ヴァーディクトデイが海外で活躍している間、日本競馬はというと。
《最後の直線を向いてタイトルホルダーが先頭に変わった!パンサラッサはここで力尽きたか!?3番手ディープボンドが追い上げてくる!ヴィクトリアマイルで復帰したデアリングタクトも追い上げる!しかし先頭はタイトルホルダー!ヒシイグアスが必死に追い込んでくる!ヒシイグアスが追い込んでくるが差は縮まらない!タイトルホルダー逃げる逃げる!差は縮まらない!これで3連勝だタイトルホルダー!競馬界のエースは俺だぁぁぁぁ!タイトルホルダー1着ゥー!やったやったタイトルホルダー!2分9秒7の大レコード!》
最初の1000mの通過タイムが57秒6というハイペースで展開された宝塚記念をタイトルホルダーがレコードタイムで制し、連勝記録を3に伸ばした。そして、宝塚記念のこの結果を受けてタイトルホルダー陣営は。
「凱旋門賞へ挑戦します」
と宣言。他にも昨年に引き続きディープボンドも参戦予定であると報じられており、3月のドバイゴールドカップ*1を制したステイフーリッシュも凱旋門賞出走に意欲的であると発表。これで日本馬の出走は欧州遠征をしているヴァーディクトデイを含めて4頭となった。過去最多となる4頭の出走である。
さらに宝塚記念後の7月のある日。ロンジンワールドベストレースホースランキングが更新。タイトルホルダーはレーティング124を獲得し、ライフイズグッドと同レーティングでランキング5位タイとなった。他にもヒシイグアスと今年のダービーを制したドウデュース、シャフリヤールがランキングに名を連ねている。
そして、ロンジンワールドベストレースホースランキングのランキングトップは──ヴァーディクトデイ。レーティングは、134である。これはプリンスオブウェールズステークスもそうだが、エクリプスステークスでの勝ち方も評価されてのものだ。
そのエクリプスステークスはというと──。
あ~、今日も晴れてんな~。芝の状態も良好じゃねぇのこれ。
(……気持ちは全然晴れやかじゃねぇけど)
いつまでたってもアイツに、あの幻影に追いつけねぇ。そのことが、どうしようもなく腹立たしい。何かに当たり散らさないように気をつけねぇとな。後は上手く隠さねぇと。走れなくなる、ってのは勘弁だしな。
《エクリプスステークス、返し馬も順調に進んでおります。本レースの1番人気はなんといってもヴァーディクトデイ!今年に入ってから3連勝、昨年から数えて4連勝中!ヴァーディクトデイがオッズ1.4倍という圧倒的支持を得ての1番人気!ゴードンリチャーズステークスの21馬身差、プリンスオブウェールズステークスを馬なりで7馬身差圧勝!果たしてこのエクリプスステークスではどんなレースっぷりを見せてくれるのか!非常に気になるところです!また、もう1頭注目といえば……》
……本当に、このままでいいのだろうか?このまま走り続けても、飢えは満たされ『お前が日本から来たモンスターだな?』……誰?知らねぇ馬がいるんだけど?
