さてさて、ついにトレセン学園に入学することができたわけですよ。
(つっても、ここはまだ入り口も入り口。入口どころか準備段階ですらあるからな。ここに入るのは大前提みたいなもんだ)
ま、入学できたから本当に良かった。これで落ちてたら……想像もしたくねぇな。
ここ中央には寮に入ることになった。なので実家から離れて寮で暮らすことになるのだが。
(同室の子、か。俺誰と同室になるんだろうな~?)
願わくば前世で知り合った仲だと嬉しい。ラーシーとか、プボ君、パン君とかそうだ。……いや、でもよく考えたら初対面じゃね?……考えないようにしよう。
荷物は郵送で寮の部屋に送ってもらっている。今俺がいるのは学園の体育館。こんなとこでなにしてるんだ?って話だが。
「祝福ッ!君達の入学を心待ちにしていた!」
入学式の真っ只中である。そして今は学園理事長の話なのだが……突っ込みたいところが1つある。
(随分小さくない?理事長)
一応学園パンフとか面接の時に見たことあるけどさ、疑うでしょあの見た目で学園理事長って。人を見た目で判断するわけじゃないけど、普通は信じられないだろ。
ちなみに、学園の生徒なので俺もしっかりとトレセン学園の制服を着こなしている。え?元男としてスカートは良いのかって?……そんな固定観念、これまでの生活でとっくに無くなっちまったよ。
(母ちゃんはスカートしか買ってこないし、事あるごとに俺にスカート履かせようとするし……。しかも善意だから断りにくいし……諦めて履くしかなかった)
スースーするから好きじゃないんだけど、もうどうしようもない。慣れちまったよとっくに。せめてもの抵抗としてショートスパッツ履いてるけど。
にしても、入学式というのはまぁ退屈だ。学園の生徒としてしっかりとした態度を心がけるようにーとか、お偉いさんが色々と話してくれるわけだが実際退屈。あくびを噛み殺しながら入学式が早く終わらないかなと考えていると。
《──それでは次に、在校生を代表してトレセン学園生徒会長から新入生の皆様に向けてお祝いの言葉を贈ります》
そんなアナウンスが聞こえた。生徒会長か、確か……ディープインパクト会長、だっけか?パンフで見た記憶がある。
登壇したのは鹿毛の髪を腰まで伸ばしたストレートロング。凛ッ、とした雰囲気を漂わせる風貌。さっきまであくびを噛み殺すくらいに退屈だったのが、一気に身が引き締まった。なんていうかこう、オーラが凄い。
そんな生徒会長の第一声。
「──新入生諸君、入学おめでとう」
緊張が走る。ここにいる全員が、会長の言葉にしっかりと耳を傾けていた。
ディープインパクト会長は真面目な表情で、キリッとした表情を崩さずに淡々と事務的に言葉を紡いでいる。ただそれだけなのに──もの凄い圧を感じる。
(……これが、【英雄】と呼ばれたウマ娘ってことか)
【英雄】ディープインパクト。無敗の三冠ウマ娘にして日本近代レースの結晶とまで称されたウマ娘。その走りはまるで飛んでいるようだとまで称された、まさに英雄のような存在。
「君達は、様々な目標を抱いてこのトレセン学園にやって来たことだろう。大きいレースを勝ちたい、自分という存在がどこまでいけるのかを試したい、自分が速いということを証明したい……そんな思いを抱いて、トレセン学園の門を開いたはずだ」
生徒会長ディープインパクトは高らかに告げる。
「わが校のモットー、【Eclipse first, the rest nowhere.(唯一抜きんでて並ぶもの無し)】。己という存在を証明したくば、誰よりも速くあることを目指したまえ。新入生諸君」
「「「ッ!」」」
会長から放たれた圧。それのせいか空気がヒリついている。成程ねぇ……こりゃすげぇカリスマ性だ。人を惹きつける求心力ってーの?そういうのを感じるよ。
ただ、そこまでのようで。急に会長は空気を柔らかくしたかと思うと笑顔で。
「それじゃ!私からの挨拶はこの辺で!あ、そうそう!お悩みがあったら遠慮なく生徒会室の扉を叩いてね~!みんなが来るのを待ってるよ~!」
手をひらひらさせて去っていくもんだからみんなズッコケた。勿論俺もズッコケた。
(ギャップありすぎだろオイ!?)
