コントレイルとの邂逅から色々なことがあった。
まずはこの世界でもアイ先輩に会ったこと。鹿毛の癖の多い髪をポニーテールに纏めている、瞳が特徴的だった。身長はジェネ先輩よりも高い。
「あら、奇遇ねヴァーディ。今朝もトレーニングかしら?」
「あ、おはようございますアイ先輩。まぁそうですけど……」
「奇遇ね。私も今から走り込みなの。一緒に走らない?」
「いや、良いですけど……なんで毎回毎回俺の起きる時間とピンポイントで被るんです?」
この方毎回俺が朝練する時間に必ず現れるんだけど。最早奇遇どころじゃすまないし待ち伏せしている可能性すらある。
「なにを言っているのかしら?そんなまさか私がヴァーディを毎朝待ち伏せした挙句あなたが朝練を始める時間にさも偶然を装って会いに来ているような言い方はやめて頂戴。自意識過剰というものよ」
「いや別にそこまでは言ってませんけど」
「それで?一緒にトレーニングするのかしら?するのかしら?」
「一択じゃないですかそれ……いや、まぁご一緒させてもらいますけど」
アイ先輩は無茶苦茶強いからな。参考になる。アイ先輩と朝のトレーニング。これも日課になりつつあった。
チームでは基本的にジェネ先輩の後をついて回っている。
「さぁヴァーディ!今日もビシバシいくよ!」
「はい!よろしくお願いしますジェネ先輩!」
「さぁ!わたしについてきてね~!」
イギリス留学の時にやっていたトレーニングを中心にジェネ先輩とのトレーニング。たま~に他のチームの方とトレーニング。少しずつ積み重ねていってる。
同室のプボちゃんとは仲良くやっている。
「ヴァーディ君今日も疲れたね~」
「おープボちゃん。プボちゃん結局カノープス入ったんだっけ?」
「そうだよ~。毎日毎日先輩達に鍛えてもらってる」
「そうかそうか!お互い、デビューが楽しみだな!」
「そうだね~……ヴァーディ君、あれから普通だな。でも油断はできない……ヴァーディ君が笑顔でいられるために頑張らないと」
ただ、プボちゃんは俺を微妙な表情で見ていて?
「どうしたんだよプボちゃん。そんな目で俺を見て」
「いや……前から言うか言うまいか悩んでたけどさ。ヴァーディ君その格好はなに?」
「俺の格好って……このシャツとショーパンのことか?」
プボちゃんは頷く。この格好……何か問題でもあるのか?
「普通に過ごしやすいけど……なんか問題でもある?」
「問題大有りだよ!」
「うわぁっ!?き、急に扉開けて入ってこないでくださいよ!ビックリするなぁ!」
ジェネ先輩が俺達の部屋に入ってきたんだけど!マジでびっくりした!プボちゃんも目を丸くしてるし!
「ヴァーディ!前から物申したかったんだけど……その格好は大分おかしいよ!」
「えぇ?……そうですかね?」
「そうだよヴァーディ!シャツなんか見てよ!ヴァーディの胸に引っ張られておへそまで見えちゃってるじゃん!」
「別にお腹冷やして体調崩したこともないし良いかなって……」
「そんな格好して……!わたしを誘ってるの!?」
「何言ってるんですかジェネ先輩」
何に誘ってるんですかね本当に。その後同室の先輩に引っ張られてジェネ先輩は連れて行かれた。何だったんだ……。
「……まぁともかく。寝間着はもっておいて損はないと思うけど。どう思う?ヴァーディ君」
「えぇ~?この格好で困らないし良いよ別に」
「他の子が困ってるんだよなぁ……」
小さく呟いたけどその呟きは聞こえなかった。なんて言われたんだ?
そしてさらに月日は経って。妹であるエフとペリがトレセン学園に入学してきた。そんな2人はというと。
「今日からアルクトスでお世話になります。エフフォーリアです……よ、よろしくお願いします」
「私ペリファーニアです!エフお姉ちゃんとヴァーディお姉ちゃんの妹です!よろしくお願いしまーす!」
緊張でガチガチのエフと対照的にハキハキと自己紹介するペリ。この2人も俺と同じアルクトスに入った!いや~、こりゃかなり嬉しいな!
