飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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先輩馬達との邂逅。


新たな出会い

 ケイティーズハートの2017改めヴァーディクトデイ。今日から新しいところでお世話になります。

 

 

「よし、ヴァーディ。ここがお前の新しいお家だぞ」

 

 

「ヒヒン」

 

 

 どうやら俺が所属するのは栗東トレセン……関西にあるところらしい。関東の方にもあるらしいがそちらは美浦トレセンというらしい。北海道から関西に輸送されているわけだから、関西に着くまでの間は結構退屈だった。とにもかくにも、ここで俺の新しい生活が始まるのだが……おそらく俺の先輩にあたる馬の方々だろう。なんというか……威圧感が凄かった。

 

 

『あん?新入りか?』

 

 

『ふ~ん……真っ黒な奴だな』

 

 

『どんな子だろ?』

 

 

 早くも先輩達が興味深そうに馬房から身体を乗り出している。とりあえず、馬房に入ってから挨拶をしよう。

 

 

『今日からここでお世話になります、ヴァーディクトデイです。よろしくお願いします』

 

 

『うん、よろしく~』

 

 

『あんまり硬くならなくていいよ~』

 

 

『気楽に行こうぜ』

 

 

 お、おぉ……!優しい馬ばかりで嬉しい『あんまり舐めた口利いてると蹴り飛ばすからな』『だからって馴れ馴れしくはしないでね。蹴るよ』前言撤回、そんなことはなかった。大人しくしとこ……。

 

 

「黒坊……ヴァーディで最後かい?」

 

 

「あ、海藤さん。そうですね、ヴァーディクトデイで最後です」

 

 

「そっかそっか。それにしても……他の新馬達は輸送で疲れている様子なのに、ヴァーディクトデイはそんなに疲れてないね」

 

 

「そうですね。コイツあんまり疲れてないみたいで。精神的にもそんなに堪えてないみたいなんですよ。輸送に強いってことは、ゆくゆくは海外もいけたりするんじゃないですか?アハハ」

 

 

「それはさすがに気が早いよ。まずはしっかりと1勝を上げないと」

 

 

 この海藤さんがこの厩舎の偉い人なんだろう。確か、俺が所属している厩舎の名前にこの人の名前が入っていたはずだ。

 海藤さんはスタッフさんと何か話し込んでいる。内容を聞く限り……俺達新馬の調教の日程を決めているらしい。専門用語多すぎてあまり分からないけど。

 

 

「……それじゃ、この日程で新馬達の馴致を始めて行こうか」

 

 

「はい。体調を崩さないようにしっかりと気を配りますよ」

 

 

「それにしても……やっぱり年上の人が多いから気を張っちゃうね」

 

 

「しっかりしてくださいよ海藤さん。あなたはここのテキ*1なんですから」

 

 

 テキ?……なんだろう。良く分からない。

 

 

「分かってるよ。他の人達に甘えてばかりってわけにはいかないからね。ちゃんと、自分の意見を持ってやるさ」

 

 

「それでこそです。それじゃ、後の話はまた事務所でしましょうか」

 

 

「うん。それじゃあ行こうか」

 

 

 そうして海藤さんと厩務員さんは去っていった。今日は調教、トレーニングはしないらしい。まぁいいや。だったらのんびりしよっと。長距離移動で疲れてるし。

 

 

『おい、コイツ寛ぎ始めたぞ』

 

 

『順応するの早すぎだろ』

 

 

『生意気』

 

 

 知らん知らん。俺はもう休む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして始まる調教の日々。どうでもいいけど人間だった頃の影響で調教と聞くとヤバい目にでも遭わされんの俺?と思いたくなるが、馬的には普通のトレーニングみたいな意味だそうだ。これまでやってきたことで分かってきた。今日も調教という名のトレーニングが始まる。

 

 

「それじゃ、頑張っていこうかヴァーディクトデイ」

 

 

「ヒヒン(おう。今日も頼むぜ)」

 

 

 海藤さんに言われるまま俺はトレーニングを始める。まずはウォーミングアップがてら、色んなものを装着して厩舎の周りを歩く。もう慣れたものだ。

 

 

「それにしても、馴致も凄くスムーズだったね。君は本当に賢いなぁ」

 

