飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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競走馬編のエピローグです。


それから

見事有終の美を飾る!ヴァーディクトデイ凱旋門賞二連覇!

 

 現地2日に仏G1凱旋門賞(芝・2400m)がパリロンシャン競馬場で開催された。雨の中発走となった本レースは日本のヴァーディクトデイ(1番人気)が最後の直線で鋭く脚を伸ばし、大外から全ての馬を捲って勝利を収めた。走破タイムは2分34秒88。これでG1レースを4連勝とし、エネイブル以来4年ぶり、牡馬としてはアレッジド以来44年ぶりの凱旋門賞連覇を成し遂げた。ヴァーディクトデイはこの凱旋門賞をラストランにしており、見事有終の美を飾った。

 G1レースを5連勝と絶好調だった英国のアルピニスタは4馬身差の2着、アルピニスタから1/2馬身差でヴァデニが3着。他の日本勢はタイトルホルダーが12着、ステイフーリッシュは先行するも15着、ディープボンドは昨年同様馬場に脚を取られて追走一杯の19着に沈んだ。

 レースは日本のタイトルホルダーがハナを切り、これに差がなくブルームが続く。さらにアルハキームとディープボンド、この2頭を前に見ながらアルピニスタ、ウエストオーバー、ステイフーリッシュが続いた。

 坂の下りに入るとウエストオーバーの背後からヴァデニが迫り、ルクセンブルクとオネストの順、並んで外からトルカータータッソが集団を形成しフォルスストレートに入る。この時点でヴァーディクトデイはまだ最後方で機会を窺っていた。

 最後の直線に入るとアルピニスタが楽な手応えで1頭、2頭と躱して前進。粘るタイトルホルダーを馬なりで捕らえて、残り300mで満を持してスパート。しかし最後の直線に入った瞬間、ヴァーディクトデイが最後方から爆発的な加速を見せて大外から見る見るうちに上がっていく。アルピニスタも必死に粘るが大外のヴァーディクトデイはアルピニスタを残り150mで捕らえ、そのまま突き放して4馬身差で快勝。圧倒的な強さを見せつけた。

 

 

レース後のコメント

 

海藤崇文調教師

「凱旋門賞二連覇という偉業を達成してくれて嬉しい限りです。二連覇を達成したのはいずれも素晴らしい名馬達ばかり。そこにヴァーディクトデイが名を連ねることができたのは本当に喜ばしいこと。日本でもヴァーディクトデイの活躍を見逃さないようにしていたけど、本当に凄いね。どこまでも成長していく馬だ。帰ってきたら沢山褒めてあげるつもりです」

 

鷹騎手

「去年の凱旋門賞と全く同じパターンで走るけど、なんの心配もしていなかった。それだけヴァーディクトデイの調子は良かったし、たとえ前が壁になったとしても楽に抜け出せる自信があった。実際にレースが始まると前が壁になる前に大外から上がっていけたよ。レース後にはヴァーディクトデイにお疲れさまって声をかけた。

 

 

海外でヴァーディクトデイの鞍上を務めさせてもらったけど、ビックリするような記録を連発してくれた。特にキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスは忘れられないレースになった。本当に凄い馬。ヴァーディクトデイはこのレースで引退、今後彼の子供がどんな活躍をしてくれるのか、凄く楽しみだよ」

 

ゴードン調教師

「毎レース毎レース、我々の想像の上を行くレースをしてくれる馬だ。私が関わって来た馬の中でも上位に入るポテンシャルの持ち主。今後彼の産駒が活躍する日が楽しみだ」

 

 

ヴァーディクトデイ引退!今後は種牡馬として

 

 凱旋門賞を勝利し見事有終の美を飾ったヴァーディクトデイが、11月付けで競走馬登録を抹消したことをJRAが発表した。同馬は今後、3年間の契約でイギリスのシャドモンドファームで種牡馬となる。クラブの代表馬主である秋畑代表は、ヴァーディクトデイは今後も海外を中心に種牡馬として貸出する予定であることを明かしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2022年、その年はある1頭の馬が人々の記憶に焼き付いていた。

 日本競馬界に初の偉業をもたらし、海外のレースで結果を残し続けた黒鹿毛の馬。

 

