飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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ヴァ―ディが何かを相談する模様。


先を見据えて

 新入生の模擬レースも終えて、俺は無事にチーム・アルクトスへと入部することになった。

 

 

「みなさん初めまして!俺、ヴァーディクトデイって言います!これからアルクトスで精一杯頑張っていきます!」

 

 

「「「ようこそアルクトスへー!」」」

 

 

「いやいや~!ほんっと~に良く来てくれたね!」

 

 

「まさか数あるチームの中からウチに来てくれるなんて……嬉しくて泣きそう!」

 

 

「この日のために徳を積んでて良かった~!」

 

 

「あんた言うほど徳を積んでた?」

 

 

 お、おぉ!どうやら俺は歓迎されてるみたいだ!喜び方が大げさな気がするがそこはまぁいいだろう。

 

 

「改めて、このアルクトスにヴァーディが入部することになった。世話役は……」

 

 

「「「はいはい!はーい!」」」

 

 

 うお、すっげぇ。めっちゃ食いつくじゃん先輩方。こういうのってめんどくさがる人が多い印象だけどそうでもないのか?

 

 

「わたしわたし!わたしがヴァーディの面倒を見る!」

 

 

「……大丈夫?クロノにはチームリーダーも兼任してもらうことになるけど」

 

 

「むしろリーダーだからこそ!新入生のヴァーディの面倒はわたしが見るべきだと思いまーす!」

 

 

「あ!ずるいずるいクロノ!」

 

 

「それはずるでしょ!」

 

 

「知りませーん!リーダー特権でーす!」

 

 

 なんか俺の処遇で揉めてんな。できればジェネ先輩が良いんだけど。

 それからすったもんだの末にジェネ先輩が俺の指導役という名の世話役になった。

 

 

「これからよろしくね!ヴァーディ!」

 

 

「はい!よろしくお願いしますジェネ先輩!」

 

 

「じ、ジェネ先輩……!よ~し、ビシバシ鍛えちゃうからね!」

 

 

 前世でもそうだったけど本当に面倒見がいいな~ジェネ先輩。俺としては大助かりである。

 チームに入ってからまたしばらく経って。ジェネ先輩とは寮も同じということもあり一緒に帰ることも多くなった。また、俺がお風呂で最低限のことしか済ませてないというと注意してきた。

 

 

「ダメだよヴァーディ!身だしなみはしっかりしないと!」

 

 

「え~?……最低限済ませておけば良くないですか?」

 

 

「ダ・メ!ほら、わたしがしっかりと洗ってあげるからこっちきて!それと今日から一緒にお風呂に入るよ!」

 

 

「はいは~い」

 

 

「え?ちょっと待ってヴァーディ君。なんかおかしくない?」

 

 

 それからはジェネ先輩に連れられて大浴場に入ることが多くなった。お風呂上がりのストレッチの最中、尻尾の手入れとかもしてくれる。なんというか申し訳ないので俺の方からも申し出たが。

 

 

「あの~、ジェネ先輩。さすがに俺ばっかりやってもらうのは申し訳ないのでジェネ先輩の尻尾の手入れは俺がしますよ」

 

 

「ッ!本当!?じゃあお願いしちゃおうかな!」

 

 

「……まぁヴァーディ君がそれでいいならぼくはいいよ」

 

 

 尻尾の手入れをしている最中、ジェネ先輩は終始上機嫌。嬉しそうならいいか。

 チームの雰囲気にも慣れてきた頃。俺は駿川さんと対面している。

 

 

「留学制度、ですか?」

 

 

「はい。俺でも向こうのトレセン学園に留学することは可能でしょうか?」

 

 

 今回交渉したいのは留学の件。新入生の俺でも向こうに留学できるのかな~?ということで駿川さんに相談することに。留学する理由はまぁ単純で……先を見据えて、だ。

 駿川さんは難しそうな表情をしている。やっぱりダメなのだろうか?

 

 

「留学自体は勿論可能ですけど……一体どちらに?」

 

 

「欧州に。向こうのトレセン学園で研鑽を積もうかと」

 

 

「成程……随分とお早いご決断ですね。この時期に、しかも新入生で留学だなんて」

 

 

「あはは。俺の目的のために、早めに向こうに慣れておくのが良いと思いましたから」

 

 

 フォームは完成した。完成したが……いかんせん能力値に関してはまだまだ低いまんまだ。全盛期には程遠い。ここらで新しい刺激を求めて、という建前の下欧州のトレセンに行きたい。その中で一番希望するのは──イギリスのトレセン学園。

 

 

「欧州で、目的と言いますと……やはり凱旋門賞でしょうか?」

 

 

「……まぁそんなところです」

 

 

「やっぱり目指す子は多いですね。それも当たり前ですけど」

 

 

 駿川さんは微笑みを浮かべている。なんというか、申し訳なくなってくるな……。

 駿川さんは少し失礼しますね、と一言告げて棚の資料を漁り出す。その中から1つのファイルを引っ張り出してきた。

 

 

「こちら、留学に関しての資料になります。しっかりと目を通しておいてくださいね?なにか分からない点があればすぐにお教えてください。迅速に対処いたしますので」

 

 

 ファイルを受け取って中を開く。そこに書かれていたのは……留学に関しての注意事項と留学の手続きの紙。……ということは!