辺りを見渡すと他の教職員も頭を痛そうに抱えている。そのせいで大体察した。
色々とあったものの入学式はつつがなく進み。全行程を終了して教室へと戻ることになった。ここで初めてクラス分けを見るのだが……。
(俺は誰と一緒になるのかねぇ)
めんどくさかったので自分の名前だけさっと確認してとっとと教室に向かった。後は適当に待っときゃいいだろう。
「みて、すっごくカッコいい子がいる!」
「ホントだ!チョーイケメン!」
「私このクラスで良かったぁ……!」
へ~、そんなイケメンウマ娘がいるのね。誰のことなんだか。っと、とりあえずこのあとやるべきことを確認しないとな。
(ま、今日はこのまま帰って寮で荷解き。やれることといえば柔軟ぐらいだろう。調べ物は明日以降にすりゃいいか。今日は図書室に行く時間もねぇだろうし。一日でも早くやりたいが焦りは禁物、しっかりとしなきゃな)
「なんにせよ、この問題を解決しないとな」
「え~?なんのこと?」
「ん~?そりゃあ……」
急に横から声が聞こえてきたんだが?声のした方に視線を向けると。
「お隣さんだね~。よろしく~」
青鹿毛のショートカットの子がいた。第一印象としては、やたらのんびりしてそうな子。身長は俺より低い。
……んん?なんというか、この雰囲気には覚えがあるぞ?とにかく自己紹介でもしとくか。まだ先生も来てないみたいだし。
「お隣さんだな。俺はヴァーディクトデイ、よろしく。え~っと……」
「
「ッ!?」
「え?ビックリする要素あった?」
手を差し伸べて握手しようとするが、彼女の口から出てきた言葉に驚いて飛びのいてしまった。え、いや、マジ?この子あのプボ君なの!?
(……いやまぁ、言われて見れば雰囲気はそんな感じがする。ちょっとのんびりしてそうなところとか、髪の流星の部分とか……確かにプボ君っぽいな)
「い、いや、悪い。とにかくよろしくなプボちゃん」
「うん、よろしく~……プボちゃん?」
「愛称。この方が親しみやすいだろ?」
「おぉ~。良いねそういうの。じゃあぼくもヴァーディ君って呼ばせてもらうよ~」
「おう、良いぜ。これからよろしくなプボちゃん!」
にしても同じクラスどころか隣の席がプボ君改めプボちゃんとはな。これはビックリだ。
担任が来ての自己紹介。これで判明したことは──。
「ラウダシオン。趣味は歌を聴くこと。ま、よろしく」
「パンはパンサラッサ!座右の銘はとにかく全力で逃げまくる!みんなよろしくな!」
「あたしはレシステンシア!よろしく頼みますわ、皆様方」
「……レイパパレ。よろしく」
割と知り合いがたくさんいたということだな。
そして俺の番。席を立ちあがって自己紹介をする。なるべく笑顔で。
「俺はヴァーディクトデイ。みんな仲良くしてくれると嬉しいぜ。よろしくな!」
ざわざわと色めき立っている。成程成程、中々の好感触だな。滑らなくてよかった。
その後は先生から今後の予定が説明される。
「今日はこの後、授業で使用する教科書類を配ったりする予定です。その後は自由解散となります。学園を歩き回るのも良し、施設を見学するのも良し。各自好きなように過ごしてください。ただし、トレーニング設備は申請の手続きがある都合上使用することができません。その点は注意してください」
「「「はーい!」」」
「良い返事ですね。それでは次に……」
んでまぁ。教科書配られてそれをカバンの中に詰めて。自由解散になったので寮へといくことにした。
「ヴァーディ君はこの後どうするの?」
「俺か?俺は寮に戻って荷解きだな。早い内に終わらせておかないと」
「お、ぼくと一緒だ。じゃあじゃあ、一緒に帰ろっか」
「プボちゃんもか?じゃあ一緒に帰ろうぜ」
プボちゃんと帰ることになって。お互いに話をしながら帰路に着く。
「プボちゃんはどっちの寮に入ることになったんだ?」
「ぼくは栗東。ヴァーディ君は?」
「マジか!俺も栗東!」
「おぉ~偶然の一致。これは運命ってやつだね~」
「ハハ。これで寮の部屋まで一緒だったらマジで運命だな」
そして寮へとたどり着くと。
「マジかよ」
俺とプボちゃんは同室であることが明かされた。いや、マジで?