「ヴァーディの妹ちゃんか!へ~」
「可愛い~!ねぇねぇ、なんか目標とかある?」
「も、目標……ヴァーディ姉さんのようなウマ娘になりたい、です」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇかエフ~!このこの~!」
「く、苦しいよ姉さん」
アルクトスにも新メンバーが入ってきて。順風満帆な日々を送って……ついにやってきた。
「それじゃあヴァーディ、頑張っておいで」
「あぁ、行ってくるぜバディ」
俺の、メイクデビューが。
小倉レース場のメイクデビュー。芝の1200mで開催されるこのレースにとあるウマ娘が出走していた。
《やってきました小倉レース場メイクデビュー!ここで今日も新たなスターが誕生しようとしています。まずは3番人気の紹介からいきましょう。3番人気は3枠3番のオークレイコートです!》
《綺麗に3が並びましたね。運命的な何かを感じます》
《2番人気の紹介といきましょう。2番人気は2枠2番のベッロコルサ!こちらも2が並んでおります!》
《良い仕上がり。これは好走が期待できそうです》
《そして1番人気は勿論このウマ娘!8枠12番のヴァーディクトデイ!黒い髪を靡かせてウォーミングアップをしています!》
《生徒会の2人が注目しているウマ娘。すでに海外への留学も経験しているのだとか。これは期待できますよ!》
ヴァーディクトデイ。トレセン学園の生徒会長であるディープインパクトと副会長であるジェンティルドンナが注目しているということで、一気に話題になったウマ娘である。
「注目してる子?う~ん、一番はコンちゃん、コントレイル。でもそれと同じくらい注目してるのがヴァーディかな?」
そんな言葉があったものだからヴァーディクトデイはレース前からかなり注目を浴びていた。
「凄いな……これは期待できるぞ」
「どんなレース見せてくれるんだろうな?」
「確か、ディープインパクトが自分と似てるって言ってたんでしょ?どういうことなんだろう?」
観客の中にはアルクトスのメンバーも集まっている。
「頑張って、姉さん」
「頑張れお姉ちゃーん!」
エフフォーリアとペリファーニアの応援に気づいて、ウォーミングアップ中のヴァーディクトデイは2人がいる場所に手を振る。そして。
「頑張るのよ~!ヴァーディー!」
「頑張れ~!ヴァーディ!」
ヴァーディクトデイの両親も来ていた。そんな中、各ウマ娘がゲートへと入る。小倉レース場メイクデビューが始まろうとしていた。
《各ウマ娘がゲートへと入っていきます。小倉レース場メイクデビュー、芝の1200m、天候は晴れ芝の状態は良バ場の発表です。今最後のウマ娘ヴァーディクトデイがゲートに収まりました。新たなスターが生まれるこの瞬間、メイクデビューが今っ!スタートです!カリニートが好スタートを切りました!1番人気ヴァーディクトデイはやや出遅れたか?おぉっと!これはグランヴェルソー出遅れている!1枠1番のグランヴェルソー大きな出遅れ!》
《いえ、そもそもゲートから出たかと思えば動かなくなりましたね。何かアクシデントがあったのでしょうか?》
《最初から何かが起きている!1枠1番のグランヴェルソーがまさかのレース中止!全く動いておりません!こうしている間にもレースは続いております!まずハナを切ったのはオークレイコート!内からスーッと上がっていきます3番のオークレイコート。続いて5番のバトルレイカ、10番のカリニートと続きます。ヴァーディクトデイは最後方からのスタート》
《好位置につけたいところ。しかしヴァーディクトデイに焦りは見られませんね》
1人レース中止になる事態が起きたがレースは始まった。ヴァーディクトデイは最後方からのスタート。
「出遅れか?いや、それよりも……」
「あの子、パドックの子と同じ?それにしては……なんというか……」
「全然雰囲気が違う……」
だがレースを見に来たファンにとってはメイクデビューで出遅れたことよりも、
パドックでの彼女は笑顔を見せていた。応援の言葉を飛ばすファンに対してサービスを行ったり、レース前には家族に笑顔で手を振っていた彼女の姿を見ていた。だからこそ戸惑う。今の彼女は──別人と言われても納得するレベルだから。
アルクトスのメンバーはまたか、といったような表情。
「併走と一緒ですね。まるで雰囲気が違う」
「……あぁ、そうだね」
「ヴァーディ……」
心配そうにヴァーディクトデイの名前を呟くクロノジェネシス。
ヴァーディクトデイは最後方で機会を窺う。
