飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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久しぶりに。


競走馬編 騎手達へインタビュー

 

 

「今日はお時間をいただき、ありがとうございます。みなさん」

 

 

 とある一室。記者──新橋の前には3人の騎手。その全員が、著名な騎手だ。

 

 

「大丈夫ですよ……で、このメンバーが集められたということは」

 

 

 クロノジェネシスの主戦騎手、滝村。

 

 

「ま~十中八九ヴァーディですよね」

 

 

 かつてオルフェーヴルに騎乗していた癖馬マイスター、金添。

 

 

「だろうな。丁度引退式も終わって結構経ったことだし」

 

 

 ディープインパクトの主戦騎手を務めた、鷹。この3人に新橋は取材をしようとしていた。その題材は──つい数ヶ月前に引退式が行われたヴァーディクトデイという競走馬について。

 新橋はヴァーディクトデイという馬に会って以降、ヴァーディクトデイを管理している海藤厩舎へと良く足を運ぶようになった。その熱の入りようはすさまじく、ヴァーディクトデイの特集記事を任されるぐらいには。

 

 

「あ~……あの引退式は凄かったですね色々と

 

 

「「「(この2人が)鞍上を譲らないのが悪い」」」

 

 

 はっきりと口をそろえる滝村達。そう、この3人……ヴァーディクトデイの引退式の際に全員集まったのだがそこでちょっとしたいざこざが起きた。それは──ヴァーディクトデイが最後に走る時に誰を乗せるか?という問題である。

 

 

「ここは最初に主戦騎手だった俺でしょうが!」

 

 

「クロノジェネシス選んだくせになにいってんだ!ここは日本の主戦騎手である僕でしょ!」

 

 

「は?ラストランを共にした俺だろどう考えても」

 

 

 この3人、全員が自分が乗る!と譲らず。最終的には最後に主戦騎手を務めていた鷹騎手が騎乗するということで決着がついた……その決着方法も海藤さんが提案したじゃんけんだったのだが。

 

 

「これ以上揉めるぐらいだったらもうじゃんけんで決めりゃいいでしょ!」

 

 

 という鶴の一声。海藤さんと馬主である秋畑さん曰く、ヴァーディクトデイも心なしか呆れたような目をしていたらしい。

 

 

「クッソ……!あの時、あの時パーを出していれば……!」

 

 

「フッ、俺の勝ちだったようだな」

 

 

 得意げに2人を見る鷹。苦笑いしそうになるが、新橋は早速本題へと入る。

 

 

「それじゃあ、みなさんにはヴァーディクトデイという馬について色々と教えていただきたく……大丈夫ですか?」

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

「僕も構わないです」

 

 

「……答えられる範囲なら」

 

 

 承諾が貰えたということで、早速新橋は取材を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Qみなさんが思うヴァーディクトデイという馬は?

 

滝村「賢い馬でしたね。かなり利口な馬。サンデーサイレンスの2×3って聞いた時には気性は大丈夫なのだろうか?って思ったけど。実際に会ってみるとかなり人懐っこい馬だった。こっちの言葉を理解しているような、人間味を感じるような馬だった」

 

 

金添「大体滝村さんと一緒だね。かなり利口な馬だった。後は宝塚記念からずっと日本で主戦騎手を任せてもらったんだけど、こっちの想像をどんどん超えていく馬だったね。こっちが10の期待をすると、20とか、30とか。そういったポテンシャルを発揮してくれる。凄い馬だったね」

 

 

鷹「金添騎手の後、主に海外で騎乗させてもらったけど凄く乗りやすい馬だった。凱旋門賞がぶっつけ本番のコンビだったのに、馬から不安とかそういったものも感じられなかった。結構肝が据わっていると思いますよ。後は2人と一緒かな?凄く利口だった。普通に乗る分には癖がないって感じ。誰が乗っても一定の力を出せる」

 

 

Qヴァーディクトデイの強さは?

