大阪杯が終わった後、ぼくはトレーニングをいっぱいいっぱい頑張った。
(あの子に追いつきたい。ヴァーディ君に、追いつきたい!)
あの時の地面は言い訳にできない。ぼくは、あの時ヴァーディ君に完敗だった。きっと、ガッカリさせちゃったと思う。だから、次戦う時は……本当のぼくを見せるんだ。強いぼくを、コントレイルの走りを見せるんだ。その一心で頑張っていた。
ただ、ヴァーディ君はどうやら海外?のレースに出走するらしい。だけどその前に、夏のレースで一緒に走る機会が一度だけあったんだけど。
「……どうですか?矢萩さん」
「ダメだな。まだ脚元に不安がある。この状態じゃ、宝塚記念には出せない」
大阪杯のダメージが、思ったより大きかったみたいで。ぼくは宝塚記念というレースには出れなかった。ヴァーディ君と戦えなくてちょっと残念だったけど……これも強くなるための準備だと思えば苦にならなかった。
その後もぼくはトレーニングを積み重ねた。夏を経て、秋を迎えて。もうすぐ次のレースが来る。そんな時だった。
「矢萩さん、聞きましたか?」
「……嫌でも耳に入るだろう。日本競馬史上初の偉業だぞ?」
人間さん達の会話が聞こえる。ぼくは聞き耳を立てていた。
(史上初の偉業?もしかして、ヴァーディ君かな?)
ぼくの予想は、当たりだった。
「日本調教馬として初の凱旋門賞制覇……とんでもない偉業だ」
「俺も、レースは見てました……とんでもない脚でしたよ」
「あぁ。あの時のヴァーディクトデイは、まさしく最強だった」
ヴァーディ君の話題。海外の大きいレースに出てたのは知ってたけど、勝ったんだ!やっぱりヴァーディ君は凄いや!ぼくも頑張らないとな~。
ただ人間さん達は嬉しくないのか、暗い表情をしてた。どうしたんだろう?嬉しくないのかな?やっぱりライバルだから?
「……正直に聞きたい増永君。ヴァーディクトデイに、勝てるビジョンはあるか?」
「ある、って言いたいところですけど……」
ぼくにいつも乗ってる人は、自信なさそう。
「あの末脚を見たら、軽々しくあるとは言えないです……」
「……気持ちは分かるよ。そのヴァーディクトデイは、コントレイルのラストランに決めてるジャパンカップに出走するつもりらしい」
ッ!ぼくの最後のレースに、ヴァーディ君が出る?そしたら、またヴァーディ君と走れるんだ!
(気合入るな~!ヴァーディ君とまた走れるんだ!)
あの時の走りは、今でも思い出せる!凄く綺麗で、飛んでるんじゃないかって思うぐらいの走り!キラキラしてて、凄かった!
だけど、もう負けない。キラキラしたヴァーディ君に、ぼくは勝つ!だから、今以上に頑張らないと!
「秋の天皇賞次第では、
……え?走るの止めちゃうの?どうして?まだ走ってもないのに。
(そんなの嫌だ!)
ぼくは、柵を蹴って抗議する。断固反対!ジャパンカップにだせー!
「うおっ!?コントレイルが暴れ出した!?」
「落ち着いてコントレイル!どうどう……」
「ダメに決まってるでしょう!そんなこと!」
ぼくは必死に抗議したけど、それ以上に。人間さん……いつもぼくに乗っている人が、鼻息を荒くして目の前の人間さんを睨みつけていた。
「確かに、ヴァーディクトデイに勝てるか?と言われたら100%勝てる自信はありません……だけど!」
人間さん達は驚いているのか何も言わない。その人間さんは、しっかりと言い放った。
「だからといって、逃げるつもりは毛頭ありません!もしジャパンカップにヴァーディクトデイが出るんだったら……俺とコントレイルで迎え撃ちます!世代最強の座を、奪い返す!」
どうやらこの人間さんは、ぼくと同じ気持ちらしい。ヴァーディ君に勝ちたい、そんな気持ちなんだ。
「ここで逃げたら、コントレイルの評価はさらに落ちます!ただでさえネットで好き放題言われているのに、これ以上好き勝手言われるのは……俺だって嫌ですよ!」
「落ち着け増永君」
正面の人間さんは、静かにそう言った。それで落ち着いたのか、気まずそうに目を逸らしてる。
「あくまで例えだ。だが……もしもの場合を考えといてくれ。コントレイルは、ディープの後継者となる馬なのだから」
それだけ言って、ぼくは馬房から出された。どうやら調教が始まるみたいだ。
良く分からないけど、とにかく目の前のことを頑張ろう!そうすればきっと……ヴァーディ君と戦える!
(頑張るぞー!おー!)
「気合入ってるな、コントレイル……絶対に、俺達でヴァーディクトデイに勝つぞっ!」
(うん、人間さん!)
