飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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新馬戦はあまり変わらず。


新馬戦

 2019年も夏に入った。ヴァーディクトデイ──ヴァーディが俺の厩舎に来たのがつい昨日のように感じられる……もう1年経過してるけど。

 

 

「時間が経つのが早いなぁ」

 

 

「それだけ、毎日が充実してるってことですよ、海藤さん」

 

 

 ヴァーディクトデイの調教は順調に進んでいる。彼は気性の悪さを見せることなく、順調に調教が進んでいた。この調子なら、新馬戦を迎えても問題ないだろう。

 

 

「まるでこっちの意図が分かってるみたいだよなぁ」

 

 

「ヴァーディのことですか?」

 

 

「そうそう。ヴァーディ」

 

 

 今話しているのは、クロノジェネシスとヴァーディの主戦騎手を務めてもらおうと思っている人……滝村さんだ。滝村さんにはクロノジェネシスも勝たせてもらったし、ヴァーディの騎手もお願いしようとしている。調教でも度々乗ってもらっているのだが、ヴァーディとの相性も悪くなさそうだし。

 滝村さんと一緒に、ヴァーディに対する評価を交換し合う。

 

 

「面白い馬ですよねぇ。アイツ、こっちの言うこと素直に聞いてくれるんですよ。あんまりワガママを押し通さない……というか」

 

 

「そうですね。それに、危惧していた牝馬の問題も特に気にならない程度に落ち着きそうですし、今後が楽しみな馬です」

 

 

 少し危惧されていたクロノジェネシスとの邂逅。結果的に見ればお互いにとってプラスになった。クロノジェネシスはその後の新馬戦を無事に勝ち上がり、ヴァーディもきっと牝馬への恐怖心が薄れていることだろう。その後も度々併せをしているが、ヴァーディは戸惑いつつも嫌がる素振りを見せていない。

 

 

「クロノジェネシスも然り、ヴァーディにも乗せてもらってありがとうございます。それと、桜花賞とオークスはすみませんでした、僕の騎乗ミスで」

 

 

 頭を下げる滝村さん。

 

 

「いやいや!そんなことないですよ!滝村さんは精一杯やってくれました!」

 

 

「それでもです。結果を残せなかったら……意味はない」

 

 

 滝村さんは強い意志の籠った目で俺を見る。そして、宣言した。

 

 

「牝馬3冠最後のレース、秋華賞は獲ってみせます。だから、これからもクロノジェネシスに乗せてください、海藤さん」

 

 

 強い意志の籠った彼の瞳を見て、俺は思わず笑みを零した。

 

 

「はい。秋華賞とヴァーディの新馬戦……お願いしますね」

 

 

「任せてください!絶対に、期待に応えてみせます!」

 

 

 カレンダーを確認して……ヴァーディの新馬戦の日を確認する。

 

 

「ヴァーディの新馬戦……7月28日の小倉競馬場の第5レース。芝の1200m」

 

 

「もうすぐ、ですね」

 

 

 現在は7月の初旬。もうすぐ、ヴァーディの新馬戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車に揺られてどれだけの時間が経っただろうか?なんていうか……あれね。

 

 

(暇だわ)

 

 

 別に輸送は嫌いじゃない。酔いそうとかそういうこともなく、ただ単純に暇だ。ジッとしているってのも楽じゃない。

 あれからも調教の日々が続いたわけだ。坂路とかいう坂の道を走ったり、プールでのトレーニングも行われるようになった。やっぱり人間だった頃と勝手が違うから慣れるのに時間がかかったけど、今ではそれなりのタイムを出せるようになったらしい。

 後変わったことといえば、たまに知らん人が俺に乗るようになったぐらい?海藤さん曰く、俺の騎手を務めてもらうらしい人だ。今日もその人に乗ってもらうらしい。

 乗り心地に関しては、良く分からない。ただ、悪い気分ではなかったとだけ言っておこう。

 そうそう。あれからもクロノジェネシス先輩とは度々会うようになった。最近では気心の知れた仲……になったと思う。あっちから良く話しかけてくれるし。この前なんかは。

 

