飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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凱旋門賞後・疲労

 あ~、やっぱとんでもねぇバ場だ。普通に走るだけでもかなり重いのに、そこから雨を吸ってさらに重くなる。かなりパワーを使ってしまう。

 それでも、やっぱりこの気持ちは格別だ。久しく忘れていた気がする、勝ったんだという気持ち。そして──あの時抱いた、世界最高峰のレースを制したんだという気持ち。

 

(格別だぜ、全くよ)

 

 これでようやく、目的の1つを達成した。大事なのは……ここからだ。

 

「おめでとう、ヴァーディ君!」

「あ~あ、負けちゃったか……でも、おめでとうヴァーディ!」

 

 でも、今はこの喜びに浸っても許されるだろう。少し涙が見えるプボちゃんとジェネ先輩。笑顔で俺を祝福する2人に向かって俺は。

 

「──ありがとうございます!」

 

 笑顔で応えた。

 

 

 インタビューの時間。海外の報道陣の質問に答えておく。

 

「『おめでとうございます、ヴァーディクトデイさん!日本のウマ娘として初の偉業、今のお気持ちは?』」

「『ありがとうございます。ま~……やっぱ嬉しいですね。世界でも最高峰の舞台なんで。勝ててめっちゃ嬉しいです!』」

「『前走のアイリッシュチャンピオンステークスもそうでしたが、見事な追い込み勝ち!ヨーロッパではあまり浸透していない勝ち方ですが、何故後方策を?』」

「『無理に自分のスタイル崩すよりも、自分が一番自信を持っているスタイルで走りたかったんで。結果的にそれが勝ちに繋がりました。後やっぱ気持ちいいですね、後方から全員抜き去って勝つの』」

 

 当たり障り?のない言葉でインタビューに答えて、時間は過ぎていく。

 そして最後の質問。俺の今後のレースについて。俺はマイクを借りて──宣言する。

 

「『見ているか?コントレイル。俺は世界を獲った、凱旋門賞を勝ってみせた』」

 

 アイツがこの中継を見ているかは分からない。だけど、それでも。大事なことだから宣言する。

 

「『だけどな……まだ世界一になったとは微塵も思ってねぇ。まだお前との決着がついてないからだ』」

 

 カメラに指を突きつけて、ニっと笑う。

 

「『首を洗って待ってやがれコントレイル!俺の次走──ジャパンカップでテメェに勝つ!世界一の座を賭けて、勝負だ!』」

 

 大々的な宣戦布告。これにメディアは大盛り上がりだった。

 

「『コントレイル……日本にいるライバルか!これは激熱だな!』」

「『案外、ヨーロッパからもウマ娘が出走するんじゃないか?』」

「『こいつは楽しみだな!聞くところによれば、コントレイルは無敗の三冠ウマ娘らしい!』」

「『日本の無敗の三冠ウマ娘対日本初の凱旋門賞ウマ娘……かなりのネームバリューだな!』」

 

 さて、と。このメッセージがコントレイルに届いているといいんだがな。宣戦布告も済んだことだし、後は……体調を整えるだけだ。

 

(レース後の疲労……これがどこまで響くかだな)

 

 本当の勝負はここから。さすがに今はレース後だから疲労が凄い。これがどこまで回復するか、だ。

 

 

 ──その頃日本。

 

「僕も!僕も待ってるからねヴァーディ君!ずっとずっと、楽しみに待ってるからねぇぇぇぇぇ!」

「うるさいぞコンちゃん……」

 

 凱旋門賞は23時から放送されていることもあってか、夜中に大声を出して同室のパンサラッサから鬱陶しがられていた。そして案の定寮長に怒られていた。

 

 

 

 

 

 

 凱旋門賞が終わった後、エネさんが貸し与えてくれた宿舎にて。

 

「『やぁヴァーディ!君の勝利を祝福しに来たよ!』」

「……『騒がしくしてすまないな、ヴァーディ』」

 

 フランケルさんとナサニエルさんが来ていた。エネさんはニッコニコ笑顔でジェネ先輩と対峙している。もうあっちは放っておいていいだろう……関わらない方が身のためだ。

 

「『ありがとうございます、お2人とも。無事に勝てて一安心ですよ』」

「『それにしても凄いな、キミは。慣れない芝であっても自分のスタイルを崩さず、普通であれば不利な後方からの差し切り勝ちを収めた』」

「『ヨーロッパではかのダンシンブレーヴの再来、なんて触れ込みもあるぐらいだな』」

 