 

「ヒン(せやろ?)」

 

 

 まぁ転生前が人間だからね。人間の言葉も分かるし、何をしてほしいのかもすぐに分かる。

 ウォーミングアップが終わると今度は本格的なトレーニングが始まる。

 

 

「さて、と。今日はコース追いをやろうか」

 

 

「ヒヒン(あいあい)」

 

 

 海藤さんの指示に従いながら調教を続けた。やってること自体は基本的に走ることが多いので、ここに来る前とそこまで変わらない。ただ、量に関してはこっちの方がさすがに多い。他の子達も四苦八苦しているようだった。

 

 

『えー?もっと自由に走りたーい』

 

 

『なにこれ?じゃまー』

 

 

『きゅうくつだよー』

 

 

『なんか重いー』

 

 

 割と苦労しているのが分かる。今まで人を乗せて走ることなんてなかったし、それも当たり前かもしれない。

 調教が一通り終わった後は馬房にいったん戻る。その間スタッフさん達の会話が聞こえてきた。

 

 

「ヴァーディは手がかからんなぁ」

 

 

「そうですね。こっちの意図が分かってるみたいに従順です」

 

 

「よ~しよし、いい子だぞヴァーディ」

 

 

 厩務員さん達に撫でられる。良いぞ良いぞ、もっと撫でろ。

 

 

「お?頭をこっちに寄せてきたな。じゃあもっと撫でてやろう」

 

 

 あ~気持ちいい。良いぞ~。なんか馬になってから精神年齢が下がっている気がしないでもないがどうでもいい。

 朝ご飯を食べ終わるとまた調教が始まる。今日も一日、頑張っていきますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新馬達の調教も順調に進んでいる。特にヴァーディは凄い。他の新馬達よりも少しキツめのトレーニングにも耐えるようになってきた。他の厩務員もそう思っているみたいで、ヴァーディの素質の高さに舌を巻いている。

 

 

「海藤さん、良いですねヴァーディクトデイは」

 

 

「でしょ?最初こそサンデーサイレンスの2×3のインブリードで心配したけど……凄く大人しいし、能力も高い」

 

 

 ヴァーディは凄く利口だ。基本的にこちらの指示に大人しく従うし、調教も嫌がる素振りを見せない。

 

 

「えぇ。あの暴れ馬と名高いサンデーサイレンスの血をかなり濃く受け継いでいるのに……不思議なくらい大人しい」

 

 

「案外、内に秘めてるだけでかなりの気性を持ってたりして?」

 

 

「アハハ……考えたくもないですね。歳を取るごとにサンデーサイレンスになる可能性があるのか」

 

 

「嫌すぎますよソレ……ま、まぁヴァーディは人間が嫌いってわけじゃないから安心ですけど」

 

 

「後、ヴァーディといえば重い馬場でもいい感じですよね。雨が降った次の日の調教とか、凄く調子良さそうですし」

 

 

「あ~そうですね。ヴァーディ、有北ファームにいた頃から雨が好きだったみたいで。よくぬかるんだ地面を走り回ってたみたいですよ」

 

 

 他愛もない会話。そんな折、1人の厩務員から1つ提案をされる。

 

 

「そう言えば、ヴァーディは年上の牝馬に好かれやすいのだとか。だったら……ちょっと、会わせてみません?あの子と」

 

 

「あの子って……もしかして、今度新潟でデビュー予定の?」

 

 

「何が起こるか分からんぞ?」

 

 

「ほら、もしかしたら調子上げてくれるかもしれないじゃないですか?それに、ヴァーディは年上の牝馬に追いかけ回されることが多かったとか」

 

 

「そうらしいですね。理由は不明ですけど」

 

 

「下手したら、ヴァーディが牝馬恐怖症になる可能性もありますし……そうなる前に、まずは歳の近い牝馬に会わせて慣らしていく、というのはどうでしょう」

 

 

 ……確かに一理ある。ヴァーディは牝馬に追いかけ回されていたらしいし、恐怖心を抱いていてもおかしくない。それがレースで出てしまうと……良くない結果に繋がるだろう。

 

 

「……どうしますか?テキ」

 

 

 少し考えて……結論を出す。

 

