つい先日、種牡馬を引退したヴァーディクトデイ。今後は日本へと戻り、生まれ故郷である有北ファームで功労馬として過ごすことが決まっている。
そんな中で、我々はある特集を組むことにした。その特集というのが──ヴァーディクトデイの産駒についての記事である。
「初年度からG1馬を輩出しましたからねぇ……しかも毎年出てるし」
凱旋門賞で騎乗し、現役最終年で主戦騎手を務めた鷹元騎手。
「それ言うなら、2年目で三冠馬輩出してますよ?ヴァーディ。大種牡馬ですよ大種牡馬」
主にクラシックの後半で騎乗した金添元騎手。
「ただ……産駒が揃いも揃って気性が。おかげで海藤さん凄い苦労してましたし」
呆れた表情を見せるのはデビューからクラシックの前半まで騎乗した滝村元騎手である。他にもロメール元騎手に増永調教師にも集まってもらった。
──本日はよろしくお願いします
「はい、こちらこそ」
早速、質問を始めていくことにした。
──ヴァーディクトデイの産駒で一番印象に残っている産駒は?
「俺はやっぱバティスタだなぁ。インパクトがデカすぎるもの……色んな意味で」
先陣を切ったのは鷹。英国で半世紀ぶりに誕生した三冠馬であり、長らく破られなかったセントレジャーの勝ち馬は凱旋門賞を勝てないというジンクスを粉砕した馬である。ただ、気性がかなり荒くデビュー戦で騎手を振り落としたのはあまりにも有名な話だ。そんなバティスタも種牡馬としては上澄みも上澄みであり、早々にG1馬を輩出したのは記憶に新しい。
「確かにあれはインパクトがネ。個人的にはイギリスのデュートリオンかナぁ?血統が凄いし、実力も申し分ないしネ」
ロメールが挙げたのはこれまた英国のデュートリオン。英ダービーを無敗で制し、主に2400m以上で猛威を振るった名馬だ。獲ったG1は9つであり、英ダービーで見せた大差勝ちは人々の記憶に焼き付いた。
そんなデュートリオンの母父は──バーイード。かつて同じ時代で競馬界を沸かせた2頭の血を受け継ぐデュートリオンは、その実力をいかんなく発揮した。
「俺は……やっぱクロノパラドックスですね。後はブラックサレナ。どっちもお手馬だったし、それにクロノジェネシスとの子だったから。凄く印象に残ってるよ」
滝村の印象に残っているのはクロノパラドックスとブラックサレナの2頭。クロノパラドックスは春の天皇賞を優勝したものの、その後は屈腱炎で引退。種牡馬としての成績はお世辞にも良いと言えなかった。しかし、熱心なファンがいたため、今も元気に過ごしていると呟きアプリで報告されている。
ブラックサレナはヴァーディクトデイとクロノジェネシスの2回目の交配で生まれた子だ。主に長距離で強さを発揮し、菊花賞を8馬身差で圧勝。春の天皇賞をコントレイル産駒との激闘を制して見事勝利を勝ち取った。その後はオーストラリアに遠征しメルボルンカップを優勝。ただ、血統が長距離に向いているためかあまり需要がなかった。それでも種牡馬となり、それなりの成績を残していた。
「僕はアメリカのファラウェイスターですね!いや~、ヴァーディの産駒にしては珍しく大人しかったな~。それに可愛い奴でしたし!」
「……自分が乗せてもらったからって」
「滝村君も一緒でしょうが!」
金添が推薦したのはアメリカのファラウェイスター。母父がミスタープロスペクターで母も重賞馬を輩出している名牝。その期待に応えるようにファラウェイスターはケンタッキーダービーを制した。ただ、他のクラシック二冠は取りこぼし、クラシック時のBCクラシックは敗れるものの翌年にリベンジ。その時に金添が騎乗していた。
──ヴァーディクトデイが先日種牡馬を引退しました。みなさんの所感は?
「「「ヤバい」」」
即答。全員一致でヤバい評価である。もっとも、インタビューしている我々も同じことを思っているのだが。
「いや、ヤバいでしょあれは。なに?今んとこ毎年G1勝ってるじゃん」
「大種牡馬だヨ大種牡馬。サンデーとかディープに匹敵してるヨ、モウ」
「今記録抜きそうなんだったっけ?いや……本当にヤバいね」
「まぁ問題は海外の記録なんですけどね」
ヴァーディクトデイの産駒はそのほとんどが海外。日本で走る産駒もそれなりにいるが、成績はボチボチである。
「確か、英ダービーを制した馬6頭とかでしょ?どうなってんの本当に」
「恐ろしいネ」
「これからまだまだ増えるのか……ディープを超えるんじゃないか?」
「もうその段階まで来てるのが恐ろしいですよ俺は」
種牡馬成績でも圧倒的なヴァーディクトデイ。ブラックタイドのサイアーラインをキタサンブラックと一緒に支えていた。
「日本のキタサンブラックに海外のヴァーディクトデイ……ブラックタイドも安泰だな」
「そうですね、鷹さん」
次の質問に移る。
──ヴァーディクトデイの産駒で乗ってみたい馬は?
