飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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これで秋天は終わり。


天皇賞・秋 レース後

【最強牝馬決定戦の天皇賞・秋を制したのは3歳馬ヴァーディクトデイ!3歳の若武者が最強牝馬を下す!】

 

 アーモンドアイとクロノジェネシスの最強牝馬決定戦と予想されていた天皇賞(秋)を制したのは8番人気のヴァーディクトデイ。驚異的な上がり3Fのタイムを記録し、見事に勝利を収めた。ヴァーディクトデイはこれがG1初勝利である。

 

レース後のコメント

 

1着 ヴァーディクトデイ(金添騎手)

「残り300を切ったあたりから手ごたえが段違いに良くなった。元々周りに他馬がいると考え過ぎちゃう子だから、余計なことを考えさせないように最後方から追い上げるスタイルに変えたんですけどそれが大嵌りした感じ。前の馬を追い抜くことだけに集中させると凄い末脚を発揮する。

 

僕自身春秋含めて初めて天皇賞を勝ちましたけど、この子(ヴァーディクトデイ)にG1勝利を上げられて本当に良かった。特に相手が強かったので、その中で1着を取れたってことはヴァーディクトデイにとっても大きな自信になったと思う。今後も一緒に勝っていきたいですね」

 

2着 アーモンドアイ(ロメール騎手)

「僕の騎乗にミスがあったかもしれないけど、それでも今できる最高の騎乗と最高の走りができたと思う。アーモンドアイもそれに応えてくれたけど、金添騎手達はそれを上回ってきた。最大限警戒していたけど、それでも負けてしまった。今回は無理だったけど、次走のジャパンカップでは借りを返して(アーモンドアイに)G1 8勝目をプレゼントしたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~……本ッ当に良かったぁ!」

 

 

「さっきからそればかりダネ。金添」

 

 

 全レースを終えて帰路に着く途中で、ロメールさんから食事のお誘いがあったのでついてきたんだけど。いや、実際にマジでホッとしてるんだって!

 

 

「だってそうでしょ!?相手は全員強いし、勝って一安心してますよ本当!」

 

 

「じゃあ負けるって思ってたのか?」

 

 

「いや、それは微塵も」

 

 

 というか、鷹騎手も来るとはちょっと予想外だ。てっきりロメールさんにシメられる覚悟できてたし。ロメールさんそんなことしないけど。

 

 

「それにしてモ、ヴァーディクトデイは良い馬だネ……ちょっと乗せてくれナイ?」

 

 

「嫌ですよ。そのままヴァーディの鞍上奪うつもりでしょ?」

 

 

「ハハハ。まさかそんなコト」

 

 

「僕の目を見て言ってくださいよ!」

 

 

 思いっきり目を逸らしてる!あわよくばって考えてただろ!

 

 

「まぁ、ロメールさんの気持ちも分かるけどね。ヴァーディクトデイは良い馬だ……俺も軽く嫉妬するぐらいには」

 

 

「あ~、ディープの走りに似てるもんネ。ヴァーディクトデイの走り」

 

 

「たとえ鷹さんであっても譲る気はありませんよ、ヴァーディの鞍上は」

 

 

「本気で惚れこんでるんだな、ヴァーディクトデイに」

 

 

 鷹さんの優しい声色。まぁ、惚れこんでるってのはあるかもしれないな。

 

 

「オルフェとどっちが上?」

 

 

「随分意地悪な質問しますねロメールさん……ぶっちゃけ、オルフェのが強いって思ってますよ」

 

 

 やっぱり思い出深い馬だからね。……なんでか僕嫌われてる節あるけど。

 

 

「あ、そうなんダネ」

 

 

「でも、なんていうんでしょうね。ヴァーディは……()()()()()()。現に、秋天も僕の予想以上の力を発揮してくれたわけですから」

 

 

「あの上がりなぁ。俺もタイムを聞いた時は目が飛び出しそうになったよ」

 

 

