私の姉さんは、トラブルに巻き込まれやすい。それも、ウマ娘同士のトラブルに。
「だから!タキオンさんの方が良いに決まってるでしょ!?」
「は~!?ギム先輩の方がカッコいいに決まってるだろ!?」
「なによ!」
「なんだ!」
「「ぐぬぬぬ……ッ!」」
「ダイワスカーレット先輩とウオッカ先輩、またやってるね」
「あそこまでいくともう仲良いでしょ……あ、ヴァーディクトデイ先輩が……」
ダイワスカーレット先輩とウオッカ先輩が、姉さんを視界に捉える。瞬間、私は全てを察した。
私の姉さん、ヴァーディクトデイ。真っ黒の長い髪が所々跳ねている癖っ毛。印象的にはのほほんとした、穏やかな気性を見せている……あくまでレース外では、だが。後姉さんはナイスバディである。全体的に均整の取れた肉体……とでもいうべきだろうか?身長もそれなりに高い。確か、160の後半だって聞いた。
(多分、また巻き込まれるんだろうな)
その不安は、見事に的中した。
「丁度いいところに来たわヴァーディ!ちょっと来なさい!」
ダイワスカーレット先輩に手を引かれ、姉さんは困惑した表情で連れて行かれた。スカーレット先輩とウオッカ先輩、2人の間に立たされる。
「え?え?お、俺に何の用です?」
「ヴァーディ!ギム先輩の方がカッケェよな!?」
「何言ってんのよ!タキオンさんの方が頭がいいじゃない!タキオンさんの方よねヴァーディ!?」
「いや!マジで何の話ですか!?全く意図が分からないんですけど!?」
姉さんの言い分はごもっともだ。姉さんは現状を把握できていないのだから。
「ギム先輩はな!いつだって自分の美学を貫いているんだよ!何を犠牲にしてでも自分の美学を貫く真っ直ぐな姿勢、そのスピリット!どうだ!ギム先輩の方がカッケェだろ!?」
「まだまだねウオッカ!タキオンさんの知識量を甘く見ているのかしら?タキオンさんの知識量はね、トレセン学園随一といってもいいわ!タキオンさんの方が凄いに決まってるじゃない!」
「ギム先輩だ!」
「タキオンさんよ!」
飽きもせずにやっている。お互いに睨み合って……鬼気迫る表情で姉さんの方を向いた。
「「ヴァーディ!どっち(だ)!?」」
「え、えぇっと……良く分からないですけど……どっちもすごいじゃダメなんですか?」
「「ダメ(だ/よ)!」」
「ですよね~……トホホ……」
その後も姉さんは拘束され続けた。
「これで連続4日目……と」
「エフフォーリア。何を記録しているのだ?」
「姉さんがスカーレット先輩達に絡まれた回数。今週に入って……これで連続4日目だよシャフ」
「それ今のところ毎日ではないか……?」
シャフ……シャフリヤールがドン引きした表情で私を見る。うん、私もそう思うよシャフ。
姉さんがスカーレット先輩達に絡まれるのはまだ序の口。今度は……副会長だ。
「あら?ヴァーディじゃない」
「あ、ジェンティルドンナ副会長。おはようございます」
姉さんの挨拶に、ジェンティルドンナ副会長は微笑みで返す。
ジェンティルドンナ副会長。鹿毛のストレートロング、貴婦人のような第一印象を抱くウマ娘だ。それとナイスバディである。厳しいながらも優しい一面もある、トレセン学園の生徒会副会長。身長は、姉さんより少し低いぐらい。
「ふふ、そう他人行儀にしなくても大丈夫よヴァーディ。あなたとワタクシの仲じゃない。気軽に、ドンナで良いっていつも言ってるでしょう?」
「い、いや~。やっぱり尊敬する先輩には敬語を使うべきかと思いまして」
「あら?ワタクシが良い、と言っているのよ。だから、ドンナと呼びなさい」
「は、はい。ドンナ先輩」
「……まぁ及第点ね。ゆくゆくは……フフフっ」
姉さんはジェンティルドンナ副会長に気に入られている。それはまぁいい。多分ここから……あ、ゴールドシップ先輩が来た。ジェンティルドンナ副会長は露骨に嫌そうな表情を浮かべている。
「なんだなんだ~?今日は気合入れてんなドンナ!」
「ゲッ、白饅頭……な、何の御用かしら?ワタクシは今ヴァーディと話をしているのだけど……」
「なぁなぁヴァーディ。聞いて驚け!なんとドンナのヤツな……」
「なにを話す気ですのゴールドシップ?言っておきますが……」
