栗東に帰ってきてまたしばらく経った。その後も俺は新しい走りを修得するために頑張り続けている。
「それじゃあヴァーディ、坂路のコースを走ろうか」
(待ってました!)
個人的に坂路コースが一番好きだ。坂を上るのが好きなのかもしれねぇな俺は。
合図とともに走って、全速力で駆け抜ける。坂であっても変わらない。
(良い感じじゃねぇの!?速いって実感できるぜ!)
脚を鞭のようにしならせるイメージで、全身のバネを余すことなく使うイメージ!接地の時間を長くしても良いから、しっかりと地面を踏みしめる!だけどあまり長くなりすぎるのは厳禁、そんでできる限り空中に浮いている時間をなくす!
(最初は考えることが多くて戸惑っちまったが、1つずつコツコツをやり続けてなんとか形になってきたな!)
気づけばゴールだ。手綱が引かれるので徐々に減速して立ち止まる。さて、海藤さんからしたらどれほどのものだろうか?ちょっとドキドキだ。
「うん、タイムも徐々に伸びてきたね。良い調子だ」
「ヒヒーン!(よし!やったぜ!)」
「ヴァーディも嬉しいみたいですね。よくやったなヴァーディ」
鞍上にいる調教師さんが首を撫でてくれる。
タイムもいい感じみたいだ!ベストにはまだ届いてないみたいだが、それでも前進してることを実感できるってのはやはり嬉しいな!
「にしてもヴァーディ、放牧帰りなのに全然太ってなかったですね。ちょっと太ってはいましたけど、すぐに元に戻りましたし」
「多分、自分で餌の量を調整していたのかな?これ以上食べ過ぎるとまずい、みたいに考えてたのかも」
「あ~、ヴァーディの賢さならあるかもしれませんね。実際どうなんだヴァーディ?向こうで餌の量調節してたのか?」
「ヒヒン(そうだが?)」
実際にはあまり考えてないけど。放牧中は許可が出て以降走り回ってたからその影響があるかもしれん。
「なんにせよ、年明けのレースに向けて調整はバッチリですね!クロノジェネシスも有馬を勝ちましたし、勢いに乗ってるんじゃないですか?」
「油断しないよ。確かに嬉しいことだけど、勝って兜の緒を締めよともいうしね」
「え~?でもクロノジェネシスが勝って嬉しいんじゃないですか?」
「そりゃ嬉しいに決まってるさ」
そうそう。俺は出走を回避した有馬記念だが。ジェネ先輩が見事に勝利したらしい。そのジェネ先輩はとても嬉しそうにしていた。
『ねぇねぇヴァーディ君!わたしおっきいレース勝ったよ!』
『確か、有馬記念ですか?おめでとうございます!やっぱジェネ先輩は凄いですね!』
『ふふーん!そうでしょそうでしょ!もっと褒めてくれていいんだよ!』
『ジェネ先輩最高!流石は俺が一番尊敬する先輩!』
『ッ!ふ、ふふーん!くるしゅうない~!』
そんな会話をしてたのを覚えてる。ジェネ先輩的には併走の相手が俺じゃなかったのでご機嫌斜めだったらしいが。ただ俺はどうも調子が悪いと思われていたので仕方がない。
『その内また俺達で併せすることになると思いますけどね。それこそ俺のレースの時とか』
『え~?そうかな~?』
『だって今まで沢山走ってきましたし。それに調子も徐々に戻ってきてるんで!すぐにまた併せられますよ!』
実際には調子が悪いわけではなく新しい走りを試していたのでタイムが遅くなっていたのだが。それももう解決しつつある。
「ベストのタイムから7、8割ってとこかな?日経新春杯には間に合いそうだね」
「にしても坂路でもヴァーディはかなり速いですね。まるで平地みたいに走ってるし」
「案外長距離でも走れるんじゃないですか?」
「ハハ。でも代表は中距離路線で使うみたいだからね。春天には出走しないと思うよ」
あ、俺は長距離出走しないんだ。走り切る自信はあるんだけどな。
「それにまずは日経新春杯。それを過ぎたら──今度は大阪杯だ。ここはなんとしても勝ちたいからね」
「確か、コントレイルが出走するんでしたっけ?」
なぬ!?コントレイルだと!
「うおっ、どうしたヴァーディ?どうどう、落ち着け落ち着け」
大阪杯?ってのは多分デカいレースなんだろう。確か、ジェネ先輩も出てたレースだったけな?その時はラッキーライラックさんに負けたらしいけど。
「皐月賞で負けた時のことを覚えてるのか、ヴァーディもコントレイルを意識しているみたいだしね。それに、世代の頂点でもあるコントレイルとの対戦……是非とも手にしたいところだ」
俺だって勝ちてぇよ。アイツに……アイツに勝ちてぇ!
「でも、他の馬だっているからね。コントレイルを意識し過ぎないようにするんだよヴァーディ」
(た、確かにそうだな。コントレイルとの一騎打ちってわけじゃないんだし、他を疎かにしちゃいかんよな)
デカいレース。G1……だったか?それに出てくる馬は実力を認められた猛者達。その中で1着を取るってのはかなり難しい。それを今までのレースで痛感したからな。だからこそ、秋の天皇賞で勝ったのはマジで嬉しかったわけだし。
にしても……ついにコントレイルと走れるのか!