 

「あの年はヤバかったよなぁ。日本の競馬界の中でも歴代最強クラスじゃね?」

 

 

「あの年は日本では1回しか走ってないけど、その1回のレースでまぁこの馬なら勝てるっしょっていう印象が植え付けられるからヤバい。日本の中距離G1総なめもできたんじゃない?」

 

 

「BCターフに是非!って話があったから期待してたんだけどなぁ。見たかったな~走ってるとこ」

 

 

 半世紀にわたる挑戦の歴史に終止符を打った馬。その強さから畏怖と尊敬の念を込めて呼ばれた二つ名──【漆黒の撃墜王】。

 

 

「これね、2つの意味があるって言われてるんすよ。撃墜王はエースパイロットの称号なんですけど、その馬の場合は……世代の王という意味を込めての漆黒の撃墜王。な~んて言われてますね」

 

 

「ただ、これ本馬は気に入ってないのか露骨に耳絞って不機嫌になりますけどね」

 

 

 ただ、とある問題から日本で種牡馬をすることは厳しく。

 

 

「せっかく日本馬初の凱旋門賞馬なんですけどね~。こっちでやっていくのは厳しかったっていうか」

 

 

「やっぱり寂しい気持ちはありますよ。それでも、何頭かは種付けするらしいのでその産駒に期待ってとこですかね」

 

 

 その馬は、海外で種牡馬を続けていた。

 ヴァーディクトデイ。日本競馬の半世紀にわたる挑戦の歴史に終止符を打った黒鹿毛の馬。ロンジンワールドベストレースホースランキングのレーティングは歴代トップクラスの140。当初は142だったものの、後に修正されて140となった。この140というレーティングはフランケルとフライトラインに並んでいる。

 ヴァーディクトデイが日本競馬界にもたらした利益は凄まじかった。グッズは制作した側から飛ぶように売れ、常に売り切れ状態。特に、とあるスマホアプリの影響も相まって爆発的な人気となる。

 日本競馬界でも歴代最強クラスの馬。だが、彼を語る上で外せない、とある疑問があった。

 

 

「もし……もしあの時。4歳時のジャパンカップに出走できていたら……」

 

 

「同世代の三冠馬コントレイルとの対戦が実現していたら、どっちが勝ってたんだろうなって」

 

 

 同世代の無敗の三冠馬、コントレイルとの対戦。ネットではこれが度々議論されており、いまだに決着がつかない議題である。

 そんな話もあったが、時が経つとともに次第に薄れていき。引退してから5年、10年と長い月日が流れていき──ヴァーディクトデイも種牡馬として引退し、繋養牧場で静かな余生を過ごしていた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……今日も空が綺麗だな~』

 

 

 雲一つない快晴っていうの?こんな日は昼寝に限るぜ。競走馬時代だったら走り回っていたんだろうな~と思いつつ、寝っ転がる。

 それにしても、引退してから色々とあったもんだ。

 

 

(海藤さんも秋畑さんも。滝村さんとか金添さん、鷹さんが俺の引退式に集まってくれて。つーか、JRA?って組織が俺のためにってわざわざ引退式を開いてくれたらしくてな。ありゃ嬉しかったな)

 

 

 あの時は嬉しくてバリバリに気合入れて走ったね。俺に会いたいっていうファンが競馬場に詰め寄ってくれてよ。あぁ、俺にはこんなにたくさんのファンがいたんだなぁって、改めて実感した。

 んで、その引退式が終わったら俺はすぐさま海外へ。あっちで種牡馬することになったんだよな。

 

 

『……初年度からまぁインパクトが強かったな』

 

 

 向こうで会った馬──エネイブル、エネさんにえらく気に入られて。俺は種付けする予定じゃないと知った時エネさんが暴れ回ってそりゃもう大変だった。結局は俺がなんとか宥めて事なきを得たわけだが……代わりにあっちにいる間はほぼエネさんにつきっきりだった。仕方ねぇじゃん!少しでも離れようとするとすげぇ悲しそうに鳴くんだもんエネさん!種牡馬の先輩達からの哀れみの視線が痛かったよ俺は……。

 

 

