「さぁ、楽にしたまえヴァーディクトデイ」
(無理に決まってるだろ!?)
思わずそう声に出しそうになった俺、ヴァーディクトデイ。今俺が置かれている状況はというと。
「そう委縮する必要はない、今日は君と話をしたいと思ってね」
「は、はぁ……。それはまた、どうしてですか?」
生徒会室。俺の目の前にいるのはドンナ姉さんと同じ鹿毛の髪をストレートロングにした、
「ドンナが君を大層気に入っていてね。だから、そのウマ娘がどんな人物なのか気になる……それは当たり前のことじゃないかな?ヴァーディクトデイ」
「あ、あはは……普通のウマ娘ですよ、俺は」
「それでも、私は君に興味を惹かれた。だからこそ、ここに君を呼び出した……それが事の経緯だ」
「……」
い、威圧感がヤバい……!空気が重苦しいよ!早く帰りたいよ!ここから出してくれー!
生徒会長ディープインパクト。どういうわけか、俺はそんなウマ娘に呼び出されて生徒会室へときた。他には誰もいない。俺と生徒会長の2人っきりである。
な、なんて切り出せばいい?とりあえず!
「で、でも校内放送で呼ばれた時は焦りましたよ。俺何かやらかした!?って思いましたし」
俺がそういうと、重苦しい空気は無くなって?
「アッハハハ!それは悪かったね!でも、その方が手っ取り早いでしょ?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、ディープインパクト会長は茶目っ気たっぷりにそう答えた。重苦しい空気がなくなって思わず肩透かしを食らった気分になる。
「そのせいでプボちゃん……ディープボンドからえらい心配されたんですけど。ラウダシオンからはからかわれましたし」
「ごめんごめん。でも、君のクラスに赴くだけってのも味気ないな~って思って。なんか良い案ないかな~って思ったらつい、ね」
「つい、でこんなこと企てないでくださいよ……」
この人、入学式の時にも思ったけど結構お茶目だな?
そんなわけで重苦しい空気は無くなった。ので本題に入ることにする。
「え~っと、ジェンティルドンナ先輩に気に入られてるから俺を呼び出した……んでしたっけ?」
「そうそう。私も個人的に気になってね。後はまぁ……これはいいか」
ん?なんか隠してるみたいないい方だな。追及したところで答えないだろうし、気にする必要はないか。
そんなディープインパクト先輩はにやけ面で俺を見てる。
「それにそれに~?君ってば私の走り方を真似てるんだって?」
「あ~、まぁそうですね」
「いや~!嬉しいな~!後輩に慕われて私は嬉しいな~!」
あなたを慕ってないウマ娘っているんですかね?思わずそう口に出しそうになったが何とか耐える。
「でも~?私の走りはそう安くはないよ?まぁでも?君が望むんだったらこの私が……」
「あ、なんとかなりそうなんで大丈夫です」
「うそーんっ!?」
ガーン!って効果音が付きそうなぐらい驚いているディープインパクト会長。この人本当に茶目っ気たっぷりだな?
「そんな嘘でしょ!?私の走りが簡単に……」
「でも実際なんとかなりそうなので」
「お、おのれ~!……ドンナと結託してリギルに勧誘作戦が!」
小さくなんか言ったが聞き取れなかった。でも多分、俺は危機を脱したんだろうな。
しばらく悔しそうに歯噛みしていたが、落ち着いたのか普通の表情に戻っていた。
「ぐぬぬ~!……まぁいいや。ヴァーディは確か私のレース映像とか漁ったんだよね?」
「へ?まぁそうですね。図書室にある資料には粗方目を通しましたし、視聴覚室で見れるものは全部見ました」
「じゃあ、どのレースが一番お気に入りだったとかある?これは凄い!って思ったレース」
「一番凄いと思ったレース、か……」
いざ選ぶとなると難しいな。なんせディープインパクト会長のレースはその全てが印象的だから。
「……皐月賞、ですかね?」
「ほほう?それまた何故?」
「いや、あんな出遅れて最後にごぼう抜きなんてマジかよって、思わず声出ましたよあれは」
「アッハハハ!あの時は私もやらかしたねぇ!東条トレーナーには呆れた目で見られたよ!」
この人、皐月賞であわや転倒クラスのつまずきをしたのにその後普通に勝ったんだから驚きだ。圧倒的な格の違いを見せつけた春の天皇賞、才能の片鱗を見せた若駒ステークス。ベストレースは数あれど、俺の中で一番印象に残っているのは皐月賞だ……強さ的な意味ではないな、多分。
それからも会長は俺に興味津々といった感じで質問を飛ばしてくる。
「どうして私のフォームを真似ようと思ったの?」
「まぁ、色々あって」
「その色々を聞きたいんだけどな~……ダメ?」
「単純に、なんとなくできそうだな~って思っただけですよ。実際、かなりしっくりきましたし」
「ほほう、ヴァーディは結構感覚派なんだね」
その一つ一つに、俺はしっかりと答える。
「実際ドンナから可愛がられてるけどヴァーディはどう思ってるの?迷惑だったりしない?」
「迷惑だなんてとんでもない!凄く助かってますよ!」
「あ、本当に?」
「はい!ジェンティルドンナ先輩、凄いですよね!包容力があるというか、こう、凄く優しいですし!教え方も丁寧ですし!」
「へ~……この場にオルフェがいたら信じられない目で見そうだねこの子」
気づけば最初の威圧感にビビっていた俺はどこにもおらず。ただ普通に会長と話していた。
「いや~、それにしても君は良い子だね!」
そんな中、会長は唐突にそんなことを言いだした。なんで?
