拝啓、父さん母さん。いかがお過ごしでしょうか?私、エフフォーリアは学友にも恵まれて学園で楽しい日々を過ごしています。ペリファーニアも、どうやら学友に恵まれたみたいです。この前他の子と楽しそうに談笑しているのを見かけました。楽しく過ごせているようで姉として嬉しい限りです。
さて、母さんが気になると言えばやはりヴァーディクトデイ姉さんのことでしょう。姉さんは今──
「さて、なにか弁明はあるかしら?ヴァーディ」
「酷いよヴァーディ!ボクというものがありながら、裏でこんなことしてたなんて!」
「ボクというものがありながらってなによアレグリア!……それはとにかく!このことについてちゃんと説明してヴァーディ!」
「まずは俺のこの状況について説明欲しいんですけど!?」
アーモンドアイ先輩達に簀巻きにされて木に吊るされています。今度は何をやったんだろう姉さん。多分、なんもやってないだろうけど。
その様子を見て、私の友達であるシャフ──シャフリヤールが狼狽えていた。
「おいエフ!お前の姉が大変な目に遭っているぞ!早く助けに」
「待って、シャフ。まだ時期尚早だよ」
私の言葉にタイホ──タイトルホルダーが焦った様子を見せる。
「でもエフ!君のお姉さんが大変な目に遭ってるんだよ!?」
「だけど、まずは姉さんが何をやったのかを聞かないといけない。助けるのはそれからでも遅くはない」
姉さんの場合、本当に何かやってしまった可能性があるから。その可能性があるので下手に助けに行けない。被害を被るのはこっちだから。
とりあえず私達は隠れて様子を窺う。アーモンドアイ先輩達の言葉を聞き逃さないように。
「残念だわヴァーディ。あなたは自分の罪が分からないのね」
「そりゃプボちゃんと話してたところを急に拉致されたんですから分かるはずもないでしょうが!?」
「もうこれは許されないことだよ!浮気だよ浮気!」
「だから一体全体何の話ですかアレグリア先輩!?」
「これを見なさい!ヴァーディ!」
クロノジェネシス先輩が取り出したものは……良く見えない。けど、なんか便箋っぽい?
「それは!……誰宛ての手紙です?」
あ、やっぱり手紙なんだ。ただ姉さんは良く分かっていないようだ。
「これは偶然拾った手紙よ。本来ならば生徒会室か寮長に届けるのが筋だけど」
「そうもいかない事情があるんだよ!これ、ヴァーディ君に宛てられたやつなんだから!」
「あ、それ俺宛なんですね。となると……」
「問題はこの差出人のとこ!」
生憎と私達には見えない。だけど、それで憤慨するということは。
「なんだ?ヴァーディ先輩は文通をする知り合いがいるのか?」
「どうだろう?まず、どこの人か分からないから何とも言えない」
「もしかして、海外の人だったり?」
心当たりについて色々考えるけど、その間にも姉さんに対する詰問は進んでいた。
「これ!差出人がウマ娘!しかも海外の!」
「まぁそうですね。あの人は……」
「
「ボク達に内緒で、文通している相手がいたってこと!?」
「内緒っていうか……別に話すことでもないかなって思って話さなかっただけですけど」
「まぁそれはいいよヴァーディ。文通ぐらいは別に。だけど!」
便箋を指差しながらクロノジェネシス先輩は吠える。
「なに!?【愛しのヴァーディクトデイ様へ♡】って!そういう仲だってこと!?」
「しかもしかも!ご丁寧にたくさんハートマークが書いてあるし!」
「いや、それぐらい普通のことじゃないです?手紙にハートマークぐらい誰だって書くと思いますけど。それにいつものことですし」
「姉さん、さすがに普通じゃないよそれは」
「前々から思っていたが、お前の姉どこかズレてないか?」
シャフの言葉に私は何も言えない。だって本当のことだし。
