馬れ変わってウマ
正直、何が起きているのか分からなかった。俺の最後の記憶は牧場で寝っ転がって、飛行機雲を見て瞼を閉じて……そっから先は意識を失って。それ以降の記憶がない。
俺はあの後どうなったんだ?そして……。
「ばぁぁぁぶぅぅぅ(離せぇぇぇぇ)!!」
「こら暴れないの!おしめ取り替えないといけないんだから!」
「ばぁぶ!だぁぁぁ!(嫌だ!俺はそこまで尊厳を失いたくはねぇ!)」
誰かこの状況を説明してくれや!言われなくても分かるけども!
今母ちゃんと必死に格闘している。オムツを取り替える、それは重要なことだ。母ちゃんは間違っていない。
だけどさぁ!だとしてもだよ!?嫌じゃん普通に!確かに不快感は半端じゃない。だけど……!
(普通に地獄だよこの状況!?つーか、なんでよりによって赤ん坊スタートなんだよ!)
せめて転生させるにしてももうちょっと成長してからにしろよ!5歳とか6歳とかさぁ!その辺の年齢にしてくんねぇかな神様!?
(というか、馬に転生させる時には会話させてくれたのに何で今世はやってくれねぇんだよ!アフターサービスがなってねぇな!)
その後も母ちゃんと格闘すること少し。
「ふぅ、やっと替えられたわ」
「ふぎゅ……ばぶぅ……(俺は、無力だ)」
あぁ、やっぱり今回もダメだったよ。というか普通に考えて母ちゃんに勝てるわけがないんだなコレが。
「もう、普段は手のかからない良い子なのにオムツを替える時だけ凄く嫌がるんだから。でもそんなところも可愛いわ~!」
……あの、神様?早急に繋いでくれません?これもしかしてだけど女難の相消えてませんよね?いや待て、子煩悩の親というのはそういうものだ。おそらくきっとそうかもしれない。
その後はお昼寝をして夜に起きて。父親が帰ってきた。
「ただいま~!」
「お帰りなさいあなた。今日もお仕事お疲れ様」
「だぁだ、あぶぅ(お疲れさん)」
赤ん坊としての生活も徐々に慣れて……慣れたくねぇなぁ……。早く時間が過ぎねぇかなぁ……。
そんなこんなで日々を過ごしていたのだが。この世界は俺が元居た世界とは違う可能性が出てきている。というのも、母ちゃんと俺の頭の上にある耳。これ最初はコスプレかなんかだと思っていたんだが。どうも普通に感覚がある。何なら自分で動かそうと思えば動かせる。というか尻尾もあった。
(街中で普通に見かけるな。ということは、これはコスプレじゃない?)
さすがに街中でコスプレしている人間がこんなに多くいるわけないだろう。ということはこれはなんだ?という話になるのだが。チラホラ聞こえてくる単語の中に聞き覚えのないものがあった。それが。
(ウマ娘……聞いたことない、いや、確かあったはずだ。でもどこで聞いたかは思い出せねぇな)
まぁウマ娘?というのが何かは分からないが、そういう単語があったり。この身体でできるだけ見聞を広めていた。
そうしてスクスク成長して。それは、唐突に訪れた。
「いやぁごめんね~。ちょっと色々あって遅れちゃったよ」
「は?」
気づいたら、馬に転生した時と同じような、真っ白な空間に立っていた。ただし、姿は現在のまま。小学生ぐらいの背格好だ。
「遅れたって……俺転生してから結構経ったんですけど?」
「あ、本当?そんなに経ってた?」
神様の声は相変わらず良く分からん。少年のように聞こえることがあれば老人のようにも聞こえる。青年にも聞こえるし少女のように聞こえることもある。なんとも不思議な声だ。そして相変わらずどこから声が響いているのかも分からん。
「いや、本当にごめんね?別に君を蔑ろにする気はなかったんだ。それは信じて欲しい」
「……まぁ、過ぎたことを言ってもしょうがないですし。今更責めたりしませんよ。ただ、聞きたいことはたくさんあるんで。ちゃんと教えてくれますよね?」
