飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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サクサクっとね。


私の姉さん

 私は、姉さんが好きだ。

 ……いや、別にそういう意味とかではなく。凄く尊敬しているという意味で。

 私の姉さん、ヴァーディクトデイ姉さんは凄く優しい。

 

 

「びえええぇぇぇ!!」

 

 

「どうしたんだエフ!?……あ~ころんでけがしちゃったのか。立てるか?」

 

 

「たてないよぉぉぉぉぉ!」

 

 

「……よし分かった!じゃあ姉ちゃんの背におぶされ!まずはけがのしょーどくからだな。すぐになおしてやるからなエフ!」

 

 

 私が怪我をして泣いている時はすぐに駆けつけてくれて。どんなワガママにだって答えてくれた。体調を崩した時だって、必ず側にいてくれた。

 

 

「おなかいたいよぉ、ねえちゃ……」

 

 

「よしよし、大丈夫だからなエフ。姉ちゃんがそばにいるからな」

 

 

「うん……」

 

 

「ねえちゃ、エフねえちゃはなおる……?」

 

 

「もちろん治るさ!だから、安心しろペリ!」

 

 

 それに姉さんは、走るのだって速い。いつも同年代の子達とのかけっこでは負けなしだった。

 

 

「ふふ~ん!おれの勝ちー!」

 

 

「ヴァーディ速すぎ!これ、ちゅーおーもいけるんじゃない?」

 

 

「ま、そこが目ひょーだからな!見とけよ~?めちゃくちゃかつやくしてやるから!」

 

 

「おぉ!じゃあ今のうちにサインちょーだい!」

 

 

「そこは自分も中央に入るって言えよ!?」

 

 

「「「あははは!」」」

 

 

「ほほう、あれが噂のヴァーディクトデイですか」

 

 

「まだ小学生ながら、かなりの才能を感じるな」

 

 

「聞けば上級生相手に勝ったこともあるらしい。将来有望だな」

 

 

 姉さんはいつだって速かった。そんな姉さんは、勿論私やペリファーニアにとっての憧れ。

 

 

「ねえちゃ今日もはやかったね!ビュビューンって、バーッ!てかんじだった!」

 

 

「そうだねペリ!やっぱり姉さんは凄いや!」

 

 

「いいわー!良いわよーヴァーディィィィィ!流石私の自慢の娘よぉぉぉぉ!」

 

 

「お、落ち着いて母さん。みんな見てるから」

 

 

「落ち着いていられるわけないでしょ!?よくやったわヴァーディィィィィ!」

 

 

 一番テンション高かったのは母さんだったな。そして父さんがいつも宥める役目をしていた。そんな母さんたちの様子をヴァーディ姉さんは呆れた目で見るのがワンセット。周りも微笑ましい目で見ていた。

 ……まぁそんな姉さんにも欠点というかなんというか。姉さん自体は悪くないんだけど、どうなの?ってところがある。それは。

 

 

「やっぱり速いねヴァーディちゃん!じゃあ今度は私と走りましょ?」

 

 

「えぇ!もち「何言ってるの?ヴァーディちゃんは私と走るのよ?」え?あ、あの」

 

 

「は?ふざけたこと言わないでくれる?ウチと走る予定なんですけど」

 

 

「おっと、これは」

 

 

「また始まりましたね……()()()()()

 

 

「最早様式美ですねぇ」

 

 

 そんな会話をする大人達。姉さんはいつの間にか上級生たちに囲まれてオロオロしている。上級生のウマ娘さん達は、姉さんの取り合いをしていた。

 

 

「ねぇヴァーディちゃん!」

 

 

「は、はい!なんでしょうか!?」

 

 

「「「誰と一緒に走りたい!?」」」

 

 

「え、えぇ……」

 

 

「勿論私だよね!?」

 

 

「ハァ!?私に決まってんでしょ!」

 

 

「ウチだっての!」

 

 

「「「私!私!私!」」」

 

 

「あ、あの~……みなさんで走るってのはダメなんですかね?」

 

 

 姉さんのその言葉が発端となって、上級生達の目がギラリと光る。

 

 

「こうなったら……」

 

 

「えぇ、そうね」

 

 

「いつものように決めましょうか」

 

 

「……ッ!?じゃあ俺用事があるんで!」

 

 

 姉さんは逃げ出した。しかし上級生達は追いかけていった。

 

 

「「「待ちなさーい!ヴァーディィィィィちゃぁぁぁん!」」」

 

