ただ仲良くしたいだけだった件について。   作:稗田之蛙

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<空>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お前の前世も素晴らしい馬だった」

 オレは、彼女の悲痛な表情が見ていられず、自然とそう口走っていた。

 

 セイちゃんはきょとんとした顔をして、彼女は目を丸くしてこちらを見つめている。

 だが、すぐに元のへにゃっとした表情に戻ってしまった。

「ディオスちゃんさー。前言ったよね、前世でキングちゃんがG1に勝利したのどうだの言いふらすのはやめなって。もちろんそれはセイちゃんも同じで、そんな事知っちゃったらきっと今以上にサボり魔になっちゃいますよ~?」

 彼女は冗談めかして忠告するが、それでもオレは言葉が止まらなかった。

「それでも、前世も今のお前も、全部ひっくるめてキングヘイローに敵う存在だ」

 彼女は、それを聞き届けた後……珍しく、真剣な表情になった。

 

「あのさ。私の前世が凄かったのが事実だと仮定して、私が前世以下になる可能性だってゼンゼンあり得るわけじゃん」

 いつになく低い声で紡ぎ出された言葉に、思わず一歩後ずさりそうになる。しかし、グッと堪えてその場に踏みとどまった。

「そうなったら、凄いショックだよ? 前世では出来てたのに、今の私は……だなんて」

 力なく告げる彼女に、オレの口はまた動いた。

「出来ると、信じている」

 その言葉を聞いて、セイちゃんの眉がピクリと動く。

 ――何の根拠もない。

 そう返されると思って、即座に言葉続けた。

「そもそも、今のお前のスタミナ配分や距離の駆け引きにおいてキングヘイローやオレに勝っているんだ。期待のホープ、そしてそれに食らいつくオレと部分部分で対等以上に渡り合ってるお前が、二流や三流のボウズで終わるはずがないだろう?! そうでなかったらお前に負けたウマ娘はなんだというのだ!」

 そうだ。オレはハッキリと理解している。前世は元より、こいつ自身が才能を秘めたヤツだ。

 だから、道を間違わなければ一流になれる。

 だからこそ、キングヘイローにも届くはずだ。オレを追い越せるはずだ。

 

「私の目の前にいるセイウンスカイが、素晴らしいウマ娘になると"私"自身が信じている!」

 

 その言葉に、セイちゃんは突然吹き出した。

 クスクス笑い出し、やがてお腹を抱えて大爆笑する。

 ……その様子を呆然と見つめていると、ようやく落ち着いたのか涙を拭いながら口を開いた。

「あー、ずるい。ホント、ディオスちゃんって言い方がズルいよね」

 ひとしきり笑った後で、いつもの調子で語りかけてくる。

 彼女はベッドから立ち上がって、手を後ろに回す仕草をしながらオレの目の前に立った。

 

「正直な話さ。楽しみだったんだよね。格上の相手を倒して、皆をアッと驚かせるのを企んだりするの」

 彼女の瞳には、もう影は見えない。代わりに、悪戯っぽい輝きを放っていた。

「キングちゃんの前世が強くて、どんだけ主人公みたいな星の下に生まれたのだとしても、私がその主人公に敗北や苦難を与えるライバルになっちゃえばいいって話じゃない」

「だが、その為に頑張りすぎても……」

 オレが言葉を続けようとすると、セイちゃんが手を振って止めてきた。

 そのままオレをベッドの方に引っ張って、そのまま寝る事を促してくる。渋々そこに寝転がると、彼女自らも隣で横になった。

 ……ふわりとしめっぽい香りが鼻をくすぐる。雨に濡れていたせいか。

「それらしい理由つけても、結局はやきもち妬いてムキになってただけだったのかもしれない」

「は? やきもち? 誰に?」

 オレは目をパチクリさせて聞き返す。

「さー、誰でしょうねー? ……一応忠告しておくと『私の失言でキングちゃんと不仲になられたら、私、キングちゃんに合わせる顔がない』って言い方は他の人にはしないようにね」

 いたずらっぽく笑う彼女に、「言われてみれば確かにその通りだ」と納得してしまう自分がいる。

「……すまない、自分都合な仲裁になっていた」

「いいのいいの。キングちゃんに勝つ為に一人で練習に集中してて、その上学校も違うから会いに行こうとしなければ会う機会が無い……って理由がほとんどだけど。会いに行こうとしない理由は、やっぱりあったからさ」

「オレの知らないところで喧嘩でもしたのか?」

 相手の言い方が心配になって訊ねてみて、彼女は目を瞑った。

「喧嘩はしてないよ。ただ、『今はキングちゃんと比較されたくなかった』――ううん、この表現だと、ちょっと違うかな。『キングちゃんや前世でなく、私自身の方を褒めてほしかった』って表現もなんか的外れだし……」