 

「う~ん……ちょっと怖いけど、効果があるとあの子にも良いかもしれないし。ちょっと会わせてみようか。それに、ヴァーディの今後を考えたらいずれ克服しなければいけないことだ。もしもの場合は、俺が責任を取るよ」

 

 

「それじゃ、決まりですね!早速会わせてみましょう!」

 

 

 こうして、ヴァーディにとある牝馬と会わせることが決まった。あの子も期待の馬だし、少しでも調子を上げてくれると嬉しい。それに、ヴァーディの今後を考えたら……この選択はきっと間違いじゃないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さ~て、今日も調教調教~……と思っていたが。どうやらいつもとは違う場所に連れて行かれた。どういうことだ?

 

 

「ヒヒン(なんでこんなとこに?)」

 

 

「不安なのか?ヴァーディ。大丈夫だよ、今日はちょっと他の馬とトレーニングしようか」

 

 

 他の馬と?そりゃまたなんでだろうか?と思っていると……。

 

 

『わ~!見たことない子だ!』

 

 

 俺と同じ黒い馬?……じゃないな。微妙に違う。いや、それよりも重要なのは……この馬は牝馬なのか?そして尚且つ俺より年上なのか?重要なのはそこだ。下手をすれば獲られるのはこっちだからな。警戒するに越したことはない。

 

 

ヴァーディ警戒してるな……無理もないか大丈夫だよヴァーディ。この子は今度の新馬戦に出る子でね。お前の調教は順調にいっているし、お互いに良い刺激になるかもしれないから」

 

 

 新馬戦……ということは、このお馬さんは俺より年上じゃねぇか!

 

 

『ねぇねぇ!あなたお名前はなんていうの?教えて欲しいな!』

 

 

「ブルル……」

 

 

 最大限警戒するように威嚇する……が、向こうは特に気にした様子を見せずに、嬉しそうに近寄ってきた。近い近い!

 

 

『わたし、クロノジェネシスっていうの!ほら、わたしはお名前教えたよ?あなたのお名前、教えて欲しいな!』

 

 

『……ヴぁ、ヴァーディクトデイっす』

 

 

『そうなんだ!じゃあ……ヴァーディ君だね!今日はよろしくね!』

 

 

『う、うっす』

 

 

 けど、それだけだ。近寄ってきて、嬉しそうにしているだけ。追いかけてこない。どうしよう。襲い掛かってこない年上の牝馬というのが初めてでどう接していいのか分からない。同世代の牝馬の子ともそこまで話さないし、本当にどう接していいのか分からん。

 

 

『ねぇねぇ、ヴァーディ君はどこから来たの?』

 

 

『き、北の国から。北海道の有北ファームっす』

 

 

『わ~!わたしと一緒だ!同郷だねわたしたち!』

 

 

『う、ウッス……』

 

 

「あれ?ヴァーディの方が緊張しているのか?でも、少し仲良さそうだなお前ら。ハハ」

 

 

 クロノジェネシス先輩……うん、悪い馬じゃないな。それでも、まだ警戒はしておこう。いつ牙を剥くか分からん……

 

 

『嬉しいな~!今日はいっぱい頑張ろうね、ヴァーディ君!』

 

 

 いや、そんなことはないな?うん、さすがにクロノジェネシス先輩に失礼だ。警戒を解こう。

 

 

「お、警戒を解いたな。それじゃ、早速調教をしようか」

 

 

 この後クロノジェネシス先輩と調教を始めた。ただ一言。

 

 

「ヒヒィン……(1歳違うだけでここまで差があるのか……)」

 

 

 すんごい差を見せつけられたとだけ言っておこう。

 

 

「大丈夫だよヴァーディ。お前はまだまだこれからだからね」

 

 

 海藤さんが慰めるように撫でてくれる。

 

 

「ヒヒィン……(ありがとよ海藤さん……)」

 

 

 お礼に顔を舐めておこう。

 

 

「わっぷ、はは、可愛い奴だなヴァーディ」

 

 

 とりあえず、負けっぱなしも悔しいし頑張るか。そう思ったクロノジェネシス先輩との邂逅だった。

*1
調教師のこと




次回は時間が飛んで新馬戦。
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