キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスに対する各陣営のコメント ヴァーディクトデイ、ミシュリフ、エミリーアップジョン
「全頭問題ない。万全の状態でキングジョージに送り出すことができた。素晴らしいパフォーマンスを見せてくれるだろう。特にヴァーディクトデイは今勢いに乗っている。枠番も彼にとって幸運な大外枠に収まった。ファンの期待に応えてくれるだろうな」
トルカータータッソ
「凱旋門賞ではヴァーディクトデイに惜しくも敗れ去った。向こうは調子が良いようだがそれはこちらも同じ。天気が良いから速い馬場になるだろうという見方だが、本馬(トルカータータッソ)はどんな馬場でも問題なく対応できる。昨年の凱旋門賞の借りを返させてもらうさ」
パイルドライヴァー
「ヴァーディクトデイは素晴らしい馬だが、ウチの馬だって負けていないさ。調教を進める度にこの馬ならばあのモンスターを倒すのだって夢じゃない!そう思えるようになった。キングジョージにも良い状態で臨むことができる。きっと、あのモンスターを討伐して見せるよ」
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来たか、キングジョージとやら。ここヨーロッパでも最高峰のレースの1つ、らしい。
『随分と久しぶりだな、黒いの』
『うん?』
声のした方へと視線を向けると……お、誰かと思えば。
『凱旋門賞ぶりだな、トルカータータッソ』
『ケッ、そうだな』
向こうさんは面白くなさそうだ。ま、俺にあんま良い思い出ないだろうし当たり前か。
『凱旋門賞のようにはいかねぇ。テメェをぶっ倒してやる』
俺に対する宣戦布告、か。
『おう、今日はよろしくな』
『クソがッ!』
適当に軽く返す。アイツもアイツで油断ならない相手だ、気をつけねぇとな。
返し馬でウォーミングアップを済ませる。他の馬は俺をギラついた目で見ている。それだけ警戒しているということだろう。
(……関係ねぇか。俺は俺のレースをするだけだ)
そんなことを考えながら、返し馬は終わろうとしていた。
アスコット競馬場には多くの競馬ファンが集まっていた。
「なぁ、どの馬が勝つと思うよ?」
「やっぱりヴァーディクトデイでしょ!あの馬は完全にモノが違うわ!」
「どんな勝ち方をしてくれるか、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか!楽しみだぜ本当!」
天気は晴れ、芝の状態は良馬場の発表。芝11ハロン211ヤード*1、7頭立てで行われる。
もっとも勝利が期待されているのはヴァーディクトデイ。今年に入ってから圧倒的な強さで欧州競馬に乗り込み、その実力をいかんなく発揮している。オッズも1.4倍と抜けた人気を誇っている。
だが、同時にファンはある期待もしている。
「ヴァーディクトデイというモンスターを倒すのはどの馬か?」
そんな期待を抱いていた。
《各馬返し馬を順調に済ませております。ヨーロッパ最高峰の舞台、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス!このレースの最注目はやはりヴァーディクトデイ!日本で生まれたこの馬は今年に入ってから欧州競馬に凄まじい影響をもたらしております!オッズは驚異の1.4倍、果たしてこの舞台でどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか!?はたまたそれに待ったをかける馬が現れるのか!キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスはまもなく発走となります!》
各馬順調にゲートへと入る。今回のヴァーディクトデイは──大外枠。ヴァーディクトデイにとっては絶好の枠番だ。
全頭ゲートインが終わり、競馬場が静かになる。静かになった競馬場の空気を切り裂くように──ゲートが開く音が鳴り響いた。
《各馬ゲートに収まって、スタートです!キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスがスタートしました!内のミシュリフと大外のヴァーディクトデイが出遅れたか!この2頭は出遅れた!他の馬は綺麗なスタート。パイルドライヴァーが先頭に立とうという勢い。しかし内からブルーム、ブルームが主張してきている。これを見てパイルドライヴァーは控える形》