 

『うわーん!負けちゃったよヴァーディくーん!慰めてー!』

 

 

『あ、あ~……お疲れ様です?ご愁傷さまです?ま、まぁ元気出してくださいよ。次こそ勝ちましょう?』

 

 

『グスングスン……本当にそう思ってる?』

 

 

『思ってます思ってます。だからホラ、頑張りましょ?』

 

 

『……じゃあ頑張る』

 

 

 とまぁ。負けて悔しがっていた。なんでもデカいレースだったらしい。オークスだったか?思うような展開にならなくて負けたのだとか。しかしクロノジェネシス先輩でも勝てないとは……やはり全国には強い馬がたくさんいるんだなと分かった。

 しばらく考え込んでいると急に扉が開いた。どうやら着いたらしい。さて、向かいますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小倉競馬場第5R2歳新馬戦

 

 

枠順番号馬名牡/牝人気

1
1グランヴェルソー8

2
2ベッロコルサ
1

3
3オークレイコート
2

4
4ダッチマン4

5
5バトルレイカ9

5
6サンビースト6

6
7ヘイセイロード12

6
8ハバチューバー11

7
9スナークアリス10

7
10カリニート
3

8
11ベルウッドコチョウ7

8
12ヴァーディクトデイ5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時間が経ってレース当日。鞍とか装着して、今日俺に乗るらしい滝村さんを乗せてパドック?とやらにきた。それにしても、結構なお馬さんが出走するのね。俺以外に11頭とかそのぐらい。

 

 

「お、あの黒い馬堂々としているな。どの馬だ?」

 

 

「あれは……ヴァーディクトデイだって。血統は……げっ」

 

 

「サンデーサイレンスの2×3かぁ……ちょっと不安だなぁ。でも、調子良さそうだし買いでいいかな?」

 

 

「それにしても黒いな。青鹿毛か?」

 

 

「馬体重438kg……ちょっと小柄だな。でもカッコいい系の顔立ちしてるな」

 

 

 俺の身体そんなに黒いのか?大体の人が黒いって印象しか抱いてないじゃん。まぁまっくろくろすけの黒坊なんてつけられるぐらいだしそうなのか。後カッコいいって言ってくれたそこの人、アンタいい人だな。

 

 

「よしよし、落ち着いてるなヴァーディ。もうそろそろ本馬場入場だからな。その調子で頼むぞ」

 

 

「ヒヒン(あたぼうよ)」

 

 

 パドックを終えて競馬場に入る。こんな感じになってるのか。なんというか、独特の空気感みたいなものがあるな……思わず身震いする。

 

 

「どうした?緊張しているのか?」

 

 

 滝村さんが俺の首を撫でるが……違うぜ滝村さん。これは武者震いってやつだ。

 

 

(これがレースの空気感か)

 

 

 我ながら、馬に転生した時は文句たらたらだったが……かなり順応してきたもんだ。とりあえず、勝つ。その思いを胸に返し馬?とやらを済ませる。ウォーミングアップみたいなものだ。よし、気合入れて行きますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《小倉競馬場第5レース新馬戦。各馬枠入りが始まりました。各馬スムーズに枠入りが進んでおります。本レース人気は拮抗しております3番人気は7枠10番カリニート。2番人気3枠3番オークレイコート牝馬です。1番人気は2枠2番のベッロコルサです》

 

 

《個人的には5番人気のヴァーディクトデイに注目したいところですね。父はあのキタサンブラックの父として有名なブラックタイド!果たしてどのようなレースを見せてくれるのか、少し楽しみです》

 

 

《あ~それは確かに気になりますね。さぁ全ての馬がゲートに収まりました。まもなく発走となります新馬戦。ここから新たなスターが生まれるのか?そして今ゲートが開いて……スタートしました!カリニートが好スタートがっ、っとこれは!1頭大きく出遅れたアレは1枠1番のグランヴェルソー!ゲートに張りついています、走っていませんグランヴェルソー!これはやってしまった!そうしている間にも他の馬はすでに前方遥か彼方だ!まずハナを切ったのはオークレイコート内からスーッと上がっていきました。5番のバトルレイカ、10番のカリニートと続きます》