「いや~本当に同室とはね。席もお隣さんだし、これからよろしくさんだ~」
「マジで運命来ちゃったなコレ。ま、よろしくなプボちゃん」
そんなわけで始まる荷解き……なのだが。
「う~ん、これはどうしよう~?」
「……」
黙々と作業をする俺。たまにプボちゃんの様子を見るのだが。
「う~ん、こんなのいれたっけ?まぁいいや、とにかくこっちに置いておこ~」
「……」
「これは~?おぉ~!漫画だ~!ちょっと興味があるから見てみよっと」
どうしても突っ込まざるを得ない。
(おっっっっそ!?俺はもう終わりそうなのに、プボちゃん全然じゃん!?)
俺はもう8割がた終わっているのに、プボちゃんはせいぜい2割3割しか終わってねぇぞ!?荷物の差を考慮してもさすがに酷くねぇかな!?
仕方がないので、俺はプボちゃんに提案をする。
「なぁプボちゃん。俺もう終わりそうだし、そっち手伝うよ」
「えぇ?そんな悪いよヴァーディ君」
「いや……さすがに遅いってプボちゃん。このままじゃ日が暮れちまうぞ?」
「う~ん……じゃあお願い」
「おう、任せとけ!」
そんなわけでプボちゃんの荷解きを手伝うことに。2人であくせくしながら働いて、そろそろ夕日が見えるかな?って時間になった頃。
「「終わった~!」」
荷解きが終わった。
「ありがとね~ヴァーディ君。お陰様で助かっちゃった」
「気にすんなプボちゃん。1人でやるよりも2人でやる方が早く終わるからな。俺の方ももう終わりかけだったし、プボちゃんを手伝うのくらいわけないよ」
「それでも助けてもらったからね。ありがとうヴァーディ君」
「おう、どういたしまして」
しかし荷解きをしていたら結構汗をかいたな。
「お風呂でも入りに行くかプボちゃん」
「そうだね。汗でべとべとだ~」
そんなわけでプボちゃんとお風呂に。サービスシーン?そんなものはない。
そしてお風呂上り。夕食までの時間。
「何してるのヴァーディ君?」
「ん?ストレッチだよ。身体を柔らかくするための柔軟」
俺の走りのためには身体は柔らかくしないといけない。まぁ元からかなり柔らかい方ではあるから保険なんだけど。
「ふ~ん、熱心だね……その前に髪を乾かしたら?」
「ほっときゃ乾くだろ」
「えぇ……せめてドライヤー使おうよ」
「めんどい」
プボちゃんはドン引きした目で俺を見るが……いや待てよ。エフとも約束したなそういや。
「めんどくさいけどドライヤー使うか……」
「めんどくさくてもやらなきゃいけないことだと思うよ」
時間かかるんだよなぁ。しゃあねぇけど。
その後2人で夕食を取る。てかプボちゃん結構食うな。そして寮の部屋に戻った後は。
「ヴァーディ君はどこのチームに入りたいとかある?」
「チーム、か」
「うん。リギルとかスピカとか憧れちゃうよね~。有名な先輩達がたくさんだし」
「ま~そうだな。その辺に入れるってなったら、そりゃもうウハウハだろう」
リギルもスピカもどっちも強豪チームだ。リギルはあのディープインパクト会長を始めとして、前生徒会長のシンボリルドルフ先輩だったりアーモンドアイ先輩だったりが所属しているチーム。まさに学園最強チームの一角だろう。
そのリギルと双璧と成していると言われているのがスピカ。別名問題児軍団とも言われているがその実力は一線級だ。今ブレイク中といえばキタサンブラックさんだろう。後はトウカイテイオー先輩だったりサイレンススズカ先輩だったり。
「そういうプボちゃんはどこか入りたいところあんの?」
「ぼく?ぼくは……別にないかな~。ゆっくりじっくりと考えて決めるよ」
「ま、それが一番良いよな」
そこから他愛もない話をして就寝。明日に備えて寝る。
「それじゃ、お休みプボちゃん」
「うん、お休み~」
……にしても、同じクラスにコントレイルはいなかったか。ま、そこまで高望みしちゃいなかったが。プボちゃんやラーシー、パン君……パンちゃんと同じクラスってだけでも嬉しいからな。
(明日はまず図書館だな。図書館に寄って、片っ端から資料を読み漁る)
じゃねぇと──今の俺の走りは
短編で明かされてましたけど同室はプボ君です。モーイ。