「なんでですか?」
「ほら、私とも普通に話してくれるし。私ってさ、ど~も周りから敬遠されてる節があるし」
「……まぁ、会長って威圧感凄いですし」
実際俺も最初は威圧感で全然話せなかったし。だが、会長はそれが気に入っていないのかちょっと頬を膨らませている。
「私としては結構フレンドリーにしてるつもりなんだけどな~」
「嘘でしょ」
「本当本当。だけど、あんまり喋ってくれる子もいなくてね~。クリスエスさんも普段が寡黙だから……あ、そうだ!」
良い案が思いついた!というような反応を見せる会長。なんだろう、猛烈に嫌な予感がしてきたぞ?
「たまにでいいから私ともお喋りしようよヴァーディ!」
「え?……それぐらいなら別にいいですけど」
「本当!?やったやった~!お喋り仲間が増えたぞ~!……ついでにリギルと生徒会にも入らない?」
「さらっと何言ってるんですか。どっちも入りませんよ」
「ちぇ」
勧誘されるのは嬉しいが、チームに関してはじっくりと決めたい。それにリギルって選抜レースがあるらしいし、いくら会長の推薦といえど……なんとかなりそうなのが怖いな。
だが、和気藹々としていた雰囲気から一転……ディープインパクト会長の雰囲気が一変する。
「そうだ、ヴァーディ。君に聞きたいことがあるんだ」
「っな、なんですか?」
思わず気圧される。さっきまでの雰囲気はもうない。【英雄】が放つプレッシャーに飲まれそうになっていた。
静かに、それでいてハッキリと聞こえるように。ディープインパクト会長は俺に質問を飛ばしてくる。
「君はどうして強くなりたいんだい?」
「強くなりたい理由、ですか?」
「そうだ。君の試験結果は私の耳にも届いているよ」
俺の試験結果、か。確か……。
「筆記はほぼ満点、実技においても他の受験生相手に大差で勝った実績持ち。おそらくそのままのスタイルで走ってもそれなりの成績を残せるだろう。それこそ、G1にだって届きうる」
「……」
「だけど不思議だ。君は
「……気のせいじゃないですかね?」
「……ドンナも言っていたけど、君って本当に分かりやすいね。隠し事とかできないタイプだ」
どうやら俺の分かりやすさはどうにもならないタイプらしい。悲しいね……。
「その焦りの原因はなにかな?良ければ教えてくれると嬉しいんだけど」
「……教える必要、ありますか?」
「だって気になるじゃないか」
ディープインパクト会長は薄く微笑む。俺からは視線を外さずに。
「君が焦る原因はなんだい?どうして君は強さを求めるんだい?そして……その強さの果てに、君は何を求めるんだい?」
ディープインパクト会長の言葉に、俺は。
「
そう答えた。
「……最高の勝負?誰との?」
ヴァーディの言葉に疑問を感じる私。だがそれ以上に気になることがある。
ヴァーディ、ヴァーディクトデイ。ドンナが気に入っている新入生のウマ娘。彼女の噂は学園で早くも有名になっていた。
曰く、凄いイケメンウマ娘。またレースの才能も非凡なものを感じる、とりわけレースセンスに関しては上級生にすら匹敵する逸材……そんな評価をトレーナー陣が下しているのを聞いたことがある。実際、こうして直接対面すると良く分かる。彼女は才能の塊だ。ドンナの教えもあるんだろうけど、それ以上に彼女の才能は凄まじいものを感じる。さすがは東条トレーナーも目をつけているだけのことはあるね。
だが、本人は決してそれを引けらかしたりしない。謙遜し、他人を立てる。嫌味に聞こえるかもしれないけど、不思議とそんな気配を感じさせない。そんな雰囲気がある。
(実際話すと彼女は優しい子なんだってのは分かる。自分よりも他人を立てるタイプっていうのかな?あまり我を押し通さないタイプ)
……だけど、今は違う。
先程までヴァーディの雰囲気は特に変わりはなかった。強いて言うなら、どうして強くなるのか?と聞いた時に少しだけ圧が強くなったが……本当に少しだけ。特に変わりはない。
だけど……今のヴァーディは
「そこまでは教えませんよ。たとえ誰であっても、教える気はありません。ただ、俺が強さを求める理由……それは、最高の勝負をするためにある」
「ふ~ん……それがあるから焦ってるの?」
目が据わっている。笑っているけど笑っていない。得も言われぬ不気味さがあった。先程まで話していたヴァーディからは信じられないほどに。
「そうですね。今のままだと、とてもじゃないですけど最高の勝負はできない。だから俺は、一日でも早く俺の走りを
(取り戻す必要がある?どういう意味?)