 

 

滝村「やっぱり身体のバネかな?凄く身体が柔らかった。全身のバネを余すことなく使っている感じ。どこまでも速くなるんじゃないかって思わせるような凄さがあった」

 

 

金添「底が知れない。さっきの期待の話になるけど、こっちの想像をずっと超えていく馬だったから。僕が最後に騎乗した日経新春杯も本気だったかは怪しいしね。後、先頭に立っても気を抜かないんですよ。それはかなり強い点かな。後は馬場の状態に左右されないっていうのも強い点。どちらかといえば重馬場が得意だけど、良馬場でも凄い走りをするからね」

 

 

鷹「身体のバネ、全身のバネを余すことなく使って走るところ。本当にディープインパクトみたいに走るんだ。浮いてる時間を少なくして、前に飛ぶって感じのフォーム。金添騎手も言ってるけど、彼は本当に底が知れない馬だった。海外の騎乗も、全部本気だったかと言われたら疑問が出る。それぐらい底が知れない」

 

 

Q誰が乗っても一定の力を出せるとは?

 

 

滝村「まぁそうじゃないかな。実際誰が乗っても勝てると思う。それぐらいのポテンシャルがあるし、特に5歳時なんか本当に隙が無かったから」

 

 

金添「滝村騎手に同意。ただその分、力を引き出すのが凄く難しい馬だと思う。どこが底か分からないし」

 

 

鷹「誰が乗っても勝てるけど、ポテンシャルの全てを引き出すとなったら途端に難しくなるね。いかにして本気を出させるか、それが乗る時に大事なことかな」

 

 

Q思い出深いエピソードは?

 

 

滝村「やっぱり、乗り替わりの時だね。結果的にクロノジェネシスを選んだ形になったけど、わがままを言うならずっとヴァーディクトデイに騎乗していたかった。まぁ、クロノジェネシスを選んだことを後悔しているか?と言われたら全然そんなことはない。結局は、自分の力不足でヴァーディクトデイを降りたわけだから。その日以来、今まで以上に騎乗技術を磨こうって思えた」

 

 

金添「秋の天皇賞だね。ヴァーディクトデイはまだG1未勝利、僕も天皇賞を勝った経験はなかった。それに当時の天皇賞はアーモンドアイを筆頭に凄く強いメンバーが集まってたから。正直に打ち明けると不安だったんですよ。だけど、ヴァーディクトデイは見事に勝ってくれた。初の天皇賞勝利よりもこの子にG1を取らせてあげられたことが本当に嬉しかった。今でも記憶に残ってる」

 

 

鷹「1回目の凱旋門賞。今まで何度も挑戦してきたけど勝てなかったし、ディープインパクトの時は、本当に後悔が残るレースだった。そんな時にヴァーディクトデイと出会って、あの時と同じ轍は踏むもんかとヴァーディクトデイが一番得意な形でレースを進めた。ゴールした時はもう頭が真っ白になって。凱旋門賞を勝ったんだぞ!って思ったら自然と涙が流れてましたね(笑)」

 

 

Q歳上の牝馬にやたら絡まれる件については?

 

 

滝村「分かんない。クロノジェネシスなんかが良く仲裁に入っていたけど、不思議だよね」

 

 

金添「分からないんですよねぇ。なんかそういうフェロモンでも出してるんじゃないですか?(笑)」

 

 

鷹「正直言って分からない。いや、本当に分からない。いっつも絡まれてるんですよね。なんででしょうね?」

 

 

Qコントレイルとヴァーディクトデイの関係について

 

 

滝村「どっちも凄い意識してるかなって。皐月賞で初対面でしたけど、少しの間向かい合ってましたからね。何か感じるものがあったんだと思います」

 

 

金添「コントレイルがいるといつも以上に気合を入れている気がしましたね。それだけ意識している相手でしょうし。だからこそ、ジャパンカップは本当に悔しかったんだろうなと思います」

 

 