(俺が3年の契約を終えて出ていくときも大変だったな……エネさんの馬房に俺の写真とかグッズとかたくさん置いてなんとかしたらしいけど、それにも限界があって。結局またシャドモンドにはお世話になったからな)

 

 

 そしてエネさんにまたつきっきりになると。スタッフの人がげっそりしててとにかく可哀想だった。

 にしても色々あったな~。イギリスで種牡馬やってたら予定にない歳上牝馬に追いかけられたり、アメリカで種牡馬やってたら予定にない牝馬に追いかけられたり、オーストラリアで種牡馬やってたらetc.etc.……

 

 

『碌な記憶がねぇじゃねーか!?』

 

 

 今思い出しても大体歳上のお姉さんに追いかけられてた記憶しかねぇよ!もっとこう、別にあるだろ!

 

 

(そういや、俺とほぼ同時期に引退した最強の2頭にあったな)

 

 

 1頭はバーイード。バー君とはまぁ気が合ったな。お互いにこのレースに出てたーとか一緒に走ってみたかったなーとか、じゃあここで走ろうぜ!みたいな感覚で牧場を走り回ってた記憶がある。海外でできたベストフレンドかもしれん。

 もう1頭はフラ君、フライトライン。こっちはアメリカで会った。こっちもこっちで気が合ったな。ただ身体がそんなに強くなかったから一緒に走り回ることはなかったけど。

 後は~……俺の息子らしいヤツにも会ったな。クソ生意気なヤツだったけど。まぁシバき倒したら次の日には舎弟みたくなってたが。

 確か初対面で。

 

 

『ハッ!ロートルはすっこんでな!』

 

 

 みたいな態度だったが。クソほど苛々してる時だったのでどつきまわしたら翌日には態度が一変していた。

 

 

『ウッス!ヴァーディ先輩!昨日は生意気言ってすいませんでした!』

 

 

 うん、我が息子ながらなんて変わり身の早さだ。なおエネさんにはさらに平身低頭していた。

 海外でもジェネ先輩に会うとは思わなかったな~……エネさんと火花散らしてたけど。

 

 

『ふ~ん?わたしの!ヴァーディ君になにしてるのかな~?』

 

 

『……わたしの?日本の馬はジョークがお好きなようで。私の、ヴァーディ様です』

 

 

『あ、あの~。その辺にしてもらえると……』

 

 

『『ヴァーディ(君/様)は黙っててください!』』

 

 

『ヒン……』

 

 

 悲しきかな、女の争いに男は無力なんだよ。

 そうそう、俺の種牡馬価値は欧州ではかなりのもんだったらしく、毎年すげぇ数の依頼が舞い込んでたらしいんだよね。最初は確か日本円で800万とかのスタートだったけど、最終的には……覚えてねぇ。ただ3,000万越えてたって話は聞いた。

 ……いかんな。思い出して来たら涙が出てきた。いや、決して牝馬に追いかけられてたからじゃないよ?ただ懐かしんでいたら涙が出てきただけだよ?

 

 

(あの後、パン君とかプボ君とかにも会ったりしたなぁ……)

 

 

 パンサラッサ、パン君は遠征が好きだったらしく俺と意気投合。プボ君は……最後のレースであんなやり取りがあったけど、仲良くしてくれた。本当に優しい馬だ。ラーシーとはオーストラリアで会った。ラーシーはあっちで種牡馬をやっていたらしく、たまに会っては話して。昔を懐かしんでた。

 

 

(……やべぇ、眠くなってきた)

 

 

 視界がどんどん薄れていく。意識を手放しそうになる。そんな俺の視界に、最後に映り込んだのは──一筋の飛行機雲。

 

 

(……あぁ、結局、お前とは一度も会わなかったな)

 

 

 最後の最後まで、アイツとは……コントレイルとは一度も会わなかった。会ったら会ったでなにするか分からんから、そっちの方が都合がいいけど。

 俺は、飛行機雲が嫌いだ。いや、嫌い……というわけじゃない。ただ見ていると、複雑な感情を抱く。怒りとか、悲しみとか、申し訳なさとか……そんな感情がぐちゃまぜになるから、飛行機雲は嫌いだ。ただ、それと同じぐらい……飛行機雲(コントレイル)に焦がれているのかもしれない。