『モンスターは知らんけど、日本から来たっていうなら俺だな。どうかしたのか?というかお前さん誰?』
その馬は、自信満々に答えた。
『俺はヴァデニ。このレースを勝つ馬だ。あなたは大層な強さを持っているようだが……俺の方が強いことを証明してやる』
おーおー、血気盛んなことで。良いじゃないのそういうの。
『そうかいそうかい。ゆーて歳上だから労わってくれると嬉しいんだけどな』
『……冗談だろう?闘志が隠せてないよ。それじゃ、またレース後に』
残念、まぁいいや。俺も、
返し馬が終わって、ゲートに入る。今回は内枠なんだよな~。個人的にはあまり良くない。ま、いつも通りわざと出遅れて後方で控えますかね。そんな風に考えていたら──ゲートが開いた。
(……勝つ。それだけだ)
切り替える。ただ、勝つために。余計な思考はいらない。今度こそ……あの幻影に勝つために。
エクリプスステークスが発走となった。7頭立ての今回、1番のアレンカーがハナを取る形でレースは展開される。
《エクリプスステークスがスタートしました!内枠のヴァーディクトデイがやや出遅れた形でのスタート、しかしこれは問題ないか?先行争い、ハナを取ろうとしているのはアレンカー。アレンカーがハナを取ろうとしている。馬群はまだ固まった状態、ヴァーディクトデイは少しずつ下がって最後方に控える形を取ります。プリンスオブウェールズステークスと同じ戦法で行くつもりだ》
「すげぇレースを見せてくれよー!ヴァーディクトデイ!」
「日本馬にデカい顔をさせるなー!勝てーヴァデニー!」
「負けっぱなしじゃ終われねぇぞー!ベイブリッジー!」
ヴァーディクトデイはプリンスオブウェールズステークス同様、最後方に控える形をとる。
《各馬コーナーへと入っていく。隊列が固まってきたか?先頭はアレンカー。アレンカーが先頭逃げています。2番手はロードノース、3番手ベイブリッジ、この3頭が固まっています。しかしそこまで差は広がっていません4番手ネイティブトレル、ミシュリフと続いて6番手ヴァデニ。そしてヴァデニの後ろ2馬身程離れてヴァーディクトデイ最後方です。ヴァーディクトデイは最後方、ここからまた驚異の末脚を発揮するのか?非常に楽しみなところ》
騎手達はヴァーディクトデイの情報を頭に入れていた。最後方から大外の追い上げを得意とする馬、ならばその追い上げを機能させなくするためにはどうすればいいか?考え出した結論はできる限り外を走らせること。しかし、この少数立てでは厳しいものがあるだろう。だが、そうも言ってられない。
(これ以上、負けていられるか!)
騎手達にも意地がある。負けられないという意地が。これ以上、負けてたまるかという思いがある。だがその思いは──容易く踏みにじられる。
勝負は最後の直線に入った。ここで……最後方に控えていたヴァーディクトデイが動く。
《各馬が最後の直線へと入ります!先頭は依然としてアレンカー隊列は変わらず……が、しかし!ここでヴァーディクトデイがペースを上げてきた!ヴァーディクトデイがペースを上げる!しかし隊列は横に広がっております!ヴァーディクトデイの前は壁のようになっている、が!ヴァーディクトデイ
残り3ハロンを示す標識でペースがアップする。他の馬もペースを上げ始めるが……ヴァーディクトデイの加速は、
ヴァーディクトデイは瞬く間に順位を上げていく。他の馬もペースを上げて対抗するが、それをものともせずにヴァーディクトデイは大外から上がっていった。距離のロスも、なにもかも関係なしに。
ヴァデニは必死に食らいつこうとする。
(向こうが本気なら、俺だって!)
「ッ!?ヴァデニ!?」
ヴァデニの騎手の手綱はまだ動いていない。じっくり見るつもりだったのだろう。だが、ヴァデニはヴァーディクトデイを追いかける。己の力を振り絞って。それを見てか他の馬達もさらにペースを上げる。
だが。
(おい……なんでだ……どういうことだよ!?)
無情な現実が、ヴァデニ達に突きつけられる。
(どうなってんだよこれは!?俺だって速いはずだ!なのに……なのにッ!)
必死にヴァーディクトデイを追走するヴァデニ。しかし。
(なんで……
ヴァーディクトデイに追いつけないどころか、むしろ差が広がっているという事実を突きつけられる。
後続の馬達の騎手は必死に手綱を動かしている。ヴァーディクトデイに追いつけと、アイツを逃がすなと。必死に動かしている。
だが先頭を走るヴァーディクトデイは──
《残り2ハロンを切った!先頭はヴァーディクトデイ!先頭はヴァーディクトデイだ!他も必死に追いすがる!しかし無情にも差が開いていく!なんという強さだ!?後続のヴァデニ達もさらにギアを上げるがむしろ差が開いていく!?これはどういうことだ!?まさかヴァーディクトデイはまだ余裕があるとでもいうのか!?ヴァーディクトデイがさらに突き放す!その差5馬身、6馬身!さ、さらに開いていく!?こんな馬があり得ていいのか!?独走状態だヴァーディクトデイ!》
後続の馬達に決して追いつけないという絶望を叩きつけるヴァーディクトデイ。だが、彼は。
(まだだ……!まだ、追いつけねぇのかよ……!)
