───私は霧隠ラント。Y学園中等部生徒会長を務めている者だ。
時は今より少し以前の事。巨大エネルギー生命体『オズマ』を打ち破り、現代へと帰ってから数ヶ月。
いつものようにYSPクラブを中心に、稀に起きる怨霊騒ぎの鎮圧をしつつ学園生活を送っていたある日の事だった。
その日、私は風紀委員長『来星ナユ』の要請により校門前へと駆けつけていた。
「ここか、暴動があったというのは」
「ハイ。校門の方から異音がするとの通報があり、ポリスが駆けつけたんですが……」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
「暴れるなっ!」
「大人しくしろ!!」
「む、アレが例の侵入者か」
「ええ。異音騒ぎも、あの不審者が校門を破壊しようとしていた音だったようです」
「警察への通報はもう済ませました。身柄を拘束し、到着次第引き渡すとしましょう」
「うむ。そうしてくれ」
「……しかし、なんだってこんなところへ侵入しようとしたのか……」
「それが、何を聞いてもあの様子で対話もままならず……」
まるで得体の知れない物に触れているかのような感覚に、私は悪寒を感じていた。
「怨霊か妖怪にとりつかれている線は……無さそうだな」
左腕にAウォッチを装着し霊界チャンネルを合わせたが、特に怪しい霊的存在は探知できなかった。
「……?これは…」
「どうかしたか」
「いえ、それが…」
と、そこまで話しかけたところでポリス達に異変が起こった。
「痛ぇッ!」
「む……?!」
なんと男がポリスの右腕に噛み付いたのだ。苦悶の表情を浮かべる彼の腕には男の歯がくい込み、血が滲み出ている。
その場に居た他のポリスがすぐさま引き剥がしたものの、腕の噛み傷からは依然としてドクドクと血が流れ出続けていた。
「大丈夫か?」
「は、はい会長……!私は問題ありませんが……この力…尋常ではありません……!」
そう報告するポリスは顔色が悪く、足取りもフラフラと覚束無い。
支えになって姿勢を落とさせてやり、彼の状態を軽く視診する。
(呼吸が荒いな……体温も急激に上昇している。…この男……何かの病原菌にでも感染していたのか……?)
彼と男を交互に見やり分析していくが、そうしている間にも彼の容態は悪化するのみだ。
「無理はするな。拘束は他の者に任せて、すぐに保健室でえんら先生に診てもらえ」
「は……っあ゛……ぃ゛……かい゛ち゛ょ゛……」
彼は苦痛に顔を歪めながら肯定しようとするが、言葉にならない呻き声を上げた末にその場に倒れ込んでしまった。
「!」
「おい、しっかりしろ!」
私は彼に手を差し伸べ 立てるか?と尋ねるが、彼は何も言わずにフラフラと立ち上がり 男を拘束しているポリス達の元へと歩を進めた。
「お、オイ……?」
「ヴヴヴヴヴ……」
「…ハッ……!」
「皆、彼から離れるんだ!!!」
しかし、気が付いた頃にはもう後の祭りであった。
彼は仲間だったはずの者達に───
「ガア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「痛ぇえッ!!!」
「ぐあああああ!!!」
文字通り、「牙」を剥いた。
噛まれたポリスはまた別のポリスに噛み付き、一瞬の内に数人のポリスが不審者と同じように呻き声を上げながら人を襲うだけの怪物へと変貌してしまった。
「なんだこれは……!!」
「ラント会長…これではまるで、七不思議の…!」
「あぁ……来星さんの思っている通り…まるで、『映りたがりの友道くん』のようだ…!!」
この学園にはかつて、七不思議《ななふしぎ》が3種類存在していた。『学園七不思議』、『トワイライト7』、『アメージング7』。『映りたがりの友道くん』とは、その中の学園七不思議の6つ目。
『友道くん』というゾンビが映った映画は呪われると言われており、友道くんの『へそのきのこ』の胞子を浴びると、友道くんになってしまう……というもの。これが現在の状況と似ているのだ。
結果的に友道くん…本名、友道ケンの無念は晴らされた為解決したハズだったのだが、怪物達は周りにいる生徒を襲い始め、被害が目に見えて雪だるま式に拡大しているのが分かる。
「ッ……!生徒諸君は建物の中へ避難しろ!!!」
「うわあああああ!!!」
「キャーーーー!!!」
「クッ!!」
Aウォッチを嵌めた左腕を顔の近くに持ってきてカバーをスライドさせ、『DSゾディアック』の変身メダルを構えた。