聞いたところで教えてはくれないだろう。だからスルー。
「俺の走りを取り戻して、徹底的に鍛え上げて……俺はアイツと勝負をする。二度と後悔しないために」
……これも分からないな。今のヴァーディから分かることはただ1つ。
(普通だと思っていたけど……
先程から笑っているように見える。だけど、
彼女はなおも楽しそうに語る……それが私には酷く不気味に見えた。
「アイツはね、凄く強いんですよ。だから俺もそれ相応の強さを得る必要がある。あぁ、それだけじゃありませんね。ただ強くなっても、俺にはとある問題がありまして。その問題を解決するためにも、早い内に強くなっておくに越したことはありません」
「とある問題?……一応聞いておいても?」
「別にそこまで深刻なものじゃないですよ。俺、他の子に比べて疲労の回復が遅いんです。昔っからどうも疲れが抜けにくくて」
悔しそうに、本当に悔しそうにそう吐き捨てた。だけどそれも一瞬のこと。すぐに笑顔になる……勿論、目は笑っていない。
「あぁ……アイツは、今も着々と強くなっているんだろうなぁ……!」
だけど、どんどん恍惚とした表情に変わる。
(これは……凄いね)
ドンナ、君が目をつけた後輩は。
「そんなお前を倒した時──お前は、どんな表情をするんだろうなぁ……!それに、きっと最高のレースになる……!あぁ、楽しみだなぁ……!」
とんでもない狂気を抱えている。底の見えないナニカ、底知れない狂気。これがレースに向くってなると……ヴァーディは。
(どこまで強くなるのか?……本当に、底が知れないウマ娘だ)
彼女の圧に冷や汗をかいていた、そんな時だった。
「……あぁすいません。ちょっとテンションがおかしくなってましたね」
ヴァーディはふと我に返ったようにそう呟いた。……こっちが素みたいだね。
う~ん、確かにヴァーディの狂気は凄い。だけどまぁ、いっか。
「ううん!全然いいよ!んじゃ、これからもよろしくね?ヴァーディ。たまには私の話し相手になってよ」
どうしようもないだろうし、ね。
私の言葉にヴァーディは呆れ顔。あれ?もしかして話し相手になってくれないの?
「……まぁそれぐらいいいですけど」
「本当!?やったやった~!」
私も喜ぶし、ドンナも喜ぶだろうしまさに一石二鳥!最高だね!オルフェは……まだ会ったことないだろうし分かんないか。
「それじゃあ、俺もう帰って大丈夫ですか?ドンナ先輩とのトレーニングもあるので」
「お、結構長く話してたね。ゴメンゴメン。もう行って大丈夫だよ。あ、そうそう!」
「なんですか?」
「私のことはプイプイでいいよ!」
「……恐れ多すぎて呼べませんよ」
「え~?」
結構気に入ってるんだけどな~。
そしてヴァーディは生徒会室を退室。部屋には私だけが残る。それにしても……。
「凄い狂気だ……本当に、底が見えない」
一体どんな経験をすればあそこまで、なんて思うけど。考えたって仕方ないだろう。ヴァーディが教えるとは思えないし。
ヴァーディクトデイ。彼女が一体どんな軌跡を歩むのか……。
「楽しみだね。
要注目だね!
果たして次は誰とエンカウントするのか?