飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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おフランスに到着。


フランス到着

 

 

『ヴァーディ君暇だよ~』

 

 

『それ俺に言われてもどうしようもないんですよね』

 

 

『それに音がうるさいよ~。ドバイの時もそうだったけど、あんまり慣れる気がしないな~』

 

 

『それには同意します』

 

 

 別に我慢できないこともないレベルだから別にいいけど。今現在俺達がいるのは飛行機の中。そう、海外遠征のために現在飛行機に乗っているわけだ。

 いやぁ……ここに至るまでが大変だったな。まずは検疫。特に今はなんかすげぇウイルスが大流行してるとかで滅茶苦茶厳重な検査がされていた。思わず気が滅入りそうなぐらいには。そこをなんとかクリアして今度は今の輸送。これがま~長い時間かかるのが必至。退屈過ぎるな。

 

 

(今までの輸送とは比べもんにならねぇからな~。こりゃ確かに疲れが残るかもしれんわ)

 

 

 さすがに国内と海外じゃあ輸送の時間がダンチってもんだ。

 ちなみに、厩務員さんも何名かついてきている。ジェネ先輩を担当している厩務員さんと、俺を担当している厩務員さん。海藤さんは分からん。ただ、この2人はついてきているらしい。そこはちょっとホッとした。いくらジェネ先輩がいるとはいえ、それ以外はなーんも分からん異国の地。さすがに不安になるってもんよ。

 

 

(特に俺を担当してくれている厩務員さんはいつもお世話になってるからな。来てくれて助かったぜ)

 

 

 確か、黒羽さん。見た目は30代よりも下なんじゃないか?ぐらいに見える男で、俺が金添さんとか滝村さんみたいな主戦騎手を乗せる時以外は基本的にこの人が乗って調整してくれている。走りを変えた直前とかは何度か落っことしそうになったけど。それもまた良い思い出だ。

 そんな黒羽さん。そりゃあもう俺に良く世話を焼いてくれている。俺は体調崩したこと全然ないんだけど、黒羽さんのおかげといっても過言ではない。

 

 

『むしろ過保護まであるよな、あれ』

 

 

『なになに~?何の話~?』

 

 

『俺を良くお世話してくれてる黒羽さんです。俺の体調に凄く気を使ってくれてるじゃないですか』

 

 

『……アイツか』

 

 

 ちょっと。そんな邪険そうにしないでくださいよ。俺がお世話になってる方なんですから。

 それが仕事とはいえ、やっぱり嬉しいもんだ。なので俺は良く顔を押しつけて感謝の意を示したりする。そうすると黒羽さんも喜ぶので俺も嬉しい。

 

 

『それにしても、いつ頃着くんでしょうね?』

 

 

『分かんない。暇だな~』

 

 

『暇ですね~』

 

 

 いつになったら着くんだろうな?フランス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからどれくらい飛行機の中にいたのか分からないぐらいの時間を過ごして。外の光のようなものが見えた。うおっ、眩しっ!

 

 

「よしよし、2人とも大人しくしてたか~?」

 

 

「ブルル(おうよ)」

 

 

「ヴァーディもクロノジェネシスも、後もうちょっとの辛抱だからな。もう少し我慢してくれよ?」

 

 

 そっか。まだフランスに着いただけでここからさらに移動するのか。こっちでお世話になる厩舎に。

 

 

(ま、飛行機の時間に比べればマシだろ)

 

 

 空港から馬運車で揺られること数時間。こっちでお世話になる厩舎へと到着した。おそらく代表?っぽい方、海藤さんみたいな人が挨拶に来たんだろうけど。

 

 

「繧医≧縺薙◎繝輔Λ繝ウ繧ケ縺ク縺セ縺」縺ヲ縺溘h(ようこそフランスへ!待ってたよ!)」

 

 

 なんて言ってるのかさっぱり分からん!フランス語なんか履修したことねぇよ!ま、まぁ聞いていくうちに慣れるでしょきっと。

 代表(仮)の人が厩舎に案内してくれ、俺達がお世話になる馬房へと来た。

 

