飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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明日も連勤。


敗戦を糧に

 日本のトレセン学園。生徒会室にて2人のウマ娘が対峙している。

 

「『いやはや。日本の英雄とご対面できるなんてね。噂はかねがね聞いているよ』」

「『欧州の怪物にそう言ってもらえるなんて嬉しいね~。あ、ドンナ。お茶を出してあげて』」

「『かしこまりました』」

 

 ディープインパクトとフランケル。ともに歴代最強格に名を連ねる2人のウマ娘。今回は欧州のトレセン学園からフランケルと数名の生徒が代表として、日本のトレセン学園を訪れていた。その目的は意見交換会……という()()である。

 フランケル達の本来の目的はというと。

 

「『ジャパンカップが楽しみだねぇ……オレも今から出走できないかな?』」

 

 ジャパンカップである。フランケル達にとって、興味を持つウマ娘が目標に定めているこのレース、気にならないはずがなかった。自身も出走できないか?と冗談交じりに言う。隣にいるナサニエルは呆れ顔だ。

 

「『お前はすでに引退した身だろうが。それに、クラシックディスタンス*1はお前の距離じゃないだろう』」

「『そこはほら、今回は10ハロンにしてもらうとか?』」

「『バカを言うなお前は』」

 

 目の前で繰り広げられるコントのような光景にディープインパクトは思わず噴き出した。もう1人の副会長はガタガタと震えていたが。

 

「『いいなぁ、私も出走したいなぁジャパンカップ!絶対楽しいもの!』」

「会長も引退した身ではないですか。我慢してください」

「え~!?『私もヴァーディやコンちゃんと走りた~い!』」

「我慢してください。子供じゃないんですから」

 

 フランケルとディープインパクト。どちらもジャパンカップに出走したいと言い、咎められるとぶー垂れる。およそ生徒達の長とは思えない2人の姿だった。

 

「『それに、衝撃の英雄とも走りたいねオレは!どうだい?是非とも10ハロン以下で勝負しない?』」

「『私も欧州の怪物とは走ってみたいな~!クラシックディスタンス以上なら受けるよ?』」

「「アッハッハッハ!」」

 

 楽しく会話をする2人。もっとも、2人の側近でもあるナサニエルとジェンティルドンナは双方呆れた表情を浮かべているが。オルフェーヴルはこの圧に耐え切れずに部屋を退出した。

 

 

 それから少し会話を楽しんだ後、話題は秋の天皇賞の話になる。

 

「『そういえば今回の天皇賞。キミのお気に入りが出走したんだろう?でも、負けてしまった』」

 

 少し言いにくそうにするフランケル。彼女も心配しているのだろう。関りがあるわけではないが、レース後に涙を流していたのを確認している。そしてそのウマ娘が、今自身の目の前にいるディープインパクトお気に入りの子なのだ。心配する気持ちも湧くだろう。

 

「『その後、彼女は大丈夫だったかい?かなり落ち込んでいたようだが』」

「『大丈夫だよ』」

 

 フランケルの言葉に、ディープインパクトは間髪入れずに答える。その目には、一切の迷いがなかった。

 

「『コンちゃんは大丈夫だよ。負けたのだって初めてじゃないし、それに……今回の敗因をちゃんと分かってる。後は、コンちゃんのチームの子達がケアしてくれる』」

「『そうか。ヴァーディクトデイがライバルと公言している子の走り……オレとしても興味がある。ジャパンカップでは、彼女の本当の強さを見ることができるのかな?』」

「『見れるさ。絶対にね』」

 

 自信たっぷりに答える。その言葉に、フランケルは期待に胸を高鳴らせていた。

 まぁ、それはそれとして。

 

「『それにしてもヴァーディは良いねぇ。どう?あの子、欧州(ウチ)のトレセンに転入させない?』」

「『う~ん……ダメッ!そしたら私が一緒に走れなくなるから!』」

「え~!?『そこを何とか頼むよ英雄!』」

「『全くコイツは……』」

「『ヴァーディの意思は関係なさそうなのがまた、ですわね』」

 