《第3コーナーから第4コーナーへと向かいます!先頭はオークレイコート!オークレイコートを虎視眈々と狙う形でカリニートが続きます!カリニートが続いていますが、ここでヴァーディクトデイが上がってきた!最後方からヴァーディクトデイが捲って上がってくる!第4コーナー終盤、ヴァーディクトデイが先頭へとその牙を突き立てようと上がってきた!》
このレースを見に来ていたディープインパクトとジェンティルドンナは冷静にレースを俯瞰していた。
「う~ん、やっぱり凄いね。雰囲気が別物だ」
「……それに、実力も頭1つどころか2つも3つも飛び抜けていますわ。ここから負ける要素はほぼないかと」
「そうだねぇ……ただ、それ以上に」
ディープインパクトは目を細めて呟く。
「ヴァーディ……
「……分かりませんわ。ただ、あのようなヴァーディは見たことがありません」
ヴァーディクトデイは大外から捲って上がってくる。最後の直線に入る頃にはすでに先頭に並び立とうとしていた。そして、レースを観戦しに来たファンは目撃することになる。
「おい!あの走りって!?」
「あ、あぁ!間違いねぇ……あの、
「飛んでいるみたいなあの走り!アレは──
最後の直線で飛んでいるように走るヴァーディクトデイの姿を。
《最後の直線に入って先頭はオークレイコートしかし!大外からヴァーディクトデイが来た!ヴァーディクトデイが並びかけようとして……躱した躱した!ヴァーディクトデイがオークレイコートを躱した!そして……こ、これはぁ!?》
《あ、あの走りは!?でぃ、ディープインパクト!?》
《な……なんということだ!小倉レース場でヴァーディクトデイが飛んでいる!飛ぶような末脚ヴァーディクトデイ!他のウマ娘達を置き去りにしてヴァーディクトデイが飛んでいる!先頭はヴァーディクトデイ!オークレイコートとカリニートが必死に追走するがヴァーディクトデイはそれ以上の末脚で差を広げる!その差は4バ身!5バ身!まだ開く!まだ開く!残り100を切りました!これはもう決まりました!》
ここから番狂わせは起きず。ヴァーディクトデイはメイクデビューを圧倒的な強さで制した。
《サンビーストも伸びてきたがこれはもう決まった!ヴァーディクトデイ圧勝!ヴァーディクトデイが小倉レース場メイクデビューを制した!2着との差は大差圧勝!ヴァーディクトデイが圧倒的な強さでメイクデビューを制しました!これは強い!そして何よりも!》
《えぇ!まるでディープインパクトのような走り……!これからの彼女のレースが非常に楽しみですね!》
ファンは一瞬呆然とする。だが、すぐに我に返ってヴァーディクトデイを称賛した。
「すげぇレースだったぞ~!ヴァーディクトデイ~!」
「すげぇ……マジでスゲェ!次が楽しみだ!」
「私もう彼女のファンになっちゃった……!」
「分かる!あの冷たい眼差しで……!」
「ゴメン、それは分かんない」
「あれ~?」
ヴァーディクトデイはというと。
「……」
見る者を震え上がらせるくらいに冷たい目をしていた。ファンはそんなヴァーディクトデイを見て、一瞬鳥肌を立たせる。
「ッ、す、凄いな……普通もっと喜ぶもんだと思うけど」
「あぁ……感情の起伏が少ない。レース前の様子が嘘みたいだ」
「き、機械みたい……」
しかし、それも少しの間だけのこと。ヴァーディクトデイは顔を上げたかと思うと。
「応援ッ、ありがとな~!」
ファンに向かって笑顔で手を振っていた。その様子に、ファンはハートを撃ち抜かれる。
「グハァッ!?」
「や、ヤッバ……!反則でしょあんなん!」
「さっきまで無表情だったのに今度はとても綺麗な笑顔……!推せるッ!」
「早くグッズを販売してくれ~!」
「いや、気が早すぎっしょ」
ファンはさらに声援を飛ばす。その中には勿論、ヴァーディクトデイの家族も含まれていた。特に母親の方はかなりテンションが上がっており、周りの人から奇異の目で見られていた。
ヴァーディクトデイ、メイクデビュー勝利。そしてこのレース以降、彼女には2つの異名がつけられる。
1つはその容姿と飛ぶような末脚から【漆黒の撃墜王】。もう一つは──レースにおいて感情を出さない機械のように他のウマ娘を瞬く間に躱していく様子から、【冷酷無慈悲なレースマシーン】と呼ばれるようになった。
メイクデビュー大差圧勝。競走馬編と違ってこっちでは1番人気。やはりディープとドンナのお墨付きというのがデカいですね。後アニメウマ娘でジェンティルドンナの登場フラグ立ったの嬉しすぎて小躍りしました。