飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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毎日王冠後の陣営とヴァーディ。


毎日王冠後・次走に向けて

 毎日王冠も無事に終わって。ヴァーディは今度秋の天皇賞に出走する。宝塚記念と同様の古馬混合戦。宝塚記念でヴァーディが負けたクロノジェネシスもそうだけど、一番厄介なのは……。

 

 

「アーモンドアイ、ですよねぇ」

 

 

「そ、そんな心配そうな声色で言わないでくださいよ金添さん」

 

 

「いや、だって、ねぇ?」

 

 

 金添さんの気持ちも分かるけども!

 アーモンドアイ。現役最強との呼び声も高い牝馬ですでにG1レースを7勝している。これは【皇帝】シンボリルドルフや【英雄】ディープインパクト、牝馬に限れば【女帝】ウオッカや【貴婦人】ジェンティルドンナに並ぶ勝利数だ。そして、この4頭と違うところは……アーモンドアイはいまだに現役でレースに出てるってとこ。この記録を超える可能性も十分にあるってことだ。

 そして厄介なのはこれだけじゃない。アーモンドアイといえば。

 

 

「府中の中距離で負けなし、ですもんねぇ」

 

 

「そこなんですよねぇ」

 

 

 アーモンドアイは府中の中距離で負けていない。しかも2400に関してはワールドレコード保持者だ。

 そして今回の秋の天皇賞は最強牝馬決定戦なんて呼ばれているらしい。理由はG1の8勝目、皇帝越えを目指すアーモンドアイと宝塚記念の覇者であるクロノジェネシスがぶつかるから。この2頭は対戦経験がない。どちらが上なのか気になるファンは多いだろう。この2頭以外にも春の天皇賞を連覇したフィエールマンや香港G1を2勝しているウインブライト、菊花賞を勝ったキセキもいる。宝塚記念の時と負けず劣らずのメンバーが揃っているのだ。

 そして、3歳馬で秋の天皇賞を制した馬はシンボリクリスエス以降出ていない。厳しい勝負になるだろう。

 ただまぁ。

 

 

「ぶっちゃけ負ける気はしませんけどね」

 

 

「そうですね。ヴァーディなら十分勝てます」

 

 

 心配こそしているがヴァーディなら勝てると思っているのは本当。毎日王冠はギリギリの勝利だったけど、金添さん的には手ごたえを感じる勝利だったらしい。

 

 

「傍から見たら俺達何を言ってるんだ?って話ですけどね」

 

 

「まー、G1を勝った経験のない馬でアーモンドアイとクロノジェネシスの2頭や天皇賞連覇のフィエールマンに勝とうっていうんですから。気が触れてると思われても仕方ないですよ」

 

 

 苦笑いする俺達。実際のとこ俺達の会話を他人に聞かれてたら何言ってんだお前状態なのは間違いない。だってヴァーディは好走こそしているもののG1を勝っていない。重賞こそ勝っているが、秋の天皇賞を勝てる馬か?って思われるほどの実績がないのだ。そんな馬があのアーモンドアイやクロノジェネシスに勝てるって言ってるんだから、気が触れていると思われていてもおかしくない会話だ。

 ……だけど。

 

 

「だからこそ、勝ちたいですよね。秋の天皇賞」

 

 

「はい。今度こそ、ヴァーディにG1を獲らせてやりたい」

 

 

 ヴァーディに限った話じゃないけど、馬を勝たせてあげたいという思いは一緒だ。だからこそ日々の体調管理は欠かせないし、サラブレッド達が万全な状態でレースを走れるように、勝てるように、怪我をしないように俺達はいるのだから。

 

 

「でも難易度が鬼すぎませんかね……」

 

 

「それは言わないお約束ですよ金添さん……」

 

 

 確かにそうだけども!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サリオスのヤツに勝ってきたぜ!』

 

 

『おー、おめでとさん』

 

 

 放牧中での出来事。ラーシーとのんびりしながらこの前のレースのことを話している。

 

 

『この調子でどでかいレースに勝って!そんでそんで!コントレイルにリベンジだ!』

 

 

 待ってろよコントレイル!今度走った時は俺がぶち抜いて勝ってやる!

 

 

『なぁオメーさ』

 

 

『あん?どうしたよラーシー?』

 

 

『なんでそんなにコントレイルってヤツを特別視してるわけ?』

 

 

『……おん?』

 

 

『いや、そんな不思議そうにされてもな。こっちが聞きてーよ』

 

 

 コントレイルを特別視する理由?そんなに特別視してたか?俺。

 

 

『そんなに特別視してたか?俺』

 

 

『してるしてる。めっちゃしてる。オメー、この前の併走なんかも、見てろよコントレイル!絶対お前に勝ってやるー!って意気込んでたじゃねーか』

 

 

『そうだっけか?』

 

 

『そうだよ』

 

 

 はて、自分ではそんなつもりはないのだが。

 

 

『そうだね、ヴァーディ君コントレイルって馬が絡むと凄くやる気出すよね。わたしとの併走も』

 

 

『あ、ジェネ先輩』

 

 

 ラーシーとの会話にジェネ先輩も入ってきた。ただ、心なしか機嫌悪そう?どうしたんだろ?