「もちもち。今回はそのために呼んだわけだからね」
お、それは良かった。じゃあ遠慮なく質問していこう。まずはこの世界について。
「俺が転生した世界だけど、聞きなれない単語があったんです。
「うん。じゃあ君が転生した世界のことから話そうか」
神様の説明が入る。そうして俺は、この世界についての説明をしてもらった。とは言っても、さすがに何年も生きていれば大体のことは理解していた。一応、念のためってヤツだ。
この世界にはウマ娘という種族がいる。ヒトとは異なる神秘的な種族らしく、明確な違いとして耳と尻尾があること。そしてヒト以上の身体能力を有しているらしい。後は女性しかいない。ま、ウマ“娘”なんだから当たり前か。
これは転生してすぐに分かったことだが、無論俺もウマ娘。その例外に漏れず女の子だ。
「まさかTSを体験することになるとは……」
「ま~仕方ないね」
それは隅に置いておこう。今更どうこう言うつもりはない。
そしてこのウマ娘だが……どうも俺が元居た世界の競走馬達がモチーフになっているらしい。
「だから俺の名前もヴァーディクトデイなのか。全然女っぽくない名前だと思っていたが」
「そういうこと。他の子達もみんなそんな感じだよ」
「てかこうやって前世のこと普通に話してるけどそこは大丈夫なんですか?」
「あ~大丈夫大丈夫。言ったところで誰も信じないと思うしね」
「確かにそれはあるな」
何言ってんだお前?みたいな目で見られることは確定である。
そうだ、聞いておきたかったことがあるんだ。
「あの、神様。最優先で聞きたいことがあるんですけど」
「ん?なにかな?」
「確か、前世の俺って女難の相ってのがありましたよね?歳上の女性に好かれやすくなるっていう」
「うん、あったね。それがどうかしたの?」
「……あれ、今世だとどうなってるんです?」
そう、これが一番気になっていることだ。前世はこの女難の相で歳上のお姉さんに追いかけられたり歳上のお姉さんに追いかけられたり歳上のお姉さんに(ry。それはもう大変だったのだ。今世でも母ちゃんの態度を見るにその気があるんじゃないかと不安なのだが……。
「あぁ、安心して良いよ」
おぉ!ということは女難の相は無くなってて、母ちゃんのアレはただの子煩悩なだけ「今世でも変わらずあるから。なんならあっちの世界の牡馬がウマ娘になってるからそっちにも好かれやすくなってるよ君」どこに安心を見出せってんだよ!余計に悪化してんじゃねぇか!?
「ふざけんな!なんでなんだよ!?」
「いや~、だって君前世も結構な人たらしならぬ馬たらしだったし。向こうの因果がこっちの因果に影響するから。その影響からは逃れられないよ?」
「なんでだぁぁぁぁぁ!?」
「でも良かったじゃん。年上お姉さんのハーレムだよ?」
もういいよ!懲りたよそれは!全然嬉しくないってことが前世で身に染みて分かったんだからさ!
「というか、そもそもなんで俺に女難の相があるんだよ!?」
「う~ん……前々世からの縁じゃない?知らんけど」
「急に雑っ!?」
ということはなにか?前世よりもさらにヤバくなってるってこと?……ふざけんな!
「どうして……どうして……」
「君、前世で世界各地で馬をとっかえひっかえしてたもんね。そりゃあこういう因果にも……うわぁ」
「ドン引きしてんじゃねぇよ!?この先のこと想像するのが怖くなってきたんだけど!?後人聞きが悪いなおい!」
何がとっかえひっかえじゃ!俺はただ仲良くしてただけだっつーの!
「まぁまぁ落ち着きなよ。悪いニュースばかりじゃないからさ」
「落ち着いていられるか!俺の今後がかかった……」
「
……あ?
