ーーーー暗い。
「ハァ……ハァ……ハァ……!!!」
ーーーー怖い。
「ハァ……ッハァッ……!!!!」
「へ、へんし……」
「グァァァア……!」
「ヒッ…!!!」
ーーーー逃げなきゃ。
ーーーー生きなきゃ……
「うわぁあああああ!!!!!!」
Yタイムズ編集部室
ピピピピ。ピピピピ。ピピピピ。
「ハァッ…ハアッ………」
見慣れた天井。汗でビショビショの、寝巻きを着た身体。
「ゆ、夢……?なぁんだ………」
ここ最近、こんな夢ばかりだなぁと嘆息した。
それはともかく、枕の脇にあるメガネをかけて、目覚まし時計を止めて……って
「あーーーっ!!?もうこんな時間!?ヤバイヤバイ遅れるー!!!」
普段だったらもうとっくに教室に居る時間だ、流石にマズイ。そそくさそそくさ くさくそくさ~っと着替えを済ませ、「寝室」を出た。
急いでエレベーターまで向かおう!
…僕の名前は、玉田マタロウ。
マタ玉田ロウ…じゃなくて!玉田マタロウ!!
ごくフツーの家庭に育ち、ごくフツーの子どもだった僕は、色々あって日本一のエリート校『Y学園』に入り中学生活を満喫しています。
……つい最近まで、地球侵略を目論む異星人『N星人』や、中等部解体を命令して来た『Y学園高等部生徒会』、そして過去に遡って『オズマ』という怪物…と、いくつもの強大な敵との戦《たたか》いが、この半年間で あったんだ。
そして、たくさんの人の協力のおかげでやっと手に入れた平和な学園生活……
楽しまなくっちゃ損だよね!
今 僕達YSPクラブは『特別活動期間中』で、クラブの皆で校舎に住んでいるんだ。なんでも、校舎内で生活する事により、普段の授業では得られない経験を育むんだとか。
ちなみにYSPクラブだけでなく、生徒会や風紀委員、そして学園マフィアの人達もそれぞれ2人づつ居るよ。
学園長室
そうこうしている内に目的の部屋に着き、ドアを開けると、
「おーっ!マタロウおはよう!!」
と声をかけられた。
「ジンペイ君、おはよう」
この人は寺刃ジンペイ君。細かいことは気にしない超のつく楽天家で、如何なる状況でもマイペースかつふざけてばかり。でも、内に秘める正義感は誰よりも強くて、かくいう僕も、彼に幾度となく助けられてきた。僕にとってのHEROだ。
「遅いぞ、玉田。既に起床時間は過ぎている」
「ひぇえ~~ごめんなさい〜!!」
生徒会長、霧隠ラント君。この超エリート学校であるY学園中等部の生徒会長で、学園長並の権力をも持っているんだ。ちなみにUFO研究部の部長もしている。
「全く仕方ないですねぇマタロウくん。今回は多めに見ますが、次は注意するように」
「あはは…はい、気をつけます」
そう僕に注意して「食堂」から出て行ったのは担任の臼見沢ハルヒコ先生。担当教科は国語で、僕ら1年生の寮の管理人も務めている。その正体はかつて人間界で活躍した「妖怪マスター」と呼ばれるとある少年に仕えていた妖怪執事の生まれ変わりなんだって。…な~んか嘘くさいけども……。
な~んて悠長に紹介なんかしてる場合じゃなかった!!!ヤバいヤバい!
僕は超特急で朝ご飯を詰め込み、すぐさま臼見沢先生の後を追う。
「全く、忙しないわね…」
「まあまあ…」
そんな僕を見届けて呆れるのは同じく1年の姫川フブキさん。所謂理系女子で、三度の飯よりメカが好き。女子が着るパワードスーツなんかも好き。学園のマドンナなだけありとても可愛いらしく素敵な女子で……おっと…ごめんなさい話し始めるとキリがないので割愛します…。
フブキさんを宥めているのはジンペイ君の幼馴染みで僕らの親友、小間サン太夫君。落語の名家に生まれるも噺が苦手で落ちこぼれになった…と本人は言うけど、話を分かりやすく纏めて説明できるし、それに彼は癒し系で居るだけで場が和む。決して落ちこぼれなんかじゃないんだよ。
3-D教室
階段を1フロア分下り、廊下を猛ダッシュして教室へ向かう。
…僕は最近、学園が好きだ。
もちろん前から好きだったけど、ちょっと前まで色々張り詰めていたせいか、最近は特に学園生活をとても楽しく過ごせている気がする。
戦っていた時には気がつけなかった事がたくさんあって、それも地球を守れたから感じられているわけで、僕らは本当に、この世界を守り、平和を勝ち取ったんだなぁと、しみじみ思います!