 

 

「り、留学してもいいんですか!?」

 

 

「はい。入学してから特に問題も起こしておりませんので……ヴァーディクトデイさん“は”」

 

 

「す、すいません……なんか」

 

 

「いえいえ良いんですよ。ヴァーディクトデイさんが悪くないというのは分かっておりますので」

 

 

 疲れたような溜息を吐く駿川さん。うん、本当にごめんなさい……大体渦中にいて。

 さてさて、留学の資料に目を通すが……成程成程。

 

 

「当たり前ですけど、まずはパスポートとかビザを取らなきゃですね。今度の休みに一度家に帰るか」

 

 

「その辺りは必須ですね。いざ留学!ってなった時にないってなったら悲惨ですよ~?」

 

 

「さ、さすがにそんなポカはしないですよ!後は……学力テストですか」

 

 

「テストに関してもヴァーディクトデイさんの入学時の成績なら特に問題はないかと。後は現地の言葉をどれだけ喋れるかも必要になってきます。しっかりと勉強してくださいね?」

 

 

「はい」

 

 

 ま、前世で海外飛び回ってたおかげでその辺は問題なしだな。しっかりと話せるし、実証済みだ。

 

 

「それとヴァーディクトデイさんは海藤トレーナーのアルクトスに所属していましたね?でしたら、海藤トレーナーにも話は通してください」

 

 

「それは勿論」

 

 

「後は……」

 

 

 そこから諸々の説明が入って俺は駿川さんとの話し合いを終える。留学先に関しても特に問題はないだろう。後は先方がどういう反応をするか、次第らしい。

 部屋から退出すると、プボちゃんが待っていた。

 

 

「お疲れ~ヴァーディ君。何話してたの?」

 

 

「おう、プボちゃん。なに、ちょっと留学をしようかと思ってな」

 

 

「もう?早いね~」

 

 

「まぁな。でも早い内に向こうに慣れておきたいってのがあるからな」

 

 

「……向こうに住むから?」

 

 

「んなわけ。海外のレースを見据えて、だよ」

 

 

「だよね~」

 

 

 プボちゃんと笑いながら話して教室へと戻る。

 ……どういうわけか、俺が留学を考えているという件は瞬く間に広がっていった。

 

 

「ヴァーディ、留学するというのは本当かしら?」

 

 

「じ、ジェンティルドンナ先輩?「ドンナよ」……ドンナ先輩。まぁそうですけど」

 

 

「……ワタクシも着いて行こうかしら?」

 

 

「生徒会の業務があるじゃないですか」

 

 

 ドンナ姉さんに始まり。

 

 

「ヴァーディ!留学するって本当なの!?」

 

 

「あ、アレグリア先輩?まぁそうですね。というか誰から」

 

 

「やだー!いかないでー!ずっと日本にいて~!」

 

 

「そんな今生の別れみたいな!?期間過ぎたら帰ってきますって!」

 

 

「ヴァーディ。向こうの生徒会長によろしくね~」

 

 

「知り合いなんですか?ディープインパクト会長」

 

 

「いや?別に。でも気になるじゃん?」

 

 

「一理ありますね」

 

 

 アレグリア先輩にディープインパクト会長も、どういうわけか俺が留学するという件を知っていた。まだパスポートを発行するために実家に帰ってすらいないというのに、だ。

 

 

「確かにプボちゃんと留学の話をしていたが、そんなすぐに広まるか?」

 

 

 あの帰り道ぐらいでしか話してないぞ?確かに一定数聞いている子がいるかもしれないが、こんなにすぐ広まるわけ……。

 

 

「まぁ噂好きなのかもしれないし、そういうもんか」

 

 

 特に気にしないでおこう。

 まずはトレーナー室。海藤さんに話を通しに行く。

 

 

「……というわけで、海外への留学を考えているんだが」

 

 

「う~ん……先を見据えて、か」

 

 

 海藤さんの表情は芳しくないが……最終的には。

 

 

「うん、いいよ。頑張っておいで」

 

 

「っし!」

 

 

「俺の手続きが必要な時は遠慮なく来てね。目を通すから」

 

 

「分かった!ありがとよバディ!」

 