「お前の人形を毎晩抱いて寝ているらしいぜ?しかも、結構な数をダメに……」
「ちょぉ!?」
ジェンティルドンナ副会長は顔を真っ赤にしている。どうやら事実かも知れない。ジェンティルドンナ副会長の意外な一面だ。もっとも、その代償として。
「あ、あの。ゴールドシップ先輩。ドンナ先輩が……」
ジェンティルドンナ副会長の怒りは、怒髪天を突く勢いだ。周りの空間が歪んでいる。
「ゴォォォォォォォルドシップゥゥゥゥゥゥゥゥ!今日という今日は許しませんわよ!よくも、よくもこのワタクシの秘密を……!しかもどこから仕入れましたのそれ!?」
「お、やっべぇ!ずらかるぞヴァーディ!」
ゴールドシップ先輩が、姉さんの制服を掴んで一緒に逃げ出した。ジェンティルドンナ副会長はそんな2人を追っている。
「え?……ちょ!?なんで俺まで!?」
「待ちなさいゴールドシップ!ヴァーディ!特にヴァーディ!今聞いた話は忘れてもらうわ!神妙にお縄につきなさい!」
「な、なんでですか!?く、クソ……!逃げるしかない!」
「アッハハハハ!やっぱオメーが絡むと面白れぇなドンナのヤツ!揶揄いがいがあるぜぇ!」
「それで毎回俺を巻き込まないでくださいよ!?」
そのまま姉さんは去っていった。あの様子だと、また途中で捕まるだろう。これでジェンティルドンナ副会長絡みは……今月に入って8回目か。
「ねぇエフ。君のお姉さんがさっきジェンティルドンナ副会長に鬼の形相で追いかけられてたけど……またゴールドシップ先輩に何かされたの?」
「そんなとこだよ、タイホ」
「……君のお姉さん、毎日誰かしらに追いかけられてるね。いつもお疲れ様ですって伝えといて」
「分かった。伝えておくよ」
とりあえず、姉さんを追いかけると……案の定ジェンティルドンナ副会長に捕まっていた。ゴールドシップ先輩に囮にされたのだろう。気の毒である。
お昼の時間。そこでも姉さんは……また絡まれていた。
「あ!ヴァーディだ!」
今度はグランアレグリア先輩。姉さんは挨拶を返す。
グランアレグリア先輩。鹿毛の髪を短くした、活発な印象を抱くウマ娘。よく姉さんに絡んでいる。身長的には150の後半ぐらい?かな?
「こ、こんにちは。グラン……」
「一緒にご飯食べよ!良いよね?良いよ!よし決定!じゃあ早速カフェテリアに行こう!」
「俺まだ何も言ってないんだけど……」
「何言ってるのよアレグリア!ヴァーディはわたしと!食事をするんだから!」
そのまま姉さんを拉致しようとするグランアレグリア先輩に待ったをかけたのはクロノジェネシス先輩。
クロノジェネシス先輩。葦毛の髪をセミロングにした、神秘的な印象を抱かせるウマ娘。身長はグランアレグリア先輩と同じかちょっと高いぐらい。特筆すべきは、このクロノジェネシス先輩は姉さんが特に尊敬している先輩だということ。クロノジェネシス先輩も、姉さんを可愛がっている光景をよく見る。
「じぇ、ジェネ先輩。こんにちは」
「こんにちはヴァーディ!というわけで、わたしと一緒にご飯食べに行こ?」
「あ、あの……」
「何言ってるのよジェネ!ヴァーディはこのボクと食べに行くんだから!」
「み、みんなで食べれば……」
「はぁ!?そっちこそ何言ってるのよ!ヴァーディはわたしと食べるのよ!いつも通りに、ね!」
「み、みんなで……」
「ボク!」
「わたし!」
「「~~~ッ!」」
にらみ合いに発展するグランアレグリア先輩とクロノジェネシス先輩の会話。最終的には……。
「えっ?」
グランアレグリア先輩が姉さんの左腕を。クロノジェネシス先輩が姉さんの右腕を掴んで。綱引きのごとく姉さんの身体を引っ張っていた。
「ヴァーディはボクとご飯を食べに行くの!ジェネは引っ込んでてよ!」
「いーや!ヴァーディはわたしとご飯を食べるの!ヴァーディだってその方が嬉しいんだから!」
お互いに一歩も譲らない。中心にいる姉さんはというと。
「痛だだだだだだだだだっ!?ち、千切れる千切れる!誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
姉さんの悲痛な叫び。たまらず私は飛び出した。