 表現を少し考え込むように、彼女は沈黙する。

「……『親しい人からは、大切に想われたかった』」

 当人さえ上手く理解出来ていないのだろう。情緒的な表現に行きついた彼女は、そのまま黙ってしまった。

 

 

「オレは、キングヘイローは友人やライバルとしてかけがえのない存在だと思っている」

「……うん、知ってる」

「だがセイウンスカイも大切な友人だと思ってる。猫目も、ボブヘアもだ。クラスメイトや練習仲間にも気の合うヤツがいるし、どれが一番だと聞かれたら、一生思い悩むかもしれん」

 それを聞いたセイちゃんは、続きの言葉を待つように黙っていた。

「だが、この"優しい世界"においては、その全員に幸せになってほしい。その為だったら、どんな協力だって惜しまないつもりだ。だが不躾な事をしてしまう可能性はある。その時は、叱りつけてくれ……」

 言い終えると、セイちゃんはフッと笑った。

「じゃあ、私から注文が三つ」

「あぁ、言っておくれ!」

 彼女の発言に、姿勢を正す。

「一つは、前世の事を他人に言うのは私やキングちゃん以外には最小限にする事。それはキミが思ってる以上に、"他人の運命を左右してしまう知識"だと私は推測してる。もちろん、思い悩んだ時にご家族へ相談するのは止めないけど……」

 まるで、子供をあやす優しく語り掛けながら。それを言われると、オレとしてはぐうの音も出ない。

「もう一つは……キングちゃんと一緒に遊びに行く場所のセッティングをしといて。近頃会えなかった事は、やっぱり私が謝らないといけないしね」

「わかった。では、残り一つは?」

 ……尻尾に、何かふわふわしたものが触れる感触がした。セイちゃんのしっぽだろうか。

「……本当にたまにでいいからさ。キングちゃん抜きで、うぅん、他の人も抜きで、ディオスちゃんと私の二人っきりで遊んだりしたい……って思ったんだけど……ダメかなぁ……?」

 最後は尻切れトンボになりながらも、キチンと内容は聞き取れた。

「たぶん、皆で一緒に遊んだ方が楽しいぞ。オレは釣りは下手だし、虫も苦手だ」

「ううん、そういう事じゃなくてね……」

 小さくぱたぱたと尻尾が撫でられる感触を覚える。ちょっとくすぐったい。

 妙にセイちゃんらしくない、しおらしい態度なので、茶化す事も出来ずに調子が狂ってしまう。

「……おぉ、そうだ。面白い事を一つ教えてやる」

「……なぁに?」

「前世の体だと尻尾って、今の体ほど自由に動かせなかったんだ。ほとんどは毛で構成されていてな。だから、他人と尻尾を絡ませるなんて文化はなかったんだ。今お前がやってる行為にはどういう意味合いがあるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

「何故黙り込む。仕方ないだろう? 母ちゃんに聞いても『貴女にはまだ早い』と教えてくれんのだ。父ちゃんは教えてくれようとしていたが、母ちゃんが【鋭い眼光】で制してきてな」

「…………」

「その顔は意味を知っているんだろう。以前から気になって気になって、致し方ないのだ。頼む、教えてはくれまいか」

 

 セイちゃんのしっぽが、どんどん掴みどころを無くしたように自分の尻尾から離れていく。

 

「……セイちゃん寝ますね」

「え、あ、うん」

 

 突然の宣言に、思わず相槌を返す。

 そのままセイちゃんはこちらに背を向けてしまった。

 

 致し方なく、窓の外を見る。未だに雨風は鳴りやまない。

 夜になったら止むだろう。だが、その時間帯を考えるとセイちゃんはウチに泊まる事になるだろうか?

 ベッドで眠る彼女を見やる。未だ、大事そうに太陽の髪飾りをつけてくれている。あぁいうのを選ぶのには自信がなかったが、よほど気に入ってくれたのか。

 

 今回の選択肢で、ただ一つだけ気がかりなのは。

 もしも、オレの隣にいるセイウンスカイが前世のように華々しい活躍が出来なかったとして。

 彼女は、それを悔やむだろうか? 前世を恨めしく思ったり、キングヘイローを恨んだりするだろうか?

 

 そこまで考えて……このまま皆で手を取り合って順調にいけば、悪い結果にはならないだろうと考えるのをやめた。

 

「……ありがとう、神様。こういう優しい世界が好きなアンタのおかげで、こんな空も好きになれそうだ」

 

 雨風で奏でられる音を楽しみながら、オレはそんな事を呟いた。

 

 

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