ヴァーディクトデイがさらに突き放す。その差が9馬身まで開いたところで、エクリプスステークスは終了した。
《ヴァーディクトデイ、圧勝ゥゥゥゥゥゥゥ!エクリプスステークス、ヴァーディクトデイが9馬身差の圧勝!タイムは……!に、2分3秒ジャスト!2分3秒ジャストでシーザスターズ*2が記録したタイムを更新!レースレコードで圧勝しましたヴァーディクトデイ!2着はヴァデニ!3着はミシュリフです!》
レースレコードでの決着に観客は湧き上がる。
「とんでもねぇバケモンだなおい!」
「やっぱ最高だぜヴァーディクトデイ!次はどのレースを焼き払ってくれるんだ!?」
「ターフを焼き尽くす黒い鳥……!痺れるぜっ!」
湧き上がる観客とは対称的に、騎手達は絶望へと叩き落されていた。それも当然だろう。
(なんで……なんで、大外から上がって差をつけられるんだよ……訳分かんねぇよ……)
(こっちだって、速かったはずだぞ!?なのに、どうして差をつけられるんだよ!?)
(も、モンスター……)
畏怖の感情が混じった目でヴァーディクトデイと鞍上の鷹騎手を見る他の騎手達。
2着だったヴァデニも、ヴァーディクトデイの強さを見せつけられ……恐怖した。
(確かに、モンスターって言われるのも分かる。だけど……アイツは)
『
まるでこちらのことなど眼中にないかのように走っていた。それだけならまだしても……ヴァーディクトデイは、いないはずのナニカが見えているかのように走っているように感じたのだ。それは、ヴァデニ以外も例外ではない。
そんな中ヴァーディクトデイは。
(また、勝てなかったか)
幻影にまた負けたという怒り。だが、その怒りも徐々に収まる。
(……なんで勝とうとしてるんだっけ?)
確か、世界一を証明するため。そのために、ヴァーディクトデイは幻影に勝とうとしていた。だがその考えにも……徐々に疑問が生まれてきていた。
何故?どうして?ヴァーディクトデイの疑問は尽きない。そもそもあの幻影はなんだ?そう考えるが。
(走るしかねぇ。俺は、約束したんだ。世界一になるって、俺の、俺の世代の強さを証明するって……コントレイル達が強かったって、証明するために。俺は、走るんだよ)
ヴァーディクトデイは歩みを進める。鞍上の鷹騎手に促されるまま歩く。
(……次は、勝つ)
そう誓いながら。
──現在のロンジンワールドベストレースホースランキングのランキングトップはヴァーディクトデイの134。ゴードンリチャーズステークスの21馬身差、プリンスオブウェールズステークスの馬なりでの圧勝劇、エクリプスステークスでのレースレコードと9馬身差圧勝。これを受けての134である。しかも、これでまだ様子見の段階。ここからさらに上がる可能性を秘めているのだ。
ヴァーディクトデイの身体面は問題ない。プリンスオブウェールズステークスとエクリプスステークスとレース間隔は短いものの、疲れも溜まっているように見られなかった。陣営は。
「ヴァーディクトデイの次走は?どのようにお考えでしょうか?」
「キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスに出走予定だ。エクリプスステークスでは素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた、キングジョージでもまた、我々を驚かせるようなレースを見せてくれるだろう」
「「「おぉー!」」」
ゴードン調教師の言葉に記者達は色めき立つ。ヴァーディクトデイはいまや、世界でも最強クラスの馬として名を馳せていた。
ゴードン調教師はインタビューが終わった後、嘆息する。
「最大限、ケアするしかあるまいか」
次走は、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス。
次走はキングジョージです。