(待ってろよコントレイル!生まれ変わった俺を見せてやらぁ!そのためにもっ)
『今すぐ走ってトレーニングだぁぁぁぁ!』
「あ、ちょ!?ヴァーディ落ち着け!もう今日は調教終わり!調教終わりだよ!」
ぐえっ!?た、手綱を引かれて止められた。また暴走しちまうところだったぜ。
そして年末。調教は順調そのものである。
『今日の併走もお疲れ様ヴァーディ君!』
『お疲れ様ですジェネ先輩』
『にしても……ヴァーディ君も速くなったよねぇ。わたしが捻ってあげてた時が懐かしいよ』
『止めてくださいよマジでダメージデカいんで……』
てか、あの時は雲の上みたいに思っていたジェネ先輩にも勝ったんだよな俺。今の併走は俺4のジェネ先輩6ってとこだろうか?ただ道悪だと俺に分がある感じ。
『それにしてもヴァーディ君、地面が重くても全然苦にしないよね?なんで?』
『……なんでですかね?』
いつも以上にパワーを使ってるせいもあるだろうけど、それでも俺は重馬場をそこまで苦にしない。というか、重い馬場の方が走りやすいまである。たまにダートコースで走らされることあるし。
『というかジェネ先輩だって重い馬場得意じゃないですか』
『でもヴァーディ君ほどじゃないよ』
というか、宝塚記念と毎日王冠でダメージが少なかったのって馬場がいつもと比べて重かったてのがありそうだな。だからといってあの走りに戻そうとは思わんが。
にしても、今年も一年が終わるか。なんというか、あっという間だったな。
『我ながら濃い一年だったぜ……』
『まー、序盤の頃のお前は良い子ちゃんぶってたからつまらんかったけどな』
『止めろラーシー。俺としてもあの頃の自分はどうかと思ってるから』
なんなら黒歴史認定したいぐらいだ。てか滝村さんに謝り倒したいぐらいなんだよあの時の俺を考えると。
『ま、今のオメーは良い感じになったんじゃねーの?』
『だといいんだがなぁ』
『いやいや、ヴァーディ君はかなり変わったよ。一生懸命さが全然違うもん!』
『お、おぉ……!ジェネ先輩にも認められたのか俺!』
なら結構な自信になるな!
『来年からは俺とラーシーも古馬か……。でも戦うことねぇんだよなぁ』
『そりゃ俺とオメーじゃ距離がちげーからな』
『ヴァーディ君はわたしと一緒に走るんだもんね!』
あーそうか。ジェネ先輩も現役続行らしいから一緒に走れるのか。
『次戦う時も負けませんよ、ジェネ先輩』
『ふふ~ん、天皇賞は負けちゃったけど今度は負けないよヴァーディ君!』
俺とジェネ先輩の間に火花が出ている、気がする。
『そういやオメー、ついにコントレイル?ってヤツと走れるんだったな』
『そうなんだよ!』
『今日一番の食いつき!?』
そう!ついにコントレイルのヤツと戦えるのだ!ようやく、ようやくアイツと戦えるぜ!
『まー向こうが出走止めなきゃいいな。後オメーも怪我には気をつけろよ?』
『分かってるさ!ようやくアイツに借りを返せるわけだからな!』
『……わたしの時より嬉しそう』
『いやいや、さすがにそんなことないですって!?』
確かにテンションの上下が激しいけど、あっちは久しぶりに走るわけだから!
『まー仕方ないですってクロノジェネシス先輩。いつでも走れる俺らと違ってあっちとは走れる機会限られてるんですから』
『そうだけど……そうだけど!なんか悔しいの!』
にしてもついにコントレイルとの対戦か……!
思えば、初めてレースで勝てないって思ったのがアイツだったな。勝つヴィジョンが、抜かせるヴィジョンが見えなかった初めての相手。ジェネ先輩は……まぁ特別枠みたいなもんだし。そもそもジェネ先輩と初対決となったのは宝塚記念だし、それ以前は基本的に勝ち負けどうこうではない併走だから。
あの時は地力の差で勝てなかったし、そもそも意識からして勝てなかった相手だ。だけど、今は違う!
(あの時よりもずっとずっと強くなった。肉体的にも、精神的にも強くなったんだ!もうあの時みたいな無様な姿は見せねぇ!)
『燃えるぜぇ!もう二度と一生懸命さが足りないなんて言わせねぇからなー!』
『あんま熱くなりすぎて、調整失敗とかになんなよ?』
『怪我も気をつけてね~ヴァーディ君』
『分かってるって!』
相手は無敗の三冠馬。アーモンドアイさんと同じ三冠馬。つまるところ、もの凄く強い相手ってことだ。そんな相手にどれだけ戦えるか、そして勝てるか。4月が待ち遠しいぜ!まぁその前に日経新春杯が1月にあるからそっちも頑張らねぇとな。大阪杯意識し過ぎてこっち負けるなんてことになったら大惨事だし。
(日経新春杯の結果次第じゃ、大阪杯の出走取り消しなんて事態もあり得るからな……。油断しないようにしないと)
金添さんもこの前久しぶりに俺に騎乗した。良い感じだって言ってくれたし、この調子を維持していきたいな。
そんな風に決意を新たにしていると、遠くで鐘の音が鳴った。
『あ、除夜の鐘だ』
『去年も聞こえたよね~。年の終わりを報せるんだっけ?』
『そうそうそんな感じです』
『相変わらずよく知ってんなお前』
そんな話をしながら新年を迎える。俺の古馬としての年がスタートした。
次回は多分ウマ娘編。