その出会いは、偶然だった。
「あは、初めましてだね?」
「……あぁ、初めましてだ」
目の前にいるウマ娘に会ったことはない。今日が初対面だ。だけどな……俺の心が、魂が、本能が。
見間違えるはずがない特徴的な白い流星。それがなかったにしても、コイツは確かにそうだと、俺が焦がれているアイツだと報せている。
「初めましてだなコントレイル」
「初めましてヴァーディ君。会いたかったよ」
笑みを浮かべる目の前のコントレイル。ハハ、ダメだな……俺も自然と口角が吊り上がっちまう。これほど嬉しいことがあるか?
俺が焦がれていた相手が、俺が勝ちたいと思った相手が、俺が届かなかった相手が。目の前にいるんだから。
……話は少し前にさかのぼる。
イギリスのトレセン学園への留学から帰ってきて数日。まだ時差ボケが治らない俺はずっとあくびを噛み殺していた。
「くぁ~……ねむ」
「まだ時差ボケが治らないんだね、ヴァーディ君」
「そうなんだよプボちゃん……そのせいでさっきの授業は先生に怒られたしな」
「あの時のオメーは傑作だったな。プププ」
「笑ってんじゃねぇよラーシー!」
時差ボケが治らないせいでさっきの授業中舟を漕いでいた俺は先生から当てられて。どこのことだか分からなかったから素直に分かりませんと伝えた。そしたら先生からやんわりと怒られたのだ。
「留学の時差ボケのせいもあるでしょうけど、授業はしっかりと聞くように」
教室からは笑いの声。うん、恥ずかしかったわ。
「しかもオメー、当てられた時すげぇ声出してたもんな?ひゃい!?ってよ!アッハハハハ!」
「うっせぇバーカ!しょうがねぇだろまだ時差ボケが治らねぇんだから!」
「ほらほら、シオン君もヴァーディ君をそんなに揶揄っちゃダメだよ?ヴァーディ君本当に困ってるんだから」
「でもヴァーディ辛そうだな。早く治るといいな!」
「あ~……パンちゃんとプボちゃんの優しさが沁みる~」
本当に良い友達を持ったもんだ。
そんな俺達はカフェテリアで食事を終えた後。授業までまだ時間があるし暇でも潰そうということで廊下で話している。教室で話さないのはなんとなくだ。そういう気分の日だってある。
「んで?イギリス留学でなんか見えてきたのかよ?」
「あぁ。今後のタメになったよ」
「……良かったね、ヴァーディ君。ぼくは寮で1人寂しく過ごしてたよ」
「あぁ!?す、すまんプボちゃん!そんなつもりはなかったんだ!」
目に見えてプボちゃんがしょんぼりしとる!?これはまずい……と思っていたら。
「……プ!アハハ!冗談だよヴァーディ君!」
プボちゃんは唐突に笑い出した。つーかラーシーも笑ってやがる。……もしかして。
「だ、騙したな!?」
「アハハ!寂しかったのは本当だけど、留学だって分かってるからね。そこまで責める気はないよ」
「まーそんなこったろうと思ってたぜボンド」
「ヴァーディめっちゃ慌ててたな!」
「そりゃ慌てるだろパンちゃん!」
「「「あははは!」」」
いや~いいね、こういう会話!トレセン学園に帰ってきた!って感じがするわ!ちなみに買ってきたお土産はみんな喜んでくれた。
そんな感じで和気藹々と話している中──そいつは突然現れた。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
「うん?どう、し……た……」
俺が呼ばれたのか?と思って振り返ると、1人のウマ娘が立っていた。
だがそいつは……一目見て感じた。
「あれ?コンちゃんだ。どうしたの?」