「でもその前に、もう一つのレースだな。ひとまずはここを頑張るぞ、コントレイル」
順調にトレーニングを積めていった。
天皇賞・秋
| 枠順 | 番号 | 馬名 | 性齢 | 人気 |
1 | 1 | コントレイル | 牡4 | 1 |
1 | 2 | カデナ | 牡7 | 15 |
2 | 3 | モズベッロ | 牡5 | 9 |
2 | 4 | ポタジェ | 牡4 | 5 |
3 | 5 | エフフォーリア | 牡3 | 2 |
3 | 6 | トーセンスーリヤ | 牡6 | 8 |
4 | 7 | ワールドプレミア | 牡5 | 6 |
4 | 8 | サンレイポケット | 牡6 | 10 |
5 | 9 | グランアレグリア | 牝5 | 3 |
5 | 10 | カイザーミノル | 牡5 | 11 |
6 | 11 | ムイトオブリガート | 牡7 | 16 |
6 | 12 | ラストドラフト | 牡5 | 14 |
7 | 13 | ペルシアンナイト | 牡7 | 13 |
7 | 14 | カレンブーケドール | 牝5 | 4 |
8 | 15 | ヒシイグアス | 牡5 | 7 |
8 | 16 | ユーキャンスマイル | 牡6 | 12 |
そして迎えたレース本番の日。よ~し、頑張るぞー!
「コントレイル?ちょっと入れ込み過ぎだから落ち着こうか?」
頑張るぞ~頑張るぞ~!
「あ、ダメっぽそう……」
それにしても狭い。早くここから出たい。早くここから出て、新しいぼくを試すんだ!頑張るぞ~!
《ゲート入りが順調に進んでおります秋の天皇賞。しかしコントレイルがゲートの中で少し落ち着きがない様子だ。これは大丈夫か?》
《少し興奮気味ですね。気合が入りすぎている気がします》
《この秋の天皇賞。やはり注目すべきはコントレイルとグランアレグリアに並び立つ3頭目エフフォーリア!先日凱旋門賞を制したヴァーディクトデイの半弟、その弟も!この秋の天皇賞へと照準を定めました。鞍上縦山武、ヴァーディクトデイとエフフォーリアの兄弟秋天制覇なるか?》
《ヴァーディクトデイも3歳で秋の天皇賞を制しましたからね。エフフォーリアも能力は十分、勝ち目はありますよ》
《各馬ゲートに収まって……スタートしました!大きな出遅れはありません、綺麗なスタートおっと?コントレイルがやや前目につけているか?しかし鞍上増永手綱を抑えている。コントレイルを必死に抑えているぞ?ちょっと入れ込み過ぎかもしれません。折り合いがついていない様子》
《ちょっと掛かっているかもしれませんね。落ち着いてレースをしたいところ》
ゲートが開いて。ちょっと遅れちゃったけどスタートを切ることができた。よしよし、とりあえず前に行くぞ~!
そうやってペースを上げていると。
「お、落ち着いてコントレイル。しっかりとペースを合わせて!」
う~ん……でもこのままいけなくもないし、行った方がいいと思うんだけど。でも凄く引っ張ってるし、仕方ないから抑えることにした。う~、もやもやする!
その後も、ぼくと乗ってる人の呼吸は終始合わなかった。どうして合わないんだろう?いつもはすぐに合っているのに。ただ、もう4つ目のコーナーに来た。この辺りでぼくは、進出を開始することに。
『よ~し、行くぞ~!』
「ちょ、コントレイル!?……あぁもう!なるようになれだ!」
人間さんも、ぼくに合わせることにした。このまま、1番を獲るぞ!
《第4コーナーを抜けて最後の直線に入りました!先頭に立ったのはグランアレグリア!9番のグランアレグリアが先頭だ!それを内からコントレイルが追います!1番のコントレイルも内から上がってきた!外からは5番のエフフォーリア!もう負けられない縦山武エフフォーリア!10番カイザーミノルも懸命に粘ります、しかしやはりこの3強だ!馬群は固まっております残り200m!コントレイルが内からグングン上がってくる!先頭はコントレイルとグランアレグリア!》
《終始鞍上の増永と折り合いを欠いていましたがやはり三冠馬!負けられない意地があるでしょう!》
《もう負けられない!もう負けられないのはこちらも同じだ1番のコントレイル!内からコントレイル外からエフフォーリア!グランアレグリアはちょっと苦しいか!?やはりグランアレグリアにこの距離は苦しかったか!?懸命に粘るがコントレイルとエフフォーリアには届かない!残り100を切った!エフフォーリアとコントレイルが抜け出した!エフフォーリアかコントレイルか!?》
ぼくの隣にはもう1頭。鹿毛の子がいた。負けられない、勝つんだ!そう思ったけど。
(うぅ……!人間さんと呼吸合わなかったのがやっぱり響いてる……!)