「おっ、来た来たマタロウ~、遅せぇぞ~!」
「あはは…ゴメンゴメン」
「さて、マタロウくんも来たことですし、点呼をとりますよ~。赤石さん、稲田さん、海東さん…………」
その後も先生は順調に点呼をとり、12人目に僕の名前が呼ばれた。
「……ホワイトさん、丸山さん、和田さん……ハイ、24……いえ、22名全員居ますね、では授業を始めましょうか。では教科書54ページの7行目から続きでうぃす」
授業が始まり、遅れた僕は急いで教科書、ノートと筆記用具を取り出して……
「ん?」
教科書と…ノートと……
「ん?アレ?ええ!?」
「どうした?玉田?」
「な、無いんだ…筆箱が……!」
「お前が忘れ物なんて珍しいな」
「ど、どうしよう……」
「良かったら予備あるし、俺の使う…」
ガラッ!!
「チャァオゥ!!!」
隣の席の人と相談していると、いきなりジンペイ君が入ってきて僕の所へ来た。
「うわぁあ!!ジンペイ君!?ちょ、授業中……」
「ほらよ!落とし物、届けに来たぜ!!」
「あ!僕の筆箱!!あ、そっか。食堂で確認した時に急いでたから忘れて行ってたのか……!!」
「全く、エルナが気づかなかったら何でノートとるつもりだったんだよ!!」
ジンペイ君はケラケラと笑いながら、僕の筆箱を机に置いてくれた。
エルナっていうのは、天体観測部部長の天見エルナさんのこと。
かつてはN星人のラスボス、マゼラの右腕として動いていた『エルゼメキア』に憑依されて僕らの敵になっていたけど、色々あって今は元に戻り、怨霊化したエルゼメキアこと、コーリー星の女王『エルゼ』と共に僕らと戦ってくれている。
コーリー星でのエルゼの部下やエルゼがマゼラを裏切った時に着いてきたN星人の技術班の部下など、バックも強く頼れる味方なんだ。
現在では風紀委員の副委員長も務めている。
「ではジンペイくん。そろそろ授業を始めたいのですが、よろしいですか?」
「おう!良いぜ!邪魔して悪かったな!マタロウ!先生!!」
そう言い、教室から出ようとするジンペイ君。
その時だった。
「!!」
「マタロウ、先生!!伏せろ!!!」
ジンペイ君の合図で僕らは咄嗟に伏せる。
強い衝撃波のようなものを感じ、さっきまで僕とジンペイ君の身体があった所を見ると、何やらモヤのかかった何かの腕が伸びていた。
先生やクラスメイトの何人かも衝撃波で吹っ飛ばされている。
「危っぶねぇなぁ!!先生!!そっちは大丈夫か!?」
「え、ええなんとか……!」
「怨霊!!?ジンペイ君!!」
懐から『ラストティーダイン』の変身メダルを取り出し、左腕の『URウォッチGAI』を構える。
「……!マタロウ…」
「? ジンペイ君も早く!」
怨霊は今も僕らを狙って攻撃してきている。ゾンビ系の怨霊なのかフラついた動きで躱すのは容易い。だけどこのままだと当たるのも時間の問題だ。
「あぁ…分かった!!」
ジンペイ君も『アースウォーカーNOA』の変身メダルを取り出し、左腕の『URウォッチ』を構える。
「「変身!!!」」
掛け声と同時にメダルをウォッチに装填すると
『アルティメット!!』
軽快な音楽と共に、それぞれ特殊な空間に包まれる。
『ッレボリューション!!』
『チェーンジヒーロー!!』
『Hey!!』
変身待機音に合わせて、僕は右腕を2回払いながら、左腕のウォッチを顔の近くへ持って行き、ウォッチに右手をかける。
ジンペイ君は両腕をグルッと回し、ベゼルの円形を空に作り出すポーズをとる。
『ラストティーダイン』『アースウォーカー・NOA』
ウォッチからアナウンスが流れ、ベゼルを変身モードの方向に90度回転させると、ベゼルの「UR」の文字がそれぞれ「G」と「Y」が書かれた面に変形し、光を放つ。
ウォッチを天に掲げると、光の輪が僕の頭を包む。
『アタック!!!』
光は全身を覆い、ガイアエネルギーを表す紫のボディを形成する。
『フィニッシュ!!!』
『ラァースト!!シャイニィーーング!!!』
「太陽の王者!!!