「
「そうですけど……なんか問題でもありました?」
アーモンドアイ先輩達は顔を見合わせる。そして、絶対零度の瞳で姉さんを見て。
「「「ギルティ」」」
「なんでですか!?誰かー!誰か助けてー!ヘループ、ヘルプミー!?」
ギルティ宣言をした。うん、この辺で介入しておこう。姉さん悪くない可能性が出てきたし。
「今助けるよ、姉さん」
「え、エフ~!」
姉さんは救世主を見るような目で私を見る。悪い気分じゃない。ただ、アーモンドアイ先輩達の厳しい視線が私に向いていた。
「エフフォーリア、何の用かしら?」
「姉さんを助けようと思いまして」
「ダメだよ!ヴァーディ君にはもっともっと問い詰めなきゃいけないことがあるんだから!この手紙の差出人のこととか!」
アレグリア先輩はそう言うが。
「確かに気になりますけど、普通に聞けばいいんじゃないでしょうか?」
「そうだ。簀巻きにする必要はあるまい先輩方」
「う~ん……でも、ゴールドシップ先輩が話を聞くならこれが一番良いって言ってたから」
「ゴールドシップ先輩が元凶なんですか!?」
「まぁとりあえず解きましょうか。悪かったわねヴァーディ」
アーモンドアイ先輩は簀巻きにしていた姉さんの縄を解いた。
「た、助かった……」
ただ、ここからだろう。
「それでヴァーディ君!この女は誰なの!?ボクに隠れて浮気!?」
「そうだよヴァーディ!この子は誰!?どういう仲なの!?後アレグリアは寝言ほざかないで!」
「キリキリ吐きなさいヴァーディ。それがあなたのためよ」
「アレグリア先輩達とヴァーディ先輩はそういう仲なのか?」
「いや、そんな話聞いたことないけど……」
シャフ、タイホ。その疑問は間違ってないよ。というか姉さんにそういう相手はいないから。
「え、え~っと」
「言えないのかしら?もしかして、後ろめたいことでもあるの?」
「ほ、本当に浮気なの?」
「そんな……信じてたのに!ヴァーディ!」
というか、そもそもの話。
「少しいいですか?先輩方」
「何かしら?エフフォーリア」
「別に先輩方は姉さんと付き合っているわけじゃないんだから、姉さんに好きな相手がいたとしても先輩方には関係ないのでは?」
「「グハァ!?」」
「浮気と言いますけど、そもそも付き合ってもいないから浮気も何もないと思います」
「「ゲホォ!?」」
「後、こんなことしてると姉さんに嫌われますよ?」
「「……」」
「それに」
「止めろエフ!?それ以上はオーバーキルだ!」
「この惨状を見てよエフ!もう先輩達死に体だよ!?」
「お前もお前で言葉のナイフがえげつねぇなエフ!?」
諸々思っていたことをぶちまけたら慌てた様子の姉さん達に止められた。別にそんなつもりはなかったんだけどな。
「うぅ……ヴァーディに嫌われたら生きていけないよぉ……」
「だ、大丈夫ですジェネ先輩!これぐらいで嫌いになったりしないんで!」
「ほ、本当?ヴァーディ君」
「本当ですアレグリア先輩!だから安心してください!」
姉さんはクロノジェネシス先輩達を必死に介抱している。うん、やっぱり姉さんは優しいな。
「まぁ、私は何の心配もしていないけどね」
「アーモンドアイ先輩、そんな生まれたての小鹿みたいに足を震わせながら言っても説得力ありませんよ」
アーモンドアイ先輩も大分ダメージを受けたみたいだ。
それからしばらく。姉さんは便箋を受け取って中身を確認する。手紙を読んでいくうちに、姉さんは顔を綻ばせていった。
「うん、やっぱりあの人達か!元気にやってるみたいだ!」
「「「あの人達?」」」
「あぁ、向こう──欧州のトレセン学園の短期留学でお世話になったウマ娘さんだ!」
そういうことか。でも、手紙にハートマークがあるのはどういうことなんだろう?