プボちゃんのいつもの声。パンちゃんもラーシーも、突然話しかけてきたウマ娘に怪訝な表情をしている。いや、パンちゃんは一緒に話したいのか?とか思ってそうだが。
「ねぇ君、ヴァーディクトデイ君……だよね?」
「……あぁ、そうだが」
やべぇな、胸の高鳴りが抑えきれずにぶっきらぼうに答えてしまった。ラーシー達も驚いている。だけどな……許してくれ。これはもう、仕方のねぇことなんだ。
青みがかった黒色の髪を外ハネのショートカットにしているウマ娘──コントレイルは。俺だと確認して。
「──あはぁ♥」
ニタリと、笑った。
そして現在。俺とコントレイルは向かい合って立っている。あぁ、やべぇな。まさかこんなところで会うなんてな。
「それで、俺に何の用だ?」
「う~ん……別にこれといった用はないんだよね。ただ偶然、偶然見かけたから声をかけただけ」
「ほう?そりゃ素敵な偶然もあったもんだ……お前に会えるだなんてな」
「へぇ?ヴァーディ君は僕と会えて嬉しいんだ?」
コントレイルの笑みに対して、俺も笑顔で返す。
「
もっとも俺の笑顔は……攻撃的な、獲物を前にした笑みだが。
コントレイルは何かに堪えているようだが……まぁいい。
「なんか変な雰囲気?だな。2人ともどーしたんだ?」
「あんま首ツッコまねぇ方がいいぞパンサラッサ……こんなヴァーディは初めて見るな」
「ヴァーディ君……」
外野も随分と集まったもんだ。気にならねぇからいいが。
しばらくしてコントレイルは、なにかを思い出したかのように話を切り出す。
「そうそうヴァーディ君。随分前のことだけど、新入生の模擬レース見たよ」
「……へぇ?お前もあの場にいたんだな?」
「うん。だって僕も出走してたからね。君の走りを見てたよ?」
「マジか。そりゃ残念だった……俺はお前に気づかなかったからな。一生の不覚だ」
どうやら俺が大分前に出走していた新入生の模擬レースにコントレイルも出走していたらしい。コントレイルの走りを見れなかったなんて……かなり悔しいな。
「ヴァーディ君の走り……凄く綺麗だった。僕、思わず見惚れちゃったよ」
「へぇ、見惚れるほど美しい走りだったか……そう言われて悪い気はしねぇな。特に、お前に言われるのは」
「あはは、本当のことだもん。僕の心はあの走りで奪われちゃったから」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。こちとらお前の走りが見れなくてすげぇ悔しい思いをしてんのによ?」
「心配しなくても、これからたぁくさん見せてあげるよ?」
お互いに会話が弾む。ハハ、それにしても……さっきから衝動が抑えきれねぇわ。コイツと今すぐ走りたいという気持ちに駆られる。だが、そうはいかない。双方のトレーナー、というよりは海藤さんがダメって言うだろうからな。
そんな中、コントレイルは俺へと近づいてきて──その顔を俺に近づけてきた。
「ねぇヴァーディ君?」
「……なんだ?」
コントレイルは自分の手を俺の手に絡める。さながら恋人つなぎのように。俺達の視線は交わったまま。お互いの目を真っ直ぐに見つめている。
「僕はね?君に運命を感じたんだ」
「……」
「小さい頃からずっと夢を見ていた……
それはコントレイルの夢の話。寂しそうに語るコントレイルの表情は、徐々に恍惚としたものに変わっていった。
「でもね?あの時君の走りを見た時──衝撃が走ったんだ。まるで夢の中のウマ娘のように走る君を見て……僕の心は一瞬で奪われた!その時直感したんだ!僕が夢で見ていたウマ娘なんだって!」
「……」
「君こそが!僕の運命の相手なんだって!」
へぇ、成程ねぇ?