ラストティーダイン!!!!!」
どこからともなく現れたジンペイ君の相棒の1人、『ミケッティオ』が怪しげな笑みを浮かべながらその肉体をジンペイ君の身体に纏わせる。
『N・O・A!!!!』
『アルティメーーーット!!!!』
「結局南極。
アースウォーカーNOA」
それぞれ正義感に溢れた正統派HERO然とした『ラストティーダイン』、 普段の明るさと打って変わってダウナー系の性格なネコ耳HERO『アースウォーカーNOA』に変身完了した。
「周りに被害が出る前に、サクッと倒しちゃうよ」
「了解だ!!!」
怨霊を廊下の方へ蹴り飛ばしてすぐさま挟み撃ちにし、それぞれコマンドメダルをウォッチに装填する。
『アルティメット!!』
『レボリューション!!エグゼキュート!!!』
「グランゾートネコスカドライブ」
アースウォーカーNOAは怨霊をその素早さで四方八方からタコ殴りにする。
「サンバーニングキィーーーック!!!!」
トドメにラストティーダインが太陽の光を足に宿した渾身の飛び蹴りをお見舞いした。
「グガォアアアアアア!!!!!」
『ドォオオオオオン!!!!!……』
怨霊は断末魔を上げ、爆発四散した。それを見届け、変身解除する。
「ふう、危なかった。弱い怨霊で助かったね……」
そう呟くも、ジンペイ君から返事は返ってこなかった。
どうしたのかと思い、ジンペイ君を見ると、さっきまで怨霊の居た辺りを見つめている。
僕の視線に気がつくと、いつものちょっとサイコパスみを感じる笑みを浮かべた。
「大丈夫?ジンペイ君……なんだか…」
「何が?それよか授業だぜ授業!!!」
「あっ、そうだった!抜け出しちゃったんだ!!」
急いで教室に戻ろう!!
「慌ててまた忘れモンすんなよ〜」
「ありがとう〜!!」
そう言って、僕は教室へと急ぎながら、ジンペイ君の様子を思い出す。
「…なんだか……悲しそうな目だったな……」
「さて……」
マタロウを見送った俺 寺刃ジンペイはその場で合掌をした後、ここ3階と2階を繋ぐ階段へ来た。
階段には机と椅子を積み上げて作ったバリケードがあるんだけど、一部が崩れてしまっていた。
それを確認した俺は左耳に装着しているイヤーカフ型無線機を起動する。
「会長、これ……」
『フム…こいつが何かの拍子に崩れて、その音に引かれた奴らが入ってきたようだな……念の為、他に入り込んでないか皆で調査しよう』
「ガッテン承知の助ザムライ!!」
無線からの応答に小声で応え、指示通り調査を開始した。
階段の下…2階と1階からは、相も変わらずに、絶えず大量のうめき声が聞こえてくる。
それを無線を通して聞いたラント会長からは、無線越しにも関わらず、静かな怒りを感じた。
机を叩き、一言。
「おのれ……マゼラめ……!!!」
退けたはずの……因縁の、怨敵の名を
呟いた。
放課後の教室。
「あ、そーだ玉田、今日も怨霊退治お疲れ様!!」
「うん、ありがとう!」
「にしても、HEROも大変よね……命懸けなんでしょ?怖くないの?」
「そりゃもちろん怖いけど、やっと本物のHEROになれたんだ。血のにじむような特訓とかいっぱいして、考えて…そうやって皆で手に入れた力だもん。
……これは恩返しなんだ。人生は、たまたまばかりじゃないんだって教えてくれた、YSPクラブの…ううん、このY学園の皆への!」
「…ごめん、自分ばっかり話しちゃって……」
「え?そう?なら良いんだけど……」