「では、手紙にハートマークがあるのは?」
「あぁそのことかシャフ。これいつものことだからあんまり気にしたことないんだよ」
「いつものこと……つまり、定型文みたいなもの?」
「そういうことですアレグリア先輩。向こうも深い意味はないと思いますよ」
姉さんの言葉にアレグリア先輩達は胸をホッと撫でおろしていた。不安要素が消え去って一安心といったところだろう。
「姉さん、私も手紙読んでもいい?」
「いいぞエフ。ほら」
姉さんが手紙を渡してくれたので私は受け取る。他のみんなも興味があったのか手紙を覗き込んできた。
「え~っと……さすがに読めない」
そりゃそうだ。英語で書かれているし。
「どれ、余に貸してみろエフ」
「読めるのシャフ君?」
「それなりに。ところどころ怪しいところがあるやもしれんが」
シャフの翻訳のもと、手紙を読んでいく。
拝啓ヴァーディクトデイ様
あなた様はいかがお過ごしでしょうか?私はあなた様がいなくなってからとても寂しい日々を過ごしております。あなたはいつこちらに来てくれるでしょう?いつ私との愛を育んでくれるのでしょう?そう思う日々です。ですがあまりワガママを申してあなたを困らせるのは本意ではありません。なのであなた様がくれたあなた様を模した人形で寂しさを紛らわせながら日々を過ごしております。
ちょっと待って。出だしから大分怪しいんだけど。
「ねぇ本当にあってるのシャフ?」
「合っているはずだが……」
シャフも大分険しい表情をしている。私だって読めたら同じような表情をしてたよ。断言できる。
さて、この前あなた様に送りました香水は使っておりますでしょうか?あれは私も使っている香水でして、とても気に入っている匂いなのです。私があなた様と会った時、とても良い匂いだと言ってくれましたね?なのであなた様もきっと気に入ってくれると思い、同様のものを送りました。あなた様から私と同じ匂い。これはもう夫婦と言っても過言ではないと思います。
「「過言だよ!」」
グランアレグリア先輩とクロノジェネシス先輩のツッコミ。うん、私もそう思う。
それからも姉さんに対する愛の言葉が綴られていた。それはもう凄い量の。
最後になりますが、私はあなた様がこちらに来る日をとても楽しみにしております。また、あなた様に会える日を願って
手紙はそう締められていた。シャフは、うん。とても疲れた表情をしている。翻訳、凄く頑張ってくれたから。
「あ、ありがとうヴァーディ先輩……」
「おう、シャフ。いや~いつも通り元気そうだなぁあの人!うんうん、元気なのは良いことだ!」
満面の笑顔の姉さん。タイホ達は信じられないものを見るような目つきで姉さんを見ている。その気持ちは凄く分かるよ。私だって同じ気持ちだから。
「というかいつも通り!?いつもこんな手紙貰ってんのヴァーディ先輩!?」
「らしいね」
「お前の姉はどうなっておるのだエフ……」
私にも分からない。姉さんって変なとこで鈍感だし。
「海の向こうの知らないウマ娘が気の毒になって来たわね」
アーモンドアイ先輩の声。私もそう思う。
「ち、ちなみに。ヴァーディ君は向こうに行く予定はあるの?」
グランアレグリア先輩の不安そうな声。けど姉さんはあっけらかんとしていた。
「いや、ないですけど。俺はこっちのトレセン学園から出ていく気はないですよ」
「ッ!そ、そうだよねヴァーディ!ヴァーディはこっちのトレセン学園が良いんだもんね!?」
「どうしたんですかジェネ先輩。まぁそりゃそうですけど。とりあえず向こうに移住する予定はないですよ」
姉さんは軽い調子でそう答えた。対称的に、グランアレグリア先輩とクロノジェネシス先輩は心底安心したような感じだけど。
とりあえず、今回分かったことは。
(姉さんは向こうでもトラブルに巻き込まれてたんだろうな)
そう思わずにはいられなかった。
「ところでドンナちゃん」
「どうされましたか?ディープ会長」
「ヴァーディ宛に来る手紙、君が毎回検閲してるけどさ。良いの?あれは」
ディープインパクトは心配するような声色でジェンティルドンナに問いかける。一方、ジェンティルドンナは分からないといった表情を浮かべていた。
「良いの、とは?どういうことでしょうか?」
「言葉通りの意味だよ。私も1回見たことあるけどさ……あれ、凄くない?」
げんなりした表情のディープインパクト。だが、ジェンティルドンナは薄く笑う。
「なんだ、そんなことでしたか」
「そんなこと?そんなことで済ませられるかな?あれは」
「えぇ。だって……」
ジェンティルドンナは高らかに宣言した。
「ヴァーディが途中で誰を愛そうが構いません!最終的に、ワタクシのもとに来てくださればいいんですから!」
「君どこの〇王?」
ディープインパクトは、どこぞの世紀末覇者のような言葉を言う副会長に呆れた視線を向けていた。
文通相手の愛が重い。