「ボクはさっきも挙げたけどデュートリオンかナ。あの馬は凄く印象的だったカラ」
「僕はクロノパラドックスに乗りたかったんですけどねぇ……」
言いながら滝村の方を見る金添。滝村は睨み返す。
「ぜっっっったいに譲りません!」
「……まぁこういうわけなので。乗りたかった馬はベルフラムかな?……いや、止めた方が良いかもしれない。かなりのじゃじゃ馬だし」
身震いしながら答える金添。ベルフラムはバティスタの妹なのだが、こちらもま~気性が悪かった。兄よりマシとはいえ。
「俺は……ベルビゴートかな?ほら、エネイブルとヴァーディの3番仔」
「あ~あの子」
バティスタとベルフラムの活躍により、エネイブルとヴァーディクトデイの交配は3度目が試された。その3番仔がベルビゴートである。こちらは中々勝ちきれない日が続いたが、クラシックの凱旋門賞で覚醒。凱旋門賞二連覇を飾り、キングジョージを制した。他にも多くのG1を制している。
「いや~、英ダービーもそうですけど、ヴァーディとエネイブル配合ヤバすぎません?」
「あの一家だけで凱旋門賞10勝してるネ」
「……アトミックフライトももう少しだったんだけどなぁ」
ちなみに、ベルフラムに負けたアトミックフライトに騎乗していたのが滝村だったりする。なのでベルフラムにはあまり良い思い出のない滝村だった。
「ちなみに、滝村君はいないの?乗りたかった馬」
「俺はクロノパラドックスとブラックサレナに乗れただけでもう十分なので」
堂々とそう答える滝村だった。
──ヴァーディクトデイのサイアーラインは繋がりそうですね
「そうだねぇ……やっぱり嬉しいよ。僕にとって凄く思い出深い馬だから」
「俺が欲しかった凱旋門賞にタイトルだけじゃなく、キングジョージにプリンスオブウェールズも勝たせてくれたからな。本当に凄い馬だ」
「今後が楽しみダネ。ヴァーディクトデイの孫世代にも」
「コントレイルの牝馬とヴァーディクトデイの息子が繋がる可能性……」
ぼそっとそう呟く滝村。しかし全員からツッコミを食らう。
「全兄弟クロスは止めとけ。まだ早い」
「分かってますよ。ただ……誰かがやりかねない気がするのが」
「……可能性が0じゃないのがなんともネ。ジェンティルドンナにつけようとした人いたシ」
「全兄弟の2×2はヤバいでしょ」
なおその配合は実現しなかったことをここに記しておく。というか実現したらさすがにヤバい。
──この後ヴァーディクトデイに会うらしいですが?
そう質問した時、全員が嬉しそうな表情を浮かべた。
「そうそう!いや~久しぶりに会うんだよなぁヴァーディ!」
「シャドモンドで種牡馬してる時に会いに行った以来か?本当に久しぶりだ」
「ボクなんて会ったことがないモノ!とても楽しみサ!」
「楽しみだな~ヴァーディに会うの!」
どうやらとても楽しみにしているようである。
──ヴァーディクトデイ産駒の特徴は?
少し考え込む鷹達。最初に答えたのは滝村である。
「パワーでしょうね。地面を踏み込む力が凄く強くて。それが爆発的な加速を生んでいるんだと思います」
それに賛同するように、鷹が答える。
「後スピードだ。スピードが総じて高い。目を見張るほどだ」
「ダネ。スピードとパワー、これが産駒の特徴カナ?後は中距離以上が多いネ。稀にスプリンターが生まれるけド、ほとんどが中距離馬ダヨ」
「割と自由がききやすいですよね、ダート馬もいますし。ただ、スタミナがちょっと少ないかな?その辺は母馬で補うのが良いかもしれない」
ヴァーディクトデイの産駒は総じて中距離以上で強かった。短距離で結果を残した母ウィンクスのナインボールセラフにダートを蹂躙した母ソングバードのベルガモットがいるが、ほとんどが中距離以上で結果を残した。また、欧州では特に強いのも産駒の特徴だった。
それから質問はほどほどに。我々は本命へと行くことにした。
──それでは、ヴァーディクトデイに会いにいきましょう
「いやぁ、本当に楽しみだ。アイツまたデカくなってたりして」
「そりゃデカくはなってるだろ。なんにせよ楽しみなのは間違いない」
「……ワンチャン乗れたりしないカナ?」
「歳を考えてくださいロメールさん」
我々はヴァーディクトデイに会いに行く。全員それなりに歳をとっているのに、ヴァーディクトデイと久しぶりに会って大はしゃぎしていた。元々人懐っこいヴァーディクトデイは暴れることなく、鷹達とじゃれ合う。楽しいふれあいの時間が流れていた。
後日。このインタビューを基にした記事を作成。閲覧数も本も大ヒットとなった。と
騎手達から愛されヴァーディ。久しぶりに会ってめっちゃ老けてる!?とヴァーディは思っていたことでしょう。