 

 

《内枠を活かして抜け出しましたねオークレイコート。レースは少し縦長の展開を見せているか?》

 

 

《そうですね。レースは少し縦長の展開。カリニートの内にヴァーディクトデイ。ヴァーディクトデイはこの位置につける。そのヴァーディクトデイの1馬身後方にベッロコルサ、内6番のサンビースト外に11番のベルウッドコチョウがつけています。ここまでが先行集団、そこから馬群ちょっと離れてスナークアリスが追走。そこからさらに4馬身5馬身離れて4番のダッチマン。ダッチマンが走っています。さらにダッチマンの後ろ大きく離されてヘイセイロードとハバチューバーという隊列》

 

 

《どうやらグランヴェルソーは競争を中止した様子。次走は頑張って欲しいですね》

 

 

《そして第3コーナーから第4コーナーの中腹。第4コーナーに入ろうかというところ。先頭オークレイコートを虎視眈々と狙っているぞカリニート。2番手にカリニートが接近してきているぞ、っと。ヴァーディクトデイだ。12番のヴァーディクトデイがカリニートの内から上がってきている。3番手にヴァーディクトデイ。そしてここから第4コーナーを抜けて最後の直線に入った!オークレイコートこのまま逃げ切れるか、っと!ここでヴァーディクトデイが上がってきた!》

 

 

《おっとこれは……!》

 

 

《オークレイコート頑張ろうとしているがヴァーディクトデイ速い速い!1人だけ次元が違う末脚を繰り出している!ヴァーディクトデイがそのままオークレイコートをあっという間に躱した躱した!先頭はヴァーディクトデイに変わります!カリニートとオークレイコート追走!しかし先頭ヴァーディクトデイが突き放す!その差を2馬身、3馬身とグングンつけていく!2番手争いはオークレイコートとカリニート接戦!4番手は2、3馬身後方2番のベッロコルサ!それを追走スナークアリス!サンビーストも伸びてくるが先頭ヴァーディクトデイはもうゴールイン!先頭ヴァーディクトデイを捉えることは叶わず!小倉競馬場新馬戦を勝ったのは12番のヴァーディクトデイ!好位追走からの見事な末脚!2着カリニートに7馬身差圧勝劇!勝ち時計は1:08:4!》

 

 

《いやぁ……凄まじい末脚でしたね!これは今後が期待できる馬でしょうヴァーディクトデイ!》

 

 

《上がり3ハロンのタイムが出ました。ヴァーディクトデイのタイムはなんと34.5!文句なしの上がり最速タイムを記録しましたヴァーディクトデイ!これは期待のブラックタイド産駒か!今後のレースに注目したい馬です!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろう。確かに疲れたけど……ちょっと拍子抜けした。

 

 

(もしかして俺、強かったりするのだろうか?)

 

 

 ただ、新馬戦はまだまだ序の口だ。ここからさらに勝ち上がるには、とても厳しい道のりになるだろう。でも、勝った今日ぐらいは調子に乗っていいよな?

 

 

「よしよし、お疲れ様ヴァーディ。よく頑張ったな」

 

 

 お、滝村さんが撫でてくれる。気持ちいいぞ~もっと撫でろ。

 

 

「この調子で勝ち続けような、ヴァーディ」

 

 

「ヒヒィン!(あたぼうよ!)」

 

 

 俺の新馬戦は無事に勝利を収めた。とりあえず、これからのことを考える。

 

 

(とりあえず、これからも勝ち続けたいよな。後は……やるからにはでっかく、世界一の競走馬だ!)

 

 

 具体的にどうすれば世界一なのかはまだ分からない。だけど、俺は世界一の競走馬になることを目標に掲げる。そのためには……まずはクロノジェネシス先輩に勝たないといけないけど。

 俺の新馬戦。結果は──快勝だった!




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