 実際鷹さんの言う通りだ。俺も詳細なタイムを聞いた時はマジでびっくりしたし。

 31.8。東京競馬場というくくりで見れば、エイシンフラッシュが記録した32.7という記録を1秒近く更新したことになる。とんでもない上がりだ。

 

 

「アーモンドアイも完璧だったんだけどナぁ、一歩及ばなかったヨ」

 

 

「キセキは重馬場勝負になればまぁ……」

 

 

「ま、今回は僕の勝ちですね!」

 

 

 そう言うと鷹さんとロメールさんに小突かれた。よし、自重しておこう。

 

 

「ヴァーディクトデイは重馬場はどうナノ?宝塚記念は稍重だったけド、重馬場はまだ未経験だよネ?」

 

 

「う~ん、走ってみないことには分かりませんけど。でも雨の中走るのが好きらしいですし重馬場でも走れると思いますよ」

 

 

「ま、稍重だった宝塚記念で上がり最速だったらしいし適性はあるんじゃないか?」

 

 

 実際そうかもしれない。宝塚記念も2着だったとはいえ上がり最速だ。重馬場にも適性があるのだろう。

 

 

「そうなるト、欧州に遠征するのも視野じゃないかナ?」

 

 

「欧州か……」

 

 

 海藤さんもヴァーディの馬主も今のところは視野に入れていないらしい。ま、今はまだ日本で実績を積む段階だろうしね。

 

 

「あまり無責任なことは言えないケド、ヴァーディは海外でも通用する馬ダヨ。だから、決めるなら早い段階が良いと思ウ」

 

 

「そ、そこまで言い切りますか」

 

 

「ウン。今回の秋天を見て思っタ。ヴァーディクトデイは世界でも通用する力があるってネ」

 

 

「まだ早い気がするんだが」

 

 

「何言ってるのさ鷹。こーいうのは早い方が良い。それに……海外で走るとなれば鷹が騎乗するチャンスがあるかもヨ?」

 

 

「よし金添。ヴァーディクトデイの馬主さん達に海外挑戦した方が良いんじゃないかって進言してこい。そして海外の騎手は鷹騎手にしてくださいって言え」

 

 

「いくら鷹さんの頼みでもそれは聞けませんね!」

 

 

 何が何でも日本で走り続けてやる!

 

 

「あ~だけど、ヴァーディクトデイの走りには気をつけとけよ金添。あれは負担が凄そうだからな」

 

 

「……確かにそうですね」

 

 

「あれはネ。ま、ヴァーディクトデイは賢いらしいし自分で修正するかもしれないけど」

 

 

 やっぱり見解は一致しているらしい。ヴァーディが見せた秋天の走りは……負担が大きいと。この件はレース後に海藤さんにも進言してある。

 ヴァーディは接地時間を短くすることで脚の回転数を増やしている。全身のバネの力を蹄に集中して低く前に飛ぶ、そのことを心がけている走りだ。だが秋天で見せたヴァーディの走りは──今まで以上に低く前に飛んでさらに回転数を増やしていた。

 毎日王冠での走りではどれだけ経っても影響が出なかった。それだけヴァーディの身体が強い証明かも知れない。だけど、秋天ではそうはいかない可能性が出てきている。

 

 

(レース後のヴァーディは明らかに疲労の色が濃かった。今後の体調次第になるけど、あまりにも疲労が出ているようだったら……)

 

 

 走りを矯正する必要があるかもしれない。もっとも、ヴァーディが自分で気づく可能性があるかもしれないけど。……そう考えるとアイツ本当に賢いな。

 

 

「実際、ヴァーディクトデイとディープの走りはそこまで似てないんだよな。ディープは地面を脚でがっちりつかんで走ってたけど、ヴァーディクトデイは見る限り全神経を蹄の先の方に集中して走っているからな」

 

 

「極端な上下運動がないシ、横移動もないから飛ぶように走ってイル。ディープに似てるケド、そういう観点だとディープと真逆ダネ。ヴァーディクトデイは」

 

