熱狂に包まれている東京レース場。
《最後の直線残り100m!コントレイルとヴァーディクトデイが並んでいる!コントレイルとヴァーディクトデイ並んだまま!並んだままで両者一歩も譲らない!お互い全く譲らない!どっちが抜け出すか!?どっちに軍配が上がるのか!?》
《いけっ!いけっ!いけぇぇぇぇっ!》
《さぁ並んだまま残り50!最早後ろのウマ娘は追いつけないその差は3バ身!どっちだ!?どっちだ!どっちだぁぁぁぁぁ!?》
残り100mで、先頭の2人は熾烈な争いを繰り広げている。
「頑張れぇぇぇぇ、コントレイルゥゥゥゥ!三冠ウマ娘の意地を見せろぉぉぉぉ!」
「勝てぇぇぇぇ、ヴァーディィィィィ!凱旋門賞ウマ娘の力だぁぁぁぁ!」
デアリングタクト達も、クロノジェネシス達も固唾を飲んで見守る。お互いに一歩も譲らない意地の勝負、その行く末を。
ディープインパクト達も同じだ。最早応援の声すら忘れて、身を乗り出して応援している。レース前あれほど騒がしかったバティスタも、気づけばレースに熱中していた。
そして、決着の瞬間が訪れる。
《全く並んだまま!全く並んだままでゴールイン!コントレイルとヴァーディクトデイ、全く並んだままでゴール板を駆け抜けた!どちらに軍配が上がったのか!?どちらが先に抜け出したのか!結果は、結果はッ!?》
《こ、これは……ッ!》
勝敗は──
《し、
写真判定となった。
◇
どこまでオーバーランしたか分からない。ただ、気づいたら止まって……ターフの上に寝ころんでいた。
「ハァ……ハァ……、ハァ……ッ!」
息が苦しい。もう一歩も動けねぇ。そんぐらい死力を尽くした。
もう二度とやりたくねぇって気持ちと、また同じくらい熱い勝負をしたいって気持ちがぶつかり合う。我ながらどっちだよ、ってツッコミを入れながら、このレースに思いを馳せる。
(俺にとっての後悔……前世からの心残り。本当に、本当に……っ)
「最高の形で叶ってくれたじゃねぇか……!」
お互いに全力を尽くした勝負。俺が、コントレイルとずっとしたかったレース。前世では終ぞ叶わなかったレースがついに、実現した。やべ、涙出てきそう。
でも、泣くわけにはいかない。まだ結果を見ていないのだから。なんとか視線だけ電光掲示板に向けて──目を見開く。
「写真判定……か」
つまりはまぁ、全くの互角ってことだったんだろう。俺の全力とコントレイルの全力、写真判定になるぐらいの勝負だった。後は結果待ち、か。
それにしても、ターフの上で寝っ転がるの気持ちいいな。下手したらこのまま寝ちまいそうだ。
(この後ライブもあるんだよな~。ま、なんとかなるだろ)
楽観視しながら結果を待つ。そんな俺の視界に、誰かが映り込んできた。その主は。
「……コントレイルか」
「や、ヴァーディ君」
アイツも全力だった。俺の方に倒れ込んで……あの、俺の上に乗るな。重いだろうが。
「僕は重くありませ~ん」
「重いんだよ普通に……まぁいいけどさ」
コントレイルはぶつくさ文句垂れながらも、最終的には俺の隣に寝転んだ。お互いに空を見上げる。
「ねぇ、ヴァーディ君」
「なんだよ、コントレイル」
アイツを横目に見やると、笑っているような表情が見えた。心底楽しそうな、子供のような笑顔で笑っているような気がした。
「──すっごく、楽しい勝負だったね」
その言葉に、俺も
「あぁ──最高に楽しい勝負だった」
子供のように笑って答えた。
周りでは悔しがるような声が聞こえる。負けたウマ娘達だろう。下手したら、俺もあそこに加わることになるんだが……そうはならない気がする。
(そりゃあ負けたら悔しいし、今度こそは!ってなる。だけどそれ以上に……)
「満足感が凄いよね。何度でもこのレースをしたいってぐらいには」
言おうとした台詞をコントレイルに取られた。ちくせう。
「満足感は同意するが、何度でもってのは勘弁だ。めっちゃ疲れるし」
「えぇ~?ヴァーディ君は嫌なの?」
「……嫌じゃないけど」
なんというか、コイツと他愛無い会話をする日が来るとはな。なんだかんだ、前世ではあの大阪杯以降一度も会ってない。こっちで出会った時も、こんな会話はしてなかった気がする。
つか、写真判定なげぇな。もう10分以上経ったぞ?どんだけ待たせんだよ。ただ、なんとなく結果は分かっている。
(どっちが勝ったのか……一緒に走った俺達が、一番よく分かっている)
コントレイルも同じ気持ちなんだろう。気づけば俺の隣で寝転ぶのを止めて、俺に覆いかぶさってきた。
お互いの目と目があう。
「ねぇ、ヴァーディ君」
「なんだ?コントレイル」
俺とコントレイル、同時に口を開く。
「次は負けないよ」「次も俺が勝つ」
そう口を開いたのと同時、電光掲示板で結果が出たらしい。周りの歓声が一際大きくなった。
《今結果が出ました!結果は──ヴァーディクトデイ!ヴァーディクトデイだ!ジャパンカップを見事に制したのはヴァーディクトデイ!日本初の凱旋門賞ウマ娘が、ライバルとの激闘を制して!ジャパンカップを制したぁぁぁぁ!》
《その差はなんと3cm!僅か3cmの差で!ヴァーディクトデイが勝利を手繰り寄せました!いや……凄い、本当に凄いレースでしたよ!》
《漆黒の撃墜王が!飛行機雲を撃墜した!漆黒の撃墜王が、この舞台で世界一を証明しました!これが日本が誇る【世界の撃墜王】!ヴァーディクトデイだぁぁぁぁ!》
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
周りから俺の勝利を祝福する声が響き渡る。ジェネ先輩の声とか、エフの声とかペリの声とかも聞こえる。ウマ娘の耳は良いんでね。
さて、俺もそろそろ立ち上がって……?