「……どういうことだよ?」
「言葉通りの意味さ。君が前世で抱いた後悔……決して叶うことのなかった望み、死してなお残り続ける後悔の念。それを晴らすことができるってこと」
「……」
前世で叶わなかった望み。俺が抱いた後悔。そして──この世界に転生してもなお残り続けた、後悔の念。そんなものは、
「言っただろう?この世界のウマ娘は──君の前世の世界の競走馬達がモチーフになってるって」
「……ってことは、つまり」
「あぁ。君が焦がれている相手……コントレイルも存在している」
その名前を聞いた瞬間、俺の手に力が入る。自然と握り拳を作って、強く、ひたすらに強く握りしめていた。血が滲みそうなほど強く握るが、
「いいかい?ウマ娘の世界は、IFが起こりうる世界だ。叶わなかったことや成し遂げられなかったこと、その全てが叶うかもしれない世界」
「……」
「だけど、ソレは並大抵の努力じゃ覆せない。運命を変えるというのは、余程の強い意志がないと成し遂げられない」
神様がなんか言っているが、正直今の俺は高揚感に包まれている。あぁ、そうか……!ついに、ついに!
「だから、かなりの道になると思う。それでも「なぁ、神様」……どうかしたのかい?」
俺は、力を抜いて。笑いそうになるのを必死に堪えて。それでも笑いそうになるから両の手で顔を覆って。神様に感謝する。
「ありがとよ神様。それが聞けただけで十分だ」
「……なにがだい?」
「コントレイルと戦えるかもしれないんだろ?その可能性は、わずかでもある。そういうことだろ?」
「……そうだね。それは君の努力次第。努力次第では──君はコントレイルと戦うことができる」
「ッ!」
そうか……そうか。そうかそうかそうかそうかそうか!ついに、ついについについに!
「お前と……決着を着けることができるんだな……ッ!」
「……」
きっと今の俺は、酷く歪んだ笑みを浮かべていると思う。だけど、
「あぁ……楽しみだぜぇ、コントレイルゥ……!」
神様はどう思っているのかは分からない。ただ一言。
「他に聞きたいことはあるかい?」
そう聞いてきた。
「……んにゃ。世界のこととか聞いたし、他に聞きたいことは……ちなみに因果がどうとか言ってましたけど、前世で強い結びつきがあったりしたら運命的な何かを感じたりするんですか?」
「そうだね。前世で関りが深いほど、因果は強くなる。運命的な何かを感じるだろうね。例えばそうだね……親子とか」
「代表的な例だと……産駒、ってヤツですかね?」
「うん、そうだね。君もきっと、会ったら運命的な何かを感じると思うよ」
う~ん……それで真っ先に思い出せるのはBatistaとかいうバカ息子なんだが。アイツのインパクトが強すぎるな。どんなウマ娘になってんだ?アイツ。
「他にはあるかい?」
「……いや、ないですね。ありがとうございます。色々と」
「気にしないで。アフターケアも遅れちゃったから」
でも、ちゃんとこうして説明しに来てくれてるんだから大助かりだ。最高の情報も聞けたしな。
「それじゃ、良いウマ娘ライフを~」
神様の言葉とともに、俺の意識は遠のいて──
「……んあっ?」
気づいたら、ベッドの上だった。隣では母ちゃんが寝てて、反対側には。
「……ねえちゃ、どうしたの?」
俺が布団でもぞもぞしていたせいで起きたのか、
「いや、なんでもないさ。ちょっといいゆめを見てな」
「いいゆめ?」
「あぁ……さいこうのゆめだ」
俺はエフフォーリアを抱きしめる。布団の中で、仲良く抱き合って寝る。
(この世界でなら……俺の望みが叶う。俺が抱き続ける後悔も、俺を蝕み続ける悪夢からも……!)
あぁ、本当に……
「さいこうのゆめだよ……!」
「っ?」
「おっと。なんでもないさエフ。ほら、はやいとこねないと、母ちゃんがおきちゃうぞ」
「うん」
その日はとても良く眠れた。
神様「えぇ……(困惑)」