NHKマイルC
| 枠順 | 番号 | 馬名 | 牡/牝 | 人気 |
1 | 1 | シャチ | 牡 | 17 |
1 | 2 | タイセイビジョン | 牡 | 3 |
2 | 3 | レシステンシア | 牝 | 2 |
2 | 4 | プリンスターン | 牡 | 11 |
3 | 5 | シャインガーネット | 牝 | 8 |
3 | 6 | ギルデッドミラー | 牝 | 7 |
4 | 7 | ヴァーディクトデイ | 牡 | 1 |
4 | 8 | サクセッション | 牡 | 6 |
5 | 9 | ラインベック | 牡 | 12 |
5 | 10 | ハーモニーマゼラン | 牡 | 15 |
6 | 11 | ラウダシオン | 牡 | 10 |
6 | 12 | ボンオムトゥック | 牝 | 13 |
7 | 13 | ニシノストーム | 牡 | 18 |
7 | 14 | ルフトシュトローム | 牡 | 5 |
7 | 15 | ソウルトレイン | 牡 | 16 |
8 | 16 | ストーンリッジ | 牡 | 14 |
8 | 17 | サトノインプレッサ | 牡 | 4 |
8 | 18 | ウイングレイテスト | 牡 | 9 |
調教の日々もあっという間でNHKマイルの日がやってきた。冷静に考えたら皐月賞からまだ1ヶ月経ってねぇのか。相変わらずの無観客である。
(まだ新馬戦の時とかは無観客じゃなかったからな~。あの歓声が恋しい)
返し馬を済ませてゲート入りが始まる。今回は奇数番なので最初の方。
「7番ヴァーディクトデイ、お願いします」
おっしゃ、入りますかね。
《各馬順調に枠入りが進んでおります。NHKマイルカップ、天候は晴れ、馬場の状態は良馬場と発表されています。1番人気は皐月賞で2着に食い込んだヴァーディクトデイ。陣営も最高の状態と太鼓判を押しております。皐月賞では惜しくも敗れましたがここでG1制覇なるか?2番人気はレシステンシア。阪神JFの勝ち馬、桜花賞2着。こちらも好走が期待できます。ヴァーディクトデイとレシステンシア、この2頭が評価を分け合う形になったNHKマイルカップです》
《ヴァーディクトデイはコントレイル以外には負けておらず、レシステンシアはチューリップ賞での敗戦があります。そこが評価を落とした形になったか?しかし桜花賞や阪神JFと同じ距離、コースこそ違えどややレシステンシアに分があるかもしれません》
ゲートが開くのを待っている間、コントレイルに言われたことがいまだに頭に残っていた。そして、気合を入れる。
(俺だって、自分なりに一生懸命やってんだ。このレースを勝って、それを証明してやる!)
そのためにも集中集中!出遅れなんて洒落にならねぇからな!神経研ぎ澄ませて……「ガコンッ!」うっし、開いた!スタートダッシュじゃい!
《各馬ゲートに収まりました。各馬収まって……スタートしました!1番のシャチは後方からのスタートやや出遅れたか?まずは横並びで進みますハナを切るのはやはりレシステンシアか?いや、レシステンシアだ。3番のレシステンシアが行きました!すんなりとハナを取りましたレシステンシア1馬身抜け出した!追っていくのは11番ラウダシオン。ラウダシオンがレシステンシアに後ろ、いや追い抜こうとしているか?》
《ラウダシオンはレシステンシアに並びかけていますね。今日は逃げる形をとるか?鞍上とは初コンビです》
《ラウダシオンはレシステンシアに並びかけます。後は3番手は大外に16番ストーンリッジ、その内ギルデッドミラーとタイセイビジョン、そしてヴァーディクトデイが3番手争いの位置。タイセイビジョンがわずかに前に押し出しているか?後ろには12番ボンオムトゥック、1馬身後ろにシャインガーネットが控える形。残り1200m》
スタートダッシュかまして俺は好位置につける。いつも通り、前目の位置。後は他馬の動きとか諸々警戒して、最後の直線に入る前に外に持ち出せればベスト!皐月賞では抜け出すのに手間取ったからな。それに、こっちの競馬場は最後の直線が長いらしいし、俺に有利に働くんじゃないか?と言われた。
俺の内にタイセイビジョン、前を走ってるのは知らない牝馬とラウダシオンのヤツだ。外には3頭ぐらいいる。
ただラウダシオンは無理矢理ハナは取らないらしい。先頭を譲って自分はその後ろについていた。無理に競りかける必要もないって判断か?ただ、それは今考えなくていい。今考えるべきなのは、このレースを勝つことだ!
(今回のレース、滝村さんえらい気合入ってたからな。どういうわけか知らねぇけど)
なんというか、すっげぇ追い詰められているような顔してたのが気になった。とりあえず励まし程度に顔を舐めたらすぐに笑顔になった。その笑顔も、どこか影を落としてたけど。
今回は1600m。皐月賞よりも400m短い。俺の場所の展開は何も変わらないが、この状況だと外に持ち出すことはできない。だが、最短経路の内の進路を取ることはできた。滝村さんもそれが分かってか、強引に外に持ち出そうとはしないようだ。
残り800を切ったかと思えば第4コーナーが迫ってきた。
《第3コーナーと第4コーナーの中間。結局行ったのはレシステンシア!レシステンシアがハナを取って第4コーナーのカーブを曲がります。600を切ってリードは1馬身、2番手はラウダシオン!そして第4コーナーカーブを回って最後の直線に向いています!内からタイセイビジョンとヴァーディクトデイの2頭が上がってくる!そして12番のボンオムトゥック!残り400!外からはラインベックも上がってきている!》
最後の直線、400の標識が見えたところで滝村さんのムチが入った!