「おい、コントレイル」
「なにかな?ヴァーディ君」
ニコニコしてんじゃねぇよお前は。
「さっさと離せ。起き上がれないだろ」
「……フッフッフ」
なんだそのあくどい笑みは?おい、おい!?俺になにする気だお前!?
(てか力強っ!?俺の方がパワーは上だろ!?)
疲労を加味しても俺の方が上のはずなのに全く動かせん!こ、これが地の利ってヤツか!?
「あぁ、悔しいなぁ……悔しいなぁ……!ヴァーディ君に負けちゃったなぁ!」
「分かったから離せや!いやー!誰か、誰かー!?」
このままじゃコントレイルに押し倒されたままなんだけど!?ゴメン被るぞそんなこと!
「離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その後、十数分の格闘の末何とかコントレイルを力ずくで振りほどいた。去り際にアイツに涙が見えたが……アイツも悔しかったんだろう。
(だとしても俺を押し倒す意味はなんだよ!?)
納得はできないが。
控室に戻ると、ジェネ先輩達からの手厚い歓迎を受けた。
「おめでとう゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!ヴァーディィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!」
「ちょ!涙拭いてくださいよジェネ先輩!?」
「おめでとうヴァーディ。あなたの勝利を確信していたわ」
「アイ先輩、さっきまで気が気でなかったし結果が出た瞬間泣いてたんじゃ「お黙りなさいエフフォーリア」ハイ」
みんなが俺の勝利を祝福してくれる。
「よくやったわね、ヴァーディ。屈みなさい?頭を撫でてあげる」
「いや、ドンナ先輩さすがに……」
「あら?ワタクシの言うことが聞けないのかしら?」
大人しく座る。よろしい、の言葉と共にドンナ姉さんから頭を撫でられた。うん、気持ちいんだが……周りの視線が痛い。
「あぁ、ヴァーディ様……!私は信じておりました!ヴァーディ様なら必ずや勝利すると!」
「『フン!凄いなヴァーディ!今度わたしちゃんとも勝負しろ!』」
「『凄かったです、ヴァーディお姉さま……!』」
「あぁ、『ありがとよエネさんにベル。後バディはまた今度な』」
本当に色んな人が来てんな。フランケルさんも来てるし。
「『良いレースだった!オレとも走ろう!そしてこっちのトレセン学園に来い!』」
「『いや無理ですって……ナサニエルさんもなんとか』」
「『悪いようにはしない。フランケルの右腕という立場も用意しよう。どうだ、ヴァーディ?一考の余地はあると思うが』」
「『アンタまでそっち側に回らないでくださいよ!?』」
誰がフランケルさんの暴走止めるんだよ!