 

「いやぁぁぁぁぁ!?誰か助けてぇぇぇぇぇ!」

 

 

「ねえちゃぁぁぁぁ!?」

 

 

「ねえさぁぁぁぁん!?」

 

 

 姉さんはなんというか、ウマ娘によく追いかけられている。追いかけられるというか、トラブルに巻き込まれやすい。なんでか分からないけど、姉さんは本当によくトラブルに巻き込まれる。しかもあの状況、捕まったらもみくちゃにされること間違いなしだ。

 

 

「……許せない」

 

 

「ど、どうしたんだ母さん?」

 

 

「ウチの娘は渡さないんだからぁぁぁぁ!」

 

 

「母さんも混ざらないでぇぇぇぇ!?」

 

 

 なお、母さんは姉さんを追いかける側に回る。これもいつものこと。手助けしようにも、私達じゃどうしようもない。

 

 

「待ちなさぁぁぁい、ヴァァァァァディィィィ!」

 

 

「ちょっとまてぇぇぇ!?なんで母ちゃんまで混ざってんだよぉぉぉ!?誰かー!大人の人呼んでぇぇぇぇ!」

 

 

「はーい!」

 

 

「母ちゃんは例外に決まってんだろ!」

 

 

 その日も姉さんは最終的に捕まった。多勢に無勢ってヤツだから仕方ないかもしれない。

 ヴァーディ姉さんは、どんな子とだってすぐに仲良くなれる。みんなの輪の中心には、いつだって姉さんがいるんだ。……多分、姉さんがトラブルに遭いやすいのはそのせいもあるんだろうけど。

 そんな姉さんだけど、時折寂しそうな表情を見せる時がある。いつもは不定期で滅多に見れるものじゃないんだけど、確定で見れる時がある。それが、飛行機雲を見た時だ。

 飛行機雲を見た時の姉さんの表情は、決まって気まずそうな表情をする。

 

 

「……っ」

 

 

「?どうしたの姉さん?なにかあった?」

 

 

 表情を歪める姉さんを心配する。だけど、姉さんはすぐに曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。

 

 

「いや、なんでもないさエフ。それよりも今日の晩御飯なんだろうな~?」

 

 

 正直、姉さんは嘘が下手だ。滅茶苦茶下手だ。凄く分かりやすい。姉さんも自覚してるだろうけど。

 

 

「飛行機雲、嫌いなの?姉さん」

 

 

「……別に嫌いじゃないさ」

 

 

 無駄だってことが分かったんだろう。姉さんは、頬を掻きながら答えてくれた。

 

 

「ただ、飛行機雲を見てるとどうしても……な。複雑な気持ちになっちまう」

 

 

「ふ~ん……」

 

 

 姉さんは嘘が下手だ。だけど、本当に大事なことは、絶対に他人には喋らない。それが分かっているから、追及はしなかった。

 

 

(姉さんは、どうして飛行機雲が?)

 

 

 この時の私には分からなかった。

 私はヴァーディ姉さんを尊敬している。凄く好きだ。そんな姉さんは──ついに。

 

 

「父ちゃん母ちゃん!エフ、ペリ!俺、中央の試験受かったよ!」

 

 

 中央のトレセン学園に入学することが決まった。姉さんは合格通知片手にとても嬉しそうにしている。その笑顔を見ていると、私も嬉しくなる。

 

 

「本当か!?良かったな~ヴァーディ!」

 

 

「姉さんなら受かるって思ってたよ」

 

 

「おめでとうお姉ちゃん!今日はお祝いだね!」

 

 

「……ん?どうしたんだよ母ちゃん。嬉しくねーの?」

 

 

 母さんだけは身体を震わせていた。うん、何となく察しはつく。

 母さんは姉さんの脚をがっしりと掴む。まるで親に何かをねだる子供のように。

 

 

「いっちゃダメよぉぉぉヴァァァァディィィ!この家から出ていかないでぇぇぇ!」

 

 

 そんなことだろうと思ってた。母さんは姉さんにべったりだったし。中央は寮に入るの自体は自由だけど、ほとんどの子が寮に入っている。入学するとなれば姉さんも寮に入るって言ってた。だから姉さんともしばらくお別れだ。

 

 

「んなこと言われても……てか、母ちゃんもちゃんと納得してただろ?」

 

 

「それでもやっぱり寂しいのよ!お願いだからこの家から通いましょ?」

 

 