(ここでスパートかけろってことね!了解!)
前みたいに進路がないってわけじゃねぇ、これならいけるっ!上り坂だけど皐月賞の時に加速できることは実践済み!このまま躱して勝ってやる!
俺はスパートを掛けて前の2頭、特にラウダシオンを追う。ジリジリと差を詰めていく!これならいけるっ!勝てるッ!
『ハァ、ハァ!負けない、絶対に負けないんだからッ!このまま逃げ切るッ!』
聞こえてきたのは、そんな声。多分、今回のレースで一番前を走っていた牝馬の子だ。
いや、その子だけじゃない。周りからはその子と同じように懸命に頑張っている声が聞こえてきた。
『勝つんだっ、勝つんだッ!』
『負けたくない!』
懸命に頑張っている声。その声が、眩しく思えた。
そんな声を聞きながら俺は先頭に躍り出ようとする。俺はそのまま上がっていって、トップ集団まで上がる。そして、すぐ前にはラウダシオンがいた。
『負けられるかッ!誰にも、ヴァーディクトデイの野郎にも!負けてたまるかってんだよッ!』
残り200。俺はラウダシオンの外に持ち出して躱そうとする。こいつを躱して、俺が勝つんだ!
だが、待てども待てどもラウダシオンは落ちる気配がない。一生懸命に脚を回すが、ラウダシオンに追いつけない。
(クッソ……!全然抜かせる気がしねぇ!?)
な、なんでだ?どうして追いつけない?俺とラウダシオンに差はなかったはずだ。皐月賞からの調教期間でも、俺と大差なかったはず!なのに、どうして追いつけないんだよ!?俺なりに今持てる力を使って一生懸命頑張っているはずなのに、どうして!?
一生懸命に、俺なりに頑張って脚を回す。だが、ラウダシオンとの差は縮まらない。そしてどういうわけか。先頭で、俺の前で一生懸命に走っているラウダシオンの姿が。
(なんで、そんなに眩しく見えるんだ?)
とても眩しく見えた。
結局追いつけず。俺はラウダシオンがゴール板を駆け抜けるのを後方で見ていた。
《残り200を切ってラウダシオンがレシステンシアを躱した!ラウダシオン先頭!ラウダシオン先頭だ!その後ろはレシステンシアとヴァーディクトデイが並んでいる!レシステンシアとヴァーディクトデイが懸命にラウダシオンに追いすがる!その後ろはギルデッドミラー、タイセイビジョン、シャインガーネットですが!11番ラウダシオンだ!ラウダシオンが先頭だ!2番手はレシステンシアとヴァーディクトデイ!しかし僅かにレシステンシア有利か!?だが先頭はラウダシオン!ラウダシオンだ!ラウダシオンゴォォォォルイン!》
《これは!10番人気の伏兵がNHKマイルカップを制しましたね!》
《2着は1と半馬身差でレシステンシア!3着はクビ差ヴァーディクトデイ!これは凄い!ラウダシオンが見事にNHKマイルカップを制しました!》
走り終わって、徐々に減速していく。その間に思うことは、ラウダシオンの凄さと自分がまた負けたことの再確認。
(また、負けちまったか。しかも、先頭で走ってた子にも負けてるし)
思うことはそれだけ。いや、本当にそれだけか?
(次、勝つために頑張るか……ッ!?)
そう考えると、胸がズキリと痛んだ。そうじゃないだろと、違うだろと。そう警鐘を鳴らすように胸が痛んだ。そして、心の声が聞こえてきそうだった。
もっと本能の赴くままに走れと。我慢なんてするなと。そう聞こえてくるようだった。頭を振って、その考えを振り払おうとする。だが、俺の頭にこびりついて離れない。
「負けた……。俺は、これで……」
鞍上の滝村さんが何か言ってるけど俺の耳には入ってこない。この原因不明の胸の痛みと、身体の奥底から湧き上がる何かを抑えるのに必死だった。
(病気を患ってるとか、そういうんじゃないはずだ。じゃあ、どうしてだ?)
あれこれ考えていると、ラウダシオンが俺に近寄ってきた。ひ、ひとまずおめでとうぐらいは言っておこう。
『お、おめでとうラウダシオン!いやー、すっげぇ『
『テメー、レースでもかしこぶってんのかよ?そんなにいい子ちゃんでいてーのか?テメーは』
開口一番、喧嘩売ってるのかコイツは?そう思いつつもラウダシオンのヤツは好き勝手に言いやがる。
『なんでそんなに我慢してんだよ?我慢する必要なんかねーだろ?』
『……何がだよ?』
『とぼけんじゃねー。テメー、自分では一生懸命走ってるつもりかもしれねーけどな。生憎と、
『んだと!?』
『なんだ?いっちょ前に怒ってんのか?一生懸命になってねー癖に、怒る気持ちだけはあんのかよ?』
『お、俺だって!自分なりにっ!』
『だとしたら、テメーの一生懸命さの底が知れてんな』
ラウダシオンは踵を返す。そして、去り際に。
『覚えとけ。良い子ちゃんのオメーでいる限り、オメーはこの先一生勝てねー。この先のレースで勝ちたいんだったら、
それだけ言って。ラウダシオンは俺の前から立ち去った。
(どういう意味だよ?なんだよ、俺の一生懸命さの底が知れてるって。それに……)
自分の本能を、無理矢理抑えつけるな?一体、どういうことなんだよ?
俺の疑問に答えてくれる相手はいない。いまだに意気消沈している滝村さんを背に乗せて、俺はコースから去っていった。
嫌なフラグを回収しちゃったなぁ……。