 

 

(俺の、最後の……心残り。お前と、決着を……着けたかったなぁ……)

 

 

 この歳になっても、俺はアイツとの決着を諦めきれずにいた。だけどその度に、もう叶わないのだと、諦めるべきだと。自分に言い聞かせて。日々を過ごしていた。悪夢として蝕む日もあったし、その度に自己嫌悪に陥って、調子を悪くして。スタッフさんに迷惑かけたこともあったな。

 視界が薄れる。最後に見るのが、飛行機雲だなんてな。

 

 

『お休み、なさい……』

 

 

 それを最後に。俺の意識は──二度と浮上することなく。馬としての生涯を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20××年。ヴァーディクトデイ死没。28歳だった。死因は老衰とのこと。その死にファンは涙を流し、関係者によって葬式が執り行われた。ヴァーディクトデイに携わった関係者は口々に。

 

 

「素晴らしい馬だった。彼のような馬に携われたことを、誇りに思う」

 

 

 そう、涙ながらに零していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──声が聞こえる。

 

 

よしよし、可愛いでちゅね~

 

 

 女性の声が聞こえる。後は、おどおどしたような男性の声。

 

 

あぁ~、いつ目を開けるのかな?大丈夫かな?

 

 

大丈夫ですよあなた。お医者さんも心配ないって言ってたでしょ?

 

 

そ、そうだけどさ~

 

 

 ……なんだ?俺は、どうなってるんだ?つーか、目が開けられねぇ……いや、これ頑張れば目を開けられるぞ。

 頑張れ俺の瞼。頑張れ!超頑張れ!

 

 

(というか、抱かれている?感じがするな?)

 

 

 本当にどうなってんだ俺?そのためにも、今はなんとしてでも目を開けて──

 

 

「……あ!あなた!目を開けたわ!」

 

 

「え?……ほ、本当だ!うわ~、可愛いな~!」

 

 

 目を開けて、視界に入ってきたのは──コスプレしてんの?って思わずにはいられない俺を抱いている女性と、嬉しそうに駆け寄ってきた男だった。

 

 

(に、人間?……マジでどうなってるんだ?てか、この俺を抱いている人はなんでコスプレしてんだ?)

 

 

 作り物にしては良くできてますね。どこで作ってもらったんです?と、とりあえず何とかして喋れないだろうか?

 

 

「ば、ばー、あぶぅ?」

 

 

 あの、ちょっと待って。喋れないんですけど。というかコレ俺の声?なんでこんな……。

 

 

(まるで赤ちゃんみたい……な……)

 

 

 ふと視線をずらして、鏡が目に入った。そこに映っていたのは──コスプレした女性と、赤ん坊の姿。赤ん坊は、女性に抱かれている。

 

 

(……Why?)

 

 

「きゃ~!可愛い~!本当に可愛い!片時も手放したくないわ!」

 

 

 ハハ、鏡に映っている素敵なベイビーフェイスは誰だい?なんて現実逃避をするが。女性に抱かれているのなんて俺以外いないわけで。

 

 

(いや、これ……信じたくねぇけどさ!もしかして、もしかしてもしかして!?)

 

 

「おぎゃあああああああああ(また転生かよぉぉぉぉぉぉ)!?!?」

 

 

「あ、な、泣いちゃった!ど、どうしよう!?とにかくお医者さんを呼ばないと!」

 

 

「大丈夫よあなた。ほら、落ち着きましょうね~?大丈夫よ~お母さんがついてるからね~」

 

 

 マジでどうなってんだよ!誰か説明してくれよ!つーか俺の耳もどうなってんだコレ!?俺生後間もないのにもうコスプレさせられてんの!?俺はコスプレイヤー一家のとこにでも生まれたんか!?

 

 

「バブゥゥゥゥゥゥ(マジでどうなってんだよぉぉぉぉ)!?」

 

 

「よ~ちよち、大丈夫でちゅからね~……お腹空いてるのかしら?」

 

 

(ちゃうわい!)

 

 

 俺に分かったことは。どうやらまた転生したということだった。

 

 

 

to be continued...




次回からウマ娘編が本編!……の前に。大百科風の記事でも作ってみようかなって考えてます。
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