トレーニングの休み明け。ナサニエルさんに呼び出されたのだが。
「『これがあなたのトレーニングメニューだ。目を通しておくように』」
紙の束を受け取って目を通す……ほとんど基礎トレじゃん。
俺が渋い顔しているのに気づいてか、ナサニエルさんは懇切丁寧に教えてくれた。
「『まず、あなたはまだ身体が出来上がっていない。あなたが納得するような走りを得られないのはそれが原因だろう』」
「……『はい』」
分かっていたことだ。分かっていることだけど「『それに』」?まだ何かあるのか?
「『あなたはどうやら、かなり無茶をするタイプのようだ。フランケルとの併走も、己を制御できていなかったからね』」
……図星だから目を逸らす。その様子を見ていたナサニエルさんに溜息を吐かれた。
「『今のあなたの走りは身体に負担が大きい。踏み込むために多大な力を消費する関係上、脚へのダメージが大きいんだ。できれば止めることを推奨したい「『それは嫌です!絶対に!』」……そういうと思ったよ』」
当然だ!俺にとって最適の走りはこの走り、この走りじゃねぇと、コントレイルには勝てねぇ!
「『ならば、無理のない範囲でその走りを馴染ませるしかない。徐々に徐々に馴染ませていくとともに、あなた自身を鍛え上げる。それがあなたに提示するプランだ』」
「……『確かに、このメニューは脚の筋肉を鍛えることを重点においてますね』」
「『そうだ。脚の筋肉を鍛えながら、走りを馴染ませる。あなたのパワーは現時点でも相当なものだが……それをさらに鍛える。今後のためにもね』」
「わ、『分かりました』」
とにかくパワー、ってことか。脳筋にならんように気をつけよう。
「……『それと、これはとても言いにくいことなのだが』」
「『どうしたんですか?ナサニエルさん』」
ナサニエルさんはすげぇ言いにくそうな、渋面の表情を作っている。本当にどうしたんだ?
「『現時点でのあなたの能力値は、頭打ちに近い状態だ』」
「……うそーん」
いや待って、そんな嘘だろ!?俺の全盛期全然こんなもんじゃねぇぞ!?俺の成長これで終わりなん!?
俺が露骨に落ち込んでいることに気づいてか、ナサニエルさんは慌て始めた。
「す、『すまない!言葉足らずだった!別にこれから成長しないというわけではないんだ!』」
「アハハ……『良いんですよナサニエルさん。そんな無理に慰めなくても』」
あーあ、こんなんじゃコントレイルにリベンジなんてもう「『本当のことだ!だからどうかワタシの言葉を聞いてくれヴァーディクトデイ!』」……とりあえず聞かなきゃ。
「『聞いてくれる気になったか……オホン!どういうわけか、あなたが本来出せるはずの能力に対して、出力される能力が著しく低いんだ』」
「……んん?『どういうことですか?』」
俺の力はもっと出せるのに、なぜか出せないってこと?本当になんで?
「『これはワタシとトレーナーも頭を悩ませていてな……その結論として出たのが、あなたの身体が出来上がっていないという答えだ』」
「う~ん……うん?」
「『つまるところ、本来の能力値はもっと高いがそれを全て出力してしまうとあなたの身体が壊れる可能性がある。だからこそ、あなた自身の身体がそうならないように制御しているのだと思う』」
あ、あ~。そういうこと。つまりはもっと身体が頑丈にならないとこれ以上の出力はできないよ~ってことか。
「『それを見据えてのこの基礎トレなんですね』」
「『そういうことだ。君に必要なのは身体を強くする基礎トレ。それと並行して脚の筋肉をつける。より強い踏み込みができるようにね。それじゃ、早速やっていこうか』」
「『はい!ナサニエルさん!』」
「……『ナサニエル先輩ずるいです。私もヴァーディ様と一緒に』」
「『エネイブル。あなたは自身のトレーニングに戻りなさい。レースも近いだろう?これ以上トレーナーとワタシを困らせないでくれ』」
「『分かりましたわ……』」
エネさんとぼとぼと帰っていくな……なんかいたたまれなくなってくる。
「……『すまないねヴァーディクトデイ。彼女も普段はあぁじゃないんだが』」
「い、『いえ。俺の方こそすいません』」
「『あなたが謝る必要はない。むしろ、あぁはなっているがここ最近の彼女の調子は絶好調そのものだ。あなたが来てからというもの、ね。次のレースもきっと、盤石の走りをしてくれるだろう』」
ナサニエルさんがエネさんを見つめる目はとても優しい。娘を見るような目つきだ。余程気に入ってるんだな、エネさんのこと。
「『さて、話が横道に逸れてしまったね。それでは、早速トレーニングをしようか』」
「『はい!今日もよろしくお願いします!』」
今日も頑張るぞ!
