飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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とりあえずやること。


再びの教え

 

 

「すいません、これだけ借りても良いですか?」

 

 

「はい。え~っと……これ全部ですか?」

 

 

「そうですけど……やっぱり不味いですかね?」

 

 

「い、いえ!借りるのは別にいいんですけどぉ……」

 

 

 入学してから次の日。図書室で本を借りれるようになったので早速本を借りることにした。目の前には困惑した様子の図書委員の先輩。まぁその気持ちも分かる。

 

 

(そりゃ、新入生がこんだけ借りたらなぁ)

 

 

 俺の身長の半分ぐらいはあるんじゃないか?ってぐらいは積み重なっている本+α。だがこれも俺の目的のために必要なものだ。妥協は許されない。図書委員さんは必死に読み取っている。……すげぇ申し訳ないな。

 

 

「あ、そうだ。ここって過去のレース映像なんかも見れたりするんですよね?」

 

 

「へ?あ、あぁはい。向こうの視聴覚室の方で閲覧可能ですよ」

 

 

「それって申請とかが必要な感じですか?」

 

 

「そうですね。ここでまとめてやっておきますか?」

 

 

「はい!是非お願いします!」

 

 

 よしよし。これで過去のレースも閲覧できるぞ!

 

 

「それにしてもこの資料、全部ディープインパクトさんのものですよね?そんなにお好きなんですか?ディープインパクトさんのこと」

 

 

「へ?……まぁ、そんなとこです」

 

 

「そうなんですね!新入生でこんなに本を借りるなんて……将来有望!あ、あの!是非とも図書委員になりませんか!?」

 

 

「あ、あ~。遠慮しておきます」

 

 

 多分これが済んだら利用することほぼないだろうし。目に見えてしょんぼりしている図書委員の先輩には悪いけど。

 資料も借りて視聴覚室へと足を運ぶ。ほほう、中々の設備だな。

 

 

「んじゃ、早速始めますかね」

 

 

 今日も午前授業で終わり。午後の時間はまるっきり空いている。俺はこの時間を使って、ディープインパクト会長のことを徹底的に調べ上げることにした。会長の過去のレース映像、資料、それら全てに目を通す。何故そんなことをするのか?理由はただ1つだ。

 

 

「俺の走りを取り戻すために、前々から似てたって言われてるディープインパクト会長の走りを真似るのが近道だろうからな。しっかりと分析するか」

 

 

 ()()()()()()()を取り戻すため。それに尽きる。

 こっちの世界に転生して走ってみて、とんでもないことが発覚した。それは、俺の本来の走りが思うようにできないことである。

 

 

(考えてみりゃ、馬の時は四本足で走っていたものを二本足でやれってことだからな。なまじ記憶が残っている分、これがま~思うようにいかない)

 

 

 この辺は記憶が残っている弊害だろう。どうしても四本足で走っていた頃がチラついて、思うような走りができないでいた。

 現状俺は全盛期には程遠い。まず全体的な能力値が絶望的に低いし、俺の最大の武器だった爆発的な加速力も全然ない。戦術眼は全盛期で培ったものがあるが、それ以外の要素がまるで足りない。こんな状況でコントレイルに勝つなど夢のまた夢だろう。

 だが、全盛期を取り戻せないと困るのだ。力を取り戻さないとコントレイルにも勝てないし、これから勝っていくのだって厳しい。だからこそ、早めにこの課題を克服しておかなければならない。その第一歩が──前世で走りが似ていたと言うディープインパクト会長の走りを模倣すること。

 

 

「重心はこの位置……最適なフォームで走るためには……」

 

 

 重要そうな点を洗い出してノートに書き留める。結局この日は図書室が閉まる限界ギリギリの時間まで視聴覚室で映像を何度も繰り返し見ていた。

 読み切れなかった資料だけ持って帰ってきて、お風呂上りに読み漁る。

 

 

「ヴァーディ君何見てるの?」

 

 

「ん?ディープインパクト会長の資料だよ」

 

 

「へ~……尊敬しているの?ディープインパクト会長のこと」

 

 

「まぁそんなとこ」

 

 

 プボちゃんの言葉に適当に相槌を打って答える。ちょっと申し訳ないが、これも早く走りを取り戻すため。でも悪い気がするから明日の朝ご飯少し分けてやろう。

 それから数日。資料を見終わったら次のステップ。

 

 

「うしっ、走りますかね」

 

 

 走りの形を作ることだ。まずはディープインパクト会長の走りを真似て走る。1つ1つ確認をするようにしっかりと。

 

 

「……こんな感じだな。うん、大分走りやすい」

 

 

 今までのフォームよりもちょっと走りやすい、が。まだまだ足りない。まだどこか違和感がある。まぁ形だけ真似てるようなもんだからそれも当然か。

 だが、以前のフォームよりも格段に走りやすいのは確か。このフォームで走ることに慣れよう。それが全盛期を取り戻す第一歩だ。

 

 

