──阪神レース場。野路菊ステークス。
《ヴァーディクトデイ先頭!最後の直線に向いてヴァーディクトデイが先頭!これは強い、まさしく圧巻の強さ!他のウマ娘を全く寄せつけません!2番のヴァーディクトデイが2番手以下を大きく引き離して先頭を走ります!残り200m!これはもうウイニングランだぁぁぁ!》
《これは凄いですね。まさしく圧巻の強さ、飛ぶような末脚も健在といったところでしょうか》
《そして!今圧倒的な強さを見せつけてヴァーディクトデイが先頭ゴォォォォルイン!またも大差!またも大差です!圧巻の強さヴァーディクトデイ!第4コーナーに入る前の段階で最後方から追い上げ、他のウマ娘を瞬く間に躱しました!最後の直線では他の相手を寄せつけない驚異の末脚!これは上がりのタイムも勿論最速でしょう!》
《メイクデビューに続いての大差勝ち。彼女のクラシックが非常に楽しみです。主役の1人は決まったようなものでしょう》
野路菊ステークスを大差で勝利したヴァーディクトデイ。だがその視線は……。
「……クソがッ!」
ただ前を向いて、悪態をついていた。本当にこのレースの勝利者なのか?と思うほどに。だがそれも一瞬のこと。ファンも、他に出走していたウマ娘も気づかない。すぐに彼女は表情を取り繕って。
「よっしゃあああぁぁぁ!勝ったぜぇぇぇ!」
歓喜の雄たけびを上げた。
野路菊ステークスが終わって学園へと戻ってきた俺。念入りに脚のマッサージをしておく。
「お疲れ様~ヴァーディ君。絶好調だね」
「おう、プボちゃん!まぁな、絶好調絶好調!」
プボちゃんと会話をしつつ、脚のマッサージを念入りにしておく。疲労が溜まるなんてのは勘弁だからな。ただでさえ抜けにくいし、こういう日々の積み重ねが後々に影響してくるってもんだ。
「プボちゃんはデビューまだだっけ?」
「ぼくはね~来月なんだよね。まだまだデビューまで遠い気がするよ」
「そうはいっても、後1ヶ月だろ?割とすぐ来るもんだぞ」
「う~ん……そうかも」
「なんにせよ頑張れよプボちゃん。応援してるぜ!」
「よ~し、頑張っちゃうぞ!」
プボちゃんとも大分仲良くなったもんだ。これから先もずっと仲良くしていきたい。
次の日。俺はというと何故か生徒会室に呼び出されるという。その用件というのが──。
「野路菊ステークス勝利おめでとうヴァーディ。よく頑張ったわね」
「あぁ、はい。ありがとうございます……それで、何故俺はドンナ先輩に頭を撫でられているのでしょうか?」
「あら?ワタクシのやることに文句でもあるのかしら?」
「いや、別にないですけど……」
「よろしい。それにしても……ずっとこうしていたいわ」
ドンナ姉さんに頭を撫でられるというもの。俺はドンナ姉さんの前に傅いている形になる。野路菊ステークス勝利のお祝い、みたいなものらしい。なおここにいるのはドンナ姉さんだけで他にはいない。いや、他にいたら恥ずかしいから勘弁してほしいんだけど。
その後は教室に戻って普通に授業。休み時間の間では。
「オーッス、ヴァーディ。2連勝おめでとさん」
「よ、ラーシー。お前は残念だったな」
「ウッセ、次は勝つ」
「いいなー、2人はもうデビューか。でも!パンももうすぐデビューだもんね!逃げて逃げて逃げまくるぞ~!」
ラーシー達と雑談。お互いの近況報告だったりとまー話題は色々だ。
「そういや聞いたか?コントレイルなんだけどよ」
「……どうかしたのか?」
「おう、アイツもメイクデビュー勝ったらしいぞ。それも圧勝だってよ」
「……」
ま、そうだろうな。
「ま、そんだけだよ。アタシらとも走る機会はあるだろうし、マークしておいても、つっても、オメーにゃ関係ねーか」
「当然だ」
「そうだ!みんな今日のお昼は何食べる!?」
話題はすぐにそれたが。コントレイルもメイクデビューを勝ったらしい。
そうして放課後。今日はレース後ということで休みなのだが。
「ハァ……」
散歩をしていると、やたら暗い表情のウマ娘がいた。俺より先輩なのかどうなのかは分からないが、どうにも落ち込んでいるっぽい?