まず先手を打ったのはブルーム。ブルームが先頭に立って逃げる形を取ろうとする。しかし、ブルームに待ったをかけるように外から注目の3歳馬ウエストオーバーが並びかけてきた。ブルームとウエストオーバーが並んだ状態でアスコット競馬場の坂を下っていく。1番人気のヴァーディクトデイは最後方。集団の後方に控えているミシュリフのさらに2馬身後ろに控える形を取っていた。
ブルームとウエストオーバーのハナの取り合いが続く。ハナを取ったのは──ウエストオーバーだった。
《最初のコーナー、スウィンリーボトムに入って、ここで!ここでウエストオーバーが先頭に立ちます!ハナを取ったのはウエストオーバー3歳馬!ブルームは控えます2番手。3番手にパイルドライヴァー!パイルドライヴァーの後ろはエミリーアップジョン、トルカータータッソ、ミシュリフ、そして2馬身程遅れてヴァーディクトデイと続きます!最早これが定位置ヴァーディクトデイ、ここからどこで仕掛けるのか?非常に気になるところ。そろそろスウィンリーボトムを越えてオールドマイル*2の直線に向かいます。坂を下って、今度は坂を上ることになります》
最初のコーナーを越えて隊列が決まってきた。先頭に立ったウエストオーバーがペースを握り、長い直線の坂を上っていく……はずだった。
ここで最後方に控えていたヴァーディクトデイが徐々に進出し始めてきた。これにはファンも実況も、他の騎手達も度肝を抜かれる。最後方に控えていたヴァーディクトデイが、このオールドマイルコースで徐々に上がってきたのだ。
「おい、ヴァーディクトデイ上がってきてねぇか!?」
「え?……ほ、本当!前との差を詰めてきてる!」
「いくら何でも早くねぇか!?」
驚くファン。
(プリンスオブウェールズステークスではもっと後で仕掛けていた。キングジョージは距離が長くなっているのに、ここで仕掛けるとはな)
(どういう意図がある?なんにせよ、警戒しておくに越したことはない)
(……下手すれば、ヴァーディはここからでも持つ可能性があるのがな)
外から上がっていくヴァーディクトデイを見つつ、様子を窺う騎手達。
《オールドマイルコースも残り半分を過ぎて!ここにきてヴァーディクトデイが後方からじわじわと上がってきてついに先頭ウエストオーバーに並びかけます!1番人気ヴァーディクトデイが先頭に並び立った!ウエストオーバーはどうするか?ウエストオーバーは、控えるようだ!ヴァーディクトデイが早々に先頭に立った!果たしてこれは暴走か?しかし油断はできません!このモンスターホースならばここからでも余裕で持つかもしれませんから!ヴァーディクトデイが後続を引っ張っていく……いや!差がじわじわと開いていく!ヴァーディクトデイが後続との差を開いていく!》
上り坂でもお構いなしに上がっていくヴァーディクトデイ。ハロンのタイムは12秒台前半から11秒台を記録していた。
ヴァーディクトデイが先頭に立ってから隊列に大きな乱れはなく、オールドマイルコースを抜けて最後の直線に入る。この時点で先頭ヴァーディクトデイと2番手との差は──4馬身はついていた。
《最後の直線先頭はヴァーディクトデイ!ヴァーディクトデイ先頭!ウエストオーバーはブルームに捕まった!後続に追いつかれ始めてきた!パイルドライヴァーが2番手に上がってくる!トルカータータッソにも鞭が入るここからギアを上げてきたトルカータータッソ!凱旋門賞の雪辱を果たせるか!?い、いや……これは、あまりにもっ!》
最後の直線を向いてヴァーディクトデイ以外もギアを上げる。ギアを上げるが……ヴァーディクトデイは
「ハハハ!エクリプスステークスの再現じゃねぇか!イケイケー!」
「凄いわ!どんどん引き離してる!もう10馬身はあるんじゃないかしら!?」
「う、嘘だろ……夢なら覚めてくれよ……」
残り1ハロンを過ぎてヴァーディクトデイと2番手との差は──実に13馬身。なんなら、もっと差がつく勢いだ。そしてタイムも、レースレコードを更新する勢いである。
その差はどんどん開いていき。ヴァーディクトデイに騎乗している鷹騎手は一度も鞭を振るうことはなかった。