ドンナ姉さんは頭を撫でるのを止めると、控室を退出する。
「コントレイルも慰めに行かないと、ね。ディープインパクト会長が先に向かっているから」
コントレイルの控室に行くらしい。どうだったのかは……聞かない方が良いな。
そして最後。海藤さんが控室に来た。
「ヴァーディ」
「バディ」
真っ直ぐに見据えて、海藤さんは──静かに微笑んだ。
「おめでとうヴァーディ。よく頑張ったね」
その言葉に、俺も笑顔で。
「あぁ、超がんばったぜ!」
そう、答えた。
俺が抱いていた前世からの後悔。その後悔は完全に無くなって、俺が望んでいたものは──ここで叶ったんだ。
◇
──ジャパンカップの激闘から、かなりの時間が経った。
俺はあの後欧州遠征を敢行。ここは前世通りだな。またエネイブルさんのところで世話になった。
「『ヴァーディ様ならいつでも歓迎です!』」
そう言ってくれて本当に嬉しいし、ありがたいと思ったよ。
ただ、レースのローテは少し違う。欧州遠征初戦はガネー賞。ここを11バ身差で快勝。その後もプリンスオブウェールズを8バ身差、エクリプスステークスを11バ身差+レースレコードのおまけつき、キングジョージを18バ身差とレースレコードでの勝利を収めた。
この圧勝っぷりに日本人のテンションは爆上がり、欧州ではドン引きされた。なんでだよ。
「『凄いねぇヴァーディ。んじゃ、またオレと走ろう!』」
「『あんた俺がこっちに来てからほぼ毎日併走してるじゃないですか!?いい加減にしてくださいよ!』」
「『諦めろヴァーディ。そいつはお前を気に入った。一生離さんと思うぞ?』」
「『俺最終的には日本に帰るのに!?』」
これもう帰る時が心配なんだけど。
その後凱旋門賞へと出走。小雨が降る中、俺は最後方からの追い込み勝ちを収めた。
「やっぱりヴァーディくんは凄いなぁ。ぼくなんてついてくだけでいっぱいいっぱいだよぉ」
「ふっふ~ん!まぁな!」
これで凱旋門賞二連覇。エネさんと同じになった。この事でエネさんがジェネ先輩達にマウントを取って、俺がいたたまれなくなったのはここだけの話。
後はまぁ、パンちゃんもドバイターフを勝って凄い喜んでた。チームで初のG1勝利だったから、もう大騒ぎだったらしい。
「ターボ師匠やヴァーディ達の応援で勝てたぞ~!」
そんなパンちゃんはもみくちゃにされていた。チームのみんなで喜びを分かち合ってたな。
ラーシーやサリオスなんかも自分達の道を見つけることができたらしい。
「ま、これからもよろしく頼むぜ?」
「私も負けてられないからね!」
そんなメッセージを貰った。
前世と同じ欧州遠征。だけど、前世とは明確に違う欧州遠征。あの時は空しい気持ちを抱いたままだったけど、
(だって、俺は……)
アイツとの勝負ができたんだから。
舞台はアメリカ。キーンランドレース場。
「「「わあああぁぁぁ!!」」」
今ここは熱狂の渦に包まれている。そう、今回ここで開催されているレースは──アメリカレースの祭典、ブリーダーズカップ。そして俺は、そのブリーダーズカップのターフに出走する。
(そしてここには、
ターフへと足を運び、歓声に包まれながら姿を現す俺。
「待ってたぞぉぉぉ、撃墜王ー!」
「その末脚を今日も見せてくれよー!」
「ヴァーディクトデイ様ー!抱いてー!」
最後のはよく分からんが、まぁいい。俺は辺りを見渡して……目的のウマ娘を発見する。
そいつのとこへと近づく。向こうも俺に気づいたようだ。不敵な笑みを浮かべて、俺を見る。
「さぁて──勝負だよ?ヴァーディ君」
「ハッ──相変わらずだな、コントレイル」
ジャパンカップで激闘を繰り広げたコントレイル。彼女もまた、BCターフに出走するのだ。
コイツとの対戦も久しい。そして、それだけじゃない。
「『おいおい、ヴァーディ。私を忘れてくれるなよ?』」
このBCターフには、
「『忘れてねぇよ──バー君』」
バーイード。欧州のマイル路線ですさまじい強さを発揮した、欧州のウマ娘。10ハロン以下ならバーイード、10ハロン以上なら俺、なんて欧州では言われていた。無論、相手にしたくないという意味で。ちなみに、俺とバー君、後フライトラインことフラ君で世界三強なんて呼ばれているらしい。あんま詳しくは知らんけど。
このBCターフは超・豪華メンバーだ。世界三強の内の2人、そしてその2人に匹敵するコントレイルの三つ巴決戦、なんて言われている。
各自ウォーミングアップを済ませてゲートインの準備を済ませる。ゲートに入って、出走の時を待った。
《さぁさぁ!まだまだボルテージ上げてけよお前ら!次はBCターフ、【撃墜王】ヴァーディクトデイにその最大のライバル【衝撃の後継者】コントレイル!そして10ハロン以下最強のバーイードが出走だぁぁぁ!豪華メンバーのBCターフ、誰が勝つのか全く分からねぇぜ!全ウマ娘がゲートに入った!出走は間もなくだ!》
さぁて、今日も──
《今ッ、ゲートが開いた!BCターフの開幕だぁぁぁぁ!》
「「「わあああぁぁぁ!!」」」
ぶち抜いていくぜ!
あとがきは活動報告にて。