「無理だって。ここから学園まで結構遠いし」

 

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

 

「ほら、諦めて母さん。今日はヴァーディのお祝いなんだから」

 

 

「……おめでとうヴァーディ」

 

 

「そんな愛憎入り混じった祝いの言葉初めてもらったよ俺は」

 

 

「あはは……」

 

 

 ひと悶着あったけど今日はヴァーディ姉さんのお祝いだ。沢山の料理をご馳走になる。その日は姉さんの中央入学をみんなで祝った。

 食べ終わった後は、思い思いの時間を過ごす。父さんと母さんはテレビを見ているし、ペリファーニアは学校の宿題。私が向かうのは──姉さんのところ。

 姉さんはベランダにいた。お風呂上りなのか、髪はしっとりとしている。窓を開けた音で気づいたのだろう。姉さんがこっちを向く。

 

 

「お、エフか。どうかしたのか?」

 

 

 姉さんは、柔らかく微笑んで私を迎えてくれる。ちょっとドキッとした。それを悟られないように姉さんの隣へと歩を進める。

 

 

「改めて、中央入学おめでとう姉さん。これでしばらく会えなくなっちゃうね」

 

 

「おう、ありがとよ。とは言っても、たまにはこっちに帰ってくるから安心してくれ。それにお前とペリなら中央に来れるだろ」

 

 

「頑張るよ。姉さんに会いたいから」

 

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇかこいつめ」

 

 

 姉さんはわしゃわしゃと私の頭を撫でる。心地よい時間だ。

 

 

「向こうでも頑張ってね、姉さん。姉さんのことだから友達の心配とかはいらないだろうけど」

 

 

「おう!誰とでも仲良くなるのは俺の得意分野だからな!」

 

 

「ウマ娘同士の、それも上級生に絡まれないように気をつけてね?ただでさえ姉さん危機意識が薄いんだから」

 

 

「……ゼンショシマス」

 

 

「後、髪の手入れサボらないようにね。ただでさえサボるんだから姉さん」

 

 

「え~?……別に良くない?」

 

 

「ダメだよ。しっかりと手入れしないと」

 

 

「はいはい。わーったよ」

 

 

 他愛もない会話をする。こんな何気ない日常とも、しばらくの間お別れだ。今のうちに姉さんと沢山話しておこう。LANEとかでも話せるし、たまに帰ってくるからしいけどそれとこれとは話が別。私は、姉さんといろんな話をした。

 そして迎えた、姉さんが中央へといく日。

 

 

「じゃーなー!頑張ってくるぜー!」

 

 

「頑張ってねお姉ちゃーん!私も入学できるように頑張るよー!」

 

 

「頑張って姉さん。私もすぐに追いつく」

 

 

「元気に過ごすんだぞヴァーディ。怪我や病気に気をつけて、健康に過ごしなさい」

 

 

「ウオオオォォォン……頑張るのよヴァーディィィ……」

 

 

「母さんはいつまで泣いてるのさ……」

 

 

 無理だと思うよ父さん。母さんは姉さんが荷造りを始めた時からたまに泣いてたから。

 私達は姉さんを笑顔で送り出す。姉さんの姿が見えなくなった後、私は拳を握る。

 今度は、私が頑張る番。私も中央の入学受験を控えている身。頑張らないと。

 

 

「憧れの姉さんに追いつくためにも。うん、頑張ろう」

 

 

 そう決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ヴァーディクトデイ、日本ウマ娘トレーニングセンター学園に入学




ヴァーディクトデイ

誕生日:2月22日

身長:168cm

体重:常に完璧

スリーサイズ(B/W/H):91/58/89

一言メモ
腰まで伸ばした長い黒髪がところどころ癖っ毛のように跳ねているウマ娘。口調は男っぽい。目はキリッとしているがどこか人懐っこさを感じさせる目、雰囲気をしている。イケメン系ウマ娘(本人はほぼ無自覚)。
誰にでも分け隔てなく接する優等生。友達は多く、誰とでもすぐ仲良くなれるとは本人談。だがウマ娘同士のトラブルに巻き込まれやすくよく追いかけられている(特に上級生)。そんな彼女はどうやら飛行機雲に思い入れがあるようで……?
一人称は俺。愛称はヴァーディ。


ヴァーディクトデイの秘密①

実は、ウマ娘同士のトラブルに巻き込まれやすい。

ヴァーディクトデイの秘密②

実は、自分の異名に王がついていることが気に入らない。
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