「変身!!!!」
ウォッチにメダルを装填し、カバーを元に戻す。
『ALIEN…』
『OVER DRIVE……』
変身待機音が流れ、私の身体に変身の処理を実行していく。
地球時計をモチーフとした球体のパーツを回転させると、SF的なサウンドと共に辺りにデータの塊が幾つか放出され、一瞬で私の肉体を黒と赤を基調としたスーツに変化させた。
『DEEP SHADOW…』
最後に額に『Z』の文字が浮かび上がり、変身完了。
私が変身するこの者の名こそ。
「『DEEP SHADOW ZODIAC』!!!!」
本来ならば怨霊や妖怪相手にしか使いたくは無いが、緊急事態故、やむを得ず使わせてもらう。
「ポリス諸君、彼らを拘束するぞッ!!」
「了解!!!」
時を同じくして、学園長室の『大王路キンヤ』学園長の元に来星さんの無線通信が入っていた。
「何!?そんな馬鹿な!!友道くんの七不思議はYSPクラブが解決していたハズ……!!」
『ハイ。無念を晴らした怨霊が、一度解決した七不思議を復活させる事は有り得ません。これは友道くんとは似て非なるもの……全く別の異変です』
来星さんの声は冷静だが心做しか早口で、ひとつひとつの言葉の中に一抹の不安と焦りが混じっているのが分かる。
「むむむ……すると…まさかとは思うが…」
学園長は一瞬の沈黙の後、自らの脳裏に浮かんだ最悪の仮説を唱える。
「本物の、生物災害…だなんていうつもりじゃあるまいな……!?」
学園長自身、信じたくはないが状況的にこれ以外思いつくものもない。……いや、これ以外に有り得ないのだ。
『…とにかくこのままでは危険です。被害は未だに拡大中で、このペースだと数分も経たずして学園エリアの外のエリア、生徒にも被害が及びます』
「1人でも多くの生徒を救わんとな…!一刻も早く避難誘導を開始してくれ!」
『避難先はどこへ?』
「地下シェルターを使う。ガッコウガー出動にも耐えられる場所だ、あそこならそう簡単に破られたりはしない」
『分かりました。風紀委員、生徒会、学園マフィア総出で各エリアに居る生徒の地下シェルターへの誘導開始指示を出します』
「うむ、頼んだぞ。校舎内に居る生徒と職員の避難誘導は任せたまえ」
『……学園長も、早めの避難をお願いします』
来星さんの無線が切れると、すぐさま学園長はY学園全域に緊急事態宣言を出した。
Y学園全域に警報がけたたましく鳴り響くと共に、校舎北側にあるグラウンドの地下にあるシェルターの入口が開く。
『緊急事態宣言発令』
『シェルター、オープン』
『誘導に従って慌てずに避難してください』
警報は繰り返され、Y学園の全生徒たちは地下シェルターへと向かい始めた。人にぶつかり、転んで怪我をする者や、逃げ遅れて『感染者』に襲われる者も居た。
だが来星さんの宣言通り、生徒会、風紀委員、学園マフィアは総出で各地の対処に当たっていた。
「オゥラァ!!」
「ガッ!!!」
感染者の後頭部に学園マフィアの強烈な飛び蹴りがヒットし、怯んだところを羽交い締めにされる。
「今のうちだ!さっさと行きやがれゴラァ!!」
「あ、ありがとうございます!!」
「…ケッ、マフィアに礼は要らねぇっつの」
「焦らないで下さ~い!」
「慌てず騒がず落ち着いて!!」
「シェルターには全員入れますので!!!」
「こっちです!!!」
「怪我した人は中でえんら先生に診てもらって下さいね!」
「これは……嫌な予感がするぞ」
学園長が厳粛な表情で独り言つと、学園長室の扉が開き『エンマダイ・シュンスケ』理事長が入室する。彼はこのY学園の理事長にして、妖怪達を統べる王『エンマ大王』でもある存在だ。
「じいちゃん」
「煌炎よ……」
「頼みがある……!」
「クソ……キリがないな……!」
学園エリアで戦闘を行っている私達の状況は芳しくなく、こちらの戦力が次々と向こうに吸収されてしまい、ジリ貧に陥っていた。
「ガァアアア!!!」
「ぐあッ!!この……!!」
背後から迫る感染者に気が付けなかった私は腕に噛みつかれてしまい、咄嗟に引き剥がしたものの鈍い痛みが残る。
装甲のお陰で傷付けられはしなかったが、変身した状態の私が痛みを感じるほどの力を生身の人間が出しているという事実に焦りが募る。
…このまま消耗し続けたら、いずれ変身が解けて無防備状態になってしまう。大勢の感染者に囲まれているこの状況でそうなってしまったら感染は免れないだろう……まだ変身していられる間に無事なポリスを連れて離脱するべきか……?
