶ声で現実に引き戻される。

 

 

『わりぃ。この前の皐月賞を思い出してな』

 

 

『あー。そういやお前負けたんだっけ?初敗北だな』

 

 

『うっせ。次は勝つ』

 

 

『……にしてはオメーな。あれだな』

 

 

 なんだ?ラウダシオンは何かが引っかかってるようだが。

 

 

『なんだよ?なんかあるのか?』

 

 

『またいつもみたいにかしこぶってんのな』

 

 

『……どういう意味だ?』

 

 

 何かと思えば、ラウダシオンはわけの分からないことを言ってきた。かしこぶってる?俺が?

 

 

『だってよ、普通はもっと悔しがるだろ?自分より前を走ってるヤツがいるんだぜ?そりゃ、気に喰わねぇに決まってんだろ』

 

 

『そういうもんかね?』

 

 

 確かに気に喰わないかもしれないが。

 

 

『ま、いいけどよ。次のレースは俺が勝たせてもらうぜ』

 

 

『抜かせ。勝つのは俺だ』

 

 

 俺とラウダシオンは調教に向かう。俺の次走はNHKマイルカップ。ラウダシオンとの初対決だ。




嫌なフラグがビンビンである。
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