 英雄と怪物の話は日が暮れるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 天皇賞・秋が終わった翌日。コントレイルは重い空気を纏って部室に入ってきた。

 

「失礼します……」

「おう、コントレイル」

 

 中にいたのはスピカのトレーナー。他のメンバーはそれぞれトレーニングに行っている。コントレイルだけが部室へと足を運んでいた。

 完全に委縮しているコントレイル。そんな彼女をジッと見るスピカのトレーナー。長い沈黙を破り、口を開いたのは──トレーナーの方だった。

 

「コントレイル。先日の天皇賞の敗因……分かるか?」

「……はい」

 

 コントレイルは天皇賞で2着だった。最後の直線でエフフォーリアに躱され、必死に追いすがるもエフフォーリアを差し返すことはできず。負けられない一戦を落としてしまった。

 その敗因を、コントレイルはよく分かっていた。やる気が空回りして、本来の自分の位置取りからは逸脱していた。逃げウマ娘に競りかけ、普段のペースを自分から乱してしまったのだ。これでは勝てるレースも勝てない。コントレイルはレースが終わった後に、そのことに気づいた。

 

「いつもの位置取りとは違う位置、もっと速く走らなきゃって思って……気づいたら、逃げウマ娘の子に競り合ってました」

「そうだな。本来のお前さんには程遠いレースだった。調子は悪くなかったが、今回はやる気が空回りしちまったな」

「……はい」

 

 コントレイルは思い出す。レース後にエフフォーリアが向けてきた視線を、言葉を。

 

(ヴァーディ君を悲しませたら許さない、か……)

 

 ヴァーディクトデイが自分との対戦を楽しみにしていること。それ自体は嬉しかった。自分と同じ気持ちだったのだから嬉しくもなる。だが、今回のレースを考えるとあまり素直に喜べなかった。

 凱旋門賞で見せたヴァーディクトデイの走り。まさに圧巻だった。日本のウマ娘が苦戦してきたロンシャンレース場の重バ場。そんなバ場を飛んでいるように駆け抜けるヴァーディクトデイの姿。テレビ越しでも、彼女の背中には翼が生えているかのように錯覚した。

 綺麗だと思った。それと同時に──焦りを覚えた。

 

(ヴァーディ君に勝つには、もっと頑張らないといけない。そう思ったら……居ても立っても居られなかった)

 

 自分も強くならなければいけない。じゃないと、ヴァーディクトデイに勝つことはできない。そんな気持ちが湧き上がった。

 その結果が秋の天皇賞だ。自分の走りを見失い、気持ちばかりが焦って先行した。その結果、最後の直線でスタミナが切れてエフフォーリアに差し切られた。

 悪い点はいっぱい出てくる。トレーナーもきっとそのことを咎めるつもりなのだろう。そう覚悟していたコントレイルの耳に入ってきたのは──

 

「悪かった、コントレイル」

 

 トレーナーからの謝罪だった。予想だにしない言葉に、目を見開くコントレイル。

 

「……え?」

「お前の状態は分かっていた。だけど、結局はお前の助けになれなかった」

「そ、そんなことないです!それに、トレーナーさんはちゃんと僕に忠告してくれて!」

「もっとお前にかける言葉があったんじゃないか?お前に背負わせ過ぎたんじゃないか?って思ったんだ。本当にすまなかったな、コントレイル」

 

 トレーナーからの謝罪に、さらに罪悪感を抱くコントレイル。しかし、トレーナーは暗い表情を消して、笑みを浮かべていた。

 

「だから、この話はここでおしまいだ!」

「……え?えっ、と」

「お前の次走はジャパンカップ。相手は──日本のウマ娘として、初めて凱旋門賞を勝ったヴァーディクトデイだ。生半可な相手じゃねぇ」

 

 困惑するコントレイルをよそに、次走について話を進めるトレーナー。その表情に陰りはなかった。

 