(あんな暗い表情で溜息を吐いているということは、十中八九何かあったんだろうが……)
黒い髪をストレートロングにしたウマ娘。体格は結構いい方だ。ただ、なんというか……シンパシー?のようなものを感じた。不思議な縁とでもいうのだろうか。バディやベルにも感じたなにか。つまるところ、前世での俺の関係者に近いってことだろうか?
(まずは話しかけてみるか。それではっきりするだろうし)
「あの、すいません。何かあったんですか?」
「え?……きゃあ!?あなた誰!?」
ものっそい警戒されてる。耳がめっちゃ立ってるし。なのでできる限り笑顔で、と。
「い、いや。何か落ち込んだ様子だったもんで……気になったので声をかけたんですよ」
「あ、あぁそうなんだ。それはごめんね……ただ声を掛けてくれた子にも威嚇するなんて、わたしはダメだなぁ……」
なんだろう、また落ち込みだしたんだけど。なんで?どうして?
「ひ、ひとまず自己紹介を。俺、ヴァーディクトデイって言います。あなたは?」
「ぶ、
「なんで疑問形なんですか?」
「ま、間違ってたら。怖いから。あなた体格良いし」
それあなたもでしょう、と口にしかけたがなんとか我慢する。
「後輩だから合ってますよ、ブラックタイド先輩。それで、どうして溜息吐いてたんです?落ち込んだ様子で」
「……だ、誰にも言わない?」
「言いませんよ」
そう答えると、意を決したようにブラックタイド先輩はぽつぽつと話し始めた。
「わ、わたしね。すっごい妹がいるんだ」
「へ~妹さんが。俺と一緒ですね」
「そ、そうなんだ。お揃いだね。……で、その子はいっつも凄くて……テストも毎回良い点取っちゃうような子で、レースも凄くて!無敗の三冠ウマ娘なんだよ!」
興奮気味にそう語るブラックタイド先輩だが……俺はもうこの時点で妹さんが誰のことか分かった。というか、これで分からないヤツはいない。
(この人、ディープインパクト会長の姉かよ!?)
無敗の三冠ウマ娘なんて時点で現段階だと候補が2人しかいねぇよ!
それでまぁ……この人の悩みというのも大体察しがついた。
「その妹は凄いのに、わたしはダメダメで……同じ姉妹でどうしてこんなに違うんだろう?って思うと、いつもこうなっちゃって……」
「あ、あ~……確かにそれは、気にしちゃいますよね。他人から言われても、どうしても気になると思います」
そう答えると、ブラックタイド先輩は凄い勢いで俺に詰め寄ってきて近い近い!?
「そ、そうだよね!?き、気にしちゃうよね!?だから、おかしくないよね!?」
「は、はい。そりゃどうしても気になっちゃいますよ。なんでちょっと離れてもらっても?顔が近いです」
「へ?……あっ」
ブラックタイド先輩は顔を真っ赤にして離れた。さっきの距離感に気づいたんだろうな。俺は1つ咳払いをする。
「そ、それで。その妹さんというのはディープインパクト生徒会長ですよね?」
「な、なんでわか……無敗の三冠ウマ娘の時点で分かっちゃうか……」
そりゃあそうでしょ。対象者が少なすぎる。
「それで、その……プイちゃんなんだけど。プイちゃん凄いでしょ?みんなから慕われてるし、まさに上に立つ者って感じがするし」
「まぁ、はい。独特のカリスマ性がありますよね」
実際の会長大分お茶目な性格してるけど。
「みんなは気にしなくていいっていうんだけど……わたしは、どうしても気にしちゃって。プイちゃんはあんなに凄いのに、どうしてわたしはこんななんだろう?って……そう思っちゃうと、いつも気分が落ち込むんだ……」
言ってる間にもブラックタイド先輩の気分はどんどん落ち込んでいってる!?な、なにか気の利いた言葉を……!