《さらに差は開く!さらに差は開く!ヴァーディクトデイ圧勝!ヴァーディクトデイ圧勝!まさにモンスタァァァァァァ!ヴァーディクトデイが5連勝でキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスを制したぁぁぁぁ!タイムは驚異の2分24秒21!ノヴェリストのタイムをさらに縮めたヴァーディクトデイ!2着パイルドライヴァーとの差は──実に18馬身!ハーピンジャーが記録した最大着差11馬身差を大幅に更新!あ、圧倒的過ぎる!エクリプスステークス以上のパフォーマンスを見せてくれたヴァーディクトデイ!》
「「「ヴァーディ!ヴァーディ!ヴァーディ!」」」
アスコット競馬場に湧き上がるヴァーディコール。
「んだよあれは……正真正銘のモンスターじゃねぇか……」
「どう、対策取ればいいんだよあんなの……」
「数が増えれば、前で壁を作ればとか。そんな領域の話じゃない……あんなモンスターに、勝てるかよ……」
さらなる絶望へと叩き落される騎手達。坂だろうが何だろうが加速する、どんな馬場であっても距離さえ合っていれば圧倒的な力でねじ伏せる。そんなヴァーディクトデイに対する有効策が、見つからなかった。
キングジョージを制したヴァーディクトデイは、空を見上げていた。
(……なぁ)
寂しそうに、悲し気に。
(後、どれだけ走れば許される?後どれだけ強さを証明すれば満たされる?この先、どうすれば……俺は……)
どうしようもなく渇く心。走れば走るほどに飢えていく。どうすればこの心が満たされるのか……ヴァーディクトデイには分からなかった。
(……帰るか。今日のレースは、さすがに疲れた)
後ろから恐怖の籠った視線を感じる。その視線を無視して、ヴァーディクトデイは鞍上の指示に従うままターフを去っていった。
「「「ヴァーディ!ヴァーディ!ヴァーディ!」」」
湧き上がる自分の名前のコールを、冷めた感情で受けながら。
レースが終わって数日。記者からの取材でヴァーディクトデイの今後のレースについて取材がされていた。
「インターナショナルステークスにバーイードが出走予定です!ヴァーディクトデイはどうなさるつもりでしょうか!?」
記者とファンが望んでいるのは、欧州二強と名高いヴァーディクトデイとバーイードの対決。マイル路線を進んでいたバーイードが、8月のインターナショナルステークスに出走する予定であることを知った記者達の行動は早かった。
インターナショナルステークスは2000m。ヴァーディクトデイが主戦場としている中距離でもある。このレースが、バーイードとヴァーディクトデイが戦う絶好の機会ということもあり、記者達はこぞってゴードン厩舎に取材をしていた。
だが、そんな記者達の願いを一蹴するように。ゴードン氏は毅然とした態度で答える。
「インターナショナルステークスにヴァーディクトデイを出走させるつもりはない」
「し、しかし!ファンは望んでいますよ?バーイードとヴァーディクトデイ、欧州二強の直接対決を!」
「確かに、私も見たいという感情がないと言えば嘘になるだろう。しかし」
ゴードン調教師は、ヴァーディクトデイを出走させない理由を淡々と語った。
「ただでさえプリンスオブウェールズステークスから日程を詰めてきた。ここでさらにインターナショナルステークスに出走するのは馬にとってあまりにも酷だろう。さらに、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスの激走の影響もあってかヴァーディクトデイには疲労が見られる。彼は疲労が抜けにくいタイプだ。完調じゃない状態でバーイードと戦うつもりはない」
「な、成程。それは仕方がありませんね」
「そういうことだ。今後ヴァーディクトデイは、ラストランとなる凱旋門賞に向けて調整していくことになる」
キングジョージ後のヴァーディクトデイには、さすがに疲労の色が見えた。ヴァーディクトデイは疲労が抜けにくい。ここから凱旋門賞までにベストな状態に戻すためにも、しっかりとしたケアをする必要がある。ゴードン調教師はそう語った。記者達もその言葉に納得し、取材を終えて去ることにした。
ヴァーディクトデイの現役は今年でラスト。最後に出走するのは──二連覇がかかった、凱旋門賞である。
次回はおそらく掲示板回。