 

『わーい!また隣同士だねヴァーディ君!』

 

 

『そうっすね。心細くならなそうで良かったです』

 

 

 なんとこちらのスタッフさん達の粋な計らいもあってか俺とジェネ先輩の馬房は隣同士になった。知り合いが近くにいるってだけでも安心できるからな、嬉しい限りだ!とはいっても、こっちの馬とも仲良くしておきたいな。まず話通じるのか分からんけど。

 

 

『お?なんだなんだ?』

 

 

『日本から来た馬だってよ』

 

 

 あ、良かった分かるわ。

 

 

『どうも、ヴァーディクトデイです。今日から少しの間お世話になります』

 

 

『おう、よろしくな』

 

 

 ジェネ先輩も挨拶して、コミュニケーションも程々に済ませた。うん、良い馬ばかりだな!

 

 

『ところでお前さん方どれくらい早いんだ?』

 

 

『今度一緒に走ってみてぇな!』

 

 

『負かしてやるよ日本!』

 

 

『お?こっちだって負けませんよ!それなりに強いって言われてこっちきてるんですから!』

 

 

『まぁわたしとヴァーディ君で走ることになるだろうけどね』

 

 

 それは言わないお約束ですジェネ先輩。それに、もしかしたらあるかもしれないじゃないですか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランスに着いてから月日が経って。早いものでもうすぐフォワ賞。今は最終追い切りの段階だ。そ、それにしても……!

 

 

「きき、緊張するなぁ……!もうすぐフォワ賞なのか……!」

 

 

「そうだな。早いもんだな黒羽」

 

 

「わ、輪田さん。にしても、本当にヴァーディ達がフランスに来たんですね……」

 

 

「着いてからそればっかだなお前。気持ちは分からんでもないが」

 

 

 クロノジェネシスを担当している輪田さんと話すけど、なんか感慨深いなぁ。ヴァーディは海藤さんの厩舎に入ってきた頃からメインでお世話しているから、ここまで来たんだなって実感する。

 これまでのトレーニングで、ヴァーディはすぐに現地に順応しているのが分かった。タイムも日本にいた時とさほど変わらないし、何なら調子がいいぐらいだ!これにはお世話になっている厩舎の代表であるパニーさんも驚きの表情で。

 

 

「凄いねあのヴァーディクトデイって子。こっちの芝にすぐに適応したよ!」

 

 

 手放しに絶賛してた!うんうん、やっぱり嬉しいなぁ!

 

 

「いや、本当に凄いね……こっち主戦場にしてもいいんじゃない?ヴァーディクトデイ」

 

 

「そ、そこまでですか?」

 

 

 こっちに来るにあたってフランス語は死ぬ気で勉強した。だって、ヴァーディが遠征するってことは間違いなくメインで担当しているぼくも着いて行くことになる。だから、死ぬ気で勉強した!ヴァーディと離れるのも嫌だし!

 輪田さんはクロノジェネシスを見ている。今回クロノジェネシスはフォワ賞は使わないみたいだ。まぁ、クロノジェネシスは今ちょっと調子が落ちてるし仕方ないのかも。

 

 

「そうだ。確かフォワ賞にはヴァーディクトデイの他にももう1頭、日本の馬が出走するんだろう?名前は……ディープボンド」

 

 

「あ、そうですね。ディープボンドもフォワ賞に出走するみたいです」

 

 

 向こうは日本で手綱を握っていた騎手ではなく、こっちの騎手に手綱を任せるらしい。よくあることだけど……こっちも他人事じゃないんだよな。実際クロノジェネシスはこっちの騎手に任せるみたいだし。ヴァーディは……今金添さんが乗っているけど。

 

 

(フォワ賞負けたら鷹騎手に。金添さんがそう言ってたらしいけど……)

 

 

 本当に、大丈夫なのかな?金添さん。なんというか……。

 