イギリスでの日々は驚くほど早く過ぎていった。
「『ヴァーディ様、こちらには親しい相手同士でする挨拶がございますの。よろしければ私と実践してみませんか?』」
「『へ~、そんな挨拶があるんですね。どういうのなんです?』」
「『えぇ、それは……コショコショ』」
「……『それちょっと恥ずいですね。でもエネさんと仲良くなるため!頑張ります!』」
「ウフフ……」
エネさんに色々と教わったり。
「『ナサニエルさん!どうですか今のタイム!?』」
「『良い感じに伸びてきているね。だが、納得はしていないだろう?』」
「……『はい。俺はまだまだやれます!』」
「『その調子だ。頑張りたまえヴァーディクトデイ』」
「ウオオオォォォォ!!」
ナサニエルさんにトレーニングを見てもらったり。
「『やぁナサニエル!遊びに来たよ!』」
「……『暇を持て余してないで自分とこのチームに戻れフランケル』」
「え~?『水臭いこと言うなよ?オレとお前の仲だろ?』」
「『笑わせるな。とっとと自分とこのチームに戻れ!』」
「『おー怖い怖い。じゃあねヴァーディ!』」
……時折フランケルさんが乱入してきたり。
「おー!『アンタ、名前は?』」
「『俺か?俺はヴァーディクトデイ。あなたは?』」
「『バーイード、バーイードだ!なんでかな?アンタとは波長が合いそうな気がするんだよ!』」
「『バー君!?いや、バーちゃんか……?』」
「『どっちでもいーよ。そんなことより私と遊ぼうぜ!』」
「『唐突だな。ま、今日はトレーニング休みだからいいぜ!』」
こっちでバー君ことバーイード、バーちゃんと会ったり。
「『ふっふ~ん!今日こそわたしちゃんの手でアイツのはなを「『ほ~ん?俺になにをしようとしてるんだ?バティ』」決まってんだろ!ヴァーディクトデイとかいうなまいきな……や、つ……に』」
「『どうやら、またお仕置きされたいようだな?』」
「ひ、ひぃ~ん!『ごめんなさ~い!』」
「『待ちやがれバティ!』」
「『ヴァーディお姉さま……きょうもすてきです……!』」
バティやベルと親交を深めたりしていた。後はこっちでもどこか他人のような気がしないウマ娘達と会ったりしていた。
そんなイギリスでの日々が過ぎていって──ついに日本へと帰る日がやってきた。
「『嫌ですわぁぁぁぁぁ!行かないでくださいヴァーディ様ぁぁぁぁぁ!』」
脚元には必死に俺にしがみついているエネさんの姿。あなたいつものお嬢様然とした姿はどこいったんですか?
「『ヴァーディから離れなさいエネイブル。すまないねヴァーディ、エネイブルが迷惑をかける』」
「スン、スン……」
「『まぁ、そんな気はしてたので。なので』」
俺は鞄から例の物を取り出す。こっちを離れる数日前から執事さん達経由で作ってもらった物だ。俺が取り出した物を見て、エネさんは目を輝かせていた。
「そ、『それは!?』」
「『俺のぱかプチ。作ってもらいました。ちょっと恥ずかしかったですけど……』」
俺のぱかプチをエネさんに手渡す。エネさんはそれはもう嬉しそうにしていた。
「『家宝にしますわ!』」
「『いや、そこまでしていただかなくても』」
聞いてないし。エネさんは嬉しそうに俺のぱかプチを抱きしめている。
その一部始終を呆れた目で見ながらもナサニエルさんが俺へと向き直る。
「『さて、とても楽しい時間だったよヴァーディ。向こうでのあなたの活躍を耳にする日を楽しみにしている』」
「『はい!向こうでも頑張ります!』」
「『良い返事だ。それでは、向こうでも元気で。たまには連絡してくれると嬉しいよ』」
「『はい!絶対に連絡します!』」
ナサニエルさんに今までの感謝を込めて頭を下げる。そしてイギリスのみんなと別れて、飛行機へと搭乗した。
飛行機でフライトの時間を待っている間、1人考える。俺の成長がどうして阻害されているのか?思うような出力が得られない理由を。考えて考えて……結論に至る。
「同じ轍は踏まねぇ」
俺のやるべきことは。
「俺の目的は最初から変わらない」
俺がやらなきゃいけないことは。
「俺を蝕む
帰ってからすべきことは……まずは海藤さんに報告。プボちゃん達にお土産を渡したり色々した後は……ひたすらに身体を鍛える。
「疲労なんてもんで邪魔させるかよ……」
あんな思いは二度とごめんだ。絶対に、絶対に!同じ過ちは繰り返さない……!
「必ず、必ず勝ってやる……!」
神様は言っていた。運命を変えるには、それ相応の強い意志が必要だと。
上等だ。運命なんざ捻じ曲げてやる。あのジャパンカップに出走できないなんて運命……絶対に覆す!
「絶対にだ」
1人そう呟いて。俺と乗客を乗せた飛行機は日本へと旅立った。
「とりあえず日本に着くまで寝るか」
CAさんから毛布を借りて寝ることにした。旅は長いわけだし、少しでも寝ておかないとな。
(それにしても、プボちゃんやジェネ先輩達にも会うのが楽しみだな~!)
なんだかんだイギリスの滞在も結構長かったし、通話で話したりしているとはいえ少しばかり寂しさもあった。
(後はエフもそうだし、母ちゃんや父ちゃんにも会わないとな。日本に戻ったらまずは実家に帰ることから……)
日本に帰った後のことを考えながら。俺は深い眠りについた。
決意を胸に日本に戻るヴァーディ。