 

 

『コントレイルには負けないとか、もう一度勝負だーとか。寝言でも言うくらいだもん』

 

 

『そうなの!?』

 

 

 というか馬でも寝言ってあるんだ。初耳。

 

 

『……ちなみにそのコントレイルって馬は女の子?男の子?』

 

 

『俺らと一緒で男ですよクロノジェネシス先輩』

 

 

『……ならよしっ!』

 

 

 何が良しなんだろうか?良く分からん。

 

 

『負けた馬ってくくりなら俺とクロノジェネシス先輩もそうだろ。なんでコントレイルだけ特別視してんだオメーは?』

 

 

『そうだね。わたしも気になる!』

 

 

『う~ん……』

 

 

 アイツを特別視する理由、か。

 

 

『俺、公式のレースで初めて負けたのってコントレイルなんですよ』

 

 

『あーそうだな。どでかいレース、皐月賞だっけか?』

 

 

『そうそう。そこで初めてコントレイルに負けてさ、だからちょっと印象深く残ってるのかもしれねぇな』

 

 

『え~?でもそれだったらわたしはヴァーディ君を併走でいっぱい負かしてるよ?』

 

 

『グハァ!?』

 

 

 唐突な鋭いボディーブローが!

 

 

『ヴァーディ君!?どうしたの!?』

 

 

『えげつねーこと言いますねクロノジェネシス先輩。おーい?大丈夫かヴァーディ?』

 

 

『だ、大丈夫。致命傷だ』

 

 

 でも実際そうだ。併走でジェネ先輩にアホ程負けてるし、負けたことが印象に残るってこたぁないだろう。なら別の理由か。

 

 

(考えろ、あの皐月賞を思い出せ……)

 

 

 皐月賞の時を思い出して、なにがあったっけ?って思って。

 確かレース後にアイツと少し話して。その時俺には一生懸命さが足りないって言われたんだよな。今思い出しても喧嘩売ってるだろアイツ。いや、あの時の俺は確かに一生懸命さが足りなかったから怒れないんだけど。でもその言葉もやたら覚えてるんだよな。コントレイルが印象深かったってのもあるが。

 その前になんかあったか?いや、レース中もアイツの姿は見えなかったしな~……っ?

 

 

(……あぁ、そういうことか)

 

 

 急に腑に落ちたわ。どうしてコントレイルを特別視しているのか。アイツにだけ、こんなにも勝ちたいって気持ちがあるのか。

 

 

『俺、初めてだったんですよ。あぁ、コイツには勝てねぇって思わされたの』

 

 

『ヴァーディ君?』

 

 

『ほーん。それで?』

 

 

『前を走るコントレイルを見て、速いなーとか、コイツには追いつけねぇなーとか。漠然と思ってた』

 

 

 今にして思うとぶん殴りたくなるような考えだな当時の俺。できないししないけど。

 

 

『その点ジェネ先輩とかラーシーは同じ厩舎だから。走る機会なんてそれこそいっぱいあるじゃん?』

 

 

『まーそーだな。俺とお前は良く併走するし。クロノジェネシス先輩程じゃねーけど』

 

 

『そうだね!ヴァーディ君はわたしといっぱいいっぱい走るもんね!』

 

 

『だから2人にはあんまそういうのが湧かないんだよ。勿論負けたら悔しいし、次こそは勝ってやる!って気持ちになるけど』

 

 

 だけど、コントレイルは違う。アイツは別の厩舎だし、この先また戦う機会があるかも分からない。だからこそ。

 

 

『ぶっちゃけ、アイツとのレースは後悔しか残ってない。自分で限界を決めつけてたし、そのせいで負けちまって。しかも滝村さんに責任感じさせちゃって。後悔しかないレースだった』

 

 

『ヴァーディ君……』

 

 

『まー確かにそうだな。あの時のオメー大分いい子ちゃんだったしな』

 

 

『だからこそ、もう後悔したくねぇんだ。アイツと戦う機会なんて、これから先数えるほどしかないと思う。だからこそ、次戦う時は本気の俺で戦いたいって思うし、勝てないってイメージを払拭するためにも……あの時の俺とは違うんだ!ってことを証明するためにも。アイツとまた戦いたい。そして、生まれ変わった俺をアイツに見て欲しい……そんな風に考えてんだ』

 

 

 一生懸命さが足りなかったあの時の俺とは違う。それをアイツに分からせてやるんだ!そんでそんで、その上で勝ってやる!アイツは強いけど、今の俺ならアイツにだって負けないはずだ!

 

 

『まぁ、多分そんなとこだと思う。後はアイツの走りがやたら印象に残ってるってのもあるな』

 

 

『ほーん』

 

 

『……』

 

 

 あの、ジェネ先輩?視線がなんか刺々しいんですけど?

 

 

『……なーんか悔しい』

 

 

『へ?』

 

 

『ヴァーディ君走ろう!わたしが上書きしてあげるから!』

 

 

『え?え?な、なんで!?』

 

 

『というかクロノジェネシス先輩。コイツレース明けなんで止めてやった方がいいですよ』

 

 

『ぐぬぬ……!』

 

 

 いや、何となく気持ちは分かるが。

 

 

『にしてもオメー、本当に変わったな』

 

 

『まぁな。変わったからこそ、前の俺がいかにヤバかったかが良く分かるわ』

 

 

『前のヴァーディ君もわたしは好きだよ!』

 

 

『ありがとうございますジェネ先輩。そういや、次のレースはジェネ先輩と一緒ですね。負けませんよ!』

 

 

『わたしも負けないよヴァーディ君!』

 

 

『俺は別だな。まーそっちも頑張れや』

 

 

 よっしゃあ!調教が始まったらまた頑張るぜー!




ヴァーディとラウダシオンは仲が良い。
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