「あー見た見た!!良かったよねぇ今週のコナッポイン!!まさかあの人が犯人だとは思わなかったよ!僕もまだまだだなぁ…YSPクラブの探偵役として、もっと推理力上げなくちゃ…なーんてね♪」
「そういえば、今度の新作HEROも良かったよね…めちゃくちゃ好みどストライクでさー!」
教室から賑やかに話をするマタロウ君の声がする。
僕小間サン太夫、フブキさん、そして2年の雷堂メラ先輩はマタロウ君を迎えに来たんだ。
「玉田、まーだここに居たのか。」
「あれ?メラ先輩に、コマくん、フブキさんまで!!」
「兄貴、部屋で待ってんぜ。なんか約束してんだろ?」
メラ先輩は昔は横暴な振る舞いでY学園の極悪番長と恐れられていたけど、その理由はお母さんが病気になって学費が払えなくなり、学園マフィアから学費を援助してもらう条件として生徒会からのヘイトを集めろと言われていた。そんな時にひょんな事からジンペイ君に恩義を感じていて、今はジンペイ君を兄貴と慕っているんだ。
ちなみに学費についてはジンペイ君が学園長に口利きしたお陰で奨学金を貰えた事で解決。今は地道に学内バイトをして返しているんだって。
学園マフィアとも後に異星人騒動の際に和解したよ。
先輩に言われ、ジンペイ君との予定を思い出したマタロウ君は大慌てで帰りの支度をする。
「あ、そうだった!!大変だーっ!!」
「気をつけなさいね。FSTは有限なんだから」
「はーい!」
「…マタロウ君……」
「ん?何?どうしたの____」
僕の呼びかけに応え、振り返るマタロウ君。
そこに広がっていたのは 平和な学園生活とは程遠い、狂気としか思えない光景だった。
その背景には、荒れ果てた教室があり、割れたガラス片と、ボロボロの机や椅子が散乱していて、そこにこびり付いた血痕がそこで起きた凄惨な事件を物語っていた。
その中に佇むマタロウ君は、まるで日常を生きていた彼だけを切り取って貼り付けたかのようで……いや…きっとマタロウ君の中ではあの時のまま。マタロウ君の目にはあの頃の皆が見えているのだろう。
そして廊下には、昨日まで無かったはずの真新しい血痕が生々しく飛び散っている。
割れてしまっていてもはやその機能を果たしていない窓の外、校舎の周り……いや、Y学園の敷地内にはかつて人だったであろう者達が、破壊された校門から続々と侵入し僕らの学び舎に蔓延っていた。
…そして、『彼ら』の大多数は、まるで何かを探すかのように校舎の北にあるグラウンドへと集まっている。
「コマくん?」
「え、あ、ううん!何でもない!」
「そっか、じゃ、またね!皆!!」
コマくん達に呼ばれ、僕はクラスメイトに挨拶をしてから本部へと戻る。
廊下を歩いていたらふと風を感じ、窓を見ると少し隙間があったのでピッチリ閉める。
うん!これでよし!!
僕は最近、学園が好きだ。
学園の平和な毎日を守る為……これからも頑張るぞ!!!
この時マタロウくんが閉めたボロボロの窓の先で、我らに希望をもたらす1台のとある赤いコンパクトカーがY学園へ向けて走り出したことなど、我々はまだ知る由もなかったのでうぃす。
「…何黙って突っ立ってんだ先生?」
「あーいえ、ちょっとナレーションを」
「はぁ?」
「メラくんあーた、ワタクシ今回出番少なくてこうでもしないと死亡説出るかもでしょーが」
「どうでもよくないですか?」
「フブキさんまで!あーたそんな風に育てた覚えはないでうぃすよ!!」
「いや育てられてないし!!」
ちゃんちゃん。
続