 ダンシンブレーヴ?……わ、分からん。凱旋門賞を勝ったウマ娘ってことぐらいしか分からねぇ。ここで名前が出されるってことは、そういうことだろうし。

 ところで、さっきからどうしてフランケルさんはニコニコ笑ってるんですかね?その笑顔に見覚えあるし、嫌な予感しかしないんですけど。

 

「『というわけでヴァーディ、オレと走ろう!』」

「え、『嫌ですけど』」

 

 何故だ!?って言わんばかりの表情してますけど当たり前でしょう!?横にいるナサニエルさんも呆れた表情してるよ。

 

「『別に今じゃなくてもいい!いつかオレと走ってくれよ!な?良いだろ!』」

「『まぁ……いつか一緒に走るっていうなら』」

「『あまりコイツを甘やかすなヴァーディ。調子に乗るからな』」

 

 嬉しそうに小躍りするフランケルさんとそれを白い目で見るナサニエルさん。相変らずの2人だ。

 その後は豪華な食事でささやかな祝賀会。料理をつまみながら今後のことを考える。

 

(……疲労がどこまで響くか、だな)

 

 前世では疲労が取れずにジャパンカップへの出走が叶わなかった。今世でも同じことが起きる可能性は十分にある。ただ、海藤さん曰くちゃんと考えてるらしいけど。

 

(今はそんなこと考えても仕方ないな。仮にもパーティの主役な訳だし)

 

 浮かない表情してないで、飯を食べるぞ飯を!

 

「『良い食べっぷりだなヴァーディ!』」

「『この料理はわたしちゃんのだもんね~!』」

「『バカ姉、私も食べたい』」

 

 関係者しかいないささやかな勝利の宴。これもまた良い思い出になった。

 

 

 そして凱旋門賞から数日。俺はマッサージを受けている。疲労回復のマッサージ、少しでも万全な状態に戻すためにとのことで海藤さんが呼んでいたそうだ。ただ。

 

「ん、ン~……はぁ!いや~、それにしても」

取り越し苦労、ってヤツだね。備えるに越したことはないけど」

「おう!おかげでジャパンカップには間に合いそうだ!」

 

 俺の疲労は良化傾向、これならジャパンカップにも十分間に合う!俺の不安は一気に拭えた!

 

「『良かったです、ヴァーディ様!ジャパンカップには、私も日本に行きますね!』」

「『わざわざ来てくれるんですか?エネさん』」

「『勿論ですとも!』」

 

 また、エネさんだけではないそうで。

 

「『いや~、楽しみだなニホン!ニホンにいるという衝撃の英雄……会うのが楽しみだ!』」

「『我々は遊びではないということを努々忘れるな。あくまで生徒会としての仕事だ』」

「『分かってる分かってる!……ちょっとくらい走ってもいいだろ?』」

「……『説得は手伝わんぞ』」

 

 なんとフランケルさんとナサニエルさんも来るらしい……空港がとんでもないことになりそうだな。俺が帰るだけでもそうなる可能性高かったらしいけど。まぁ日本のウマ娘として初の凱旋門賞制覇、マスコミたちもこぞって来るだろうな。

 後はプボちゃんか。プボちゃんは凱旋門賞後、憑き物が落ちたかのように晴れやかそうにしていた。なんでも、プボちゃんにとって悪夢だったものを見なくなったらしい。それは喜ばしいことだが、一体どんなものだったんだろうか?本人に聞いてもはぐらかされるんだよな。

 

「『ではヴァーディ様の隣は私が』」

「『ヴァーディの隣はわたし!ほらヴァーディ、こっちおいで!』」

「「ウギギギギ……ッ!」」

「『ヴァーディ、こちらへ。その方が角も立たないだろう』」

「『ありがとうございます、ナサニエルさん』」

 

 飛行機の席に関してはナサニエルさんとフランケルさんの間に挟まる形になった。フランケルさんのレース談義はとても興味深かったし、なによりお2人の知識はとても役に立つだろう。帰るまでの間、とても有意義な時間を過ごせた。

 

 

 残すはジャパンカップ。俺にとって……唯一の心残りだったレース。このレースを勝って、俺は──世界一を証明する




こっちもそろそろ終わりが近づいてきた。
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