鷹「特別なライバル関係、だと思います。いかんせん俺がコントレイルとの対戦の時に騎乗していないのでなんとも。ただ、ヴァーディクトデイはコントレイルを強く意識していた。これは確かなことです」

 

 

Qヴァーディクトデイの性格について一言

 

 

滝村「良い子かな?凄く真面目な感じはする。ただ優等生気質かって言われるとちょっと微妙かな?なんて言えばいいんだろう?気づいたら輪の中心にいるような、そんな感じの性格だと思う」

 

 

金添「明るい良い子だと思いますね。真面目かって言われるとちょっと微妙な気がしますけど。後割と甘えたがりな一面もあるかなって。ついでに言えばちょっとS気質があるかもしれない(笑)」

 

 

鷹「金添騎手の言う通り、ちょっとSっ気はあるかもしれない(笑)。スタート得意で弱点も克服したのに、最後方からのレースを好んだからね。多分、後ろから他の馬を追い抜くのが癖になったんじゃないかな(笑)。俺はお前らより速いぞって感じで」

 

 

滝村・金添「「確かに(笑)」」

 

 

Qヴァーディクトデイのベストレースは?

 

 

滝村「KGVI&QESかな?あの時が一番本気を出していたと思う。思い出という意味なら最初の宝塚記念。あの時は凄くビックリしたから」

 

 

金添「同じく。レース映像を見て凄く驚いたよ。え、一頭だけ別次元過ぎない!?って思いましたから。思い出的な意味なら秋の天皇賞かな」

 

 

鷹「強さって意味ならKGVI&QES。思い出という意味なら1回目の凱旋門賞。やっぱり感慨深いからね」

 

 

Qヴァーディクトデイの産駒は?

 

 

滝村「もし日本で走るならぜひ騎乗したい。今度こそ俺の手でG1を取らせるんだ!って思ってます。もし実現するなら、クロノジェネシスとヴァーディクトデイの子に乗ってみたいですね」

 

 

金添「勿論騎乗したい。オファー来るか分からないですけど、自分から売り込みに行くよ」

 

 

鷹「そりゃ勿論乗りますよ」

 

 

滝村・金添「嘘でしょ」

 

 

Qヴァーディクトデイの海外での種牡馬入りについて

 

 

滝村「仕方ないかなって。この辺はお2人も意見が一致していると思います」

 

 

金添「そうですね。正直仕方ないとは思ってます」

 

 

鷹「ただ、海外で活躍してくれれば。ヴァーディクトデイの血が残ってくれればいいとは思ってます」

 

 

Q最後に、ヴァーディクトデイに伝えたいことは?

 

 

滝村「乗り替わりの時は本当にゴメン。お前を選ばなくて。でも、君が凱旋門賞を勝った時は本当に嬉しかった。病院だってのに思わずはしゃいじゃって怒られちゃったよ。でも、それだけ嬉しかったんだ。これからはまた別のお仕事が始まるけど、元気に過ごしてね」

 

 

金添「放牧地でまた歳上の牝馬に追いかけ回されないように気をつけろよ。後、引退式の時は見苦しい姿を見せちゃったな。ただ、そんだけお前に乗りたかったってことだ。それにフォワ賞は本当に申し訳ない。これからも元気で長生きしてくれよ」

 

 

鷹「次のお仕事頑張って。後は、あまり囚われ過ぎないようにな。長生きして、いつまでも元気に過ごしてくれ。友達に関してはお前はすぐ作れるだろうしあまり心配はしてないかな。今度また個人的に会いに行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい。ありがとうございますみなさん」

 

 

 新橋はペンを仕舞って3人に頭を下げる。

 

 

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

 

「それに、こうしてお2人の考えも聞けたわけですから」

 

 

「プライベートで会った時話すこともあるだろ」

 

 

「ま、それはそうなんですけど」

 

 

 笑いあう3人。ただ、新橋には気になっていることがあった。それは、鷹騎手の言葉。

 

 