 

「あぁ。持続力という点ならディープに軍配が上がるが……こと爆発力に限ればヴァーディクトデイの方が上かも知れない。見た感じ、凄まじいパワーの持ち主だからな。それだけの力がある」

 

 

「そこまで言い切りますか……」

 

 

「ま、それでも負担がかかる走りってのは間違いない。気をつけとけよ……と言いたいが、ヴァーディクトデイって確か毎日王冠でもあの走りだったよな?じゃあ大丈夫なのか?」

 

 

 急に怪訝な表情を浮かべる鷹さん。すげぇ難しい問題なんだよなぁ……。

 

 

「今後のことを考えたら矯正しておくべきなんでしょうけど、毎日王冠では無事だったんですよねヴァーディ」

 

 

「でモ、だからって油断はできないヨ。秋天はそうじゃない可能性もあるカラネ。とにかく放牧後にどうなってるかダ」

 

 

 ヴァーディは有北ファームしがらきで放牧を考えているらしい。次走のジャパンカップに向けての調整も兼ねて、だ。

 

 

「注意深く観察しておきます。アイツは凄い馬なんでね」

 

 

「ボクもヴァーディクトデイに乗せてくれナイ?」

 

 

「ずるいぞロメールさん。俺も俺も」

 

 

「え、嫌ですけど」

 

 

 その後はロメールさんと鷹さんと食事を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、海藤君。ヴァーディの容態は?」

 

 

 秋の天皇賞から2週間が過ぎて。重苦しい雰囲気の中俺は口を開く。

 

 

「……正直、あまりよろしくないですね。まだ疲労が完全に抜けきっていません」

 

 

「そうか……まぁあれだけの走りをした直後だ。仕方がないかもしれない」

 

 

 逡巡するように目を閉じる代表。そんな代表に、俺の考えを伝える。

 

 

「代表……ジャパンカップの出走は諦めた方が良いでしょう。今の状態で出しても良くて5割に持っていけるか……下手をすれば大事になる可能性もあります」

 

 

「ふむっ」

 

 

 無言の空間。どれだけの時間が経っただろうか?代表が口を開く。

 

 

「ジャパンカップの出走は回避だ。ヴァーディクトデイの身体を第一に考えよう。場合によっては有馬記念も回避する方向性で行くぞ」

 

 

「分かりました。関係各所にもそう伝えておきます」

 

 

「頼んだぞ。それと、しがらきではなく生まれ故郷の有北ファームでリフレッシュさせよう」

 

 

「北海道の有北ファームで……ですか?」

 

 

「あぁ。しがらきだとどうしてもレースのことがチラつくかもしれないからな。一旦レースの世界から離れて、ゆっくりと落ち着かせてやってくれ」

 

 

「分かりました」

 

 

 早速手配を済ませておこう。ヴァーディは元々長距離輸送を苦にしないし、代表もそれが分かってか有北ファームへの放牧を提案したはずだ。

 

 

(少しの間レースの世界から離れて、ゆっくりしてくれるといいな)

 

 

 ちょっと寂しいけど、ヴァーディのためだ。それに向こうにもスタッフさん達がいるし大丈夫だろう。

 ……あれ?でもよくよく考えてみたら。

 

 

「繁殖牝馬もいますし、不味くないですか?」

 

 

「……向こうもヴァーディクトデイの問題については把握しているだろうし、大丈夫だろう」

 

 

「そうですかね……?」

 

 

 いや、確かにそうかもしれないけども。でも代表こっちを向いて答えてくださいよ。

 その後はヴァーディの今後の予定なんかも話し込んでいく。年明けのことだったり色々だ。

 

 

「それじゃあ、今後も頼んだよ海藤君」

 

 

「はい。任せてください」

 

 

 話し合いも終わって退出する。さて、と。

 

 

「頑張りますか!」

 

 

 気合を入れ直して、厩舎に戻った。




次回は放牧後のヴァーディ。
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