ゴール板をほぼ同時に駆け抜ける。だけど、何となく察しがついた。ぼくはあと一歩及ばずに敗れてしまった。
《コントレイルとエフフォーリアの激しい叩き合い!コントレイルかエフフォーリアか!?無敗の三冠馬か偉大な兄を継ぐものか!?激しい叩き合いしかし!わずかにエフフォーリア!わずかにエフフォーリアが前に出ましたゴールイン!若き人馬が秋の天皇賞を制した!昨年同様、3歳の若武者が秋の天皇賞を制した!ヴァーディクトデイとエフフォーリア、兄弟での秋天制覇!無敗の三冠馬コントレイルは惜しくも復活ならず、しかし!負けてなお強しの競馬をしました!エフフォーリアのハナ差2着!》
《大阪杯以来約半年ぶりの復帰戦、終始折り合いがつかず、道中掛かっていたのにも関わらずエフフォーリアとのハナ差決着。この夏を経て、コントレイルの強さも際立ったのではないでしょうか?これがもし、折り合いがついていたらと考えるとエフフォーリアと立場は逆転したかもしれません》
《3着はグランアレグリア!2着のコントレイルから2馬身離れての入着です。やはりこの距離は彼女にはキツかったでしょうか?》
うぅ……負けちゃった。だ、だけど!
(へこたれてられない!もっともっと強くなって、今度こそ勝つんだ!)
惜しかっただとか、人間さんと呼吸合わなかったとか。そんなものは
(それに次のレースは、ヴァーディ君が出てくるって話だ。だったら尚更、情けない姿は見せられない!)
ヴァーディ君に勝ちたい。その思いは日増しに強くなっていってる。ヴァーディ君に勝って、ぼくはぼくの強さを証明するんだ!
「うおおぉぉ……!か、勝ったぞエフフォーリア!やったな!」
『うおおぉぉ!やったね武ー!』
ぼく達に勝った子達は人間さんが涙を流していた。凄く嬉しかったみたいだ。だけどその姿を見て、今度こそは勝ってやるって気持ちが湧いてくる。
『おめでとう、鹿毛君』
『あ……こ、コントレイル、さん?』
『うん、そうだよ。ぼくがコントレイル。君は?』
『え、エフフォーリア、エフフォーリアです』
『そっか。エフフォーリア君……おめでとう。君の勝ちだよ』
『い、いえ。コントレイルさんも、ここにいるみなさんも、すっごく強かったです』
それは嬉しい限りだ。だけど、それとこれとは話が別。
『次は負けないよ、エフフォーリア君』
『じ、自分も。負けません。次も、自分と武で勝ちます』
宣戦布告だけして、ぼくは離れる。悔しさを噛みしめて。
ぼくに乗っている人間さんは。
「……今回の件は俺の騎乗が原因だ。だけどコントレイルの強さ……この分なら、ジャパンカップはっ!」
ブツブツと何かを言っている。ぼくと同じように、今回のレースの敗因は自分にあると思っているみたい。案外似た者同士なのかもしれない。
ヴァーディ君はきっと、ジャパンカップに出走してくる。海外の凄い大きなレースを勝って、ぼくに挑んでくるんだ。挑戦者の立場はぼくなのに、それでもヴァーディ君はぼくに挑戦する気持ちでいるはずだ。
(負けない……!絶対に勝つ!)
「次は勝つぞコントレイル。お前は……凄い馬だ。今度こそきっと勝たせる!お前の力全てを発揮して──次のレースを勝つぞ!」
(うん、人間さん!今日はちょっと不甲斐ないぼくを見せちゃったけど。次のレースはそうはいかないから!)
人間さんもぼくと同じ気持ちみたいだ。
今回の敗北をしっかりと刻んで、次こそは!次のジャパンカップでみんなに、ヴァーディ君に勝つんだ!そのためにも帰ったらしっかりとトレーニングを積まなきゃ!
(待っててねヴァーディ君。ぼくはへこたれない。君と戦うのに相応しい自分に……無敗の三冠馬コントレイルとして!君と戦うよ!)
目指せジャパンカップ!おー!
『あれー!?ヴァーディ君どこにいるのー!?』
……なんか大阪杯の時にヴァーディ君に絡んできた馬がヴァーディ君を探していたけど気にしないことにした。
| 凱旋門賞馬ヴァーディクトデイ、ジャパンカップ出走回避!?疲れが取れず
海藤崇文調教師が、凱旋門賞馬ヴァーディクトデイのジャパンカップ出走を見送る予定であることを明かした。同馬は今後北海道の有北ファームで放牧に出される予定であり…… ・ ・ ・ |
折り合いを欠いて掛かっていたにも関わらずエフフォーリアと叩き合ってハナ差決着。そして……。