 

「心配か?金添さんが」

 

 

「輪田さん。ま、まぁ、少し」

 

 

 フォワ賞で負けたら鷹騎手に乗り換え。かなりのプレッシャーになるはずだから。どうしても心配になる。そんなぼくの胸中を見透かしているように。

 

 

「ま、大丈夫だよ」

 

 

 安心するような笑みで、輪田さんは。

 

 

「金添さんはここ一番で強いタイプだ。きっと金添さんだって勝算があって自分を追い詰めているんだろう。だから、大丈夫だ」

 

 

「……そ、そうですよね!」

 

 

 その笑みを見ていたら、ちょっと安心した。それに金添さんの騎乗はいつもと変わらない。体調もばっちりだし、調整もできているだろう!

 

 

「う~ん、ヴァーディクトデイは良い感じだね!のびのびと走れてる!それに、飼い葉食いも悪くないし調子も万全だ!このままフォワ賞に備えるだけだね!」

 

 

「そうですね。この状態を維持していきたいです!」

 

 

「維持していきたい、じゃなくて維持するんだろ?」

 

 

「うっ、そうでした」

 

 

 輪田さんにそう小突かれる。そうだ、維持するのがぼくの仕事じゃん……。

 

 

「クロノジェネシスは凱旋門賞に直行になるけど、調子をどんどん上向きにしたいね。そのためにはヴァーディクトデイと併せるのがベストかな?」

 

 

「そうですね。2頭とも仲が良いですし、寂しさも感じていません。今は調子を落としてますけど、クロノジェネシスも凱旋門賞までには間に合わせますよ」

 

 

 輪田さんは自信満々にそう答えた。ぼくもこう言えるようになろっと。

 追い切りを終えて金添さんが戻ってきた。表情は……晴れやかだ!

 

 

「お疲れ様です金添さん。感触はどうでしたか?」

 

 

「問題ないね。むしろ、ヴァーディの調子、最高に近いんじゃないかな?」

 

 

「やっぱりこっちの馬場が合ってるんですかね?こっちの馬場で走っている時、凄く走りやすそうにしてますし」

 

 

 案外こっちを主戦場にする話が現実味を帯びてきたかもしれない。ただ、そうなる前にしたいことがある。それは……コントレイルとの決着だ。ヴァーディはコントレイルを特に意識してるっぽいし、今は1勝1敗の引き分け状態。ヴァーディからしたらなんとしてでも決着をつけたいだろうし!

 

 

(ヴァーディはコントレイルの名前出すだけで反応するし、やる気も出してる!去年の有馬に出るか出ないかの時もそうだったし、ヴァーディはコントレイルを特別に意識しているんだろうな)

 

 

 でもまずは、目の前のことをしっかりと!

 

 

「まずはフォワ賞、頑張りましょう金添さん!」

 

 

「はい!フォワ賞、頑張らせていただきます!……そうだ、頑張らないと。ヴァーディに乗り続けるためにもっ!

 

 

「?どうかしましたか?金添さん」

 

 

「え?い、いやなんでも!大丈夫ですよ!」

 

 

 なんか小声で言ってた気がするけど……気のせいかな?そんな折、パニーさんが。

 

 

「リラックスリラックス!今からそんなに緊張してたら本番はもっと酷いよ?ゾエ。気楽に行こう!」

 

 

 金添さんの肩を揉みながら励ましてた。金添さんは苦笑いしつつ。

 

 

「アハハ、そ、そうですよね!よしっ、気楽に行こう!」

 

 

 持ち直したみたいだ。その後はヴァーディの調整を行って調教を終える。

 フォワ賞を直前に控えている。ヴァーディはこっちの馬場でも問題なく走れることが分かってるし、本番は好走してくれるだろう!




メンタルヤバめの金添さん?まぁほぼ騎乗経験がない土地での騎乗+自分でやったとはいえ結果残せなかったら鞍上交代だからプレッシャーは半端ないよねっていう。
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