「ま、ま~確かに気になりますよね。さっきも言いましたけど。凄い妹を持つってのは、どうしてもコンプレックスを抱いちゃいますよね」
「う、うん」
「しかもディープインパクト会長ですから。余計に気になるというか」
ひとまずは、俺の考えを伝える。
「だからまぁ、良いんじゃないでしょうか?そのままでも」
「……え?」
「他人からあーだこーだ言われても、気になっちゃうもんは気になっちゃうんですから。だから無理に治そうとするとさらに悪循環にハマるというか。だから無理に治そうとしなくても、徐々に治していけばいいんじゃないでしょうか?」
「そ、そうかな?」
「そうですよ!それに、安心してください!」
俺は、自分の胸を叩いて安心させるようにブラックタイド先輩を見る。
「もしまた気分が落ち込んだ時には!俺が話を聞きますんで!これでも俺、結構な聞き上手なんですよ?だから任せてくださいよ!」
実際のところは分からないけど、こういえば少しは安心するだろう!
「もしまた落ちんだ時は遠慮なく俺を頼ってください!ブラックタイド先輩のお話、いくらでも聞きますよ!」
「……」
ブラックタイド先輩は呆然とした表情を浮かべている。少しの間静寂が訪れて。
「……ふふっ」
ブラックタイド先輩は、笑った。
「ふ、不思議な子だね、君。なんというか、他人のような気がしないっていうか」
よ、良かった。とりあえず持ち直してくれたみたいだ。
「じ、じゃあLANE交換しよっか」
「あ、そうですね。じゃあちょっと待ってください。今ウマホ出しますんで」
ウマホを取り出して、LANEを交換する。これでいつでも連絡が取れるようになった。
「じ、じゃあこれからよろしくね?ヴァーディ」
「はい、よろしく「こっちからタイドさんが落ち込んでいるような声が!」うおっ!?だ、誰だ!?」
なんか唐突な乱入者が!?黒いショートカットの……ど、どなたさん?
「あ、き、キタちゃん」
「はい!タイドさん、大丈夫ですか?……って、ヴァーディちゃん?」
「お、俺の名前知ってるんですか?」
どうやら向こうさんは俺の名前を知っているらしいが……生憎と俺に面識はない。だけど、特に気を悪くした様子をみせずに笑顔で答えた。
「あたし、キタサンブラックです!チーム・スピカに所属しています!ヴァーディちゃんは同じチームの子から聞いてましたので!後有名ですし!」
「あ、あぁ。そうなんですね」
「それで、どうしてタイドさんとヴァーディちゃんが一緒に?」
「あぁ、実は……」
キタサン先輩に事情を説明すると、先輩は嬉しそうな表情で俺を見ていた。
「ヴァーディちゃんがタイドさんを励ましてくれてたんですね!」
「はい。それで、キタサン先輩はどうしてここに?」
「こう、タイドさんが落ち込んでいるような雰囲気で歩いているのを見かけたので!居ても立っても居られずに来ちゃいました!」
あぁ、これだけでキタサン先輩の人柄が分かるな。
「そ、それじゃあ2人ともありがとうね。また今度、話を聞いてくれると嬉しいな」
「はい、勿論!いつだって聞きますよ!」
「あたしもです!遠慮なく頼ってくださいね、タイドさん!」
「う、うん。そうさせてもらう」
その後タイド先輩とキタサン先輩とも別れて。充実した放課後を過ごした。
寮に帰った後に気づいたのだが。
(ブラックタイド先輩……どっかで聞き覚えがあると思えば、前世の俺の父親じゃねぇか!?)
ブラックタイド先輩が馬時代の自分の父親だったことを思い出した。そりゃあシンパシー感じるわ。
ブラックタイド
身長;168cm
体重:プイちゃんと比べたら…
B/W/H:88/55/87
一言メモ
黒色の髪をストレートロングに伸ばしたウマ娘。生徒会長ディープインパクトの姉。本人はコンプレックスを抱きつつも妹とは仲良くしたいと考えている。ただ、ネガりやすい性格故にあまりうまくはいってない模様。
ヴァ―ディには不思議な縁を感じている。