「あの、鷹騎手。これは記事にする気はないんですけど……」

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

()()()()()()()、というのは……どういうことですか?」

 

 

 新橋はその言葉が引っかかっていた。ヴァーディクトデイの身に、何か起きているのか?そう思わずにはいられなかった。

 その言葉を聞いた鷹は……いや、3()()は表情に影を落とす。新橋は一瞬、やってしまったか?と思ったが。鷹がその重たい口を開いた。

 

 

「……おそらくですけど、ヴァーディはずっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「え?」

 

 

「ジャパンカップ後のヴァーディは明らかに普通じゃなかった……騎乗していない俺でも、気づけるぐらいには」

 

 

「海外での調教の話によると、併走でも度々暴走することがあったそうです。日本では一度も、それどころかジャパンカップの前までは一度もなかったのに」

 

 

 そんなことが。新橋は息をのむ。

 新橋もその情報は握っていた。ヴァーディクトデイが併走で度々暴走するようになったと。()()()()()()()()()()ヴァーディが、だ。もっとも、その理由は分からなかったのであまり深追いはしなかったのだが。

 

 

「海藤さんに聞いた話ですけど、あのヴァーディが馬運車に乗せる時に暴れたらしいです。滅多に暴れなかったのに」

 

 

「多分だが、ジャパンカップに出走できないってことに感づいただろうな。だからこそ、暴れた」

 

 

「ヴァーディはずっとコントレイルと戦いたがっていた……最後の機会であるジャパンカップに出走できなかったのは、きっとヴァーディにとって凄く心残りだったんじゃないかって」

 

 

 滝村は呟く。ヴァーディの悲しさに共感するように。

 

 

「その影響だろう。ヴァーディはずっと──コントレイルを追いかけていた。金添騎手から最初聞いた時は信じられなかったが、実際に騎乗して分かったことだ」

 

 

「ま、ヴァーディのことを考えるとコントレイルぐらいしか思いつかないですよね。本当に……本当に。凄く意識してましたから」

 

 

「そう、ですか……」

 

 

 3人の騎手は沈痛な面持ちだ。その心情は察するに余りある、新橋はそう感じた。

 

 

「……それではみなさん。本日は取材の方ありがとうございました!後日記事にしますね!」

 

 

 できる限り明るく、それこそ()()()()()()。新橋はそう告げた。自分のせいで生まれた悪い空気を払拭するように。それを察してか、滝村達も表情に明るさを取り戻す。

 

 

「いえ、貴重な時間でした」

 

 

「はい、楽しかったです」

 

 

「記事、楽しみにしてますね」

 

 

 3人の騎手達は去っていく。その去り際。

 

 

「そうだ新橋さん。最後に話したこのオフレコの話……できれば公表してもらえますか?」

 

 

「え?ど、どうしてですか?」

 

 

 滝村達は言いにくそうにした後。

 

 

「世間では、ヴァーディクトデイがジャパンカップから逃げたなんて声が一定数あるじゃないですか?だからこそ、陣営も辛い思いをしてたんだって、馬も辛かったんだって。分かって欲しいんですよ」

 

 

「ぶっちゃけなに様のつもりって話ですけどね。ただ、この事実もあったんだということを知って欲しいんです」

 

 

「信じるか信じないかは分かりませんが……それでも、ない噂を立てられるよりはマシですから」

 

 

 3人の騎手達の思い。それを受けて新橋は。

 

 

「……はい!みなさんがそうおっしゃるのであれば、記事にします」

 

 

 そう答えた。その答えに、3人の騎手は満足げな表情をして部屋を退出する。

 新橋は1人残された部屋で呟く。

 

 

「……早速記事にしよう。ヴァーディクトデイのことを」

 

 

 一切の捏造をしない。ただ、この時に行われた会話をそのまま記事にする。新橋はそう考えて、記事を作成することにした。




ちょっとSっ気があると思われてるヴァーディである。しかも全員から。
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