「ずっとずっと、心が!魂が!望んでいた!君と出会うことを!」
「そこまで思ってくれているとは……嬉しいねぇ」
「当然だよヴァーディ君。君はまさに、僕を変えてくれたんだ」
コントレイルからすれば、どうやら俺は運命の相手らしい。
(……ハハ、成程なぁ)
柄にもなくテンションが上がるじゃねぇか。じゃあ、分からせてやらねぇとな。
「……コントレイル。俺のことを運命の相手だといったな?」
「うん、そうだよ。君は僕の運命の相手……ずっとずっと、待ち焦がれていた相手だ」
コントレイルの手を、握り返す。
「
「ッへぇ?」
「お前を今日一目見た時からずっとだ。俺の心が、魂が叫ぶんだよ……目の前にいるコイツが、お前が望んでいた相手だってな」
さっきからヤバいんだよこちとら。
「俺からしても、お前は運命の相手だ。決して届かない、絶対に追いつけない相手……一目見て直感した。それが
「……あはぁ♥」
「ずっとずっと待ち望んでいた!お前と出会うことを!お前と走ることを、ずっとずっと!俺は望んでいた!」
俺とコントレイル。お互いの目を真っ直ぐに見つめ合う。思わず笑みを浮かべそうになるっていうか、多分笑顔だ。コントレイルは笑っているし、俺も多分笑ってる。
「あぁ、コントレイル……」
「ねぇ、ヴァーディ君……」
「俺は、俺の走りで──」
「僕は、僕の走りで──」
「「お前(君)を滅茶苦茶(ぐちゃぐちゃ)にしたい……!」」
ハハハ!そこまで一緒なのかよ!
「俺の走りを、お前に刻んでやるよ……コントレイル」
「お互い様だよ?僕の走りを、君に刻んであげる……ヴァーディ君」
お互いに見つめ合う状況の中、チャイムの音が鳴った。……昼休みも終わりか。
俺とコントレイルはお互いに手を離す。最後に、一言ずつ。
「また会おうね?ヴァーディ君」
「あぁ、また会おう……コントレイル」
そして、別れた。
……さ~て、俺も教室に帰る「「……」」あの、ラーシーもプボちゃんもなんでそんなどん引いた表情で見てるんですかね?
「ヴァーディとコントレイル、仲良いんだな!」
パンちゃんは変わらず、と。
「あー……なんていうかオメー、もうちょっと場所を選んだ方が良いぞ?うん」
「場所?……何か問題でもあったか?」
「嘘だろオメー」
「ぼくの中の何かが警鐘を鳴らしてる……もしかして、これがまずいこと?」
プボちゃんは小さい声でなんか言ってるし。聞き取れないから諦めるけど。ラーシーもラーシーでマジかよお前みたいな目で見ている。
……うん?冷静に考えて、今は昼休みでここは廊下。沢山の生徒がいるわけだ。つまりあの一部始終が見られていたわけで……。
「……俺、とんでもないことやったな」
「ようやく気付いたかオメー。にしては慌ててねーが」
「知ってるか?ラーシー。人ってのはあまりにも大きすぎるやらかしに気づいた時逆に冷静になるんだ」
「あ~なんか分かるわそれ」
ラーシーはうんうん頷いている。やっぱコイツとは気が合うわ。
その後いたたまれない空気のまま俺達は教室に帰った。そして噂は瞬く間に波及していき。
「ヴァーディ、昼休みに不埒な真似をしたそうね?」
「人聞きが悪いですねドンナ先輩!?ちょっと話してただけですって!」
「人と話すのに恋人つなぎをする必要性はあるのかしら?」
「……ないです」
「今度から気をつけてね~ヴァーディ。それにしてもコンちゃんが嬉しそうでなにより!」
生徒会室でドンナ姉さんに怒られたりした。後はジェネ先輩にも詰問されたし。
「ヴァーディ!お昼休みでの噂、本当なの!?」
「……ジジツデゴザイマス」
「~~~!わたしとも!わたしとも恋人つなぎして!」
「ハイ、ワカリマシタ」
「ヴァーディが機械みたいになってる」
「本人もやらかしたって思ってるんじゃない?知らんけど」
「でもでも~?かなり情熱的だった「ギロリ!」おーこわこわ。クロノさんそんな目で睨まないで。本当に怖いから」
「……次から気をつけてね、ヴァーディ」
「はい」
チームでもその話題でしばらくの間からかわれた。トホホ……。
昼休み、廊下、たくさんのウマ娘。話題にならないはずがなく……。