「後はこのまま俺の走りにカスタマイズする。そうすりゃいずれは……」

 

 

 第1段階はクリアだ。そのためにも、必死にトレーニングしねぇとな。

 授業が終わった放課後の時間を目一杯使ってトレーニングに励む。1日でも早く本来の走りを取り戻すためにトレーニングして、トレーニングしまくって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた面白いことをやっているわね。ワタクシも混ぜてもらうわ。あぁ、あなたに拒否権はありません。よろしくて?」

 

 

 大変美人なウマ娘の先輩に絡まれました。なんでぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おーけいおーけい。まずは状況を整理しようじゃないかボブ。いや誰だよボブ。

 俺の目の前にいるのはおそらく上級生だろう。なんとなくそう判断した。ただ、どこか懐かしいような感じがするな……。鹿毛のストレートロング、身長は俺よりちょい低いぐらいか?だがそれよりも圧倒的なのは……胸。こう、ボン!キュッ!ボン!を体現しているかのようなスタイル。圧倒的ナイスバディなウマ娘。しかもそれでいて、とんでもなく高貴な身分なんじゃないか?と漂わせる雰囲気。さながら貴婦人のようなウマ娘。左耳側に傾いている帽子が良いアクセントになっている。

 そんなウマ娘さんに迫られているのが俺だ。……なんでぇ?

 

 

「あ、あの~。どちらさまで?」

 

 

「あら、ワタクシをご存じないのかしら?これでも生徒会の副会長なのだけれど」

 

 

 生徒会の副会長!?ま、ますますもってなんで俺に近づいたのか分からん。

 困惑している俺を尻目に、ナイスバディなウマ娘さんは不遜な態度を崩さずに教えてくれる。

 

 

「ワタクシはジェンティルドンナ。ここ、トレセン学園の生徒会副会長を務めているわ。よぉく覚えておきなさい?」

 

 

「じぇ!?」

 

 

「あら、どうかしたのかしら?」

 

 

 思わず自分の口を手でふさぐ。にしてもこの人、まさかのドンナ姉さんかよ!?いや確かにそれっぽい雰囲気はあるけども!

 

 

「そ、それでジェンティルドンナ副会長。お、俺に何の御用でしょうか?」

 

 

「その前に」

 

 

 ドンナ姉さんは俺の口に自分の人差し指を押し当てる。あ、あの。なんでございますかね?

 

 

「その他人行儀な呼び方を即刻止めなさい。ワタクシのことはドンナ、とお呼び」

 

 

「い、いや……あの……」

 

 

「嫌なのかしら?このワタクシに、意見をしようというの?」

 

 

 キツくなる目つき。こっわ!?

 

 

「ど、ドンナ先輩でお許しいただけないでしょうか……?」

 

 

「……まぁいいわ。今日のところはそれで勘弁してあげましょう」

 

 

 よ、ようやく人差し指を離してくれた。ドキッとしたぜ……命の危機的な意味で。

 

 

「そ、それで。ドンナ先輩は俺に何の御用でしょうか?面白いことって言ってましたけど」

 

 

「そうね……この前、あなたがトラックで走っているのを見たわ。あなた、ディープインパクト会長の走りを模倣しようとしていたでしょう?」

 

 

「そ、それがなにか?別に憧れてる会長の走りを真似るのは自然なことじゃないかな~って」

 

 

「嘘ね」

 

 

 ドンナ姉さんはぴしゃりとそう告げる。俺の本心を見透かしているように。

 

 

「随分分かりやすいのねあなた。嘘を吐く時が凄く分かりやすい……そんなところも可愛いわ」

 

 

「ヒエッ」

 

 

「あなたがどうしてディープインパクト会長の走りを真似ているのか……これはワタクシの仮説だけど、自分の走りに落とし込もうとしているのではなくて?その丁度いい対象が会長だった……違うかしら?」

 

 

「ひゅ、ひゅ~、ぷひゅ~」

 

 

「吹けてないわよ口笛。というか、別に隠すようなことでもないでしょう?」

 

 

 なんてこった。全部バレテーラ。てかエフもそうだけど俺ってそんなにわかりやすいの?

 

 

「まぁあなたがディープインパクト会長の走りを真似ているのも勿論だけど……それ以上に興味が惹かれるの」

 

 

「な、なににでしょうか?」

 

 

「あなたというウマ娘に、よ」

 

 

 ドンナ姉さんは俺に壁ドンしてる。そしてドンナ姉さんは俺の脚に指を這わせていた。ちょっと、ぞくぞくするから止めてくれません?くすぐったいんですけど。

 

 

「ウフフ……どうかしら?あなたのやりたいことにワタクシが協力して差し上げる。トレセン学園生徒会副会長が直々に教えてあげるのよ?光栄に思いなさい」

 

 

「わ、わ~い、嬉しいな~」

 

 

 いや、なんか棒読みっぽくなったけどマジで嬉しい。よくよく考えれば俺の走りの原点にはドンナ姉さんの教えがあった。そのドンナ姉さんが再び協力してくれる。これはかなり心強いことじゃないのか?……ドンナ姉さんの距離感がやたら近いのが気になるが。……もしかしたら、この距離感が普通だったりするのか?