 

「それにしても……新入生ながら早いね、ヴァーディ。普通はもっとじっくり行くものだけど」

 

 

「あ、あ~……早いに越したことはないだろ?」

 

 

「それもそうだけどね……向こうで寂しくなったら俺やクロノ、チームのみんなに遠慮なく電話して良いから」

 

 

「あぁ!そうさせてもらうわ!」

 

 

 海藤さんの許可も貰う。そして休日には実家へと戻って母ちゃんの説得に入る。

 

 

「ダメダメダメ!ダ~メ!絶対に「母さんはこう言ってるけど、僕は賛成だよヴァーディ。向こうでレースのこと、しっかり学んでくるんだよ」あ、あなた!?」

 

 

「あ~……良いのか?父ちゃん」

 

 

 父ちゃんに聞き返すと、父ちゃんは微笑みながら答える。

 

 

「勿論。ヴァーディがやりたいと思って留学を決断したんだろう?だったら僕は、その意思を尊重してあげたい。それに、ヴァーディは昔からあまりワガママを言わなかったからね。実はちょっと嬉しかったりするんだ」

 

 

 ……なんか申し訳なくなってくるな。手のかからない良い子かもしれないが、親としてはワガママを言わないのは少し寂しかったのだろう。

 

 

「あ、あはは。なにはともあれ、ありがとう父ちゃん!」

 

 

「う、うぅ~!ヴァーディ!向こうに行ったら一日一回、必ず私達に電話するのよ!?いい?絶対によ!?」

 

 

「わ、分かったって母ちゃん」

 

 

「電話、楽しみに待ってるよ姉さん」

 

 

「私もお姉ちゃんと話した~い!」

 

 

「ハハ、分かった分かったって。必ず電話するよ」

 

 

 こうしてパスポートの手配は済んだ。怖いくらいに順調である。

 準備は着々と進んで。現在駿川さんの前。俺が記入した書類を1つ1つ確認し、最後はテストの成績を確認した後。駿川さんは笑みを浮かべて。

 

 

「……はい!これで問題はありませんね。それでは、ヴァーディクトデイさん?向こうでしっかりと、レースのことについて学んできてくださいね?」

 

 

 俺は、留学の許可を貰えた。

 

 

「や……ったぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

「フフ。向こうでの生活が良い経験になることを祈っていますよ」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 俺の留学は、無事に決まった。やったぜ!後は向こうでのホームステイ先になるが……こちらはまだ話し合いの途中らしい。でももうすぐ決まりそうだとのこと。一体どこになるのかな~?

 

 

「仲良くしてくれるといいな~!」

 

 

 留学の日が楽しみだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イギリスのトレセン学園。生徒会長のウマ娘は1つの資料に目を通し──薄く微笑んだ。

 

 

「新入生ながらこちらへ留学、か。中々面白い子じゃないか」

 

 

 資料に書かれているウマ娘の名前はヴァーディクトデイ。日本のトレセン学園に所属しているウマ娘で、ここイギリスのトレセンへの留学を希望している生徒。つい最近受け入れることを決定し、後はホームステイ先をどうするかを決めるだけなのだが。

 

 

「きみのところのご令嬢が興味を持ってるんだって?きみ自身はどう考えているんだい?」

 

 

 明るめの鹿毛の髪を揺らしながら、楽しそうな表情で生徒会長であるウマ娘は目の前のウマ娘に問いかける。

 生徒会長の言葉に鹿毛の茶色い髪を首の辺りで一つに結んだウマ娘が不機嫌そうに反応する。

 

 

「……親しそうにするな。まぁ、あの子が興味を持っているのは事実。それに、ワタシも興味はある。だから、受け入れはワタシのとこにするつもり」

 

 

「つれないねぇ……オレも興味はあったがまぁいい。ならきみのところで決定だ」

 

 

 生徒会長のウマ娘は資料を不機嫌そうにしているウマ娘へと渡す。一通り目を通した後、彼女は退出する。

 

 

「おいおい。もうちょっとゆっくりしていけよ?せっかく菓子もあるのに」

 

 

「……冗談だろう?これから色々と準備しなきゃいけない。じゃあな」

 

 

 面白くなさそうな表情をする生徒会長のウマ娘。それを無視して部屋を退出した。部屋に1人取り残された彼女は嘆息しつつも表情は笑みを浮かべたまま。

 

 

「うんうん、楽しみだな~。良い刺激になるな、多分」

 

 

 それに、と呟いて……好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

「走ってみたいね、うん。新入生ながらこっちに留学してくるなんてよっぽどの考えがあってのものだろうし。来る日が楽しみだな」

 

 

 その呟きは誰にも聞かれることはなかった。




ヴァ―ディ、留学。
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