「あの、グランアレグリア先輩もクロノジェネシス先輩もその辺で。姉さんが痛がってますので」
私の横入りで、2人とも多少なりとも落ち着きを取り戻したのか顔を青ざめさせる。すぐさま姉さんに謝罪を始めた。
「ご、ごめんねヴァーディ!痛かったよね?本当にごめんね……!」
「ゴメンヴァーディ!わたし、自分勝手なことしちゃって……」
本当に申し訳なさそうに謝罪する2人。そんな2人を姉さんは。
「い、いえ。別にいいですよ。それじゃあみんなでご飯を食べに行きませんか?」
笑って許していた。
「でも!流石に今回のことは反省しないと……ボクが好きな飲み物奢ってあげる!あとあと、膝枕もしてあげる!」
「それにかこつけて独り占めする気でしょアレグリア!ヴァーディ、わたしは今度の買い物で好きなもの買ってあげる!大丈夫!わたしが全部払うから!」
「い、いえ。本当に大丈夫ですので。それよりも早くご飯を食べに行きませんか?」
あんまり無理強いをするのは良くないと思ったのだろう。先輩達は再度姉さんに謝って、みんなでご飯を食べに行くことになった。その道中、姉さんから。
「ありがとよエフ。お前のおかげで助かった」
「いいよ。でも、さすがに怒った方が良いんじゃないかな?姉さん」
「あ~いいのいいの。気にしてないってのは本当だし。怒ってもいない」
姉さんはあっけらかんとした調子で答える。これもいつものことだ。思わず、こっちが呆れてしまう。
「……姉さんが怒ることってあるの?」
「そりゃあるぞ。そうだな……俺の周りのみんなとか、お前やペリファーニアがバカにされたら俺は滅茶苦茶怒るぞ。こらー!って」
「でも、姉さんが怒ったとこ見たことないけどな」
「お前が見てないだけで、怒ってる時はあるよ。我慢の限界ってもんはさすがにあるさ」
姉さんは私の頭を撫でてくれる。小さい頃から、姉さんはよく私達の頭を撫でてくれた。姉さんに頭を撫でられるという行為が……私は好きだ。目を細める。
「お前も、俺を心配して言ってくれたんだろ?ありがとよエフ。でも俺は大丈夫だ、さすがに怒る時は怒るさ」
「……分かった」
「んじゃ、早いとこカフェテリアにいくか!」
姉さん達とカフェテリアに向かう。私は姉さんの後をついていった。
私の姉さん、ヴァーディクトデイ。私──エフフォーリアが一番尊敬するウマ娘。よくトラブルに巻き込まれるし、悲惨な目にあったりするけど。本人はそれを気にしない。怒る時もあるらしい。私は見たことないけど。
普段は穏やかで、誰とでも分け隔てなく接する優等生。でもレースの時は、そんな姿は見る影もない。前を走る
(今度の姉さんのレース……楽しみだな)
そう思っていると「あら、ヴァーディじゃない」また新たな争いの種がやってきた。
「アイ先輩、こんにちは」
「えぇこんにちは。随分と大所帯ね」
「今からご飯を食べに行くところなんですよ。アイ先輩もどうですか?」
姉さんがそう提案した瞬間、グランアレグリア先輩とクロノジェネシス先輩のオーラが増した。さながら来るんじゃねぇお邪魔虫……といったところだろうか?まぁ2人からしたら姉さんと2人っきりで食事したいだろうに、そこにさらにメンバーが追加されるのは我慢ならないのだろう。
アーモンドアイ先輩。鹿毛の癖の多い髪をポニーテールに纏めている、瞳が特徴的な先輩。身長はクロノジェネシス先輩達よりは高くて、姉さんよりは低い。生真面目な印象を抱かせる先輩だ。この先輩も姉さんのことを気にかけているし、アーモンドアイ先輩も姉さんを嫌っている様子を見せない。というよりは、うん。
「なら、ご一緒させてもらおうかしら?……邪魔者が2人いるようだけど」
「「ッ!」」
不敵な笑みを浮かべるアーモンドアイ先輩。邪魔者と聞いて、露骨にアーモンドアイ先輩を睨むクロノジェネシス先輩とグランアレグリア先輩。でも姉さんは気にした様子を見せない。多分、大人数で楽しいなぁぐらいにしか思ってないだろう。
……うん。
(姉さんにも悪いとこはあるんだよなぁ……)
そう思わずにはいられなかった。
こっちでも女難は続いている模様。
ヴァーディクトデイの秘密①
実は、ウマ娘同士のトラブルに巻き込まれやすい。