 

 

「それじゃ、今日からワタクシがあなたをビシバシ鍛えてあげるわ。よろしくて?」

 

 

「は、はい!よろしくお願いします!ジェンティルドンナ先輩!」

 

 

「ドンナで良いわ。なら、今日の放課後から早速トレーニングよ。すぐにトラックに集合、分かって?」

 

 

「分かりました!」

 

 

「良いお返事ね。それじゃ、また放課後に会いましょう?ヴァーディ」

 

 

 そしてドンナ姉さんは去っていった。……うん。

 

 

「良い匂いしたな……」

 

 

 多分、そういうこと考えてる場合じゃないんだろうけど。

 そして放課後。俺はドンナ姉さんからのレクチャーを受けていた。

 

 

「まずはなにをするにしても重心よ。あの走りにはバランスが重要、体幹をしっかりと鍛えなさい」

 

 

「ふぎぎぎ……ッ!は、はいぃ……!」

 

 

「低く前に飛ぶ。このイメージ自体はちゃんと持っているわね?」

 

 

「は、はい」

 

 

「なら、今まで以上に前へ飛ぶことを心がけなさい。しっかりと地面を踏みしめて、スムーズに移動するのよ」

 

 

 というかドンナ姉さん自分のチームは良いのだろうか?多分だけど、超有名なチームに入ってるよな?そう質問したけど。

 

 

「あなたが気にすることじゃないわ。それよりもあなたは、自分の走りをちゃんと見つけ出すことが最優先。よろしくて?」

 

 

 と、一蹴されましたとさ。いや実際その通りなんだけどさ。

 

 

「きちんとパワーを鍛えておきなさい。あなたの走りに力強さは重要よ」

 

 

「はぁ」

 

 

「ワタクシが手取り足取り教えてあげるわ。ほら、こっちに来なさい」

 

 

 ドンナ姉さんと一緒にパワートレーニング。にしてもドンナ姉さんかなり密着してるな。フォームの指導とかトレーニングの指導とかする時基本ゼロ距離だ……これはきっとあれか?

 

 

(俺にしっかりと教えるためにと、そこまでやってくれるのか!)

 

 

 前世もそうだったが本当に優しいなドンナ姉さんは。思わず涙が出そうになるぜ。

 

 

「副会長と新入生のヴァーディクトデイって子……なんか近くないかしら?」

 

 

「いや近いでしょあれは。もしかして、あの副会長に気に入られたのかな!?」

 

 

「もしかしてもしかして~……キャ~!」

 

 

「入学したばっかなのにやる~!」

 

 

 なんか黄色い声が上がっているけど気にしないようにしよう。

 

 

「ちょっと、ちゃんと集中しているのかしら?ヴァーディ」

 

 

「あ、すいません!しっかりとやります!」

 

 

「そう。しっかりとやりなさい……フフフ」

 

 

 よ~し。このまましっかりと走りを取り戻すぞ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~♪」

 

 

「最近機嫌良さそうだねドンナ。何かいいことあったの?」

 

 

 生徒会室。生徒会長であるディープインパクトは副会長であるジェンティルドンナにそう問いかける。ジェンティルドンナは上機嫌で答えた。

 

 

「えぇ。とても面白い子を見つけましたの。ウフフ、本当に面白い子ですわ」

 

 

 機嫌良さそうにしているジェンティルドンナにもう1人の生徒会副会長であるオルフェーヴルは気の毒そうな表情で反応する。

 

 

「うわ、鬼に目をつけられるって……その子も可哀想」

 

 

 最後まで言い切ることはなく。ジェンティルドンナはオルフェーヴルの机に拳を振り下ろす。轟音を立てて粉微塵になった机を見て恐怖に震えているオルフェーヴルにジェンティルドンナはニッコリと。笑顔で告げる。

 

 

「なにか言いまして?オルフェ」

 

 

「い、いや~!ドンナさんみたいな綺麗なウマ娘に気に入られるなんてその子も運がいいっスね~!」

 

 

「褒めても何も出ないわよ。ウフフ」

 

 

 恐怖で震えているオルフェーヴルを尻目に、ジェンティルドンナは上機嫌だ。その様子にディープインパクトも興味を抱く。

 

 

「へ~。ドンナがそこまで興味を抱くウマ娘かぁ……」

 

 

 ディープインパクトは、薄く笑って。

 

 

「うん、決まりだね」

 

 

 そう呟いた。




ジェンティルドンナ

身長:164cm

体重:なにか言いまして?

スリーサイズ(B/W/H):97/58/91

トレセン学園の生徒会副会長。リギル所属。【貴婦人】と呼ばれるトリプルティアラウマ娘。ヴァーディクトデイのことを気に入って以降、彼女に教えを説くようになる。ヴァーディクトデイもジェンティルドンナには懐いている様子。
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