いや、ダメだ。ここで退いてしまっては学園エリア外の4エリアに居る、シェルターから遠い生徒たちが危険に晒されてしまう。
「かと言って……!どうすれば……」
長考し、一瞬硬直してしまっていた私に感染者が一斉に襲いかかる。
刹那。
私に襲いかかろうとした感染者達が全て凍りつき、外側に居る感染者避けの氷の堤防を築く。
「何…!?」
「無茶しすぎよ!ラント!!」
覚えのある声が、頭上から聞こえた。
ティアラを被り、コーリー星の衣装に身を包んだ怨霊女王……エルゼが武器を構え、感染者達の真上に浮かんでいた。
「という事は…」
「ちょ、待ってよエルゼぇ〜!!」
少し離れた所から天見さんの声がすると、彼女の他にも妖怪HEROの仲間達が駆けつけて来るのが見えた。
「エルナ〜、お前走るの遅すぎだぜ。♪エルナ、ノロノロ♪参るなトボトボ♪」イエイ、カモフォ-♪
「ジンペイさん達は…鍛えてるから……早いんですよぉ……!私……HERO……なりたて……!」
文句を言い得意のラップを披露する寺刃に、天見さんは息を切らしながら悪態をつく。
「お前達、何故ここに……?」
「決まってんだろ、会長!困ってる仲間が居たら、例え火の中水の中、土の中雲の中あの子のスカートの中でも颯爽と駆けつける。それがHEROってもんだぜ……!」
「火の中水の中、キター!!」
「もう〜!ジンペイくんったらそんなこと言っちゃって!」
「てゆーかアンタ、一言余計なのよーっ!!!」
「ひでぶッ!!!!」
姫川さんの強烈な飛び蹴りが寺刃に炸裂する。
「マタロウくんも、アガってる場合じゃないでしょ!」
小間に追加でツッコまれた寺刃と玉田はあからさまにテンションが下がり、揃って「えー」とジト目を向ける。
小間はそんな2人を後目に「来星さんから要請があって、会長の応援に来たんです!」と私に報告し「そりゃ無いぜコマく〜ん!せっかくカッコよく決まったのに〜!!」と寺刃にボヤかれる。といったいつものやり取りをしていたバカ4人組をよそに、クマ子が私やポリスの元へと駆けつけた。
「ラント、大丈夫!?ポリスの皆さんも!!」
「あぁ、危ないところだったがエルゼのお陰で助かった。心配は無用だクマ子」
「さぁ〜てと、コイツらぶっ倒せば良いんだな?」
「ヤレヤレ、筋肉バカゴリラの考えることはやっぱり野蛮だね。」
「ん~だ~とォ~~!?このスケコマシ野郎が!!!」
「元は人間なんだ、拘束に止めなきゃダメだってサルでも分かるだろう?」
「ちょっと〜!2人ともこんな時まで喧嘩するの止めてくださいよ〜!」
拳を鳴らしながら闘志を燃やす雷堂だったが九尾に水を差され睨み合いになり、今回は玉田が止める。いつも通りの一連の流れに安心感さえ湧いてくる。
「ま、こんなヤツら妖怪HEROが全員揃っちゃえば問題ないっしょ。ノーズ?」
「チアキの言う通りだな。むしろ過剰戦力なんじゃないか?」
「無事なポリスの皆さんは離脱してシェルターに急いで下さい!ジェットブーツ、お貸ししますので♪」
「わ、分かりました!」
「彼らを……頼みます…!!」
姫川さんから貸し出されたジェットブーツを履き、シェルターへと飛んで行くポリス達を見送った我々は感染者達に向き直る。
天見さんを除いた相棒妖怪、相棒怨霊の居る6人が召喚メダルを構えると、天見さんの元にエルゼが降り立った。
「ほらほら、エルナも召喚メダル構えて☆」
「え?でもエルゼはもうここに居るじゃん」
「いーから!こーゆーのは皆でやった方がアガるの!」
「わ、分かった…?」
エルゼに催促され、天見さんも召喚メダルを構えた。
「よっしゃ、皆行くぜ!!」
「「応ッッ!!!!」」
続