「アイツの追い込みは驚異的だ。ディープインパクトに匹敵……下手すりゃ、それ以上だ」

「た、確かに……ヴァーディ君は、それくらい」

「だから、この敗戦をいつまでも引きずるなコントレイル」

 

 真面目な表情でコントレイルを見据えるトレーナー。

 

「今回の敗戦で、お前も気づいただろう?気負い過ぎるのは良くないって」

「まぁ……はい」

「この敗戦を糧にしろ、コントレイル。次はしないように、ってな。この敗戦を糧にして……ヴァーディクトデイに勝つぞ!」

 

 ガッツポーズをするトレーナー。しかしコントレイルは──浮かない表情。

 

(僕は……本当に、このままで)

 

 自己嫌悪に陥りそうなコントレイルに、トレーナーはさらに言葉を贈る。

 

「それにな、一旦勝ち負けのことは置いておいたらいいんじゃないか?」

「へ?」

「お前が……あー、その。ヴァーディクトデイを特別に意識しているってのはまぁ周知の事実だ」

 

 最大限言葉を濁して伝えるトレーナー。ただ、優しい目でコントレイルを見る。

 

「勝てるかどうかなんて、今は考えない方が良い。お前が今考えるべきなのは、お前自身の全力をどうやってヴァーディクトデイにぶつけるか、だ。違うか?」

「……」

 

 トレーナーの言葉に沈黙するコントレイル。沈黙しているが、トレーナーの言う通りだとコントレイルは感じる。

 

「デアリングタクトのことが気掛かりなのも分かる、ヴァーディクトデイの強さに不安を抱くのも分かる。だけどな、それで自分の走りを見失うってのは良くないことだ」

「……はい」

「だからこの際、一度頭をリセットしろ!考えを全部取っ払っちまって、ヴァーディクトデイに自分の全力をぶつけることだけを考えろ!後のことは、俺に任せてくれりゃあいい!」

「トレーナーさんに?」

 

 深く頷くトレーナー。その表情には自信が見えた。安心感を抱かせるその表情。コントレイルの不安も、徐々に消えていく。

 

「これからジャパンカップまでの間、ヴァーディクトデイに勝つために特訓しまくる!それで勝てなかったら、次は勝てるようにさらに頑張る!勿論、お前が望めば、だけどな」

「トレーナーさん……っ!」

 

 どうして自分にそこまで頑張ってくれるのか、そう思うが。そういえばこういう人だとコントレイルは思った。スピカのトレーナーは担当ウマ娘に寄り添ってくれる人だと、こちらのやりたいことをさせてくれると。先輩達から聞いていた。

 徐々に表情に明るさが戻るコントレイル。

 

「なら僕……ヴァーディ君に勝つために頑張りたいです!

「おう!なら、特訓頑張らねぇとな!」

「はい!ビシバシご指導、お願いします!」

 

 深くお辞儀をするコントレイル。トレーナーは笑顔でコントレイルを見ていた。

 

 

 その後は今後のトレーニングを煮詰めていくコントレイル達。全ては打倒・ヴァーディクトデイのために。ジャパンカップに向けて調整を進めていくことになった。

 

「勿論、私達も手伝います!けっぱりましょう、コントレイルちゃん!」

「頑張りましょうね、コントレイル」

 

 スピカのメンバーもコントレイルを後押しする。

 

「ところでトレーナー!ボクはどうだったの!天皇賞!」

「……グランアレグリアはマイルCSを目標に頑張るぞ」

「アッハイ」

 

 その中でグランアレグリアはトレーナーから中距離路線に見切りをつけられていたが。コントレイルは気持ちが前に向いていた。

 

(確かに僕が原因で、天皇賞は落とした。だけど……!)

「これも学び。ジャパンカップでは、僕の全力をヴァーディ君にぶつける!そして……勝つんだッ!」

 

 敗戦を糧に、改めて決意を固めるコントレイル。ジャパンカップまで猛特訓することとなった。

*1
2400mの距離




多分フランケルとディープインパクトは似た者同士(勝手な想像)。
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